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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第四十七話  フロウ


神教国に行った時の一件で助けてくれたハルトマンにお礼を言った後、旅に同行していたノフティスの様子を見に行くことにした。

とはいえ広い城内から彼女の自室を探すのは大変で、ハルトマン達に道を聞くのも忘れてしまったため再び複雑な廊下を歩き回ることに。

そしてそれから十分とちょっと…



「あ~…案内板あったんじゃん…」


「盲点だったわね~…」



城内の通路に人がいないから外に出れば誰かしらいるだろうと思って訓練場ぽい所に出てみれば大まかな構造の案内があった。

後から知ったが、王城は広く内部も複雑なため時々迷子になるものが現れるためこれを設置したそうな。

流石にこれだけでノフティスの自室の正確な位置は分からないが、国の役人用の宿舎とかの場所は載ってるからそこから目星をつけられたのに…

私達なんかどうやら五分くらい前まで重要資料保管庫とか国家資産金庫室とかの近くうろついてたぞ。

城内をある程度歩き回る許可を貰ってるとはいえ不審者と思われても仕方ないくらい致命的な迷子だった。


訓練場には今は人はおらず、仕方なくまた自分の足で探すしかないようだ。

ひとまず案内板からノフティスの自室がありそうな場所の中から『兵士宿舎』、『役人用宿舎』、『管理人用生活室群』などそれっぽいところを洗い出し、一つ一つ巡ることにした。



「そういえば、今更だけどなんで私達ここまで躍起になって皆を探してるんだろう…」


「…礼節の問題でしょ。二度と聞くんじゃないわよ」


「あ、はい…」



ここまで来るとヤケクソになっている感は否めないが、お世話になったのだから挨拶するのは当たり前、という大人(?)としてのプライドは勿論、アルカディアの王様時代フリージアにしつこいくらい意識するように指導されたのを思い出した。

セレナもああいう苦労してるんだろうかとどうでも良いことを考えていると、ひとまず第一候補とした『役人用宿舎』に着いたようだ。

個室の前にはご丁寧に表札がかけてあるが、フィリアは目を細めるとこちらを向き、良い笑顔で言った。



「読めないわ」


「だろうね」



当然この世界の文字は私達が知らないものなので普通は読めない。

いつもはフィリアは専用の魔道具(アーティファクト)である片眼鏡(モノクル)を使ってこの世界の本を読んでいるが、今はそれが入った無限鞄を私達が寝かされていたゲストルームに置いてきている。

なので私の権能で読めというこのやり取りは実はさっきの案内板を読む時にもやっているのでデジャヴどころではないが。



「というわけで読んで」


「はいはい…私の権能ちょっと使うだけで頭痛くなるんだからね?」


「いつもありがとうとは思ってるわよ?」


「なら良いんだけどさ…」



感謝してくれてるなら頑張り甲斐があるというものだ。

これくらいの言葉に乗せられて上機嫌になる私も大概フィリアに甘いなとは常々思わないでもないが。

慧眼(キーンインサイト)を発動させ、文字を読んでいく。

見たもの全ての情報を取り込むこの権能は文字通り『視界に入るもの全て』から情報を受け取るので、少し出力を下げて使っただけでも文字だけでなく一緒に目に映る壁とか金属とかのいらない情報も全て取り込むので、情報過多になるのだ。

何でも見ることは出来るがそこまで便利使いができないというこの面倒な権能。

人の記憶とか見ようとした時にはもう、頭が壊れるかと思う程無駄な情報も取り込んでしまうので正直言ってこの権能はあまり好きではない。

まあ権能の『制限』で言えばフィリアのも大概だが。

まあ今回は名前程度の長さの文字を読むだけなので最低出力で使っている。

それでも扉の材質とその説明といういらない豆知識も一緒に入ってくるが、そこまで負担にならずになんとか済んだ。

そうして一通り表札を読んでいくこと暫く。



「うん、ない」


「もう嫌なんだけど。ていうか本当になんで全然人いないのよ。誰かいてくれれば気兼ねなく聞くのに」


「流石にわざわざドア叩いて中の人呼んでまで聞くのは気まずいしね…」



今ではそうでもないが、割と戦時中は互い以外に人付き合いが悪かったこの天使と悪魔のコンビだ。

もしかしたら性根にコミュ症精神が染み付いているのかもしれない。



「…どこ探す?」


「…管理人用生活室群に行ってみましょうか」



もう完全に意地になっているが、今諦めると徒労感が半端ないのでやめるにめれない。

城の三階にある国の重要役人が使っているらしいその部屋達がある場所に辿り着く。

案の定表札を読んでいくことになり、一つ一つ見ていっていると、ようやく知った名前を見つけた。



「あ、フロウの部屋だ」


「さっきエミュリスを追いかけていったけど…今いるのかしら?」



もしいるならフロウに聞くのが手っ取り早いし、顔見知りとフロウに抱いている印象的に部屋でくつろいでいる所に失礼しても気まずさは感じない。

ということで部屋の扉をノックする。



「二十二歳ー!今いるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


「ミシェルーー!?」



呼び掛けた瞬間扉が迫ってきた───というか吹き飛んできて、それに巻き込まれて私ごと後方の壁に叩きつけられる。

扉と壁に挟まれるような形になったが、その上覆い被さるように氷塊がのしかかってきているため身動きが取れない。

かろうじて隙間から顔を出すと、アワアワしているフィリアと、それはもうニッコニコのフロウが腕を組んで立っていた。



「言って良いことと悪いことがある。良いな?」


「は、はい…」


「…エミュリスの時も思ったけど、あなた以外と年齢とか気にするのね」


「何か言ったか?」


「いいえ!」



睨まれて臆するくらいなら言わなければいいのにとも思うが、私とのノリがもう完全にフィリアにも染み付いてるんだなたしみじみとする。



「まあそれは良いけど…とりあえず助けて」



























「で、何の用だ?私はこれから今季の遠征隊の人員移動と編成で忙しいんだが?」



氷を溶かして貰いフロウの部屋に上げられた私達。

一応丁寧にお茶を出してくれたフロウはテーブルを挟んで向かいのソファーに座り背もたれに体を預けている。

ミシェルは若干体が冷えるのか部屋にあったブランケットを勝手に羽織ってフロウに睨まれているが、本人はどこ吹く風だ。

まあ魔法の氷は普通の氷と違ってすごい早さで熱を奪っていくから冷えるのは仕方ないだろうが、流石に図太いのはミシェルクオリティなのだと私は諦めている。

あの子昔とキャラ変わりすぎじゃないだろうか。

それにしても…フロウの部屋は味のない質素なものをイメージしていたが、以外と小物とか観葉植物とかが置いてあって普通にお洒落な内装になっている。

ミシェルが勝手に借りてるブランケットも水色と桃色を基調とした可愛い感じのデザインだし。

もしかして以外と女子力あるのだろうか?



「何か失礼な事考えてなかったか?」


「別に」



最近身の回りの人物が心を読んでくるのがデフォになっている気がする。

いやまあ明らかに表情に出てるんだろうけどさ。



「えっと、ノフティスにお礼とか挨拶とかしたいからノフティスの自室を探してたんだけど…」


「そんなことか。アイツは自室とかは持ってない。なんせここ数年ずっと外に出てたんだからな」


「あぁ…まあよく考えたらそりゃそうか…」


「じゃあ普段どこにいるのよ?」


「いるとしたらエミュリスの自室か、書庫にでもいると思うが…」


「「書庫?」」


「西の尖塔にある書庫だな。あそこは昼過ぎは日当たりがいいからアイツの昼寝スポットになってるんだ」



そんなんでいいのか黄道十二将星(セレスティアルライン)と思うが、そんな適当な所もこの国の魅力なのかもしれない。

手を抜くところはしっかり抜いて重要な時は真面目に仕事をする。

字面だけ見ればかなり酷い気もするが、常に張り詰めているよりはマシなのかもしれない。

実際アルカディアも似たようなものだし。

…いや、そこの王様の一人だった私が言うのもあれだが、あの国は参考にしてはいけない…うん。



「じゃあエミュリスの部屋の場所だけ教えてくれないかな?そしたら最悪いなくてもエミュリスの権能で探せる…よね?」


「ああ、アイツの広域演算(エリアルカウント)は皇国内の全てを把握できるからな。城内の人の位置を特定するくらい造作もないことだろ」


「そうだよねー。じゃあ教えて」


「まず私のブランケットを返せ。氷系統の魔法ばっかり使ってるから冷え性なんだ」


「そういうのって耐性つくものじゃないんだ…」



フロウはミシェルが羽織るブランケットを無理やり奪い取った。

勘違いされがちだが、魔物とかそういう権能を持っている者は別として、炎系統の魔法を得意とする者だからといって熱や火に高い耐性を持っているわけではないし、氷系統の魔法を得意とする者だからといって冷気や寒さに強いわけではない。

慣れとかはあるかもしれないが、当然そういうのは個人差がある。

結界系統の魔法を使えるなら耐性系の皮膜結界を体表に張れば耐えられるが、フロウの場合は氷系統の魔法に『容量』を全て使っているらしいので自力で耐えるしかないのだろう。



「じゃあ何で氷系統の魔法を覚えようと思ったのさ…」


「子供の頃に皇国に強い寒波が来てな。朝起きたら一面銀世界だったもんで魔法でそういうの使えるらしいから将来覚えたいなと思ったんだ」


「わーお、思ってたよりロマンチック!」


「馬鹿にしてるな?」


「別に良いんじゃない?大体魔法なんてロマンを求める物好きが覚えようとするものだし」


「物好きで悪かったな」


「腹黒で、でもちゃんと皆の事考えてて、部屋可愛くて冷え性でロマンチストって、割とキャラが混雑してるよね、二十二歳」


「お前らもう出ていけ!あと二十二歳は関係ないだろ!」



私達が座っていたソファーの下から氷塊が伸び、ソファーごと吹き飛ばされて部屋の空いた窓の外に放り出される。

咄嗟に翼を開いて落下を防いだものの、ソファーは地面に落ちて…あ、落ちる前に伸びた氷塊が受け止めている。

…壊れるのが嫌なら最初からやらなければいいのに。

氷塊は縮んでソファーは部屋に回収され、窓から顔を出したフロウは紙切れをこちらに投げて寄越すと窓をピシャッと勢いよく閉めた。

紙切れにはエミュリスの部屋の場所が書いてある。



「…今日で結構フロウに対するイメージ変わったね」


「そうね…」



なんやかんや相談に乗ってくれたフロウに対する評価を少しだけ改めて、紙に従いエミュリスの部屋を探すのだった。

























一方、部屋に残ったフロウはと言うと───







「…これ…壊した扉どうしよう…」



と、ため息を吐いていたのだった。



人の印象とは二転三転移ろうもの────

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