第三話 小さな夢
「本当に何馬鹿やってるんですか?」
「フィリア助けて~!」
「自業自得でしょ馬鹿。」
「二人共辛辣過ぎる!」
「それで?申し開きがあるなら聞きますけど?」
「これには海より深い訳が…、ってごめんごめん!フィリアに絡みたくて逃げてきたのは謝るから!」
フィリアに連行され再び彼女、私達の補佐などをしてくれる天使の少女、フリージアによる説教タイムに突入した私こと同じく天使のミシェル。
春暁祭の客が多い巨大桜から少し離れた小高い丘に並べられたテラスチェアに座り、紅茶を啜りながら優雅に説教される。
なんだこれ。
「まったく、相変わらず開催式では"いつもの"やってますし、真面目にやるという概念は持ち合わせてないんですか?」
「グッサグサくるね。いやね、私割りとその日その日を面白おかしく生きたいタイプだから。」
「フィリア様、なんでこの人この国作れたんですか。」
「それは私にとっても一生の謎なのよね。」
「私としてはフィリアがそばで支えてくれたからだと思ってるよ。」
「…」
説教されてる私を横目に紅茶を啜ってた悪魔の少女ことフィリアにため息を吐かれた。
あ、でもちょっと照れてる。可愛い。
「…とにかく、もう少し立場を自覚しなさいよ。」
「まあ、私とて考えはあるよ?傍若無人に振る舞ってるのは国民との距離をできる限り埋めようとする意図があってのことな訳ですよ。」
「距離縮め過ぎたせいでその国民から頻繁に弄られるんだけど?あとあなたのは振る舞ってるんじゃなくて地でしょ?」
「我ながら素晴らしい国を作れたと思ってるよ。」
「寝言は永眠してから言いなさい。」
「フリージア!フィリアの当たりが強い!」
「もうどうにでもなればいいですよ。」
「いやあなたが匙を投げちゃダメでしょう?」
何故か遠い目で私達の会話を聞き流しているフリージア。
解せぬ。
「まあ、とにかく説教中に逃げるのは止めてくださいね?しかもわざわざ幻影まで使って。」
「"権能"を併用して作った自信作だったんだよ?」
「んな下らないことのためにわざわざ"権能"を使わないでください。」
「あははー!」
「いや笑い事じゃないんですって。」
凄い呆れた目で睨まれた。
これ以上ふざけるのは流石に良くないと察知した優秀な私はさっと口を閉ざす。
「…はあ、もうすぐ閉会式ですし、さっさと準備しますよ。」
「あなたのせいで全然祭り楽しめなかったじゃないの。どうしてくれるのよ。」
「それは私も思った。本当にごめん。」
「いやお二人は主催者ですよね?なんで楽しむ気でいるんですか。ていうかそうですよ。よくよく考えたら二人共おかしいの忘れてましたよ。」
「聞き捨てならないわねフリージア。私とこんなのを一緒にしないでちょうだい。」
「こんなのて。」
こんなの言われたのはあれだが、フィリアがフリージアに怒られる事があっただろうか。
私が言うのもなんだが、フィリアは凄い仕事してるし。
「聞きましたよ。"今回の件"発案したのフィリア様だって。」
「「…ああ。」」
「ああ、じゃないですよ!ミシェル様も面白がって追随したらしいじゃないですか。よく一国の主としてこんな馬鹿な計画する気になりましたね!?」
「私はこの国の未来を考えて最も良くなる最適かつ最善かつ愉快な選択をしてるだけよ。」
「最初の二つはともかく最後のなんですか?」
「さっきも言った通り私は面白くて人に迷惑がかからなければなんでも肯定するからね。」
「私に迷惑がかかってるんですが!?」
「「よって私達は悪くない。」」
「もうやだこの二人。」
フリージアがテラステーブルに突っ伏した。
哀愁漂う少女の後頭部と背中を見て流石にちょっと罪悪感が芽生えて来たので撫でてあげると頬を膨らませて睨んできた。
慰めてあげただけなのに。
「まあ強く生きなよ。」
「心を強く持ちなさい。」
「もういいですよ夫婦漫才は。」
「誰が夫婦よ。」
「もお~、フィリアったら~。私達のことに決まってるじゃん!」
「ちょっ!」
フリージアに夫婦と言われ若干頬を赤く染めていたのが可愛かったので抱きつく。
フィリアは引き剥がそうとするが腕力的には魔力で強化されなければ私のほうが強いので剥がれない。
というか意地でも離したくない。
「お熱いですねぇ。」
「ちょっと、フリージア手伝いなさいよ!」
「私はお二人に色々と追わされた重責があるのでそちらに関する仕事をしなくては。」
「何根に持ってるのよ!謝るから!助けて!あなたも離れなさい!」
「大好きだから離れたくないんだよねー。」
「というか本気で嫌ならフィリア様ほどの力があればどうにでもなるでしょう?」
「…」
あ、フィリアが固まった。
「本気で嫌なら」という部分に反応したようで、顔が真っ赤になってる。
どういうことを考えているのか、私の"権能"ならやろうと思えば心も読めるが…
やっぱりそういう思いは言葉で聞きたいので、
今は取っておくことにする。
しばらくして呆けから覚めたフィリアに隙を見て引き剥がされ、少し惜しいがこの後のことについて三人で打ち合わせをして一旦フリージアと別れた。
今は二人で丘の斜面に仰向けになり、すっかり暗くなった空を見上げていた。
雲一つない夜空の満点の星と月が大地を照らしている。
「そういえばさ、フィリア。」
「…何よ?」
「私達が出会って、約束したときもここの草原でこうして二人で寝たよね。」
「…そういえばそんなこともあったわね。」
「あれ?もしかして忘れてた?私としては人生最大の転機で凄い思い出深いんだけど。」
「さて、どうかしらね。私はあまり過去を振り返らない主義なのよ。」
「うーん、そう言われるとちょっと寂しいかも。」
「まったく、本当に馬鹿ね。」
「あ、今の馬鹿はちょっと酷くない?」
「何言ってるのよ。ほら、フリージアを待たせるとまた怒られるから、行くわよ!」
「はあ~、つれないなぁ。」
立ち上がったフィリアが差し出した手を取って私も立ち上がる。
こうして二人で寝そべって、立ち上がったどちらかの手を取るという行動は私達にとってかなり習慣付いている動きでもある。
この時に手を触れあわせることは、私にとってかなり好きな時間である。
「本当に…馬鹿よ…。
忘れる訳ないじゃない…。」
「ん?何か言った?」
「い、いや?何も言ってないわよ?」
「?…そっか。」
フィリアが何か小さく呟いた気がしたが…
まあとにかく遅れると本当にまたフリージアに説教を食らうので、フィリアと半ば無理やり手を繋ぐ。
「!」
「ほら、行こ?」
「…ええ。」
フィリアが小さく笑う。
その表情を見た私も、きっと笑顔だったのだろう。
口元が緩むのを自覚しながら、フィリアの手を引きフリージア達が待つ
巨大桜の下にある広場へ向かう。
今日は、間違いなく時代の節目であり、それは私達に大きな変化をもたらす。
それでも、その変化の中でも、
大好きなこの娘と、笑っていられたらな。
刻々と近づく変遷の中、それでも少女は安寧を願うーー