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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第三十九話  背後で蠢くもの


────夢を見た



幾多もの悪魔の屍の上に佇む天使がいた。

天使は不意に振り返る。

そこには悪魔が一人立っていた。



『また会ったわね。この前は痛み分けで互いに引いたけど、今回は決着をつけられるかしら?』


『…』


『…つれないわね、相変わらず』



天使が右手に持つ剣を天に掲げると、空にかかる雲が一気に晴れ、眩いまでの陽光が差し込む。

そしてそれは天使の左手の中に収束され、槍のような光の束となる。

光が奪われた影響で再び辺りは暗くなり、天使の手に収まる光の束だけがこの辺り唯一の光源となった。



『本当に災害みたいな奴ね。一度くらい言葉を交わしてみても良いでしょうに』



不満気に言う悪魔は、しかし妙に明るい笑みを浮かべると、空間に黒い渦のような孔を作り、そこから赤黒い指揮棒(タクト)のような杖を抜き出した。



『今日もお話しましょう?』


『…』



天使は光の束を構えると、悪魔にそれを投擲した。
























気がつくといつの間にか一夜開けていた。

隣に寝ているフィリアを揺すって起こすと、「う~ん」とうなり声が聞こえてきた。

いつの間にか帰ってきたノフティスが部屋のテーブルに大きな紙を広げて口元に手を当ててなにやら悩んでいるようだ。



「う~ん…」


「それって大陸の地図?」


「ん?そう、最近新しく書き換えられたから矢文で飛んできた」


「前も思ったけどなにその原始的な輸送方法…何か私達が前に帝都で手に入れた奴と結構違うのね」



見ると、ヴィクティスの北の国境を隔てる境界線が大分南に寄ってきている。



「ヴィクティスの北側の戦線が押されてる。それが原因で前みたいなことになった他の所も少し変わってるけど北東の戦線は揺れ動きやすいから正直地図に書いても意味ない」


「皇国って兵も強いらしいし、黄道十二将星(セレスティアルライン)もいるのに、何でこんなにここだけ押されてるの?」


「一月くらい前にあの辺りの地域に"黒い獣"の一体、ハナユクラが現れて駐屯所が潰されたんだって。あの辺りは丁度戦力を置いてなかったから。ホロウェルといい、ギルデローダーといい、最近今までにないくらい"黒い獣"の動きが活発化してきてあちこち動き回らされる私の身になってほしい」


「"黒い獣"…」



何か嫌な予感を感じた。

ノフティス達が言う"黒い獣"が活発化してきた原因について、心当たりがあるかないかと言えばあるかもしれない。



「それらが活発化してきたのって…どれくらいの時期から?」


「二~三ヶ月くらい前、陛下がホロウェルに襲われたのを皮切りに…君達…何かしてる?」


「いやしてないよ!?」


「あぁ、そういえば時期が被ってるのね…でも本当に関係ないのかしら?」


「やっぱり君達に原因があるんじゃないの?」


「そういう不安を煽るのやめようかフィリア。もしそうだったら私罪悪感に耐えられそうにないよ?」



近年最初に暴れ始めた"黒い獣"がこの前のホロウェルならば、それとほぼ同時にこの世界にやってきた私達は何か関係があるのではないか、と言う話だ。

リリエンタの一件でもあったように、私達は確実に何かしらに巻き込まれている最中だと思われる。

今は何となく楽しんでいるが、私達はこの世界のことを知らなすぎるのだ。



「ねぇ、この世界のこと知ってる限り」

「断る」

「せめて最後まで言わせてくれない?」


「私の知識は多いけど勝手に話すといろんな所に睨まれる情報もその分多いから無理。そして私の睡眠時間を減らそうとしないで」


「最後のが本音だよね?」


「別に良いんじゃない?情報は自分で手に入れてこそ達成感があるのよ」


「でも、致命的になる情報は早めに知っておかないといざとなったときに身を守れないよ?」


「まぁ…そうでしょうけど…」



「う~ん」と二人して唸っていると、見かねたようにノフティスが間に割って入ってきた。



「はぁ、じゃあこれだけは言っておくけど、『天秤の掟』は破らないこと、知ってる?」


「それって…」


「確か…」



リリエンタで教団に所属しているという獣人の青年が言っていたことだ。

確か、一つ『命を悪戯にするなかれ』


二つ『繋がりを乱すことなかれ』


三つ『知識を粗末に扱うことなかれ』


四つ『力を我が儘に振り撒くことなかれ』


五つ『この地を領域を、盤を崩すことなかれ』


六つ『理即ち法、調停を破ることなかれ』


七つ『均衡を傾けることなかれ』


…そして八つ『正義に背くことなかれ』



こんな内容だった気がする。



「あれを破るとノワール…前に話した魔王を始めとした『天秤』達に裁かれる。過去に世渡りしきてきた連中の中にはそれを知らずに犯して裁きにあった奴もいるって聞いたことがある。まあ、慎ましく普通に暮らせば破るようなことじゃないけど」


「思ったのだけど、あれの『命を悪戯にすることなかれ』ってどこまでの事を言ってるの?戦争をしてるのならあなた達も…その…たくさん殺してるでしょうに」


「大義のある戦いは見逃してくれるらしい。ただ、命を弄んだり、命という名の秩序を乱そうとしたらアウトなんじゃないかな?」


「命の秩序って…」


「例えば…本来生まれる筈のない命を産み出したり、とか?…ほら、もう出てって。これから色々報告書をまとめなくちゃいけないから部外者がいると邪魔」



そう言うとノフティスは追い払うような仕草をし、テーブルに向かってなにやら書き始めた。

まあ今更感はあるが、一応機密事項もあるだろうし下手に私達が関わっていいという問題ではない。

大人しくノフティスの言葉に従って私達は一旦宿を出たのだった。



「そういえばどれくらいの期間滞在するつもりなんだっけ?」


「安全面も考えて最初は一週間以内って考えてたけど…ノフティスに合わせた方が良いのかしら?」


「どうだろう…セレナ達と連絡が取れれば多少動きを教えてくれるかもしれないけど…後であの連絡用の魔道具(アーティファクト)借りてみる?」


「そうね。ついでにあれに使われてる術式と波長を確認しておいてくれない?それを教えてくれたら私がいつでもセレナ達と繋げる魔道具(アーティファクト)自作するから」


「勝手にそういうことしようとするのは流石にどうなの?」



たまにフィリアは無茶な事を言うが、それでもやっぱりこの空気感は心地良い。

半ば強引に手を取り、そのまま私達は適当に暇を潰すために町へ繰り出すのだった。
























誰もいなくなった宿の一室で、ノフティスは連絡用の魔道具(アーティファクト)を起動した。



『どうだ、ノフティス、そっちの様子は?』


「暗殺は終わった。予定外に襲撃先が増えたけど」


『ふむ、やはりか』


「…予見してたなら先に言ってくれない?やっぱりフロウ、君嫌いだよ」


『ははは、残念ながら嫌われるのには慣れてるのでな。ああ、そうだ、あの天使と悪魔は?』


「…今はなんとも。教団とコンタクトを取ってるんだよね?何か言われなかったの?」


『そのことだが…やはり()()()()()()らしい。気にかけてやってくれだとさ』


「はぁ…なんで私達がこんな護衛紛いのことを…教団も人を送り込んできてたよね?」


『おっと、良く知ってるな』


「諜報のプロを舐めないこと」


『確かに、三人神教国に遣わせてるらしいが…それについては単純に神教国を調査してるってのもあるらしい。最近の奴らの動きといい、どうにも神教国…いや、聖騎士達がきな臭い動きをしているらしい』


「…?そこまでの情報は流石に今知ったけど、ロズヴェルドは関係ないの?」


『分からん。ただロズヴェルドの性格上、聖騎士達の独断の可能性が高いな。今度神都の方の調査も頼めるか?』


「馬鹿言わないでよ。神都には"例の神器"の大規模結界が張られてる。私一人だけならケイドジースを使えばなんとか入れるけど、警備の硬い神都をサポートなしで調査するのは流石に厳しい」


『言ってみただけだ。本気にしなくていい。それよりも、"ウロ"の足取りについてだが…』



物語は陰ながら進む───

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