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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第二章 銀風の女傑と水明の灯火編
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第百九十八話 覆天


歪められ縮小した空間に追い詰められた厄害。

その抵抗は激しさを増し、天秤たるリアトリスや強力な海竜であるミクリの力を借りてもなお決定打を打てずに戦況は硬直していた。



「…さっきからなんか…エミュリスの矢?がめっちゃ飛んでくるね?」


「お姉ちゃん…外から当てるって言ってた…」


「あぁ…この結界、表面で空間が捻れてるから隔てた所から狙っても上手く飛ばないだろうねぇ…外からの援護には期待しすぎないようにしようか」


「ところで、本当にやるんですか?ミシェルさんだって怪我が多いのに」


「ここまで来たんだから、危険承知で確実に倒し切りたいしね。それじゃ、ノフティスお願い!」


「…全く…普通こんなこと許されないんだから…」



厄害から伸びてくる触手の群れを回避しながら最後の確認をする私達。

そんな私の右手人差し指には不思議な金属で作られた指輪が爛々と輝いている。

…神器、堕輪ケイドジース。

本来ノフティスが国から貸し与えられている武装だが、今回は厄害討伐の為に特別に借りることになった。

ちなみに代わりに私の無限鞄を預けている。

担保としてとかじゃなくて、持っていても邪魔だし鞄が壊れる可能性もあるからだ。


それはともかく、神器の特性も発動させ準備を着々と整えていく。



「はいこれ…『衰耗(ウィークネス)』…『不活性化(アンアクティビリティ)』…『耐性弱化(バッドレジスト)』…それ効果使ってる間ずっと魔力消耗するから…効果中に魔力尽きたら…ただのクソ雑魚になるから気を付けて…」


「どっちにしろ魔力尽きたら天使とかそのまま消滅しちゃうから肝に命じてるよ。ありがとね!」



ノフティスが私にありったけの弱体化を引き起こす魔法や権能を発動してくるが、その効果は全て神器の特性によって反転され私を強化するものに変換される。

身体の底から力が湧き上がってくるように感じ、集中力や判断力も高まってる気もする。

なんなら普段魔力で身体強化する時と感覚が違いすぎて逆に気持ち悪いし、慣れるのに時間がかかりそうだ。



「ちょっと慣らすから…援護して!」


「分かりましたよ。被弾はさせないので好きに試してくださいね」



襲い来る触手の群れに突っ込む私に、ペチュニアさんは大量の血を撒いて私の周囲に浮かばせ、私が対応出来ない攻撃から守ってくれる盾を展開した。

触手の一撃で砕けてはいるが、元が液体なだけに瞬時に再生し、連続で攻撃を受けなければペチュニアさんの魔力が続く限り防御し続けられるだろう。


その補助を信じて、私は使用感を確かめるように急激に能力が向上した自分の身体を思う存分振り回し、触手を切り裂きながら厄害との間合いを詰めていく。

厄害の本体は機敏に動きながらリアトリスと肉弾戦を行っているが、今近づいても纏う白い焔に一瞬で魔力を削られて終わりだ。

だから、



『ん?来たね。ミクリ!』


『なんであんなのと…────────!』



空中から水流の咆哮(ブレス)や水柱を落としてリアトリスを援護していたミクリは、結界を揺らし一瞬空間が不安定になるほどの魔力を全身から放ちながら天に向かって叫ぶと、辺りに霜が降り始めた。


急激に空気が冷え、吐いた息は白く染まり、水を放れば一瞬で凍りついてしまいそうな極寒の冷気が空間に満ちる。

余りの空気の冷たさにノフティスが服の袖で口と鼻を覆っているが、ただの人間がこの空気を普通に吸えば器官が凍りついてしまってもおかしくない。

フロウがいたら阿鼻叫喚だろう。


だがその冷気によって、厄害が放つ熱が弱まる。

皇国と神教国の戦争時、相対した聖騎士であるカトロスの恒星付近に開いた転移門から放ってきた熱をフィリアが相殺した時のように、厄害が熱する空気をミクリの凍結により発生した冷気が直後に冷まし、最低限活動できる温度まで下げてくれた。

白い焔も勢いを弱め、今ならば思いっきり接近できる筈だ。


だが、発生した異常事態に厄害はすぐさま対処しようとしてくる。



『おっと』


「危なっ…!?あ、ありがとう…」


『いいよいいよ。厄害さえ倒せればなんでも』



ペチュニアさんの血の援護もあり触手の群れを掻い潜ってかなり距離を詰めることが出来たが、私を叩き落とそうと振るわれた厄害の尾を、リアトリスが間に割って入って食い止めた。

リアトリスは捕まえた尾に喰らいつくと、そのまま尾の先端の方を食いちぎり、さらに厄害に向けて叫び声を上げ、その音圧で一瞬厄害の纏う焔の一部が掻き消える。



『ほら、行きな』


「うん!」



リアトリスを引き離そうと、私を打ち払おうと厄害の甲殻が次々と開いて大量の触手が出てくるが、その尽くを借りた神器とノフティスのサポートで増大した身体能力で迎撃し道を切り開く。

掻き消えていた焔も直ぐに勢いを戻し道を閉ざそうとするが、それよりも早く、速く、駆け抜け、厄害の顔へと突っ込む。

目指すは────先程貫いた厄害の口の中。

一直線にぽっかりと空いた穴。



「っ!…うおおおおぉぉぉぉ!」



何か危険を感じとった厄害は大きく開いた口内に淀んだ白い焔を収束させ、莫大なエネルギーをそこに溜める。

次の瞬間にはそれが解き放たれ、この距離にいる私は避けることも出来ず、灰も残らず消し飛ばされるだろう。



今の私が()()()()()()()()()()



「後のことなんて考えない!『光皇大翼』!」



自らの翼の一枚を切り離し、大きく広がったそれで自身を覆わせる。

包み込んだ翼は白く瞬き、厄害の放った白い熱線に飲み込まれてなお、内部の私を完全に護ってくれた。

なおも放射され続ける熱線を強引に突破し、光皇大翼が溶けるように消えた頃に辿り着いたのは厄害の体内、先程開けた一直線の穴の中。

その道中には空洞と繋がってる場所があり、そこには、大量の触手がミミズのように蠢き意志を持っているかのように厄害の体内を移動していた。



触手の一つが体内に入ってきた私に気付いたのを皮切りに、他の触手も一斉に私を狙って襲いかかってくる。

如何に浄化領域(アンチフィールド)で抑制されてるとはいえ厄害の体内のおどみはかなり強く、ここまで私の援護をしてくれたペチュニアさんの血は制御が出来なくなったのか落ちていってしまった。

だから、後は自分の力でやるしかない。


巨躯の厄害とはいえ、体内の空洞はそこまで大きくは無く、触手達の大きさもあってかなり動きづらくはある。



「なら、時間をかけずに一気に殲滅する…『天光(アストラ・レイ)』!」



碑之政峰の刀身を光の柱が包み込み、伸びた光は厄害の体内の内壁に突き刺さる。

そのまま剣を振れば、内壁を巻き込みながら触手の群れを一蹴し、光の軌跡が瞬いて炸裂する。

甲殻に守られていない分、体内ならば魔法の通りも幾分か良い。

が、切り裂いた体内からはおどみが溶けたような真っ黒な液体が吹き出し、それが魔力を乱してくる。



「あんまり浴びれないね…さっさとやることやって脱出しないと…『殺意の栄光(キラー・レイ)』!」



私の周囲に浮かべた光の点。

それらが一瞬輝き、肉眼では視認できない細い光線を放って触手も、厄害の体内も切り裂く。

裂けた所から黒い液体が吹き出すのを避けながら、出来るだけ深く、出来るだけ広範囲を攻撃する。



「…っ!?うっそ中でそれ出せんの!?」



だが、体内の私を追い出そうと躍起になったのか吹き出している黒い液体が次々に発火し、白い焔となって厄害の体内を満たそうとしてきた。

厄害自身この焔では傷つかないからこその方法なのだろうが、かなり奥まで入ってきている現状、このままだと脱出するまでの間に焼かれて力尽きるかもしれない。

最悪光皇大翼を使ってもいいが、既に翼を三枚使ってしまっている現状使っても良いのはあと一度だけ、それ以上使うと上手く飛べなくなってしまう。



(いや、でもあの焔は黒い液体から発生してた。浄化領域(アンチフィールド)を強めたらおどみと一緒に纏ってた焔も弱まってた。厄害の能力の…異質はおどみが起点になってる?なら…)



自らの瞳を青く光らせる。

発動した慧眼(キーンインサイト)の権能はおどみで効果をほとんど阻害されるしそもそも”黒い獣”に対してはほとんど意味をなさないが…おどみを辛うじて可視化することに成功した。

そして焔や熱はそこから発生しているので、おどみが薄い場所を抜ければ最小限の消耗で抑えられるかもしれない。



「後の苦労は考えないけど…生きて帰るから!絶対に!」



翼を大きく広げ、前のめりの姿勢になる。

勢いをつけて飛び出す直前、一つ思い出してポケットに入れていたものをばら撒き、そして全速力で駆け抜ける。


通ってきた一直線の道へ出て、外に向かって駆け抜ける。

全身が焦げ付くように熱く、焔は服や翼に血引火し髪もチリチリと焦げているのが視界の端に見え、皮膚が引き裂けるような激痛が走る。

それでも決して止まらず、高速で動く中おどみの薄い場所を見逃さず最大限消耗を抑え、外へ外へ。


途中、一本道と隣接する小さな空洞からも触手が出てきて妨害しようとしてくるのを切り裂き、吹き出すように燃え盛る白い焔を躱し、追い詰めようと口を閉じた厄害の歯を、口を突き破り、外側を覆っている焔へ突っ込んで────



『──────!』


「やっ…ば…」



厄害の腕が私を捕まえようと迫っている。

避けようと止まったり下がったりしようにも、まだ厄害の焔から抜け出せておらず、一刻も早く範囲外に逃げなければいけない。

進むしかない。

打ち破るしかない。

だが厄害の手は分厚い甲殻に覆われていて魔法は効かず、そう簡単に弾ける質量でもない。

ならばと翼を切り離そうとするが、



「っ!…流石、だね…」



迫った厄害の腕が、彼方から駆けてきた光の矢が撃ち抜き、軌道が逸れた。

エミュリスが矢を上手く飛ばせるように試行錯誤していたらしいが、調整が間に合ったのだろう。

そのお陰で速度を落とさずほとんど向きも変えず、腕をすり抜けて遂に焔の範囲外へ離脱することに成功する。

だがなおも厄害は私を逃がすまいと喰らいついて来ようとするが、そこを真上から突進してきたリアトリスが厄害の頭部を地面に押さえつけた。



『チッ、ほら』


「わっぷ…!?」



と、そこにかなりの量の冷水をぶっかけられて地上に落ちた。

下手人と思われるミクリは雑な消火をした事を詫びる気配すらなく、不快感を滲ませている気がする厄害を睨みつけると、再び咆哮を上げて空気を凍結させた。

その音圧は再度厄害の纏う焔の一部を一瞬掻き消し、それに合わせてリアトリスが厄害の顎に腕を差し込んでその巨大な口を強引にこじ開ける。

ミクリの冷気は伝播して厄害の穴に潜り込み、ミクリの緻密な操作によって厄害の体内で熱されながらも最低限、最小限の冷気が厄害の奥まで届き────



『───────!?』


『…ざまあみろ』


『お、やるねミクリ。余程苛立っていたのかな?』



厄害の動きがギギギと、錆びたブリキ人形のように鈍る。

厄害の開いた口の奥には霜が見え、少しの動きだけでバキバキと音が響く。

私がばらまいた…ミクリの魔力が凝縮された結晶は、ミクリが流し込んだ冷気に反応して厄害の体内で暴発し、厄害を体内から凍結させたのだ。



『外側は甲殻が魔力を弾くから無理。けど、中はせいぜいおどみだけ。私の凍結は簡単には溶けない』


『上出来だよ』


「ん、神器返して」


「あ…ありがとうね…お陰で助かったよ…」


「お疲れ様です。魔力少し分けましょうか?」


「いや…大丈夫…もう一仕事するだけだから…」



地面に仰向けに倒れているところに、ペチュニアに抱えられたノフティスが合流しケイドジースの返却を催促してくる。

ノフティスが弱化の効果を切ってくれたのを確認し、素直に返すとノフティスはそそくさと指に嵌め直した。

ペチュニアは私の応急処置をしたり燃えてボロボロになった服の代わりにマントを羽織らせてくれたりと世話を焼いてくれたが、最後に一仕事終えるために何とか立ち上がり、辛うじて翼が動くことを確認する。



「…じゃあ私ももう少し手伝いましょうか。ノフティスさんはどうします?」


「…ああ、やればいいんでしょやれば…」


「二人共…ありがとうね…今度一緒に飲みに行かない?」


「…次はそっちが奢って」


「私はどうでしょう…仕事がありますけど…というかそれはノフティスさんも同じでは?」


「ははっ…じゃあ、とりあえず最後にもうちょっと付き合ってもらおうかな」



気を奮い立たせ、飛び立つ。

翼や皮膚は激しく痛むが、今は忘れろ。

例え後に残るような障害を負うかもしれないとしても、今だけは気にするな。


リアトリスとミクリが、ほとんど動けずただひたすらに熱を放出して身を守っている厄害に連撃を仕掛けている。

リアトリスは厄害が動けないのをいいことに熱も気にせずベッタリと張り付き厄害の甲殻に牙を立て、時間をかけながらも確実に噛み砕いている。

ミクリは高圧の水流で厄害の体表を確実に削り、甲殻を砕こうと試みていた。


そんな二頭の邪魔にならないように厄害の首の真横辺りに移動すると、私は手の中に激しい光の束を収める。

碑之政峰の魔力のストックもほぼ無くなり、これが最後の私の一撃になるだろう。

そしてその一撃を有効打にするために、翼を切り離して光の束に纏わせた。



「…はぁ…はぁ…『神聖な滅光(アポカティック・レイ)』!」



投げ放たれたのはあらゆるものを貫通し直進する絶対的な槍。

出来るだけ太く面積を広げられた槍は厄害の首を横から貫き、法皇様が貫いて大穴が空いた縦の穴と合わせ、交差するような十時の穴が首に空く形になっている。

その一撃を受けた厄害の目がこちらを向き、身体を固められながらも体表のラインを発光させる。

私にはもう動く気力も体力も無いが…



「ノフティスさん魔力貸してください」


「ん」


「ありがとうございます」



ノフティスを背負ったペチュニアさんは、腕から大量の血を垂れ流し、それが流動させ鞭のように伸ばし私を絡め取ると、直前に放たれた厄害の熱波、その範囲から私を離脱させ、引き寄せられた私の身体はペチュニアさんの胸に収まった。

しかし厄害は今度は全身から熱波を放つ。

相変わらずリアトリスは気にもとめず厄害の甲殻の破壊を続けているが、それらの熱波は全方位に放出するものとは違い、確認できるだけで十四の蛇のような直線上の熱波。

それが空中で軌道を曲げ私達を狙って追尾してきた。



「あらあら、逃げますよ!」


「ん、ちょっと邪魔出来ないか試してみる」



うねって追尾してくる熱波は幸い一直線に放出するだけのものより遅いのか、それともペチュニアさんの飛行速度が速いのかなんとか追いつかれずに逃れられている。

しかしそれらが私達を囲いこんで追い詰めようとし始めているのを見て、ノフティスが厄害に手のひらを向け、権能や魔法を発動させた。



「…あっ、かかった」


「え?本当ですか?」


『!なるほど、随分弱ってみてくれたみたいだね…今なら、私も()()を十分に扱えるよ』



普通ならば強いおどみと魔力を跳ね返してしまう甲殻で届かないだろうノフティスの弱化を引き起こす権能や魔法は、さんざん弱らされた厄害に少なからず通用したらしく、熱波の勢いが、そして放つ熱が僅かに弱まった。

それを確かめたリアトリスは、その身の内から大自然の権化のような、莫大な魔力を湧き上がらせる。

それは以前見たフィロスティアやアウリルのものに似ていて───



『とくと味わうと良い。”力の資質”を』



リアトリスを中心に、波動が広がる。

広く、広く…その範囲は、空間を歪め縮小している結界の向こうにも届いているように見えた。

そして…リアトリスの力が、急激に膨れ上がる。

まるで多くの力が一点に集まったような、色とりどりの力がリアトリスただ一体に収まっている。





”力の資質”…後から聞いた話だと、それは特定の範囲内の全ての生命体の肉体能力、有する権能や習得する魔法、種族的な固有能力や特異体質まで、その中から好きなだけ取捨選択し束ねて自分の力のように行使することができるらしい。

その範囲はこの空間を超えてなお広く…つまりは、少なくとも、あの戦場に立ち会っていた聖国や教団、私達などの全ての力が、この瞬間リアトリスに集ったのだ。


本来ならば、その力は厄害のおどみに中和され完全に意味を失うらしいが…ここまで弱められた今の厄害のおどみは最初と比べて遥かに薄く、リアトリスの資質を中和し切れていない。





『次いでに小さなお嬢ちゃんがほんの僅かにあいつを弱めてくれたのが有難い。今ならもう…負けないよ』



厄害に張り付いていたリアトリスが爪をその身体に立てると、まるで薄氷のように厄害の甲殻が砕けて剥がれていく。

その内側の肉体まで引き裂けていく。


なんとか動きを阻害していた体内の氷を溶かし終わったのか、再び厄害が動き始めてもなんの障害にもならず、始まるのは圧倒的な蹂躙。

リアトリスの爬虫類の眼光が青く光り、私とは比べ物にならないだろう魔力と恐らくエミュリスの権能による情報処理能力を掛け合わせたのか、その瞳は厄害の動きを先読みし始め、的確に回避と反撃を行い次々と厄害の甲殻を砕いていく。


振るわれた爪に、グラナードさんの権能を載せたのか瞬間的に、爆発的に引き上げられた膂力が厄害の右後脚を切り落とした。



『ミクリ、合わせて』


『勝手に使われるのは釈然としない…』



リアトリスとミクリが同時に咆哮すると、特大の二つの水流がうねった。

片方は真下から厄害の身体を持ち上げ、もう片方がその真上から挟み込むように厄害の身体を打ち付け、そして互いの水流は凍結する。

厄害の身体は巨大な氷柱に固定され、身を捩って氷柱を砕き脱出しようとしている。



「…凄い」


「リーダーの強さは知っていますが…これが力の天秤ですか」


「…メモメモ…また報告することが増えた…」


『呑気だねぇ君達。あっちで休んでおいで。今トドメを刺してしまうから…ん?…あぁ、もっとコイツに手を下したい人がいたねぇ…』



だがその時、空間を縮小させていた結界が揺らぐ。

ひび割れ、戦いの余波で結界を展開していた魔道具(アーティファクト)は既に崩壊しかけているが…その限界が来たわけでは無さそうだ。

つまりは外部からの解除…やがて空間は元の姿を取り戻し、元の等身大の焼けた街の姿が周囲に出現する。

そして上空には…













「おい悪魔、それを貸せ」


「え?でも結界…」


「良いから!」


「あ、え、えぇ…」


「さんざん妾の国を荒らしてくれおって…全てを償って地の獄に落ちろ」















空に浮かぶのは、巨大なギロチンのような刃。

この規模の物体を唐突に出現させられる人物に転移を極めた男が思い浮かんだがあれは既に死んでいるとして、もう一人の心当たりが殺気を振りまき天空の刃に魔力を注ぎ込んでいた。


フィリアから借りたのだろう、リアトリスの魔力を吸収したラ・ピュセルを天に掲げ、刃に魔力を流し込みさらに巨大化させ…それを落とした。


厄害は藻掻く、足掻く、暴れる。

氷柱はミシミシと砕け崩壊寸前だが、しかしそれよりも早く───






───厄害の首が落ちた。


既に首に大きな傷を付けられ、大量の損傷を負いおどみが弱まり、刃を溶かし潰せるほどの熱を放出することも出来なくなったのか、その圧倒的な質量に、厄害の首は確かに切り落とされた。


勿論、余力があればそれだけで急所が存在しない”黒い獣”が死ぬことは無い。

余力が、あれば。



ここまでにどれだけの消耗を重ねたのか、合計すれば大陸さえ崩壊させそうなほどの力を受けた厄害には、最早力は残されていなかった。





暴れていた厄害の身体から力が抜け、だらんと氷柱から出ていた腕が垂れ下がり────ついに、活動を停止した


全てが束ねられ、大災を討つ───

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