第二十三話 あなたに送る
「いやぁ、すみません。皇国民は基本皆陛下達を尊敬してますからね。つい聞きすぎちゃいました。」
「なんかもう疲れたんだけど…」
「これもう帰って良くないかしら?」
「「それはダメ!」」
「なんでリエナまで反応してんのよ!」
「可愛いお客様に可愛い服を着せるのが私の使命ですから!」
「分かってるね、君!可愛い娘には可愛い服を着せたいよね!」
「ミシェルさんこそ!」
意気投合したリエナと熱い握手を交わす。
横でフィリアが遠い目をしながら「なんだこれ…」と呟いているが無視し、さっそく何を着せるか話し合うことにした。
「あの綺麗な黒髪は際立たせたいですね。」
「じゃあ白系統で、ひらっとしたやつがいいかな。」
「清楚な感じを出したいのでレースがあまり多くないのを…」
「私的にあの綺麗な白い肌を活かさないのは勿体ない…」
「肩が開いたデザインにして…」
「背中はせっかくだからスリットじゃなくて大きくはだけさせて翼を通通して…」
「良い…」
「良いよね…」
「もうどうにでもなればいいわ…」
「ありがとうございました!創作意欲を掻き立てられましたよ!今回は特注で作ることにしましたので、一月程後に受け取りに来ていただければお渡ししますよ!」
「こっちもありがとうね。普通に買った分もあるし、これで色んなフィリアのコーデを楽しめるよ!」
「結局一時間以上居座ったじゃない。この後の予定どうすんのよ。」
ついついリエナと盛り上がって途中入ってきた別の客の接客に会話を中断されながらもなんとかフィリアに着せる用の特注の洋服のデザインを決めることができた。
その間フィリアはと言えば現実逃避したように前に買った法律書を読み込んでいたが、一人寂しかっただろうフィリアの心のケアを忘れる私ではない。
「今日も一緒に寝てあげるから、機嫌直してよ。」
「あんたが寝たいだけでしょうが。」
「えぇー…」
「ほら、次行くわよ!」
「あ、お二人ともマントでも持っているなら一応翼と顔を隠した方がいいですよ。オルターヴは朝や夜は以外と人通りが少ないですけど、昼になると込み合うので。私は鈍いので気付くのが遅れましたが、新聞で割と天使と悪魔ということは広まってるので、面倒事を避けたいのなら目立たないようにすることをお勧めしますよ。」
「そうなの?分かったよ、ありがとう。」
「いえいえ、良い依頼をいただけましたからね。腕が鳴るというものです!」
「そっか。じゃあ、よろしくね!」
「はい!」
手を振って見送ってくれるリエナに手を振り返しながら店を出た。
一月後を待つのが今からでも楽しみだが、今はフィリアとのお出掛けを精一杯楽しむことにする。
「楽しみだねー。」
「…私は別に楽しくは無かったわよ。」
「あぁ、ずっと一人にさせちゃってたもんね。寂しかったよね。」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」
そこからしばらく口数が少なくなったが、手を差し出すとしっかり握ってくれるのでやっぱり寂しかったのかなと思う。
もしくはずっとリエナと話してたから嫉妬したとか…
何かを感じたのかフィリアに睨まれたのでこの話題を考えることはやめにする。
「えーと、次は…お?」
「?…あ、良いじゃない。」
リエナ洋服店を出てから二十分程歩き回って、お洒落そうな装飾店を見つけた。
壁は大きなガラス張りになっている部分もあり、そこから店内を覗くと綺麗な宝石を用いたアクセサリーなどが置かれていたが、何よりも目を引いたのはその装飾の細かさだ。
例えば何かの花を模して掘られたと思われるネックレスの灰色の宝石は、花弁の一枚一枚と細かく作り込まれている。
流石は芸術の町だけはある。
しかし、フィリアが注目したのは私とは別の部分だったらしい。
「あれらに使われている鉱石…まったく知らない種類のものね。魔力をよく通せそうだし、魔法を付与出来れば魔道具としても加工できるし…」
「完全に職人の目だった…」
着眼点が違う親友との差に距離を感じながら興味本意で店に入ると、桃色の髪のショートヘアーの人が店の奥から出てきのだが、その顔立ちは見覚えがあるもので、思わず二度見してしまった。
「いらっしゃいませ~…おや、旅人ですか?オルターヴは店が多いので是非色々な所を巡ってみてくださいね。」
「あ、はい…えっと、君ってもしかしてリエナって娘の血縁があるのかな?」
「リエ…あぁ、妹に会ったのですか?もしくは妹の所のお客様でしたか?」
「さっきリエナのお店で服を買っていってね。似ていたからつい反応しちゃったよ。」
「あなたの方がお姉さんなのかしら?」
「ええ。姉妹揃って似ているとはよく言われますが、双子ではないんですけどね。妹が十八ですが、私は四つ上の二十二なんです。サリエラって言います。」
言われて見てみれば、確かにリエナよりは大人びた顔立ちで、背も高く落ち着いた感じが強い。
ただ、それでも少し離れて見るとあまり違いが分かりにくく、町中であっても髪の長さが一緒なら高確率で間違える自信がある。
「ふふふ、そちらの白髪のお嬢さん。町中であったら私か妹か間違えそうと思ったでしょう?」
「え!?なんで分かったの!?」
「っていうかあんたも何考えてんのよ。」
「顔を見れば分かる…なんてことはなくてただのつまらない種明かしをすると、私が持っているなら権能、"共感"によって言葉を交わした相手の心をなんとなくですけど読み取れるんです。」
「なるほど…」
「一般人が権能を持っているなんて、珍しいわね。そういう人材なら国が優遇しそうなものだけど。」
フィリアのいう通り、実は権能というものは誰彼もっているような力ではない。
才能があっても、どれだけ強くても、権能を持ってない人だって珍しくないし、どれだけ平凡な者でも強力極まりない権能を持って生まれることもある。
そもそも権能とは何か?ということについてフィリアと話したことはあるが…
『権能というのは生き物が生まれたときに稀に持つことのある特別な力。それがもたらす効果は様々で、精々日常生活を便利にする程度のものから、世界そのものに干渉できるものだってある。じゃあ権能はいったい何に由来して生き物に宿るのかといえば、生き物が突然変異的に手に入れた、というのが通説よ。その他に神からの祝福だとか、世界に認められた、とかも言われているけど。そもそも権能の発祥の起源は…』
と長々説明されたので途中から寝てしまっていた覚えがある。
あの後叩き起こされてしばらく拗ねられたし…
「確かに、皇国は働きや人の能力が正当に評価される国です。悪く言えば実力主義ってことですけど、貧しい人でも真っ当に生きているなら可能な限りの支援がされてますし、出自に関係なくそれなりの地位を与えてくれます。私も公務員のお誘いは来ているんです。私の権能はそれなりに便利なので。」
「確かに、心をだいたいとはいえ読めるなんて、公務ではさぞ役に立つでしょうね。」
私もかなり頑張れば権能で人の心や記憶を覗く事が出来るが、かなり疲れるのでほとんど使うことはない。
ただし余程の格下が相手ならあまり消耗せずに覗くことも出来るが。
見たところサリエラの権能は消耗なしに言葉を交わした相手の心を読むものなので、この一分野だけならサリエラの方が強力な力と言えるだろう。
「ただ、私は妹が一人で寂しがったりしないか心配で…あの子は権能を持っていませんから帝都の方に同行するなら引っ越して来ないといけませんし、手間や費用を考えると現実的ではないんですよ。」
「そういえば二人は別々の店をやってらるんだね。距離も結構離れてるし。」
「違う店をやってるのは単に方向性の違いですし、店が離れているのは妹の店の近くにある宝石店と被らないようにするためですし。」
「切実な理由だった…」
「ここに来て現実的な話ばっかされるわね。」
「まぁ、お二人が気にすることではありませんよ。帝都で仕事をすることに興味がないと言えば嘘になりますが、今の仕事でも十分食べていけますし、妹とは店とは別の家で一緒に暮らしてますから。」
「…そっか。」
笑顔でそういうサリエラ。
…本当に今の生活に満足しているようなので、大丈夫そうだ。
これ以上何か言うのは野暮だと思ったので、ここからは客として話すことにした。
「じゃあ、元々の目的の話をしようか。ここの宝石を使って、二つ分のお揃いの指輪って作れるかな?」
「お二人が結婚するんですね。それならいい鉱石を最近仕入れて…」
「ちょっと待ちなさい!!」
「「うわっ」」
「うわっ、じゃないわよ!なんで急にそんな話になるのよ!結婚ってなに!?サリエラがそんなこと…まさかミシェルそんなこと考えながら指輪欲しいって言ってたの!?」
肩を捕まれてガクガクと揺すぶられる。
このまま続けると脳が揺れて酔いそうではあるが、フィリアの方から触ってきてくれているということを考えるとこれも悪くないかなと思い始めてきた。
「…変態って、無敵ですよね。」
「急に何!?え?ミシェルが何か考えてたの!?ちょっとーーー!!」
「じゃあいい加減真面目な話をしようか。」
「誰のせいだと思ってるのよ…」
「えっとぉ…どのようなものが良いですか?」
一悶着を終えて店内のカウンターに案内された私達はサリエラと向き合って装飾品の相談に入っていた。
ざっと見回したところネックレスや指輪だけでなく髪飾りやピアス、チョーカー等もあって、本当に装飾品全般を扱っているようだった。
「フィリアに似合うのを見繕って欲しいな。」
「でしたら、フードを取っていただけないでしょうか、お二人の種族とか事情については既に読んでしまったので、気にしないでください。」
「あ、そう?」
薄々バレているとは思っていので、私達もサッとフードを取って人相と髪を、フィリアの場合は特徴的な頭の小さい悪魔の翼を晒す。
「わぁ、お二人とも綺麗ですね!それなら似合うのがいくつもありますよ!装飾品はどのようなものを?」
「ネックレスで!」
「あんたが決めんのね?はぁ…まあいいけど、あのネックレスに使われているような宝石と同じのが良いのだけど。なんならあの宝石単体でも欲しいくらいだわ。」
フィリアが指を指したのは店に入る前に窓から見えた灰色の宝石が使われたネックレスだった。
「ユーリ石ですか。御目が高いですね。」
「ユーリ石っていうの?」
「はい。時々世界を歩いて渡る雲を突く程の巨竜、"ナルユユリ"は山や大地を抉るように食らうのですが、それがナルユユリの体内でその膨大な魔力と竜の因子に干渉され変異し、そらが排泄物として出たものを採掘したものです。ちなみに衛生に関してはまったく無害なので気にする必要はありませんよ。あと、ユーリ石単体の販売については規模が規模でかなりの量の在庫があるので、多少なら構いませんよ。」
「それは助かるわね。研究が捗るわー。」
「良かったね、フィリア。それじゃあ、後はデザインだけど…百合とかが良いかな?」
「百合?」
「百合?」
「うん、百合。」
「「「…」」」
この後めちゃくちゃ揉めた(なおミシェル&サリエラ対フィリアという構図)
友への贈り物は華やかに───
 




