第七十二話 猛将の教え
書いていたデータが一度消し飛んで萎えたので予定より短くなりました。
「さぁて、どういう手合いだお前!」
オルターヴを襲おうとした異形を迎え撃った私達に合流した黄道十二将星序列三位、オウガは長剣を片手で持ち構えるとその刀身に煌々と燃ゆる焔を纏わせ、異形に斬りかかった。
対して異形は背中の腕の鋭い爪で斬撃を受け止め、本体の腕の爪でオウガを切り裂こうとするも、オウガは剣を受け止める爪を力技で焼き切り落とし、自らに振られた爪を弾いた。
「ああ?なんだこいつ?」
「どうしたのさ?」
「お、天使。いや、気持ち悪さの割に手応えがねえからよ、ちょっと気味が悪いもんでな」
「手応えが無い…ふむ」
「確かに、再生能力を抜きにすればその辺の兵士でも貫ける程度の耐久力だったわね」
違和感の一部をフィリアが指摘すると、オウガは「そうかそうか」と頷いた。
兵士達も黄道十二将星という存在の力を知っているからこそ、格上であろう異形に自分達の攻撃が通じてる事を不思議そうに思っている様子。
感じる気迫は明らかに異質なのに、どうも思ったほどの力を発揮してこない異形は恐ろしく不気味に見えた。
まあ、とはいえオウガの切り落とした爪も傷口と赤い光で繋がるとそれに手繰り寄せられて直ぐに繋がる訳だが。
「再生してくるのは面倒くさいな。全身まとめて消し飛ばせば良いのか?」
「それはさっき私がやったわ。原子レベルまで分解してもその原子がくっついて元の形を生成してるみたいだから、再生の限界を待つくらいしか倒し方なんて思いつかないわよ」
「おう、考察どうも。なるほどなぁ…じゃあひたすら殺し尽くせば良い…って行きたいところだが…ああ、こういう相手は本当に苦手だ」
この男、雰囲気に似合わず中々冷静な思考回路をしているようだ。
本当にゴリ押しで削り切れるならそれで良いが、もし仕留めるために何かしらの手順を踏まなければいけないとしたら、先にこっちが消耗して終わる。
「オウガ様、どうしましょうか?」
「そうだな、とりあえず一発様子見るか」
「…何の話?」
「さっきナイトアトラで異形に一撃いれてたろ?そろそろまた最高火力が飛んでくるだろ」
と、オウガの言葉と同時に空に一筋の光が翔ける。
光は凄まじい速度で高度を落とし───真っ直ぐ異形を撃ち抜いた。
着弾と同時に生じたあらゆるエネルギーが収束し、火柱のような大爆発を起こす。
刹那の間空間から音が消え、直後に甲高い耳鳴り音だけが鳴り響く。
そのため、平気そうにしているオウガを除いてその場にいる全員が耳を塞いで耳鳴りで掻き消えていたのだろう爆音を凌いでいた。
「…あれ着弾地点の近くこんな事になってたんだ…」
「大型の魔導兵器ならともかく、あの弓でこの威力を出せるなんて…」
「…っ、オウガ様、大丈夫ですか?」
「…?…あ?なんか言ったか?」
「いや耳やられてんのかい」
済ました顔してた癖に全然大丈夫そうじゃ無かった。
気遣ってオウガに声をかけたジェストは慌てて駆け寄っている。
「…馬鹿は無視するとして、どうなってるの?」
「んー?…ははっ、あいつ本当に生き物なんだよね?神器とかあるくらいだし、そういう魔道具なんじゃないの?」
「!…あれで死なない…封印を目指した方がいいかしら?或いは…」
散り散りになった赤い発光の粒子が糸のように細い光に結ばれ、一箇所に寄り集まっていく。
集まった発光は次第に異形の形を再生させていき───
「───させっかよ!」
完全に形が戻る前にオウガが焔を纏う剣を集まる発光へと叩きつけ、再生しかけていた異形の身体ごと焼き払った。
「フィリア!」
「さて、妨害なんて出来るものなのか…」
フィリアが虚空に指で何かを描くように動かすと、そこに小さな魔法陣が浮かび上がり、そこから霧が溢れて辺り一帯を覆い尽くした。
「これで復活してこないならよし…どう?」
「ふむ…うん、当たりだね」
濃い霧に阻まれ視界が悪いが、私の権能なら無視できる。
目に入ったのは、赤い発光が再び寄り集まろうとするも反発するような力が働き、集まっては霧散を繰り返している。
霧───限りなく細かく散布した魔力が赤い発光の間に割り込み、集合を妨害しているのだ。
「やっぱり魔力だけで体が構成されてる…天使や悪魔みたいな存在だったのね」
「流石にあんな塵になっても復活できたりするほど私達もビックリ生物じゃないけどね〜」
そして、私は霧から出る位置まで飛び立って、霧がかかる範囲を丸ごと包むように光のベールのような結界を張った。
これは物理的な物質は素通りするが、魔力などは通り抜けることが出来ない。
これで霧が自然消滅することも無くなるだろう。
そんな様子を見ていたオウガは感心したように声を漏らすと、しかし考え込むようにしばらく黙り込んだ。
「これは…はぁ、おい、ジェスト!霧から出るぞ!」
「よろしいので?」
「一般人に仕事を奪われるのは癪だな…と言いたいが、正直言って詰めが甘い。部下達に包囲させておけ。何時でもカバー出来るようにしておくぞ」
「分かりました…皆凄いからもう良く分からなくなってきたな…」
「なんか言ったか?」
「いいえ」
「ん、兵士さん達も出てきたみたいだね。それで、ここからどうするの?」
「そうね…そこまで考えてなかったわ」
「…適当に閉じ込めたり出来ないかな?」
「う~ん…一箇所に集まらないと復活してこないみたいだから、いくつかに分けて光を瓶にでも詰め込めば───え?もう破ってくるの?」
「?」
突然フィリアが焦ったように結界の方を見た。
そこでは、結界の中を覆っている霧が急速に晴れ始めているのだ。
結界で風に流される訳もなく、オウガやジェスト含めた皇国連中も皆結界の外に出ている。
となると要因は…
「あの状態から霧を吸ってる、のかな?」
薄れていく霧の奥に、ぼんやりと灯る無数の赤い発光が見えた。
それらは次第に膨張していき、今度こそ再生しようと集合を始めた。
「魔力吸えるとか聞いてないわよ!」
「そりゃ説明なんかされてないしね。どうする?」
「今度は吸えないように対策するだけよ」
「うん、相変わらず切り替え早いね。付き合うよ」
そんなやり取りの間にも発光は集まり、元の体を形成していく。
いや───完成したその体躯は原型からかけ離れており、最初は三メートル足らずの体躯が倍以上に大きくなり、背中の巨大な腕も二本から四本に変わった上で関節が増え、射程も伸びている。
完全に私達が強化させてしまった感じだ。
「発想は良いが、折角いい駒がここにいるんだから頼れよな。言ったよな?俺?」
「あ…」
そうして身構える私達のもとに剣を担いで歩いてきたのは、共闘していたオウガ。
雰囲気的に焦燥は見えないが、僅かに怒り…と言っても、人の良い上司が仕事は出来ないが可愛がってる部下に向けるような優しい怒気を向けてきている。
「えっと、勝手に動いてごめんなさい…」
「ふん…お前達、多分二人でしかまともな連携したことないだろ?お前達の意思疎通能力と信頼は大したものだし、最高のパートナーもの協調も大切だ。が、それしか出来ないと借りられる力も活かせないぞ?」
「「うっ…」」
確かに、今まではフィリアと一緒だから”ヨルムンガンド”の時や”最後の戦い”の時も乗り越えてこれた。
が、他の人と戦場を共にすることはあっても、基本フィリアとしか連携した事がないから、合わせてもらうことばっかりだった。
フィリアもいつも私よりは初見の人との連携も出来ると思うが、私以外だと一定以上はこなせていない。
これは一重に『慣れ』というものが原因だ。
長い間二人で戦い過ぎた、その弊害とも言える。
「さっきも言ったが、俺はこの場では最高の駒だ。指揮は得意な方だが、指示は他人任せで戦いを楽しみたいんでな」
「いやそれ将軍としてどうなのよ」
「はっはっは!他の黄道十二将星にもよく言われるよ。さあ、お前達だけであれをどうにかできるってんなら高みの見物を決め込むのも吝かじゃないが…どうする?」
丁度体を完全に再構成した異形に目を向けながら、オウガは聞いてきた。
積み重ねた経験は力となるが、時に邪魔になることもある。
たまには…リフレッシュも必要か。
「…まさかこんな世界に来てまで説教されるとは思ってなかったよ。フィリア、どうしたい?」
「結局私に判断を求めてんじゃないわよ…はぁ…あなた、私ミシェル相手にするみたいに結構無茶頼むけど、合わせられるんでしょうね?」
「おう、これでも妹に操り人形って揶揄されるくらい人の思い通りに動くことに定評のある男だからな」
「逆に信用出来ないんだけど…」
それでも、今はやるしかない。
それぞれが構え、新しく再構成された体に慣れたのか背中の腕をグーパーさせていた異形はこちらを向き、奇声を上げて威嚇してくる。
「仕切り直し…いや、第二ラウンドかな?今度こそ仕留めさせて貰うよ!」
経験一転、新たな挑戦を求める探求の意思───




