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第四話 旅は道連れ世は情け

"多種族共生国家アルカディア"の一角にある大草原── "エンカウンス草原"と呼ばれるこの草原のほぼ中央にそびえ立つ巨大桜の下は、現在多くの人で賑わっていた。

日付が変わる少し前の時間にも関わらず最低でも国民の6割はここに集まっている。

そんな彼ら彼女らが一様に見つめているのは、巨大桜の前に置かれたステージ。

明るく飾られたステージの上には二人の少女が立っていた。



「えー、それじゃあそろそろ閉会式始めるよー。」


「最初からそのノリで行くの?せめて序盤は取り繕いなさいよ。」


「いやね?フリージアに合計四時間くらい一日で説教受けたら流石に萎えるって。」


「あと三時間くらい追加させるように言ってもいいのよ?」


「さあ!皆!昼から十二時間続いた今回の春暁祭もいよいよ大詰めだ!最後の時を共に楽しもう!」


「手のひらぐりんぐりん過ぎる。」



観衆からも笑い声が上がり、場が和む。

しかし、それでも皆はどこか寂しさを漂わせていた。

ステージに立つ二人の少女──ミシェル様とフィリア様の掛け合いも、そんな皆の緊張を解こうとしているのだと、誰もが分かっていた。

いや、あの二人の場合素もいくらか混ざっているだろうが。



「それでは、やっぱり少し名残惜しいけど、春暁祭の閉会式、並びに、"王位継承式"を始めていくよ。まずは閉会の言葉をフィリアから。」



続きを促されたフィリア様がミシェル様から拡声器の魔道具を受け取り、前に出た。

ミシェル様は堂々としているが、フィリア様は少しだけ緊張しているようにも見える。



「ゴホン!今年はアルカディア建国、そして春暁祭の百周年ということでいつもより豪華に開催した、私達が主催する最後の祭りもこれで最後よ。祭りの準備係や運営係、その他関係各所と、祭りに参加してくれた国民の皆さん、本当にありがとうございました。」



感謝の言葉と共にフィリア様が頭を下げ、それに合わせてミシェル様もお辞儀する。



「そして祭りに来れなかった方々もまた、常日頃からアルカディアを支えるために一生懸命に仕事をしてくれていることに感謝するわ。本当に、ありがとう。」


「堂に入ってるね。可愛いよ。って痛い!」


「黙ってなさい。ぶん殴るわよ?」


「もう殴ってるけど!?子供の教育に悪いよ?」


「鏡見たことある?」


「どういう意味かな?」



観衆からどっと大きな笑いがあがり、二人も満足そうに向き直る。



「本当に、皆いつもいつも茶番に付き合ってくれてありがとう。」


「私は茶番だと思ってないけどね。」


「よし、あとでお小遣い挙げるからちょっと黙ってなさい。」


「子供扱い!?」


「ほんとに仲いいよなあの二人。」


「もう結婚すればいいのにねー。」


「「「「ねー。」」」」


「そこ!聞こえてるわよ!そしてしないから!」


「私は別に良いよ?」


「あんた今日やけに"求婚"多いわね!?」


「そりゃあ、アルカディアの伝統文化だからね。」


「そんな伝統さっさと腐ってしまいなさい!」



実際祭り事の度に二人が痴話喧嘩(?)を始めてそれに観衆がヤジを飛ばすというのはいつものことなので伝統というのはあながち間違ってないかもしれない。

…まぁ、ミシェル様は完全に楽しんでるだろうというのは分かる。

フィリア様も渋々付き合ってる感は出しているが、満更でもないのか頭の小さい蝙蝠のような翼みたいなのがぴょこぴょこ動いている。

いよいよ観衆から黄色い声援も飛び始め、流石に恥ずかしくなったのか二人は少し顔を赤くして話を続けた。












「さてと、感慨深くて少し長々話してしまったけれど、この辺りで終わりにするわ。それじゃあミシェル。」


「うん。」



三十分ほど続いた閉会の言葉も大詰めとなり、二人はこちらを見た。



「ほら、上がってきなよ。アルカディアの"新しい王様、フリージア"。」


「…まったく、本当に滅茶苦茶ですよ。御二人は…。」



時は一週間前に遡る──いや、一週間しか遡らないのが一番の問題なのだが。














フィリア『というわけでフリージア。来週の春暁祭で私達引退するから次の王様よろしく。』


フリージア『は?』


ミシェル『引退した後は二人旅に行くんだ♪』


フリージア『は?』















雑にまとめるとこんな感じだった。いや、実際こんな感じだった気がする。

まあそれは置いといてだ。

普通、そんな大事な事をたった一週間前に言うだろうか?

主導はフィリア様、それにミシェル様が追随した形らしいが、驚くことに他の王宮に務める役人とか文官は皆この話をもっと前から知っていたらしい。

ご丁寧に私だけに一週間前まで隠し続けていたのだ。



「本当に二人はおかしいですよ…。」


「驚いたでしょ?」


「心臓飛び出るかと思いましたよ。」


「ほら、皆待ってるからフリージアも早く上がってきなさい。」



フィリア様が急かすのでいそいそとステージに上がり、二人に進められるがままに中央に立たされる。

二人は私の前に立つと、ステージ横から渡されたアルカディアの国章旗─桜と白と黒の翼を持つ鳥が描かれた─

を私に渡してきた。

私がそれを受け取ると、二人は私に向かい片膝を立てて頭を低くする。

かなりくすぐったい気分で正直かなり緊張しているが、この二人に託されたからにはやりとげなければいけない。



「ふぅ…、至らないことがあるかもしれません。御二人のように上手く統治することができないかもしれません。御二人を、幻滅させてしまうかもしれません。」



一度言葉を止め、一息吐く。

二人の目を見ると、視線だけで言いたいことが伝わってくる。

それは、私に王位を譲る旨を伝えられた時と同じ言葉。



『フリージアは、百年ずっと私達を支えてきたでしょ?なら大丈夫だよ。自分で言うのもなんだけど、私達にずっと付き合い続けられるのって相当だよ?』


『あなたなら大丈夫でしょう。あなた自分が思ってるより国民に人気あるんだし、なによりあなたのお陰でアルカディアもここまでで愉快な国になったんだから。』



思い出すとあの時の言葉が心に刺さり、緊張が消えていった。



(大丈夫、私は御二人を信じている。そして御二人は私を信じてくれた。なら、自分で自分を信じられなくてどうするんですか!)



私はミシェル様とフィリア様を、この会場にいる皆を、アルカディアの名物といえるこのエンカウンス草原を、そして、アルカディアという国を。

その全てを視界に入れる。

後は自然と言葉が出てきた。



「それでも私は、御二人が目指したこの国を、守って、育んで、そしてより良い国に、二人が考えもつかないほど愉快な国にして見せますよ。」



大きな歓声が上がった。

それらに不安や迷いはない。

期待を、信頼を、応援を、親愛を、そして希望を。

正と呼べるであろう思い付く限りの全ての感情がその歓声にこもっていた。



「おめでとう、フリージア"陛下"。」


「はぁ…、やめてくださいよ、ミシェル様。御二人にそう言われるとむず痒いです。」


「あはは、私も様はもういいよ。」


「私もね。これから任せたわよ?フリージア。」


「本当に、私御二人に出会ってから振り回されてばかりですね…。ええ、任されましたよ!」



ミシェル様…ミシェルがステージ脇から持ってきたファーのついたマントと黄金の王冠を被ると、再び大きな歓声が上がった。

本当に、この国は守り続けないと、そう改めて決意し、観衆に向かって私は深々とお辞儀をした。
















「それで?御二人は旅に行くんでしたっけ?」


「うん。戦争の時代に遠征とか行ったことはあるけど、それでも世界は広いから、フィリアと二人で旅行にと思ってね。」


「…合ってるんですか?」


「ねえ私そんなに信用されてない?」


「日頃の行いでしょ?…一応、間違ってはいないわね。まぁ、世界は広いと言っても実際戦争の時代にいろんなところ回ってるから、実はあまり行くところがないのよね。」


「まぁ、言ってみれば世界の秘境探し、みたいな?」


「結局行き当たりばったりってことじゃないですか…。」



閉会式と王位継承式、いや、今考えれば王位継承式というより戴冠式と言った方が正しかったかもしれないけど…。

それを今更突っ込むものはいないので無視して、それらが終わり、会場が撤収され民衆も運営も皆帰った後、夕方くらいでも過ごした草原の一角にある小高い丘で三人で仰向けになって寝転んでいた。

本当はここで一緒に寝る相手はフィリアだけなのだが…、今日くらいはフリージアを混ぜてもいいだろう。



「まぁ、行くならお気をつけて。」


「あはは。今の時代私達を害せる存在の方が少ないよ。」


「戦争の時もそれで調子に乗って痛い目みたの忘れたの?」


「ごめんフィリア。もう調子に乗らないからあの時の話はやめようか。」


「何の話ですか?」


「フリージア!」


「ひゃい!?」


「世の中には、知らない方が良いこともある。OK?」


「お、おーけー?」


「別に良いじゃない?減るものじゃないんだし。」


「減るから!私の中の何かが減るから!」



思わず飛び起きてしまうほどあれは私にとってトラウマなのだ。

あれは本当に思い出したくない。

だってあのタイミングで超大型特級蛇(アースイーター)が来るとは思わないじゃん…。

いや、もうこの話はやめよう。



「それじゃあ、行こうかフィリア!」


「え?もう行くの?」


「時間は有限、効率的に行こう!」


「あなたが言うとその言葉の有り難みが消滅するわね。」


「酷くない!?」


「ふふっ、本当に御二人は仲がいいですね。」


「…何よ。」


「いえいえ、何でもありませんよ。」



フィリアが少し顔を赤くしている。

私も弄りたかったが、例の話の続きをされたらたまったものではないので、自重した。

代わりにフィリアの手をとって起こさせると、そのまま指を絡めて手を繋ぐ。



「ちょっと!?」


「じゃあ、行ってくるね。」


「はい、お気をつけて。何がとは言いませんが、ほどほどにしてくださいね。」


「うん。行ってきます。」



手を繋いだまま羽織った黄色のマントが翼に引っかからないかを少し確認した後、羽ばたく。

フィリアは少し体制を崩したが、すぐに持ち直して自分の翼で飛び始めた。



「あぁもう、またそのうち帰ってくるから!そのときまでに新しい娯楽なり文化なり定着させておきなさいよー!」


「はーい…って、宿題!?」



さらっと無茶ぶりを吹っ掛けていくところがフィリアらしい。

何か言っているフリージアを無視してそのまま空高くまで高度を上げる。

次帰ってくるまでに国が一段と良くなっていたら良いなと思う。あの子ならきっと大丈夫だろう。

だから私達は信頼して二人の時間を過ごせるのだ。



「ねぇ、フィリア。まずはどこ行く?」


「…なら、まずは私の家に寄らせてちょうだい。あんたが突然飛ぶせいで全然荷物持ってないわ。」


「あっ、私もだ…。」


「締まらないわね…。」
















これが私達の旅の始まり。

これは悲しく、残酷でそして昏い世界のもたらす理不尽に抗う物語。

私達の旅の終わりに何が待つのか。

それはまだ、誰も知らない物語。

そして物語が始まった──

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