第二百六十三話 短日
今回は短め
「で?結局茶番だったと」
「これを茶番呼ばわりはロアル達に悪いけどな。まあ良い経験になったろ」
「性格悪いよ父さん…どうすんのさ、こんだけ騒ぎになって」
今回の私達のブラッドレイ家に対する調査…というかほぼほぼ制圧作戦みたいなものだったが…は、ブラッドレイ家を邪魔に思うクレイルさんと連合の主要国の手引きによるものだったらしく、敢えてクレイルさんが挑発することで連中を刺激して私達に手を出してくるよう焚き付けたと。
天秤という立場の関係上自分では下手に動けないとはいえ、こうも出汁にされると少し面白くない。
ということでフィリアも問い詰めているが、クレイルさんに飄々と受け流されて肩を竦めていた。
「私としてはあいつら潰れてラッキーだし良いんじゃない?」
「あいつらがゴルベッドの住民を好き勝手してたのは事実だからな。暫くこの国も混乱するだろうが、落ち着きゃ前より平和で良い暮らしが出来るだろうさ…この国の上層部もロアルに掌握されてたからそこは解体。この国もそのうち他の国に吸収されるだろうし色々利権を巡ってまだまだ荒れそうだがな」
「ウチは支援しないの?」
「勿論こうなった原因なんだから可能な限りは積極的にするつもりだ。まあ厄害やらの問題が積み重なってるから直ぐには出来ないが…最悪厄害に俺の領地を踏み荒らされたらそれもままならなくなる」
「じゃあ教団にでも頼んだら?レクトさん達とかまだユスタリヤに滞在してるだろうし」
「そうだな…せっかく連中が来てるんだから人を割いてもらうか」
今後の計画を立てているのか懐から取り出した手帳に話をまとめ出すクレイルさん。
少し釈然としないしブラッドレイ家への申し訳なさも感じないでもないが、実際に相対した感じ本当に危険な連中だったことは間違いないのでこの辺は割り切ることにする。
「…そういえば拘束した人達はどうするんですか?」
「あ?そうだな…勿論あいつらがやってきたことがやってきた事だけに解放するつもりなんてないし、かといって流石に拘束したままにするのはリスクが高いし───
───まあ、順当にまとめて処刑だろうな」
「「…」」
「ふん…悪魔の嬢ちゃんは置いといて、慈悲深い天使様は憐れむか?」
「…そんなのとっくの昔に失くしたよ」
「思うところが無いわけじゃないけど、私が昔住んでたところではこういうことはザラにあったし、好きにすれば良いんじゃないかしら」
「そうか…お前らは天秤を傾けるなよ?もし”その時”が来たら、俺は優しくしてやれないからな」
「…肝に銘じるよ」
「これ度々注意されてる気がするのだけれど、そんなに私達って危なっかしいかしらね」
「おう思ったより面の皮が厚いらしいな」
「ちょっとお父さん、さっきから黙って聞いてれば、いくらお父さんでもミシェルちゃんとフィリアちゃんを傷付けようとしたら許さないから」
話に割り込んできたユラがしれっと私とフィリアに抱き着いてきた。
もう慣れてしまったものだが、私ですら最近はフィリアとのスキンシップがあまり取れていないのに、と少しのヤキモチが湧き上がってくる。
なのでこの際だからと…フィリアの手をギュッと引いた。
「…何?」
「いや…なんとなく」
「そう…あ、シーディアス。それ貸して」
「うわっ、怖っ…なんでそんなのだけ急に目敏く…」
表情を変えずにじっと私を見て来たフィリアだったが、シーディアスが持っていたそれが目に入ると直ぐに興味がそっちに移り、それを受け取って目を輝かせて眺め始める。
…律儀に手は握ったままでいてくれるのはなんというか、ちょっと面映ゆいが。
「そいつは…神器か?ロアルの奴も持ってたし、あいつらもよく探し当てたもんだ」
「う〜ん…だいぶ複雑な術式が刻まれてる…私が勉強した限りのこの世界の魔法に関する技術体系の知識の中にはないわね」
「どれ…分からんな。形式の癖はノクスブラッカと似てるし同じ製作者の筈なんだが…かなり珍しいってのは間違いないな」
「良いよ、私が見るから。ちょっと貸して」
フィリアとクレイルさんが懐中時計型のそれがどういう神器なのか良く分からない考察を初め悩んでいるようなので、それだったら直接確かめた方が早いと貸してもらって権能で解析する。
最近事ある毎に使ってるので近頃若干頭痛に苛まれたりしているが、実益とフィリアの為ならなんのその。
ちなみにこの間ユラはまだ私とフィリアの身体に腕を回して抱き着いたままである。
かなり複雑な術式な上に懐中時計に組み込まれている材質なども特殊な性質を持っているのか想像以上に負担が掛かったが、何とかその正体を見破ると平静を装ってその説明をする。
「…強力な空間への干渉、特定範囲への時間の静止を引き起こせるみたいだね。その他使用者とこれ自体をその静止から保護する為の機構も組み込まれてるし、今まで見てきた神器の中でもだいぶ凝ってる感じがする。ちなみに使う時はこれを振ってねじを巻かないと行けないみたい」
「へえ…時間に作用する魔法…」
「流石にやらないぞ?ぶっちゃけ神器と使用者の中だけで完結するタイプならともかく、これとか…お前らが持ち出した神器みたいな外部に効果を及ぼすような神器は厄害に対してあまり効果を望めないからな。特にこれは時間への作用そのものを成功させる為にリソースを割いてるせいでそれを安定、補強させるような補助の為の機構は甘くなってると見た」
「…つまり?」
「今度の厄害との戦いで持ち出すには不安がある。とはいえこいつの特性もかなり厄介だし、悪戯にめも使われても面倒だから後で処分だな」
「え〜!?勿体ないわよ!それだったら私に頂戴!」
「ガキかお前は。急に知能低くなんな」
「それより姉さん…普通にサラケトス持ち出したのバレてるんだけど」
「あれ〜、おっかしいなぁ…お父さん存在すら知らないか忘れてたんだと思ってたんだけど…」
「見逃しただけだ馬鹿。別に貸す気は無かったが、まあ持ってくなら役立ててくれれば良いと思ってな」
「うぅ…ごめんなさい…」
「…それで、私達これから何すれば良いかな?不夜城に戻る?」
「あっちはあっちでちょっとクレアと教団連中に任せて色々落ち着けてないし、ユスタリヤにでも言って宿泊してこい。宿を取るなら金も渡すし、もしくはシャルヴェール公のところを頼るんなら一報入れといてやるから」
「ん〜、じゃあまたリオの所に遊びに行きたいかな〜」
「私もちょっと用があったし、頼めるかしら?」
「おう任せとけ〜…お前らは例によって着いてくのか?」
「勿論!もう私はいつまでも着いていくよ!」
「それは迷惑でしょ…まあ少なくとも今回の一見が解決するまでは…」
「そうか。方々に迷惑かけないようにするんだぞ?」
「「はーい」」
緩く答えるユラとシーディアスに苦笑したクレイルさんは懐中時計の神器とロアルとの戦いで奪い取ったらしい神器を空間の穴に投げ込む…ここに来た時に使ってた穴もアーサーさんに開いてもらってたらしい…と、ブラッドレイ家に付き従っていたソエ・レーブルの衛兵を捕縛している連合の兵団の所に行って偉いっぽい人に話しかけていた。
「…じゃあ私達は戻るかぁ」
「なんか長いようで、ほんの昨日今日の出来事だったのね今回の件」
「マジ?ユスタリヤからここにくるまでの移動時間の方が長いじゃん」
「私もミシェルちゃんみたいにリオちゃんに稽古付けてもらおうかな〜…」
「ね、姉さんがやる気に…?」
「どういう意味なのさこの愚弟」
「普段の言動見直しなよ馬鹿姉」
いつも通りの喧嘩を始めるユラとシーディアスに最早安心感を覚えつつ、私達は飛び立ち、空からの景色を一望しながらまたリオのところにお世話になりに行くのだった。
一区切り、次の展開へ───
 




