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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第三章 月下の詩と嘆息の夜叉編
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第二百三十九話 常夜は明けて四人旅


「…!ほら、あれあれ!見えてきたよ!」


「あ、あそこが…」


「”ユスタリヤ”…」


「八十五年前にお隣の国ベンゲラから独立した特別自治区。規模としては小国も小国だけど、事実上のトップのお貴族様のお陰で国としての体裁を保てているし下手な陰謀にも巻き込まれないくらいの地力を有してる、だってさ」



クレイルさんの蝙蝠から案内を受け、休み休み数日飛行して辿り着いたのは、街中に流れる水路や所々にある噴水、泉など水が綺麗な街。

まあその殆どが今は凍結して止まっているようだが。

とはいえ氷と雪で閉ざされた幻想的な銀世界の雰囲気はまさに美麗と言うべきもので、街ゆく人も品位を感じる洒落た服装で着飾っているのが見えた。

寒波と降雪で寒い砂漠の上を越え、幾つもの連合の小国の上を経由してそこそこ大変な道のりだったが、この街の綺麗な空気に触れられただけでも来た甲斐が有るというものだ。



「これ、普通に降りても良いのよね?」


「一応検問は通るけど、ほぼ父さんが先に手紙を出してくれたみたいだから素通り出来ると思うよ」


「いや〜、やっぱ親の七光りがあると都合良いね〜」


「胸を張って誇るのもどうかと思うけどね…もうちょっと自分でも頑張りなよ」


「勿論必要ならそうするよ!」


「はぁ…」


「あ、ミシェル。念の為聞くけど移動中にまた傷が開いたりとかしてないわよね?」


「その辺は流石に気を使ってるから大丈夫だよ。まだ跡は残ってるけど、もう数日すれば完治すると思うよ」


「なら良いのだけど…」


「まったく!ミシェルちゃんに傷が残ったらどう責任取らせようかと思ったよあの”黒い獣”!何か勝手に死んでたらしいけど…」


「父さんも厄害が仲間割れしたなんて話は聞いたことないらしいし、本当に変な相手だったね…さて、そろそろ寒くなってきたし、早く降りようよ」



砂漠を越えて連合の領土に入った辺りから不夜城の辺りと比べるとかなり寒くなり、降雪量も増えて風も強い気候となっていた。

多少の温度変化には強いとはいえ、上空は特に気温が低いのでずっと飛んでいると凍えそうになりお話はこれまでにして街の入口に降りることに。


検問らしき場所に降りると、鎧の上からマントを羽織る衛兵さん四人が私達が降りてくるのを見上げていた。

その内の一人が着地地点まで出てくると、いそいそと懐を漁っている。



「どーもー」


「やあ、クレイル様の所の子達だね?そちらは…同じ手紙に書かれてた例の天使と悪魔かな?」


「こんちにわ、ミシェルだよ」


「フィリアよ。お邪魔するわ」


「衛兵さん。手紙にもあった通り僕達はシャルヴェール公の元へ会いに行きたいんですが…」


「既にお目通りの支度は済ませているそうだから、直ぐにでも行けると思うよ…あぁ、でも具体的な日程の指定はなかったね。じゃあ俺達で話を通しておくからお昼頃に公の館を訪れてくれると助かるな」


「分かりました。ではそれまでは街を散策しておきますから、正午頃に訪れますね」




「ユラ、あんたああいう交渉事出来る?」


「私がする必要無くない?」


「出来ないのね…」


「弟さんだけ立派になっちゃって…」


「シーディアスもああ見えて割とポンコツだから!特にすることない時は途端にアホになるから!」


「失礼なこと話してないで行くよ」



衛兵さん達に話を通しいよいよ街の中に踏み入る。

建物は主にレンガ造りで屋根は三角屋根と寒気を意識したような構造になっていて、雪は衛兵さん達がスコップを片手に道の脇へ退けていた。

街の中には馬車が通るための広い道路もあり、行商人や運搬用の馬車が道路を渡っている光景が時々目に入る。

この国自体かなりかなり狭い国…というより主な都市がこの街のみではあるが、その分一つの街づくりに対する力の入れようは皇国の帝都にも負けていないだろう。



「領主さん?の館に行くのって今からどれくらい?」


「まだ早朝だから結構時間はあるよ。ゆっくり見て回るも良し、適当な宿でもとって休むのも良し」


「私としてはせっかくだから色々と見て回りたいわね〜。最初は朝食かしら?」


「あ、じゃあ前に来た時に美味しかったおすすめのカフェに案内してあげるよ!」


「あら、それは良いわね。ミシェル達もそれで良い?」


「良いよ〜」


「ん」


「じゃあ、ユラ。案内お願いね」


「まっかせて!こっちこっち!」



フィリアに案内役を任されウキウキとスキップ混じりに道を進むユラに、私達も微笑んでその後を追った。

途中水路の横や上を通る小さな橋を渡ったり、凍結した噴水のある広場を通ったりと街の景観を楽しみながら道を進んでいると、遠目に身知った装いの連中が別の集団と話している姿が目に入った。



「…あ、あれ教団の人達かな?」


「あら本当ね…知り合いはいなそうね。にしてもこんな所にまでいるとは働き者ねぇ」


「”黒い獣”の調査もしてるって聞くから、目的は僕達と同じかもね」


「…教団の人達が話してる相手は?」


「あ、私知ってるよ〜。自警団の人達だ」


「「自警団?」」


「連合に加盟する国の多くに支部を持つ団体。取りまとめは国に所属しない個人で、あくまで国家ち仕える組織って訳じゃないから比較的自由に動けるらしいね。なんでも普段は傭兵家業をやってるとか。後は各国の兵士と連携して警察としても動いてるって聞くね」


「へぇ〜…国が運営してる訳でも無く連合にそれだけ羽広げてるって凄いね」


「支部があるって言ってたわね。どんな所なの?」


「僕も直接行ったことは無いけど、寮とか酒場とか事務所とかが一纏めになってる所らしいね。酒場は一般人でも利用出来るそうだし、お酒でも飲みたいなら情報集めついでに後で行ってみても良いかもね」


「おー」


「ミシェルは禁酒ね」


「まだ何も言ってない!そるにちょっとくらい飲んだって良いじゃん!」



相変わらずお酒を飲ませてくれないフィリアに恨みがましい視線を向けるも見なかったことにされ、ふくれっ面のままユラの案内について行くと、ようやく目的の店へと到着する。

店は二階建てで、二階のバルコニーは屋外テラスとなっているようで中々洒落た雰囲気の漂う良さそうな店だ。


入店すると若い男性の店員さんが出迎え、メニューから各々が注文を選ぶとお好きな席にどうぞと案内されたので、せっかくだから外から見えたバルコニー席に着くことに。

談笑しながら待つこと十数分程、全員分の注文が運ばれてきた。

それぞれの注文は次の通り、私はサンドイッチとオススメされたスムージー、フィリアはバターを塗ったトーストとコーヒーみたいな飲み物、ユラとシーディアスはシチューみたいなスープと果物のジュースを頼んでいた。



「うん、美味しいね。こういう旅して行く先々に初めて食べる食材があるのが良い」


「遠出する醍醐味ねぇ。私達の場合遠出どころじゃ無いけど」


「異邦人なんだっけ?良いなぁ、私もいつかミシェルちゃん達の世界行ってみたいなぁ」


「無理無理、世界超えるなんて創世神とかじゃないと出来っこ無いって…ぁ、そう意味で言ったわけじゃ…」


「あはは、大丈夫だよ。確かに凄い力が必要なんだろうけど、この世界で過ごす時間も気に入ってるからね。それに帰りたくなっても必要ならその時に帰り方を探すよ。幸い、時間なんて幾らでもあるしね」


「そんな事言って、この前ホームシックになってた癖に」


「ちょ、なんでそんな事言いふらすのさ〜!」


「…ミシェルちゃんとフィリアちゃんは、その…素の世界に帰りたいの?」


「…帰りたくないと言えば嘘になるけど、それでもさっき言った通り必要ならその時に帰り方探すから、当分はこの世界を満喫するつもりだよ?それにもし帰れたら、私ならあっちの創世神様に頼んでこっちと行き来出来るよう我儘言えるかもしれないし…」


「そういえばあんたあの過保護な神様達に気に入られてたわね。孫かなんかとでも思われてるんじゃない?」


「う〜ん…嫌な訳じゃないけど…下手なこと言うとバチが当たりそうだからノーコメントで。ってな訳で、もし帰るとしてもまたこっちには来たいと思ってるから、そこは私達の努力次第かな?」


「そっか…本当にいつか行き来できるようになったら、今度はミシェルちゃんとフィリアちゃんにそっちの世界の案内をして欲しいな」


「…もちろん、色々あったとはいえなんだかんだお世話になったしね。ああでもあっちでもシーディアスと喧嘩するようなら怒るからね?」


「それは…シーディアスを連れてこなければ解決するね!」


「いやなんでさ。僕も興味あるよ!ちょっと行ってみたいよ!」


「微笑ましい姉弟ね〜。これで喧嘩の規模に注意してくれたら暖かい目で見られるのに」


「フィリアったら〜、今に始まった事じゃないでしょ?」


「二人共酷くない?」


「姉さんと一緒にされても…」


「「は?」」


「ほらほら仲良くね」



せっかくの食事の場でも相変わらずな姉弟を諌め、料理を一口分分け合ったりして食事を終えた後は適当に街を散策するとこになった。

すれ違う住人から受ける物珍しい視線は最早慣れたもの、小さい子が私達を見て元気に手を振ってきたり挨拶をしてくるのに愛想良く返し、暫く歩き続けていると街の中では一際大きな建物を見つけた。



「…あれは」


「さっき話した自警団の支部だね。空飛んできた僕達にはあまり関係ないけど、森林とか野山は盗賊もいるし街の外で農家やってる人なんかは盗賊とか魔物、後は害獣の駆除を彼らに頼んでるんだって」


「一つの支部でこんだけ人の気配があるのなら、組織全体で見れば相当メンバーがいそうね」


「…ねえフィリア、どうする?」


「どうするって…情報収集?酒場寄るにしても後から領主さんの所にも行くんだから皆飲酒は無しよ?」


「うん、それで良いよ」



フィリアからの許可を得てその支部に立ち寄った私達。

建物の中に入ると…まず大きな広間があり、至る所にテーブルと椅子が備えられ、広間の端にはバーカウンターや厨房が見え、別の端には受付の人やその奥で事務仕事をしている人達の姿も見える。

テーブルに集まってこの時間帯からお酒を飲んでいる人もチラホラ見えるし、忙しそうに荷物を運んでる人もいたりと随分賑やかな様子だ。


受付や事務をしている人達は若い男性や女性が多いが、酒を飲んでる人や力仕事に勤しんでいる人は殆どが見るからに腕っ節が強そうで経験を積んでそうな人達ばかり。

荒くれ者の集まりと言うと違う気もするが、なんにせよ気が弱い人はあまり長居出来そうな空間では無い。


そんな空間の雰囲気に感心していると、筋骨隆々とした大柄な男がこちらに歩み寄ってきた。



「なんだぁ、お前ら?ここに来たのは初めてか?…珍しい種族だな。依頼があるならあっちの受付の奥から三番目の所に行くといい。酒場は…今は厨房係の気が立ってるらしく芋を皿に乗っけただけのもんが出てくるから行かない方が良いぞ」


「あ、親切にありがとうございます。えっと、依頼とかじゃ無いんですけど、私達クレイルさん…絆の天秤からのお使いで”黒い獣”について調べてるんですけど、その情報収集にここに来たんです」


「な、絆の天秤っつうと不夜城の主か…!?」



「ねえ何か勝手に父さんの名前使われてるんだけど」


「事実なんだけどねぇ〜」


「さっきまで親の七光りで胸張るなって言ってた奴が他人の威を借りてたら世話ないわね」



「そこうっさい。ええと、それで自警団も情報を集めてるって聞いたのでここに来たんですけど…」


「むぅ…機密だからなぁ…いや、天秤が関わってるなら協力しない訳にも行かないか。となるとそっちの吸血鬼の姉弟は天秤の子供か。よし、支部長に話をしてくるから適当に席に着いて待ってろ。何か用があるならその辺の奴に聞け。ああ見えて気のいい奴らだから遠慮するなよ〜」



そう言うと親切な男性は受付の人の元へ行き相談を始めた。

とりあえず言われた通り空いているテーブルの席に座り、ウェイトレスのお姉さんが出してくれた水を飲みながら待っていると、ふと隣の席から感じた気配が何故か気になり、そちらに目を向けた。

そこにいたのは、酒を飲みテーブルに突っ伏す赤い髪の男。

雪の着いた厚手のコートの上からでも分かる体格の良さだが特に目立つ何かがあるわけでは無いが…



「…んあぁ?なんだい嬢ちゃ…あ?獣人じゃないのかな?となると天使?珍しいね」


「あ、すみません…」


「ちょっとミシェル、何してんのよ。ウチの連れが何か迷惑を掛けたならごめんなさい」


「いやいや、気に触っちゃないよ…お?一瞬吸血鬼かと思ったけど悪魔か。そっちの二人は本当に吸血鬼みたいだけど…ああすまない、こんな厳つい男が若い衆に話しかけてしまって」


「いえいえ、視線向けてた私が悪いですから…その、貴方はこの自警団のお仕事?長いんですか?」


「いやぁ、ベテランの方々と比べたらまだまだ若造もいい所よ。割と経験を積んでる方ではあるけどね」


「…待って、ミシェルさん待って」


「?」



男性と話していると、暫くボーッとその様子を眺めていたシーディアスが突然声を上げた。

会話を途切れさせ何事かと振り向くと、シーディアスは何かを確かめるようにじっと男性を見つめていた。



「どうした坊主、俺にそっちの趣味はないんだけど…」


「いやそうじゃなくて…貴方もしかして───














────自警団の英雄、”アーサー・クランベリー”?」


偶然の迎合、諸国最強の超人────

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