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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第七十六話 装飾店の珍客


帝都でオルターヴでは出回らない雑貨や珍品、服飾や魔道具(アーティファクト)等を見て回ってからめぼしい物を幾つか購入したその帰り。

ついでにお土産でも渡そうとサリエラの装飾店に寄った時の事だった。



「元気ー?帝都帰りのお土産持ってきたよ…って、お客さんいたか」



勢い良く店の扉を開けるとサリエラがカウンターで接客中らしく、こちらと目が合っては苦笑して会釈を返してきた。

流石に他の人に一般人に迷惑かける程図太くないし、なんならフィリアに肩を掴まれ「何やってんのよ馬鹿」と凄まれたので大人しく扉の脇のベンチチェアに座って待つことに。


ちなみにサリエラが対応しているのはフード付きの黒いマントを羽織る人物だが…



(声…と、雰囲気…?何か知ってる人のような…)



隣に座り店内の装飾を眺めているフィリアの膝をポンポンと叩き、こっちを向いてきたので「あの人知ってる?」と聞くが、「…指ささないの」とだけ言われた。

まあ遠回しに「知らない」とも言っているのだろうが、もっとまともに相手してくれてもいいのではないかとも思う。


そこから程なくして数分、話が済んだのかサリエラがペンダントをラッピングで包んで相手に渡した。



「ありがとうございました」


「うん、こちらこそいつもお世話になってるよ」



そんな会話からサリエラに会釈して店を出ようとした人物だが、不意に私達の方を見たと思うと立ち止まり、フードの影で顔はよく見えないが確かに口元を綻ばせた。



「やあ、君達。確かリリエンタの酒場で会って以来かな?」


「…?…あ、あ!思い出した!あの時絡んできた子だ!」


「…あ、本当ね。結構印象深かったのに、話しかけられるまで気付かなかったわ」


「えぇ?そんな事言われたら私傷付いちゃうよー?」



フードを脱いだ人物───金髪ショートの少女が白々しく目元に指を当てて泣き真似をした。

しかしちゃんと顔を見るのは初めてだが…何と言うか、美少女だ。

一番可愛いのはフィリアで次点で私だと思っているが、ぶっちゃけ私の上には入れても良いくらい可愛いと言えるし、多分万人に聞いても同じ様に答えるだろう。

フィリアの可愛さだけは間違いなく私の主観がこれでもかとねじ込まれているので絶対に揺らがないが。


そこへ少し表情に驚きの色を見せるサリエラがやってきた。



「お二人はお嬢、さんと会ったことがあるんですか?世間は狭いですね〜」


「え?サリエラの知り合いなの?」


「まあ、お嬢さんは一年程前までは良く通ってきてくれていたんですけどね。今日は久しぶりに会って前より色々大人になっててそれはそれは驚いたものですよ。主に発育とか」


「あ、へー…」


「えへへ、秋の終わりくらいに十七になったんだ〜」


「そうですか…折角でしたら当日にお祝いしたかったのですが…」


「最近忙しくてね〜。ま、それはいいや。今は君達の事だけど…」



年相応の朗らかな笑みを浮かべサリエラと話していた少女は一転、こちらを向くと不敵に微笑み、軽いステップで目の前まで近づいてきた。

背は私より少し低いくらいの少女はしかし前かがみになっているのもあって低い目線から上目遣いで私の目を覗き込んだ。



「…何さ?」


「んー…ちょっと危険だけど…あー…君達相当面倒臭いね」


「ほとんど赤の他人に唐突に言う言葉ではないね」


「ちょっとミシェル…」



何か嫌な空気を感じたのか、フィリアは私の手を引いて少女から引き離してきた。

私はお返しとばかりに頭痛覚悟で権能を使い少女を見るが───



「ふふ、私のナカを急に覗こうとしてくるなんて、いけない子だね?」


「っ!前も聞いたけど、君何者?」



───見えない。

以前はバレないようにかなり弱目に見ていたので失敗したのかと思ったが、今回は結構本気で見ようとしたのにまるで少女だけに靄がかかるように邪魔される。

私の質問に少女は頬に人差し指を当て、わざとらしく悩む素振りを見せた。



「うーんと…たかが十七年生きてきただけの人間の女の子だよ?」


「…そっか」



だが、この時だけ少女はあえてこちらに本心を晒した──もちろん表層だけだが──つまるところ言葉に嘘は無い。

が、全ては言ってない、といった所だろう。

視界の端でサリエラがあわあわとし、フィリアが目を細めて少女を、観察しているのが映る。

そして───



「───ふっ!」


「おっと」



一瞬感じた殺気に、考えるより体が先に反応して鞄から碑之政峰を引き抜いた。

少女の首目掛けて振るわれたそれは、しかし少女がマントに隠れていたのだろう、腰から抜き上手に持った緋色の剣に受け止められる。

その剣から感じる気配は最近よく見るあれだ。



「神器…!」


「その中でも最高の力を持つ()()だよ。名は『聖剣 レ・ランフィス』他の緋宝なら確かこの国の皇帝様が『リラス・ヴェドーナ』を持ってたっけ」



剣を持つ手により強く力を込めてもビクともしない。

天使の膂力は悪魔や獣人よりは劣るが人間よりは遥かに上だ。

その上魔力で腕の力を強化しているのに、少女の剣を境界としてそれ以上押し込めない。

まるで世界そのものを隔てる壁にでも押し当ててるような感覚だ。


───突如、私と少女の顔の間の空気が爆ぜた。

互いに飛び退き距離を開ける。

破裂の直前に聞き慣れた指を鳴らす音が聞こえたので、犯人は見るまでもない。



「やめておきなさい。そっちのあなたも、本気でやる気じゃないのにミシェルに手を出すのやめて貰えるかしら?」


「…うん、私は構わないよ?元々不安定な子がいるから様子を見に来ただけだし」



少女は先程サリエラに向けていたように朗らかに笑うと、あれだけ警戒していたのについ見惚れるような所作で剣を腰の鞘に収めた。

剣を収め笑う少女は今はもうただの年相応の女の子にしか見えず、私が咄嗟に剣を向けてしまうような殺気を放つ存在には見えない。

それが、その余りの雰囲気の変わり様が、この上なく恐ろしく感じた。



「…もう一度、聞いていいかな?」


「うん、良いよ」


「…君、何者?」


「うーんと─────














─────『正義の天秤』”アウリル”」























少女───アウリルは「じゃあ、またね〜」と手を振り揚々と店を出ていき、後に残された私達は大きく息を吐いた。



「…何か、思ってたよりヤバい奴だった…」


「『天秤』、ねぇ。正義の天秤は確か…『正義に背くことなかれ』だったかしら」


「?何それ」


「リリエンタで会った獣人とかノフティスも言ってたでしょ」


「あー…そう言えば…私達何か悪いことした?」


「してないから叩き切られなかったんじゃない?」


「だよね…」



正直、あの少女は本当にヤバい。

天使という身でありながらあの少女とは()()として圧倒的な格の違いを感じた。

あれが天秤か…

と、ここでそろそろと手を上げる者が一人。



「あの…なんやかんや私が一番ヒヤヒヤしたんですが…」


「あぁ、ごめん。巻き込むところだったね」


「いや、店が荒らされるのかと…」


「自分の身を案じなさいよ」


「強かだねぇ、本当に」



こんな状況で自分より店の心配とは肝が座ってるのか自分を大切にしていないのか…後者なら命とは何かを天使らしく解いてあげるところだが、軽く見てあげたところ前者のようでため息を吐く。


その時、店の扉が勢いよく開け放たれた。



「お姉ちゃん!新作のアイデアが出来たので手伝っ…あれ?ミシェルさんとフィリアさん、来てたんですか?」


「あ、リエナ。おひさー」


「何しに来たのよあんた」


「え、ミシェルさんはともかくなんでフィリアさんはやけにトゲがあるんですか?」



多分新作をいつもフィリアで試しているからでは?というツッコミはその場の全員が飲み込んだ。

さっきまでの気が重くなる雰囲気はリエナの底抜けに明るい雰囲気が清涼剤となり簡易的な気分転換になった。



「ふふっ、それで、新作を手伝って欲しいんですよ?」


「あ、うん。もこもこの冬着でね、リバーシブルでペアルックにもなるんだよ」


「ちょっと、完全に対象が固定されてるじゃない!私は付き合わないわよ!」


「えー、フィリアは興味無いのー?」


「そうですよ!!」


「うわっ!?」



ぐりんと効果音がなりそうな勢いでフィリアの方を向いたリエナは一瞬で詰め寄ってフィリアの手を取った。

そのまま店の裏方に引きずるように抵抗するフィリアを引っ張る。

フィリアも力加減を待ち構えたら怪我させるから抵抗していないが、リエナの強かさも中々だ。



「ちょっ、着せ替え人形にされる!助けてミシェル!ミシェルー!!」


「…ノリノリだった私が言うのもなんですが、良いんですか?」


「んー、何かあの子…アウリルのせいで機嫌悪くなったからね。フィリアの可愛さに浸らないとやってらんないよ」


「そうですかぁ」


「ねぇ、サリエラが知ってるアウリルは本当に普通の女の子なの?」



私の質問にサリエラは目をぱちくりとさせ、俯いた。

しかし直ぐに顔を上げると、若干の翳りはあるも、柔らかく微笑んだ。



「…そうですね。私が今まで見てきたお嬢さんは、間違いなく普通の…思春期の女の子ですよ。そして…先程の事を見た今でもそう思ってます」


「…何か見たの?」


「あら、気遣ってくれてるんですか?」


「そうだねぇ、親友はフィリアだけだけど、君達は友達だと思ってるよ」


「ふふっ、それは嬉しいです。()()()()♪」


「…ま、それでも良いよ」



以前聞いたような言葉に懐かしさを覚えつつ、相変わらずかと口元が綻ぶのを自覚する。

今まではフィリアさえいてくれればそれで良いと思っていたが…まあ、友人を増やすことを咎める者はいないだろうし、むしろフィリアは喜ぶ…というか安心するだろう。



「ちょっ…こんなメルヘンなの似合わないって!」


「そんなことありませんよー。ミシェルさんなら鼻血流して絶賛してくれますよ」


「アイツは何着たって絶賛してくるわよ!」



店の裏方からフィリアとリエナの喧騒が聞こえてくる。

店に入ってきた時に大きな紙袋を抱えていたから試作品でも合わせているのだろうが…



「私ってどう思われてるの…」


「妹なら後で折檻(物理)しておきますから…」


「何か言葉に別の意味が混ざった気がする…じゃなくて、フィリアには可愛いものしか着せないから。男装系の格好いいものもアリだけど…」


「あ、そっちですか…」



サリエラの生暖かくも呆れの混じる視線を受けながら、わちゃわちゃしている店の裏方に入って行った私達だった。


傾き、水平、保たれるべき均衡の監視者からの接触───

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