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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第三十四話 聖都フルーノ




「えぇ…なんで?」


「事と次第によっては処すよ?」


「物騒だね。特に天使の方」



神教国に変装して入り込んだ中で乗せて貰った馬車。

そこで遭遇した黄道十二将星(セレスティアルライン)序列八位のノフティスは、突然私達に同行すると言い出した。



「君達、私のことどう見える?」


「え?」


「だから、どう見える?」


「えっと…見た目だけで言うなら…」


「子供の女の子…よね?」



少し大人っぽさというか格を感じることは出きるが、見た目に限っていえば身長百三十~百四十程度とかなり低いし、顔立ちも子供っぽく色気がない。

何も知らない人からみればただの子供にしか見えないだろう。



「そういうこと」


「いやどういうことさ」



何故か何で分からないの?という目で見てくるノフティス。

なんというか、マイペースで掴み所が無い。

これと一緒に行動するとかかなり疲れそうで嫌なのだが。



「はぁ…今回は旅人っていう設定で主に都市の偵察に来た。だけどこんな戦争真っ只中で子供の女の子が一人旅してるのもおかしいでしょ?だから君達が保護者を演じて欲しい」


「えぇ…私達普通に二人旅したいんだけど…」


「っていうかその設定もどうかと思うわよ?」


「うるさい。それにいくら君達でも上位の聖騎士の目は欺けない。そのためにちゃんとした人間の協力者がいるのといないのとでは行動の自由度が桁違い。互いに利がある話」


「ううん…?そうなの?」



いまいち話が掴めないので、この手の小細工とかに見識が深そうなフィリアに視線を向け解説を求めた。

「失礼なこと考えてるわね?」という目で返されたが、ため息を吐いて丁寧に解説を始めた。



「…つまりあなたは私達を利用して自分が注目されたり不信に思われるのを避けたい。対して私達は人間が協力者にいるということで種族を疑われるリスクを減らせる…ってこと?」


「そういうこと。ついでにいえば場合によっては実力行使に出ることもあるから戦力が欲しい。他の連中じゃあ顔バレもしてるから都市まで潜入するのは難しい。対して君達は天使と悪魔ということさえバレなければ問題ない。じゃあ私は寝る」


「なるほどね…うーんでも、やっぱりどうしても旅は二人でしたいって気持ちが…ん?寝る?」


「休みが昨日一日しかなかった。久しぶりにお姉ちゃんと会ったはいいものの直後に指示受けてこれだし」


「…そういえば、もしかしてこのあなたの仕事って私達が協力することを前提に立てられてない?」


「お姉ちゃんがが朝一番で君達が神教国に向かったってのを報告したらフロウがちょうどいいから付いていけって」


「あんの腹黒ぉ…」


「ミシェルー?絶対天使が出しちゃいけない黒いものが溢れてるわよー?」



相変わらず利用できるものは何でも利用する人だ。

せっかくの二人きりの旅を…

全体的に清廉潔白といった白い衣装とか髪とか肌とかしてる癖に姿を思い出すと必ず黒い笑顔をしてるところが浮かび上がってくるのはどうかと思う。

私の意識問題かもしれないが、これについては私は悪くないだろう。

きっと。



「どうする?」


「私は別に良いけど…確かにリスクが減らせるのは悪くないし、それに常時一緒にいるってわけでもない…寝てる!?」


「いつの間に!?」



フィリアが大事な事を聞こうとしたら、どこからか取り出した身長より少し小さめの抱き枕にコアラのように抱きつき、蒸れるのが嫌だったのか黒い革の手袋をローブのフードに入れて小さく寝息を立てて寝ていた。

こんな揺れる馬車の中少し目を話した隙に眠れるのはある意味才能だろうか。

寝てる姿だけみれば可憐な女の子なのに…



「いや、マイペース過ぎないかしら?」


「起こす?」


「…後で聞くから良いわよ。まったく…うん?」



不意にフィリアの視線がノフティスの手に止まった。

釣られて私も視線を向けると、ノフティスは右手の薬指に見たことの無い金属で作られた指輪をはめていた。



「これってもしかして…」


「神器…よね?」



その指輪から発する力はアレクやセレナ達が持っていたものと同質のもの。

先程までは微塵も感じなかったが…あの手袋か。

フードに雑に入れられている黒い革の手袋を権能で見ると、内側の魔力を閉じ込めるという術式が編まれていた。

それで隠すならもっと他に仕舞えば良いんじゃないかとも思うが、常に身につける必要があるのだろうか?

だとしてもそれを隠している手袋をわざわざ脱いで寝るあたりやはりガバガバだとは思うが。



「…ミシェル、ちょっと見なさいよ」


「絶対に言うと思った。魔力の高いものを読み取るのって大変なんだよ?」


「なんのための慧眼(キーンインサイト)よ。たまには正しい使い方をしなさい」


「日頃から正しい使い方をしてないみたいな言い方するの止めない?」


「違うの?」


「違うよ!」



まさかそんな偏見を持たれてたとは…

千年くらい一緒にいるが、今それを知って地味にショックだったりする。

そう思いつつもなんだかんだフィリアには甘く、言われるがままに権能を持ち家神器を調べようとしたのだが…



「…うん、名前が『堕輪ケイドジース』ってこと以外分かんないや。やっぱりこれとんでもない技術で作られてるよ。解析とか能力看破にたいして馬鹿みたいに防御術式が刻まれてるし、それにかなりの容量使ってる癖に本体自体の能力も多分馬鹿みたいに高い。これを作ったっていう昔の人間やっぱりどうかしてるよ」


「んー…分解(ばら)してみたい…」


「人の持ち物に手を出し始めたら終わりだよ」


「分かってるわよ」



魔道具(アーティファクト)マニア的な所のある研究者気質なフィリア。

私達の世界でも家に研究室を作っていろんな所から集めた魔道具(アーティファクト)を研究したり自分でも作ったりする趣味を持つフィリアだからこそ私達目から見てもオーパーツと言えるこの神器に知的好奇心を押さえるのは厳しいだろうが…

それに私も興味がある。

弱めて使ったとはいえ私の権能は性質上無機物が防御するのが難しいため、かなり精巧な術式が組み込まれていないとなし得ない事だ。

多分細かく術式の一つ一つを解読していけば読み取れないことはないと思うが、大変なのは変わりないだろう。

ともあれ、寝てる人様の者を勝手に調べるというのは流石にあれなので、なんとか諌めて馬車が都市に付くまで大人しく待つのだった。

























「んー、よく寝た」


「結局付くまでずっと寝てたし…」



馬車に乗ってから小一時間、フレスラン神教国の西側、聖国との国境近くにある町、聖都フルーノに到着した。

この町の近くは比較的平和らしく、都市の周りに防壁などは建てられていない。

聖国ともあまり関係自体は良くなさそうなのに無防備のように思えるが…

皇国での新聞騒動(?)での情報の取り扱い然り、この世界の国は少し政治的・戦略的な面で遅れているのだろうか?

…まあ細かいところを気にしていたらキリがないか。



「一応都市に入るには検問を通るから、設定を確認しておこうか」


「設定て」


「このノリで大丈夫なのかしら…」
























フルーノの出入り口になる検問所に並ぶ列。

多くの"人間"が並ぶその列に、旅人風の装いの三人の人物がいた。

言われるまでもなく私達である。

私は翼を取り込んで、フィリアは翼をマントで、頭の小さい翼みたいなやつをベレー帽のような防止で隠し、ノフティスはそのまま馬車の時と同じ格好だ。

列が進み検問へ差し掛かると、フィリアが衛兵の相手をする。

"設定"は次の通りだ。



「えー、何か身分を証明するものを提示してください」


「はい」



フィリアは肩にかけている鞄(無限鞄はマントの下に隠している)から丸めた書類を取り出し、衛兵の男に渡す。



「ふー…む?身分無し…ですか?」


「ええ、辺境の村…この町の南方にある村と言えばいいかしら?あそこから村では手に入らない物の買い出しと、後は都市部を見たかったっていう好奇心があって…」



はにかんだ笑顔を向けて衛兵の警戒心を解こうとするフィリア。

流石に悪魔、人心掌握の術の一つや二つくらい身に付けているのか。



「なるほど…確かにあっちにも村がありましたね。しかし…国は辺境の村までの戸籍調査をしていないのか?前に諸々からクレームを受けたと聞いたが…」



何かブツブツと愚痴をこぼす衛兵。

聞き取れた話によると、国営機関が戦争に力を入れすぎてこの頃政治面が疎かになっているらしい。

皇国でセレナ達に聞いた神教国の教王ロズヴェルドは戦争より国内の政策を進めたいという話は聞いたが…

国が一枚岩ではないのだろうか?

気になったのでそっち方面で詳しいであろうノフティスに小声で聞いた。



(そこのところどうなの?)


(…教王は種族に拘っていない。だから人外種への差別や迫害が原因で行われているこの戦争に興味がない)


(だから戦争に労力を使ってる暇があったら国内の事をしたい、か。良い王様…なのかな?)


(少なくとももっと違う国に生まれていれば治世の王になれた。これは気の毒だけど、あいつも国を背負う責任がある。だからこそ私達が神教国に攻め入ろうとすれば全力で邪魔しに来る)



以前ワズベールから聞いた二十年前の惨劇を思い出した。

当時の黄道十二将星(セレスティアルライン)のほとんどが代替わりする要因となったロズヴェルドとの戦い。

この世界は未知の実力者が多い。

だからこそ、なるべく面倒事は避けようと改めて心に決意したのだった。

にしても…



「失礼、お名前は…」


「ディア・エンジェリオンよ」


「えっと、マルヌ・エンジェリオンだよ」


「ノフト・エンジェリオン…」


「分かりました…ありがとうございます、ようこそ、フルーノへ!」


(家族設定か~)



なんとなくこの設定が気に入っている辺り私も余裕があったんだなぁと思う今日この頃だった。

臨むは聖都、困難を越え行くは旅する少女達───






偽名の小ネタ


親愛

ギリシャ語→フィリア(philia)

 英語  →ディア (dear)


ミシェルはフランスの革命家の名前

生まれはオート・"マルヌ"県


ノフティス→ノフト

縮めただけ


エンジェリオン

ミシェル・"エンジェリナ"

フィリア・"アステリオン"

混ぜただけ

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