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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第四十五話 エミュリス


「体調に問題はありませんか?」


「うん、魔力も回復したし、これといって不調はないし、お世話になったよ」


「部外者なのに何から何まで感謝するわ」


「陛下を助けて頂いたこと然り、ギルデローダーの討伐の協力然り、その恩は国として図りきれぬものですから、お気になさらず」



深くお辞儀をするメイドに感謝の言葉を告げ、グレンとカトロスとの戦いでの消耗が回復したということで、あの一件から約二週間、ようやく客間(ゲストルーム)という名の病室から出ることができた。

二人揃って基本いろんな場所にいって旅とかしてないと落ち着かない性格なのでいくら安静にするためとはいえ、この閉鎖空間に詰められるのは結構ストレスがたまったりする。

勿論皇国連中の気遣いというのは承知しているが…


とりあえず今回の件でのお礼を言おうと城内の一部を除いて歩き回る許可を貰い、助けてくれたという黄道十二将星(セレスティアルライン)の序列五位、"ハルトマン・ハルス"という人物を探すことにした。



「しっかし、広いし構造は複雑だけど結構内装は質素なんだね」


「アルカディアの城も特別豪華なものじゃなかったけれど飾りとかに遊び心があったわよね。まあこの世界の情勢的にあれだし、本当にアルカディアが特別だっただけだと思うわよ?」


「そりゃあ、戦時中に資金を無駄にはできないだろうけど…その割には民間の娯楽のためにお金使ってるよね、オルターヴが良い例だよ」


「美術館とかね。それに『何でも屋』もそうね。この前図書館で調べてみたら最初は民間同士のコミュニティを形成させるための取り組みだったらしいわよ?お使い代行、家事の手伝い、話し相手になる、ベビーシッターって感じで」


「万屋みたいな感じかな?」


「まあそういう解釈で大丈夫そうね。そんな時に国が公共事業のために人手を集めようとそれなりに高額な報酬を出したりしたらしいのよね。見た感じ皇国もまだまだ発展途上だし戦時中ということもあって色々人手がいるんでしょう、定期的に仕事を何でも屋の依頼として出してるから、それで生計を立てているところもあるそうよ」


「気前良いねぇ、軍資金の見積りとかで大変だろうに」


「人間は兵站も考慮しなきゃいけないしね。天使や悪魔(わたしたち)の戦争とは根本的に違うのよ」



まあ天使や悪魔は基本食事を取る必要はないし、行軍路も飛べるから不要、衛生・医療は種族特性上、大体魔法でなんとかなるので資金…というか資材は武器や魔道具(アーティファクト)のために使えば良かったのでそもそも無駄はほとんど出ないのだ。

思い出してみるとあの大戦の頃は本当に娯楽という娯楽が何一つなく、現世の管理と同時進行で戦争をするくらいで他にやることが一切なかった。

だからこそ、フィリアとの出会いは私を大きく変えたのだ。



「…いつもありがとね、フィリア」


「…何よ、急に…」



相変わらず私が純粋に感謝の言葉を伝える旅に照れたように頬を赤く染めるフィリア。

この際、毎回頭の小さな悪魔の翼みたいな奴が垂れた感じになるのが萌えポイントだ。



「…ん、んん!えっと…それにしてもそもそもどこを探せば良いのかしら?」


「露骨な話題変更可愛いよ」


「うっさい」


「まぁ…大人しく適当に人探して聞いた方がいいかな?あのメイドさんとかセレナの世話役みたいな感じでそこそこ権限ありそうだったし城内のこともそれなりに知ってるんじゃない?もしくは直接フロウとかセレナに聞いてもいいし」


「人探すのに皇帝に直で聞くって中々ね」


「こういうノリが許される国で良かったね~」


「あんたねぇ…」



アルカディアとは色々違うが、締めるところは締めつつも基本緩いのは似ているし、好感も持てる。

国の上層部も癖の強いのが多いが、ちゃんと国のことを思っているし根本的には皆いい人そうなので、この世界に来て最初に会ったのがセレナ達で良かったと今では思っている。

神教国に出ていて邪険どころか殺しにかかってこられたら人間全体の評価も下げていたかもしれない。

そういう意味でもセレナ達の対応は私達にはピンポイントで刺さった。

せっかくのコネだし、出来れば良い関係を築いて行きたいものだ。

…向こうが私達をどう思っているかによるが。

と、歩き回って十分程、一向にどこを探せば良いのかの目星もつかず、諦めて誰かに聞こうとしたとき、後方から廊下を駆けてくる音が聞こえてきた。



「はいはーい!いつまでも迷っているみたいでしたから見てられなくて来ちゃいましたよー!お嬢さん達大丈夫ですか?」


「うわっ…何?誰?」



物凄い勢いで私達の横を通り過ぎていったと思ったらUターンして目の前まで来たのは、明るいオレンジ色の髪をサイドテールにした皇国の軍服の少女。

そしてその子の背が低めとはいえ身長より大きな綺麗な装飾が施された弓を背負っている。

テンションはまるで違うが、どことなく既視感のある雰囲気とその特徴的な武装からこの少女の正体に思い至った。



「君…もしかしてノフティスのお姉さん?」


「はい!エミュリス・レオーネって言います!世間一般その他大勢からはエミュリーとも呼ばれてるけど、好きに呼んでね!」


「あぁ…随分元気ね…」



中々高めのテンションでグイグイ来るノフティスの姉、エミュリス。

エミュリスは前のめりになっていた姿勢をピシッと正すと、深くお辞儀をした。



「今回の件で、ノフティスがお世話になりました!あの子の姉としてお礼を言わせてください!」


「あぁ、そういうね…私達も色々融通して貰ったし、こっちが感謝したい位だよ」


「そうよ。お陰で助かったって後で伝えて置いてくれないかしら?」


「はい!ノフティスも素直じゃないけど、褒められるのは普通に好きな子なのでちゃんと伝えておくね!」


「…そういえば、ノフティスあれ以降荒んでるって聞いたけれど、大丈夫なの?」


「あー…ノフティスはあれでも結構プライドは高いんだよ。だから自分の役割があの一件で果たせなくなって、これからの諜報の仕事に支障が出るって」


「でもノフティスも普通に強かったし、潜入調査とかが出来なくてもカウンタースパイとか出来そうなものだけど」


「それが…対諜報は基本私の権能でカタが着くんだよね。単純な戦闘力に関してもノフティスは黄道十二将星(セレスティアルライン)の中では真ん中より下くらいだし。あの子は権能が通じれば大抵の相手に有利を取れるけど、今回の件で対策を取られると上位の聖騎士クラスには流石に通じないからね」


「えー…あれでここでは弱い方なの?」


「単純な比較です。ノフティスは神器を応用すれば純粋な身体能力はここでも上から三番目くらいだけど、二番目以上…アレクさんとワズには遠く及ばないし、魔法は弱体系統の魔法しか使えないから基本物理戦闘しか出来ないんだよね」


「なるほど…できる事が限られてるから相性の良し悪しがハッキリ出ちゃうってことか」


「第一、剣術に関しては黄道十二将星(セレスティアルライン)は全員達人レベルで納めてますし、ノフティスは特別その中でも抜きん出てる訳でもないから、ここでは戦闘技術をコンプレックスにしてるんだよ」



確かに、焦っていたからというのもあるだろうが、ノフティスのグレンに対するあの時の戦い方は身体能力に頼ったごり押しに近いものがあった。

だから恐らく圧倒的な戦闘技術を持っているであろうグレンに対応されていたのだと思う。

私達の初見殺しが通じなかったらカトロスも加わってかなり危なかっただろう。

それこそ、死んでいてもおかしくないくらいに。



「だから隠密とか諜報で役に立とうとしてたんだ。見た目が完全に子供の少女だから芝居が上手ければ警戒されないだろうし。モチベーションが低いのはあれだけど…」


「ノフティスも色々抱えてたんだね~。そういうの全然表に出さなかったし」


「そうなんだよ!ノフティスったらお姉ちゃんにも相談してくれないから心配ばっかりかけて、だからたまに権能の範囲を頑張って拡大してノフティスがちゃんと仕事してるかとかお姉ちゃんがいなくてもちゃんとしたごはん食べれたり眠れたりしてるかとかを観測してて!今回の件も知らない人達が動向するって聞いて可愛さのあまり動向してる人に夜中襲われてないかとか心配でずっと見てて!それで…」


「へ、へぇ…ちょっと話が長…しれっと盗撮みたいなことされてたしなんか私達ロリコン扱いされてなかった?ねえ?」


「なるほど…フロウが言ってた通りシスコンなのね…」



下手にノフティスの話を振ったのは失敗だったかと後悔しつつも、時既に遅し。

シスコンによる狂気すら感じる長話を延々と聞かされ、当初の目的であるハルトマンって人の場所を聞けたのは四十分後のことだった。



愛の形も人それぞれ───

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