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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第六十七話 郷愁の枯れ木に思いを馳せて


「ねぇ、聞きたいことがあるんだけどー」


『…当然のように連絡寄越してくるのやめろ。せめて手紙かなんかにしてくれ』


「そんな硬いこと言わないでよ〜?」


「ほらミシェル、だる絡みしてる暇ないでしょう?」



ピクニックに行って傷付いた竜を治して、その足で天樹まで行って…と色々あったがなんやかんやオルターヴに帰ってきた私達は、魔道具(アーティファクト)を使ってフロウに通話をしていた。

水晶の向こうから聞こえてくる声はあからさまに面倒臭そうで、嫌々付き合ってやってる感が凄い。



『…で、今度は何の用だ?』


「何か神教国が聖国にまで宣戦布告したって聞いたからそっちは大丈夫かなーって」


『あ?待て、何でその事知ってる!?まだ新聞にも出してないはずだぞ!?』


「私達が先日ピクニックに行ったのは知ってるでしょう?その時にふと思い立って天樹まで行ってきたのよ」


『フットワークどうなってるんだお前ら。…ん?天樹…あー、なるほど、教団か…』


「あ、やっぱり知ってたのね」



何となくその辺りの繋がりがあるみたいな話をどこかで聞いたことがあったが、天樹が教団の本拠地というのは国の上層部は周知しているようだ。

頭の悪魔の翼っぽいやつを指先で弄りながらフィリアは天樹で見聞きしたことについてのメモを読みながらフロウと話している。

聞きたいことも一つに纏めているようで、質疑応答がスムーズに進む。



「あぁそうそう、あと教団って組織である以上責任者っているのよね?どういう人なのかしら?」


『む…、んん…』


「「?」」



が、フィリアのその質問をした途端フロウは言葉を濁らせ、暫く沈黙を続けた。

フィリアと目を合わせ首を傾げていると、水晶の奥から唸るような悩み声が聞こえてくるため、何か葛藤している事が分かる。



『…ちょっと待ってろ』


「ん…はーい」


「どうしたのかしら」


「う〜ん…アステリエル達も警戒してたくらいだから下手に情報が漏れることを危ぶんでるんじゃない?」


「あ〜…確か団員全員が人外種って言ってたわね。だったら確かに神教国に狙われるか」



その後も魔力回路は切られていないものの中々フロウが応答してくれないので今回の(ピクニック)の事を話し合ったり、昔の思い出話に花を咲かせること早数十分。



『…〜〜〜あーあー、まだ聞いてるか?』


「んお?遅いよー。ちょっと忘れかけてたからね?」


『いや無茶して質問に答えてやろうとしてたのこっちなんだが?何でお前らが上から目線なんだいい加減にしろよ』


「あ、ごめんなさーい…」


「ウチの馬鹿が失礼したわね」



流石に振り回しすぎたのかガチめのトーンで注意してくるフロウの声色に冷や汗を流し、大人しく話を聞くことに。



『こっちもそちらに聞きたいことがある、暇があればいつでも来るといい、だそうだ』


「…え?本人に聞いてきたの?っていうかそんな簡単に聞けるもんなの?」


『横の繋がりはそれなりに、貸しも借りもあるからな。あと一応注意しておくが、立場以前に個人情報だからな?』


「あ…ごめんなさーい」



割と正論で返され気力が失せた。

まあ考えてみればそりゃそうかとしか思えないので反論する余地もないが。

その勢いのまま通話を切られ、私達はため息を吐いてソファーにもたれかかった。



「…気にはなる…けど、また行くのめんどいから今度にしない?」


「まあ…この前行ってきたばかりだしね。レクト達に連絡したら何か聞けるかしら?この前なんだかんだで天樹の精の事も聞きそびれたのよねー」


「出会い方があれだったから完全に忘れてたよね」



とはいえ、教団の責任者については何となく予想はついてる。

私達の興味はこの世界の昔の事などの知識の方に向いているので、人物自体にはそこまで関心がある訳では無い。

緊急性も無いので、ひとまず今回の件は見送りとなった。



「となると…どうしよう…やることが無い」


「…だから趣味の一つくらい持てばいいのに」


「そう言われてもねぇ…じゃあ甘えさせて」


「…邪魔はしないでよね?」


「ほいほい」























「…」


「んぅー…」



ソファーに深く腰掛け適当な本を読んでいるが、それもお構い無しにミシェルが私の膝の上に頭を乗せ、そのまま寝息を立て始めた。

所謂膝枕状態になっているが、言われた通り邪魔はしてこないのでちょっかいをかけてくるいつもよりはまだマシだろう。



そんな折、ふとミシェルの髪に手を伸ばした。

穢れ一つ無いサラサラとした長髪を撫で、その一房を摘むと、その匂いを嗅ぐ。



(花の香り…先日の花畑の匂いが付いてる?…後で銭湯に行くか…)



自分にもその匂いがついてるのかもと思うと、体を洗いたくなってきた。

花の匂いは好みが別れるだろうが、私はあんまり濃いものは好きじゃない。

それに花粉が着いているといけないので服も洗濯した方が良いだろう。

それに窓の外に目を向ければ、木枯らしが街道の木々を揺らして枯葉を落とし、地面に積もっている。

この世界に来た時は夏頃だったが、もうかなり冷え込む時期になってきた。



「天樹とかは季節関係なく葉が青々としてたけど、思えばあの花畑もチラホラ花が閉じてるのもあったわね」



時間の流れが早く感じるのは種族柄当然のことだが、今は何故かそれが感慨深く感じる。

こっちに来てから私もミシェルも、どこか変わった気がする。

もしかしたら、()()()、と表現する方がいいのかもしれないが。

或いは…



「…フィリア、難しい顔してどうしたのさ?」


「ひゃっ!?」



考え込んでいたら突然ミシェルが声をかけてきた。



「あ、あんた起きてたの?」


「フィリアの膝を堪能出来るのに寝てる場合じゃないからね」


「いやそこは寝てなさいよ、何のためのひざ枕だと思ってんのよ。…ていうかスカート越しでそんな堪能出来るものなの?」


「柔らかさだけは伝わってくるからおけ」


「おけ、じゃないのよ」



呑気な笑顔に苦笑で返すと、ミシェルは目をぱちくりとさせ、その後悪戯っぽく笑った。


まだまだ不安は残るが、それでもこの笑顔を見られるうちはとりあえず頑張ろうとは思える。

ただそれが目を背けているだけだとしても、今はきっとそれでいいのだ。






その方が、私達らしいから。

































暫く膝枕を堪能していると唐突にフィリアが温泉に行きたいと言い出したので、以前も行ったオルターヴの湯屋へ着替えを抱えて通うことにった。

他のお客さんはそこそこいるが、特定の人向けに別料金で個室の洗い場と温泉を使えるので、そちらに行くことに。


前と同じように私がフィリアの体を洗い、フィリアがそのお返しに私の翼を洗う…別にこの翼は性質的に洗う必要は一切ないのだが、そもそも天使と悪魔が風呂に入る必要自体ないのでそれを気にするのは野暮だろう。

にしてもフィリアは私の翼を洗う時いつもその感触を堪能するかのように撫でさすったり愛でるように羽毛の間に指を入れて梳かしたりと、手つきが怪しい。

私も人のこと言えないが。

しかし、そんな面白いものだろうか。



「…抜かないでよ?」


「私を何だと思ってるのよ…」



フィリアなら天使の翼の特異な性質をを研究しようとしてごっそり抜いたりとかしそうなのだが、不思議と安心感や温もりを感じるこの瞬間は割と心地よかったりする。

そして、一通り体を洗えば個室とはいえ三〜四人は余裕を持って入れるだろう広さのまばらな岩で縁が囲まれた風流な温泉に浸かる。



「はぁ…やっぱ時々入るお風呂は良いねぇ…」


「家にもお風呂が付けば良いんだけどねぇ…皇国の技術レベルはともかく、必要経費とか人手の問題で各家に水道を通すのが難しいらしいし」


「あれ増築とか出来ないかな?」


「どうかしら…流石に許可がいるんじゃない?」


「そっか…何か今までそんなに興味薄かったけど、毎日温泉に入りたくなってきた」


「目立たないように個室行く必要あるからお金かかるわよ?」


「世知辛い…いや、もう今更ホロウェルの件の事とか気にする人いないでしょ。それにそれで顔差されても気にしなければ私も常時翼出してられるし、フィリアも翼隠す必要ないでしょ?」


「いや、でも私達神教国に目付けられてるのよ?せめて戦争が終わってからじゃないとまた何か巻き込まれる気がしてならないわよ」


「そっかぁ…」



フィリアに諭され残念と肩を落とし、顔の口元あたりまでを湯に沈めぶくぶくと泡を立てる。

その動きを目で追ったのかフィリアの視線が下がると、フィリアは瞬時にぷいと目を逸らした。



「…お行儀悪いからやめなさい」


「…あぁ」



そう言えばここ温泉なんだから裸なんだなと今更気付いた。

前来た時は互いの裸体をいつの間にか眺めてるのに気付きあって笑ってたのに、何を今更恥ずかしがることがあるのか。

まあ完全に慣れ親しまれるとそれはそれで何か寂しくなるので、多少性を意識してくれると思うと少し嬉しい気もする。

顔を背けているフィリアに近づいて肩に寄りかかると、フィリアはのぼせたのか顔を朱に染めて頬を膨らませて睨んできた。



「…ふふっ、その内家にでも作っていつでも一緒に入れるようにしたいなぁ」


「…じゃあ旅の予定もないし、そもそも暫く行く気もないし、何でも屋でお使いでもしましょうか」


「うん、そんなに使うこと無いと思ってたけど、以外に出費って出るもんだねぇ」



最悪フィリアと一緒に居れればいいのでそれすらも必要ないつもりでいたが、一緒に楽しもうとすると当然ながら費用がかかる。



「働きたくないなぁ…」


「そうやって公務サボったりしてたからフリージアに糞ニート呼ばわりされてたの忘れたのかしら?」


「すんごい懐かしい話覚えてるね!?あの時は普通にショックだったからね」


「じゃあ働け穀潰し」


「辛辣すぎる」



仕事してない訳では無いし別にニートと言われる程でもない筈なのだが、フリージアのボキャブラリーは毎度私のメンタルを的確にゴリゴリ削ってくるからまた凄いものだ。



「…明日から本気出す」


「絶対出さないやつでしょうが」


「…ふっ」



私が声を出して笑うと、フィリアもそれに釣られるように肩を震わせて笑い始め、しばらくの間その状態が続いた。



やっぱり、これくらいが一番良いんだ。

今みたいなのが、きっと一番幸せになれるんだ。



その後話に夢中で長湯しすぎて湯屋の人に注意されたのはまた別のお話。

吹き荒ぶ木枯らしは季節の変わり目───

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