第七十三話 幾重に重なる焔
明けましておめでとうございます。
今年中に一章完結させたいなーという抱負を持って更新頑張って行きたいと思います。
それと、一章が完結した後は投稿日が変わると思います。
具体的には週三くらいの投稿ペースとかになると思います。
異形は体を切り飛ばそうと魔法で焼き尽くそうと、赤い発光が集まり再び体を再構成する。
それを邪魔しようと魔力の霧を放つも、それを吸収されて何か強化されたっぽく、逆効果だった。
少なくとも私達の力だけで倒しきれるような相手ではない。
「じゃあ、丁度周り囲わせてる兵士達に出来るだけ広い結界を張らさせてくれる?強度とかは問わないから、少なくともこの一帯の平原を覆えればいいわ」
「おい無茶言うって部下達の方かよ?」
「あれだけ威勢よく答えたんだからそれくらい良いじゃない」
「えー?結界だったら私が張るよー?」
「あー…ミシェルには別に頼みたいことがあるから、そっちお願い」
「なるほど、何でも任せてよ」
何処か嬉しそうに答えるミシェル。
ここから先はかなり魔力を使う作業がいるからミシェルにもなるべくこれ以上の消費は避けて欲しい。
そしてそれをする間私達は作業に集中しないといけない。
そこに兵士達に指示を出てきたオウガが戻り、同時に空を覆う半球の結界が出現したのを確認し、残りの役割を伝えた。
「というわけで、あんたは一人であいつ抑えて」
「ほう?お前らが何かするまで奴を釘付けにしとけば良いんだな?」
問に頷くと、オウガは「了解」とだけ言って地を踏みしめ、異形に向かって突撃した。
異形は増えた背中の四本の腕を使い、より硬度も増しているように見える鋭い爪を用いてオウガの剣戟を迎え撃った。
やはり、戦い始めた時と比べると明らかに反応速度や動きのキレが上がっているようだ。
「で、どうやって倒すの?」
「できる限り細かく分解して瓶に小分けにして詰め込む」
「うん、結論だけは分かりやすいね。ただもうちょっと過程を教えてくれたらミシェルちゃん助かるなぁ」
「わざわざ光が魔力を吸って膨張してくれてるのよね。その前は光が細すぎてどうしようも無かったけど、膨れ上がっている今なら干渉しやすいのよ」
苺の種一粒を包丁で半分にするのは困難だが、苺を半分にするのは簡単なのと同じようなものだ。
なお、その例えでいいのかと言うツッコミは受け付けない。
つまりは的が大きくなったと言えば良いのか。
ならば膨張した光を砕いた上で物理的に閉じ込める。
「だから、混沌の抱擁なら燃えるものが無くなるまで焼き尽くせるから、限界まで細かくするのに向いてるのよね」
「あれって燃焼とか効くものなのかな?」
「魔法的な力だから、多分魔力で構成されてるあの光も焼き払える筈よ」
「まあ私はどこまでも信じるだけだけどね。制御は?」
「この前の二律背反術式を絡めた応用を試してみたいから、補助をお願い」
こんな土壇場でやるような事ではないだろうが、魔法の性質上、普段下手に練習出来ないものなので丁度良いっちゃ丁度良いだろう。
それに、一つの術式に二つの性質を詰め込んでた今までの混沌の抱擁と比べて、 二律背反術式を用いればそれぞれ一つずつ術式を用意して合体させるように組み込めるから出力を上げられる。
まあ、私単体で天使の力は使えないから結局ミシェルの手助けが必要だが。
「いつもみたいにだいたいの制御はこっちでやるけど、細かい出力はあんたの方でも調整出来るようにしてあるから、頼んだわよ?」
「昔こういう魔法の細かい制御はフィリアにキツく仕込まれたからね〜、これでも結構合わせられる自信あるよー?」
「よし…あんな気持ち悪いものさっさと片付けちゃいましょう」
地面を靴のつま先を整えるようにトントン、と叩くと花弁が開くような紋様の黒い魔法陣が地面に広がった。
その魔法陣二描かれている紋様の一つにミシェルが手を触れると、そこから魔法陣に白色が混ざり、全体に広がっていく。
やがて魔法陣全体に白が浸透し、灰色に染まった。
(ここまではよし…オウガ達は…)
術式の制御をしながらもチラリと異形と交戦するオウガ達に視線を向けると、オウガが主に前衛を受け持ち燃え盛る剣を操りながら異形の気を引き、隙を見てジェストや兵士達が一撃離脱を繰り返して撹乱しているため、異形も再生力でのゴリ押しでオウガを破ることが出来ないでいるようだ。
オウガやジェストのような将校クラスは勿論、一般兵まで鍛え上げられていると戦いの幅も増えるものだと感心する。
「フィリア、これ思ったよりキツいね…」
「む、ごめんなさい。私も慣れてないから無理矢理干渉させて二種の力をまとめてるけど、本当は一人で使うものみたいだからね。しかも多分天使と悪魔合わせるの堕天使のアステリエルだからこそできるみたいなものっぽいし」
「そっか…そうかぁ…堕天使ねぇ…」
ミシェルが何か思案するような表情を浮かべた。
どうせろくなことを考えていないだろうが、多分「自分も堕天使になったら便利かな?」とかそんなことだろう。
「…やめときなさいよ?」
「うん?あぁ…実際のところ堕天したら強くなれると思う?」
「えぇ…?そうね…でも堕天したら加護とか無くなるんじゃないの?」
悪魔は種族特性として魔法への高い適正と天使よりは高い肉体能力がある。
つまりは相対的に言えば悪魔は天使より種族として強いのだが、そんな天使でも戦争を成り立たせた最大の要因が主神の加護だ。
加護は自身への干渉への高い抵抗力を与えたり、特定の条件下で圧倒的な力をもたらしてくれる便利な力だ。
堕天すれば主神との繋がりが失われるので、本来天使は使えない力が使える代わりに加護が失われるので、強くなれるとは言えないだろう。
あと個人的にミシェルには綺麗でいて欲しいので堕天はしてほしくない。
「…っと、こんな話してる場合じゃないわね」
「ん、何か今のちょっと間にいつの間にかめっちゃ魔力持ってかれてたね」
「確実に安定させるためにちょっと多めに貰ってるわよー」
後はタイミングを見てこれを撃ち込むだけ。
丁度いいのは…そろそろか────
異形の背中から伸びる鋭い爪を持つ四本の腕を捌きつつ部下達の援護を受け確実に本体に剣戟を叩き込んでいく。
時折直接得意とする炎の魔法で異形の足元を融解させ、体勢を崩したりとこれでも搦手は割と得意な方だ。
「─────!」
「しかし…こんなもんを神教国の連中は作ってんのか?教王は…ロズヴェルドはこれを知ってるのか?この前教団の連中から提携された情報から察するに、お前が作られたのは聖騎士の独断じゃないのか?」
異形に疑問をぶつけるも、発声器官どころか口も無く、そもそも思考能力があるのかすら微妙な異形は淡々とこちらへの攻撃を続ける。
振り下ろされた腕を弾き、そこにジェストが投げたナイフが異形の首に刺さり、一瞬間を置いて爆発して異形の首を吹き飛ばす。
すかさず肩から腰にかけて異形を袈裟斬りにするも、赤い発光がバラバラになったら体を結んで直ぐに復活している。
さっきからずっとこれだ。
いつまで経ってもやはり異形の命に届く気がしない。
が、その気が遠くなりそうな戦いももう終わりだろう。
背後で異形の注意が向かないように守っていた天使と悪魔の魔力が高まっているのを背中で感じながら、何かに気付いて無理矢理こちらを突破しようとした異形の進路を塞ぎ、四本同時に振り回された腕をまとめて叩き切る。
「───ぐっ!?」
しかし、ここで初めて見る挙動を異形は行った。
切り飛ばされた腕が赤い発行によって切断面が繋げられたかと思うと、くっつくことなく切り飛ばされた状態のままで稼働しこちらを切りつけてきたのだ。
今ので肩を切られたが、咄嗟に身を引いたお陰で戦闘に支障が出るほどではないし、部下達の治癒系統の魔法でも十分直せる範囲だ。
「────なるほど、良いタイミング選んだな」
と、そこに空を翔ける流星…否、帝都から神器である星弓ナイトアトラを用いて放った極大威力の矢が異形に襲いかかる───その時、天使と悪魔から声がかかる。
「今!一番強いのぶち込んで!」
「ははっ、そういう分かりやすい指示は好きだぜ?」
地面に灰色の花のような紋様の魔法陣を広げている天使と悪魔の魔力が一気に高まり、同時に魔法陣も輝きを増した。
自分も負けじと空を指でなぞると、指の軌跡に小さい魔法陣がいくつも浮かび上がり、それらが円形に配置され、線で結ばれ一つの大きな魔法陣となる。
「行くわよミシェル!鍵言はあんたがお願い!」
「おっけー!『背反する混沌の抱擁』!」
「さて、最近前線に聖騎士共が出てこないから魔力が有り余ってんだ!『紅玉』!」
「何かかっこいい雰囲気出してるなぁ…意味無いけど私も…『絶対的な制裁』!」
「…お姉ちゃん一人で何言ってるの?」
「ノフティスー?お姉ちゃん今すっごい頑張ってるからー」
そんな寸劇が繰り広げられながらも、灰色の獄炎、煌々と赤熱する焔、天翔る星弓の爆炎が、異形に直撃し、罪深きその身を焼き焦がすのだった。
混ざり合う三火。罪を裁く革命の炎───
 




