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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第三章 月下の詩と嘆息の夜叉編
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第二百六十六話 ブロウロ

夜かと見紛う程に空を埋め尽くす黒い鳥…”黒い獣”の一種、ブロウロ。

私達の乗る船を補足したブロウロの群れは我先にと嘴を突き出してこちらへと急降下してくる。

近付いてきていたブロウロはリオが放った白い鳥の式神が数体叩き落とすが、次の瞬間には数百体に群がられて一瞬で式神が倒されている。


「これ、わたくしでも数比べするのにはちょっと無理がありますわ…」

「だろうね、取り敢えず出来るだけいっぱい出して」


船を囲い込むように周囲を旋回しては突っ込んでくるブロウロ。

それらに対し各自対応を始め、私は鞄からラクリエルを取り出して船から飛び立ってブロウロの群れのど真ん中に突っ込む。

当然そんな私はブロウロ達にとっては恰好の餌でしかなく、直ぐに数百、数千と集まってこちらに飛来する。


「ふぅー…反応しくじったら終わり。頑張れ私」


迫る先頭のブロウロを一体斬り捨てたのを皮切りに、速度を上げてくるブロウロの群れから逃れる為に翼を広げ真上に飛ぶ。

向こうも追いかけてくるが、飛行速度なら私の方が上だ。

しかし、何処に逃げても逃げた先にもブロウロの群れがいる。

あの空を埋め尽くす黒い群れに突っ込んだ私からすれば、最早全天どこを見ても厚いブロウロの群れに包まれているようなものだった。


(少しでも密度の小さいところを抜けないと一瞬で持ってかれる…光皇で切り離すのはまだしも、前みたいに無理矢理毟られて引きちぎられるのは嫌だなぁ…)


飛びながら、追ってくる数万…数十万にも登るブロウロの大群から逃げ、逃げた方向にいるブロウロを躱し、余裕が出来れば斬り捨てて一体でも数を減らす。

私がこうして引き付けている限りは、船に向かうブロウロの数は幾らかは減るだろう。

だがそれも時間の問題だ。


「…っと!下は大丈夫かな…いや私も既に結構余裕無いけど…!」


船の方向から群れを突き抜けて飛んできた魔力の奔流を避け、正面から飛んできた四体のブロウロを切り裂く。

群れに入ってしまったからには魔力に頼った手段は得策では無いため全てのリソースを身体強化に回しているが、一体一体処理していれば先に限界が来るのは自分の方。


「あんまり意味無いだろうけど…『清浄な迅光(クリアル・レイ)』!」


複数の光球を生み出し、それを自分の周囲へと漂わせる。

やはりおどみのせいで効果を削がれている分光は弱々しく、光球の大きさも小さくなってしまっている。

だがそれでも無いよりはマシ、死角からブロウロの一体が飛びかかってくるが、光球の一つが自動でそれを察知して盾となり、光球に衝突したブロウロは墜落する。

が、落ちた先でまた復帰して飛んでいるようで、やはりこの威力では殺しきれないようだ。


「空飛んで追いかけっこするのは得意だからね!そう簡単には捕まらないよ!」









ミシェルが上で軽く数十万以上ものブロウロを引き付けているが、残念ながらそれでも群れ全体のほんの一部でしかなく、残る…推定数千万から億にすら届くかもしれないブロウロの群れは次から次へと船へと襲いかかってくる。


「魔法で減らせるのかしらあれ…『終末の落日(ラグナメント・ダウン)』」


連なる七つの魔法陣の中心から放たれた黒雷が迸る巨大な槍が空を穿つ。

それなりに強力な部類の魔法だけあっておどみに完全に威力を削がれることはなく数百体は巻き込んで消滅させることが出来たが、それでもまだ数百体。

私の魔力ならこれを後二百発は撃てるし、それだけ撃ち込めれば…直撃させられれば大抵の戦いでは充分なのだが、相手が多すぎる上おどみで威力を削がれることで一発で数百体しか減らせないとなれば、魔力が尽きるまでこれを繰り返してもどう考えても足りない。

圧倒的に手数が不足している。


「アーサー!あなた今何体ですの!?」

「二百二十四。近付いてくるのと上に開いた門に飛び込んできたのを近くに出して叩き潰してるから相当地味だな。全滅させんのに何年かかるんだこれ」

「ぷっ、大したことないですわね!わたくしの式神達は既に千以上は片付けてますわよ」


「底辺で争ってもしょうがないでしょ?本当にこれ私がいなかったら何年かけて封じるつもりだったのさ」

「「はあ?」」


こんな時にも競い合っているリオとアーサーだったが、両者を煽るようにアウリルが構えると────瞬き一つにも満たない間に駆け抜けた緑閃が空を埋め尽くす。

緑閃は大気を切り裂き、ブロウロを切り裂き、純黒だった空から僅かに光が差す。


「…!」

「ひゅ〜」

「相変わらずとんでもないわね…」


「二十万ぐらいかな?なるほど、確かにこれは終わる気がしないや」


あの一瞬でとんでもない量のブロウロがアウリルの絶技とも言える剣技によって切り裂かれたが、それでも倒れた数は全体の母数と比べれば微々たるもの。

今のを何度も繰り返してくれればいつかは全部倒せるかもしれないが、アウリルはそのつもりはないようだった。

流石に今のを連発出来たら”人間”を代表して天秤の資格を得ているという話すら怪しくなってくるからまだ釣り合いは…取れているのだろうか?


「ねえレクト、封じるって話なんだから倒さなくても抑え込める手段は用意してるんだろうね?」

「当たり前だ。元々直接天秤の力を借りれないつもりで作戦立ててきてたんだからな。この戦力だけであれを全部倒すなんざ無理に決まってる」

「じゃあここは任せたよ。私はちょっとあいつらが出てきてる島の方荒らしてくるから」

「おう、後で回収に行くから無事でいろよ?お前が怪我するとウチのリーダーが泣くもんで」

「もう…ティアったら心配性なんだから…」


アウリルは船に向かってきていたブロウロの対処をしていたレクトと何かを話し…そして何かを受け取ると、無数に空を飛んでいるブロウロを足場にして跳び移りながら移動するという離れ業でまだ距離のある連中が根城としている島の方まで跳んで行ってしまった。

以前見た時と変わらない滅茶苦茶さに一周まわって呆れ返っていたが、幾らかアウリルが処理してくれたとはいえその数は未だ終わりが見えず、絶え間ない襲撃で教団の人達も既に疲労が溜まっているようだ。


「こっちが策を終えるのが先か、耐え切れずに全滅するのが先か…最近私達不利な戦いばっかりやってる気がするわね。たまには一年ぐらい平穏に過ごせないものかしら?…ちょっと試してみようかしら『紅玉(ルージュ・サンライズ)』」


ここならどうせおどみに威力を削がれるのだから好きな魔法を試せると思い…この世界の魔法の技術体系を勉強して最近私が習得した、習得難度はともかく一般に知られる熱系統の魔法の中では最高位のそれを群れに向けて放ち────花火のような爆発が起こる。

巻き込まれ倒すことが出来た黒いは百に届くかどうかという所だろうか。


(やっぱり本来よりもかなり威力を削がれてる上、まだこの世界の魔法に慣れないからか十分に効力を引き出せない。要改善ね)


「…そういえばユラとシーディアスは何してるのかしら?リオ、あなた知ってる?」

「はい?ユラちゃん達ならあそこに…」




「姉さん!?姉さん!?手伝ってって、これ!後ろのどうにかして!」

「あっはっは!ほらほら追いつかれるよ〜!もっと速く飛ばないと〜!」


ユラはブロウロから逃げ惑うシーディアスを自分に近付いているのだけを処理しながら笑って見ていた。



「余裕あるわねあいつら…」

「緊張感が無いというか…まどろっこしいですわ!正義の天秤も言っていた通り、このままでは何年経ってもキリがありませんわ!『巽式・辰巳(たつみ)』!」


リオは蛇に近い形状の竜の式神、辰巳を召喚し、現れるなり辰巳は空に向かって口から炎を吐き出す。

勿論魔力由来のそれはおどみによって威力が激減するが、私が魔法を撃ち続けるよりかは効率が良いらしく数秒で数百体のブロウロが焼き払われていく。

だが辰巳自体の大きさも相まってよく目立ち、ブロウロが一斉に集って辰巳を貪り尽くそうとする。


「ちょっ、強い式神はその分魔力の消耗も激しいですのよ!?そう簡単には倒させませんわよ!」

「愛着じゃなくて勿体なさで守るの…?」

「所詮式神、自立行動はさせられても考える能力と感情を持たない人形のようなものですので。その辺に関して言えばペットとして愛でられる聖国の皇直騎士(カヴァリエーレ)が羨ましいですわ」

「思ってたよりもドライだった…にしても凄い光景ね…」


辰巳は炎や全身を振り回して集まってくるブロウロに抵抗するも、多勢に無勢、そう長くは持たないだろうと判断したリオがありったけの白い鳥と蝶の式神を生み出して護衛に向かわせ、空中で行われる物量同士の合戦に少しばかり感嘆の息を漏らす。

絵面はこの世の終わりのようだが、こういった大群に立ち向かう図は中々様になるものだ。


なんて呑気な事を考えていても仕方ないと現実逃避をやめ、自分も辰巳の援護に回る。

気軽に範囲攻撃が出来る辰巳の存在は今の状況では非常に有難く、船の防衛は如何に辰巳…そしてリオを守れるかにかかっているだろう。


「レクト、これ何時まで耐えれば良いのよ?」

「本当は俺かミシェルの嬢ちゃんに行かせるつもりだったが、あっちはアウリルが担当してくれることになったからな。案外予定を繰り上げられそうだ。準備しとけよ」


そう言ってレクトは虚空に手を伸ばし…そして振り下ろすと、どこからともかくブロウロが甲板へ墜落してくる。

今のはレクトの権能だろうか?

魔法や魔道具(アーティファクト)以外にはあまり興味を持たない私だが、やはりこの世界の同族の力となると少し気になるところもある。


(ちょっとお手並み拝見させてもらおうかしら)

「サボろうとか考えてないよな?」

「あら失礼」

「頼むぞ?一人一人の負担がデカイんだから少しでも分散させてくれ」


ここでブロウロを封じることが出来なければ、連中が世界中に広がって…それだけならば必ずしも人の生活圏を襲うと決まったわけでは無いらしいのでまだ良いが、”黒い獣”の元へと集まる習性のせいで今度来る厄害との戦いで邪魔になり兼ねず、そうなれば格段に勝率は落ちてしまう。

本来私達が関与しなくても良い問題に首を突っ込んだのだ。

やるだけやって、後はミシェルとゆっくりしたい。


「長丁場上等、時間は後から取り返すとするわ」


黒天の凶鳥、穹の抑圧───

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