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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第三章 月下の詩と嘆息の夜叉編
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第二百二十四話 光精弄月


『─────────!!!』



混沌の抱擁(カオスエンブレス)』の不消の炎に全身を包まれ、”黒い獣”が奇声を上げて藻掻く。

報復と言わんばかりにこちらに糸を吐き出してきたりもしたが、それは”黒い獣”の口腔から飛び出た瞬間炎に巻き込まれて焼け落ちていた。

しかし私達が解除しようと思わない限り対象が消滅するまで燃え盛る灰色の炎に対してはまるで意味を成さず、じわじわと”黒い獣”は消耗し、やがて勝手に朽ち果てることだろう。



「…大丈夫、だよね?」


「近くの木はあいつが暴れたせいで軒並み消し飛んでるから気にしなくて良いわ」


「そうじゃなくて…」


「…確かに、これで終わってくれるのなら話は早いけど…ずっと待ってる理由も無いし、追い討ちかけてさっさと仕留めましょうか」


「うん…分かった」



確かにあの魔法は決まればそれだけで勝利を決定させる程強力なものだが、あくまで『確殺』の魔法であって『即殺』できる訳では無い。

”黒い獣”が倒れるのを待っている間に暴れられれば最悪相打ちに持ち込まれる可能性がない訳では無いのだ。

ならば、倒れるまでの時間を早める為に私達が攻め手を止める理由はなく、それぞれが炎に焼かれ苦しむように悶える”黒い獣”を追撃しようと魔法を放つ準備をする。



『───…!!』



そしてやはり、”黒い獣”もこのまま終わろうとはせず苦悶の呻き声を上げながらも立ち上がり、羽を大きく広げた。

”黒い獣”が前脚を踏み込ませるのと同時に私達はそれぞれ魔法を放とうとして──────





「…なっ!?」


「しまっ…」



”黒い獣”は、踏み込んだ前脚で地面を蹴ると、後方に飛び退いた。

そのまま”黒い獣”は全身を反転させ、あろう事か私達に背を向けて全速力で逃亡を図ったのだ。

脚で走りながら羽を羽ばたかせて加速する”黒い獣”。

あのままさらに速度を上げられればただ飛んで追いかけても逃げ切られてしまうかもしれない。



「ガン逃げ!?」


「チッ、やられた!追うわよ!あっちは…!」


「…!妖精の里!」



それも、逃げた方向が悪かった。

そちらはフィリアが巻物を使って作った巨大な結界に保護された妖精の里があるが、あの”黒い獣”の衝突を受ければあの結界でも一瞬で突破されるだろう。

そうなれば里に出る被害は馬鹿にならず、しかも危機意識の無い妖精達が結界の端の方に集まりこちらを観戦しているのが戦闘中に見えた。

妖精達の性格からしておそらくあの辺に里のほぼ全ての妖精が集まっている可能性が高く、ともすれば”黒い獣”が里を通過しようとこのまま直進すれば進路に集まっている妖精達は全て轢き殺され、里の妖精がほぼ全滅してしまう可能性すらありうる。



「もう、世話が焼ける…!『白夜の天蓋(ホワイリィジェイル)』!」



狂ったように回転する光の輪を出現させると、それをブーメランのように投げて”黒い獣”の進路に割り込ませる。

輪は回転しながら巨大化し”黒い獣”に匹敵する大きさになって進路を阻むが、”黒い獣”は構わず激突───光輪の全体に一気に亀裂が走るがなんとか耐え、”黒い獣”を弾き返す。

即座に繰り返された突進で光輪の障壁は完全に砕かれるが、今ので”黒い獣”の加速も振り出しに戻り、その間に私達が一気に距離を詰める。


しかし、



「まずい、もう浄化領域(アンチフィールド)を抜けるわ」


「え?ってことは…」


「抑制してたおどみが戻る。その分『混沌の抱擁(カオスエンブレス)』の炎も弱められるから倒すのにかかる時間がさらに伸びるわよ」


「あぁもう!追い詰められたら逃げるって知ってたのに…!なんで対策取り忘れるかなぁ私!」


「私としてもこれはやらかしたわね。次また”黒い獣”とやり合うことがあったら念を入れておきましょうか…」


「そんな機会無い方が良いんだけどね!」



ともあれ冗談を言っている暇は無い。

浄化領域(アンチフィールド)を抜けられれば妖精の里は直ぐに辿り着いてしまう。

その前に内側に引き止め無ければまた引き戻すのにも一苦労、張り直すのも簡単には行かないだろう。

もう一度『白夜の天蓋(ホワイリィジェイル)』で”黒い獣”を妨害しようとしたが────それより先に、”黒い獣”の目の前で強烈な閃光が発生した。



『──────!?』


「今の…あ、やっぱりルーチェ!」



瞬間的な極光は、それ自体には一切の攻撃能力は備わっていない。

しかし、閃光爆弾(フラッシュバン)のような一瞬周囲が影に落ちるほどのそれを目の前で起こされた”黒い獣”は思わず仰け反り、浄化領域(アンチフィールド)の境界ギリギリで転倒し一瞬動きを停めた。


そんな極光を起こしたのは、移動の速度が乗っている状態で転倒したことで目の前まで”黒い獣”が滑ってきて腰を抜かしていたルーチェ。

涙目となりぺたんと座り込んで震えていたが、先程の魔物達を集めた光も合わせて、彼女にはかなり助けられた。



「ミシェルはルーチェを!私が引き戻すわ!」


「りょーかい!回収したら直ぐに手伝う!」



体勢を立て直される前に”黒い獣”を一旦追い越した私達は、そこから二手に別れフィリアは”黒い獣”の前に立ちはだかり、私は”黒い獣”の転倒に巻き込まれかけていたルーチェを抱っこして回収する。



「さっきから助けてくれてたの君だよね?ありがとう、本当に助かったよ。にしても、あの結界どうやって超えたの?」


「え…ぇぇ…うぅ、その…私、自分で出した光の先に、その…移動できる、から…あの結界は…光は通るみたい、だったので…」


「なるほどねぇ…自然とほぼ一体の存在の妖精だから出来る芸当ってことか…って、そんなことより身体透けてない!?妖精なのに無理して魔法使うからだよ!霊的(わたしたち)みたいなのは魔力が尽きると消滅しちゃうんだから。ここからならまだ戻れるから魔力豊かな場所で休んでおいで」


「う、うぅ…す、すみません…」


「はぁ…本当に、感謝してるからね?それはそれとして無理は禁物。人の事言えた口じゃないんだけどね」


「あ…あの…!」


「ん?」


「…あの、化け物は…倒せるんですか…?」



未だ怯えが抜けていないルーチェの不安そうな瞳に、私は一度目を瞑ると微笑んで見つめ返す。



「私達に任せて。絶対里には手出なんかさせないから」


「…あ、ありがとう、ございます…それと…お、お願いします…」


「フフッ…うん!」



ある程度離れた場所までルーチェを運ぶと、彼女は律儀にお辞儀をして感謝を述べてくれた。

それに笑顔で答えると、私もフィリアの元へかっ飛んで戦線に復帰する。



「『終末の落日(ラグナメント・ダウン)』…飛ばさせもしないわよ…『雷撃(ライトニング)』!」



そこでは丁度フィリアが浄化領域(アンチフィールド)を抜けようと画策している”黒い獣”を全力で妨害していた。

矢継ぎ早に魔法を繰り出し尽く”黒い獣”の突破を防いでいるが、詠唱をせずに唱えているのにあの威力、おそらく魔力を無理に使っているのだろう。

あのペースだと直ぐに魔力が持たなくなる。


だから、フィリアを迂回しようとした”黒い獣”の前に飛び出て、至近距離から『天光(アストラ・レイ)』の光の柱を叩きつけ”黒い獣”を浄化領域(アンチフィールド)の奥の方に押しのける。



「君も無理してるんじゃないの〜?」


「馬鹿ね、このくらいでダウンするほど容量は小さくないわよ」


「…まあ、君がそう言うならそういうことにしといてあげるけど…長丁場も御免だし、一気に行くよ!」


「勿論!」


『─────────────!!!』



散々私達から被弾し、そこそこの時間『混沌の抱擁(カオスエンブレス)』の炎に焼かれ続けているというのに未だ寄生の破壊力は衰えず、むしろ命の危機が迫り死力を尽くそうとしているからこそ最初の方よりも更に勢いが強まったそれを真正面から受け止める。

吹き飛ばされようものならその隙に逃げられてしまうため、こちらも全力で耐えて、それぞれの得物に魔力を込める。


”黒い獣”も今度は全力で突破しようと身構える。

もし反転して逃げようとしても、今度は私達が対応出来ると悟っているからこそ、真正面から打ち破ろうとしてくる。


本来なら睨み合い少しばかり時が経つのが普通だが、常に身を焼かれ消耗し続ける為余裕のない”黒い獣”は一気に襲いかかってきた。



『────────!!』


「うっぐぅ…うおおおぉ!!」



”黒い獣”はこちらに飛びかかりながら寄生を上げる。

そのせいで音と衝撃波でこちらの動きが硬直し一瞬反応が遅れる。

故に鍵言を唱える余裕すらなく天光(アストラ・レイ)を発動し、光の柱を振り上げて”黒い獣”の顎下を撃ち抜く。

だがやはり威力が乗らず思った以上に怯んでくれず、突き出された”黒い獣”の角が私を貫かんとする。


そこに、フィリアが割り込む。



「『隔壁』…『魔女の庭ファムファタールガーデン』」



展開された空間の歪みが”黒い獣”の角を弾き、続いて展開した魔法陣から無数の茨が伸びて”黒い獣”に絡みつく。

茨も炎で焼け落ちるが、焼けたそばから新しく伸ばしているため多少は”黒い獣”の動きを止める役割を果たし、僅かではあるが全身に茨が絡みついた”黒い獣”の動きがピタリと止まった。


そして、その好機を見逃す私達ではない。



「一気に削る!」


「虫取りはもう終わりよ!」



私は剣をラクリエルから碑之政峰に持ち替え、それに貯めていた魔力を一気に放出する。

フィリアが短杖を振るうと、空中に七つの魔法陣が浮かび上がり、それらが円環を描いた。。



「『天光(アストラ・レイ)』!!」


「『終末の落日(ラグナメント・ダウン)』!!」


『──────────!!』



今回の戦闘で最も巨大な光の柱が、円環を描いた七つの魔法陣の中心から放たれた黒い雷のような槍が、”黒い獣”に襲いかかる。

対して身体を固定されている”黒い獣”は、巨大な魔法でも炸裂したかのような最大音量の奇声を上げ、音圧による衝撃波で私達の攻撃が少しでも弱まるように、僅かでも生存率を上げるための現状できる唯一の手を打った。


ただの物理的な衝撃波ならばいざ知らず、おどみの力が篭っているそれは確かに私達の魔法を乱し威力を弱めてもおかしくは無い。



奇声に震わされ、されど届いた攻撃が爆炎を上げて”黒い獣”を包み込む。

これで倒れれば僥倖、倒れていなくても倒すまで追撃するつもりで次の魔法の準備をした私達だったが…











『──────…』



爆炎が晴れ、そこに伏していたのは弱々しく呻く”黒い獣”だった。

脚は痙攣し、ぼんやりとした光を灯していた瞳は濁ったように淀み、重ねられた攻撃によってか身体の一部がひび割れそこからボタボタと黒い体液が溢れている。

混沌の抱擁(カオスエンブレス)』の炎と体液の流失による継続的な消耗。


ここまで弱った”黒い獣”に最早巻き返す術はない。



「ミシェル…」


「…うん。トドメは、確実に刺さないと」



”黒い獣”の頭部に歩み寄ると、炎の中から淀んだ瞳がこちらを睨みつけて来た気がした。

しかしそれも苦し紛れの、或いは()として生きる為の必死の足掻きなのかもしれない。


ほんの僅かに同情を誘われるが…それでも、万が一があっては行けない。



「…『無遠慮な破光(フィーリング・レイ)』」



手元に収束させた激しい光の束を、投擲はせず手に収めたまま”黒い獣”の頭部に突き立てる。

本来ならばびくともしなかっただろうが…”黒い獣”は総じて、消耗すればするほど肉体強度が下がることが分かっている。


故に、ここまで消耗した”黒い獣”に防御機能は残っておらず、光の束は”黒い獣”の眉間辺りに深々と突き刺さった。



『───────』



最後に、その苦痛によってか”黒い獣”は小さく悲鳴のような唸り声を上げたが、それは段々と掠れていき…そして、遂には瞳から光が消えた。


一応瞳を剣先で突っついたりして反応がないことを確かめて、私達は灰色の炎を消し去る。




これにて、この”黒い獣”の打倒は完了したのだった。























「つ〜か〜れ〜たぁ〜!!」


「はいはい、子供じゃないんだからシャキッとなさい」



”黒い獣”との戦いは一晩の内に解決し、疲れ果てた私達が里の保護を解いて戻ると、それはそれは楽しそうに妖精達が集まってきた。

まるでヒーローショー後のヒーローの元に集まる子供達のようだが、ネプラリネラが注意してくれたお陰で悪戯をしてくる子はおらず、そうしてみるとなんとも可愛らしいことか。


そんな妖精達に構ってあげてると、離れた場所の木陰から顔を出すルーチェを見つけた。

何となく心情を察して手招きをすると、フラフラとした足取りでこちらに歩いてくる。



「っと、そういえば消滅仕掛けるくらい無理してたんだった。ちょっとその子達の相手お願いね」


「はいはい、けどあんたにも興味持ってるから早く戻って来なさいよ」


「分かってるよ」



フィリアにその場を任せ、よろめくルーチェに駆け寄り、小さな体を優しく抱き上げる。

少しビクッと震えたルーチェだったが、私が指先で頭を撫でると落ち着いたようで、ゆっくりと深呼吸をして顔を向けてきた。



「あの…改めて…ありがとう、ございます…」


「君が一肌脱いでくれなかったら、こんなに上手くは行かなかったかもね。だから、こちらこそ手伝ってくれてありがとう、小さくて勇気ある妖精さん♪」


「う、うぅ…」



少し褒めてみると、身体を丸めて照れた様子を見せるルーチェ。

そんな微笑ましい姿に私も思わず口元が緩み、そして一つ思い付いた。



「ねぇ、ルーチェ。そういえばあの約束だけど…」


「…約、束…ですか?」















「出来たよ!」


「私が手伝ったとはいえはっやいわね…どんだけ気合い入れたのよ」


「わ、わぁ…凄い」



フィリアにも手伝ってもらい、完成したのは私の羽毛を使った布団だった。

材料にするためにわざわざ抜いたのでまだ翼がヒリヒリして痛いしちょっと禿げてるが…まあこのくらいなら数日で再生するから問題は無い。


デザインにもこだわったが、元々身体の小さな妖精サイズなので作成にはさほど時間はかからず、夜中の内にそれは完成した。

布団はこの辺りに自生している花を模した柄で、淡い水色が基調となっている。

少しルーチェに被ってもらったが、大きさもピッタリと太鼓判を貰ったので、特に修正することがないことを確認してそのままルーチェに送った。



「…その…このお布団…魔力が篭ってますか…?」


「うん、ちょっと魔法を込めた世界で一つの一品だよ?それに天使(わたし)の羽使ってるんだからそれだけでご利益はあるかもね」


「魔法…?」


「うん、『勇気が出る魔法』」


「勇気が…出る魔法…」


「そうだよ。君また他の妖精達との輪に入れてなかったし、それで一回気合い入れて友達と遊べるようになれたらいいんじゃないかなって。そのしどろもどろな喋り方も改善するかもだしね」


「勇気…私が…?」


「…あなたの勇気には、私達本当に助けられたのよ?短い付き合いだけど、私達相手に怯えてたあんたがあんなことやってたんだから驚きよ」


「それは…私が、皆を守らなきゃと思って…」


「その勇気を、今度は皆と仲良く出来るために使えれば良いね」


「…!」


「大丈夫、そのお布団で寝たら勇気が出る魔法がかかってきっと積極的に話しかけられるようになるからさ」


「そう、ですか…」



説明を受けたルーチェの声は若干うわずり、瞳には希望の光が見える。

彼女としても、他の妖精と違うとは言っても遊ぶのが好きで好奇心旺盛な妖精という種族であることに変わりは無い。

普段は臆病が勝っているようだが、本当はもっと皆と遊びたいのだろう。



「…私達は、もう今晩にはここを出るよ」


「…!なっ、どうしてですか!?」


「う〜ん、やっぱり私達あんまり一箇所に留まってたら良くないもの引き付けちゃうからね。特にこの里とか防衛戦力なんて概念自体無さそうだし…これ以上迷惑かける前に、ね」


「この大陸に来る前に聞いたけど、何体か大陸で”黒い獣”が暴れ回ってるって噂も聞いたしね。また他の”黒い獣”が来るかもしれないし、そろそろ移動しないと何と鉢合わせるか分かったもんじゃないわ」


「…お二人は…ミシェル、さんと…フィリア、さんは…また、ここに来てくれますか…?」


「…随分心開いてくれたねぇ。そう言って貰えると嬉しいよ」


「安心しなさい。どうせ私達もたまに恋しくなるだろうし、この里の景色も気に入ったしね。その内また来るわ」


「そう、ですか…良かったです…」


「…ははっ」


「これはまた来る時には元気なツラ見せてあげないとね。だからミシェルもあんまり無理しないでよね?」


「そっちこそ」



最後に軽口を叩き合い、それを見たルーチェが穏やかに微笑んだ。

別れの挨拶も軽く済ませて里を立つ私達の背中を、ルーチェは最後まで見送ることはなくあげた布団を担いで自分の家の中に戻っていく。

最後まで見送ってしまうのは寂しいと考えたのか、それとも早くあの布団を使いたかったのか。

或いはそのどちらもか。


夜空には今日も星が輝き、中でもほぼ満月に近い月が強くその存在を主張する。

満月と言うとフィリアは厳密には違うと怒るが…


さて、明日は一体どんな日になるのか。



「…そういえばミシェル。あの布団に魔法を込めてたって言ってたけど…『勇気が出る魔法』なんてあったっけ?」


「天使の魔法には心を強くする魔法ってのは存在するよ…まあ、私は修めて無いんだけどね」


「えぇ…じゃああの布団に篭ってた魔力は?」


「ただ寝覚めがよくなる魔法かな?気分をスッキリさせるやつあるじゃん?あれを寝起きに発動してくれる立派な魔道具(アーティファクト)だよ」


「そんなしょうもないの作って…」


「けど、ルーチェには一番必要だったんじゃないかな。嘘の加護も含めて…ね!」






















鳥の囀り、窓のカーテンから差し込む暖かな陽の光。

昨晩は遅くに寝たというのに不思議と開いた目はいつもの微睡みを感じることはなく、妙に意識がハッキリとしていた。


朝食を済ませ軽く身体を伸ばして外に出ると、朝早くだと言うのに妖精達はいつものようにワイワイと楽しそうに遊んでいた。

ふと、その中の集団に目を向ける。


いつもなら、つい距離を取ってしまう他の妖精達の集まり。

しかし、今は不思議とそこに交わりに行ける気がした。

これが、あの旅人の二人が言っていた布団にこめられた『勇気が出る魔法』の効果なのかと思うが、少し違う気もする。

けれど、確かな事実として、今はなんだかできる気がするのだ。


そして、その集まりに歩み寄る。

気付いた妖精達は、無邪気そうに、しかし私を見て少し不思議そうにした。


そんな皆に、私はほんのちょっぴりの勇気を出す。






「あ、あの…!」



勇気、踏み出す一歩と繋がる縁───

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