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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第十四話 城戟の鳴動


「────────!!」


「うわっ!またこれ?」


「相変わらず不快な咆哮ね…」



海岸都市ヘイルベールの沖から現れたという"黒い獣"の一角、『ギルデローダー』が皇国の首都方面を通過するのを防ぐため、ギルデローダーの進路付近の山にある砦跡で迎撃することになった皇国軍と、黄道十二将星(セレスティアルライン)の序列二位、フロウの話術に嵌められて手伝うことになった私達。

遠方からゆっくりと歩を進める禍々しい存在が放つ奇声に皇国の一般兵はたじろいでいる。



「恐れることはありません。倒せない相手ではないというのは、既に証明されています!私達で、また厄災を払い後世の平穏への足掛かりにしましょう!」


「「「「「「お、おおぉぉぉぉ!!」」」」」」


「お、さすが皇帝。」


「や、やめてください、そう言われると恥ずかしいです…」



しかしセレナが鼓舞をし、場の士気を上げる。

本人は謙遜しているが、先頭に立ち兵を鼓舞するその様は中々どうして、堂に入っている。

そんな彼女の頭には王城の会議室では被っていなかった緋色の金属製のような不思議な王冠が輝いていた。



「気になるか?目が高いな。」


「あ、フロウ。もう騙さないでね。」


「どんな挨拶だ…ごほん!まあいい。陛下の被っているあの王冠も神器なんだぞ。」


「確かに雰囲気は似ていたわね。でもあれ何で出来ているの?あんな金属見たことないけど…」


「この世界独自の金属…と言えばいいのか、実は私もよく知らんが。聞いているかも知れないが、神器は大昔滅びた大国が作っていた強力極まりない魔道具(アーティファクト)の総称だ。」


「ええ、前にセレナ達が言ってたわね。」


「そしてあの王冠は、そんな神器の中でも"緋宝"と呼ばれる最強の性能を持つ内の一つでもある。」


「え、最強?」


「…神器の中にもランク的なものがあるのかしら?」


「詳しくは皇国の上層部が管理している城の図書室にあるぞ。費用はうちに入ってくれさえすればいい」


「そう、わかった──ってならないわよ?」


「なにさらっと勧誘しようとしてるのさ。私のフィリアは絶対渡さないよ!」


「いつから私はあんたのものになったのよ!」


「おい!緊張感!」


「「「うわっ」」」


「うわって…こんな時にコントしてんじゃねえよ。」



フロウと騒いでいればワズベールがツッコミに来た。

この国いいと思う。ふざける人とツッコミを入れる人が国の上層に両立してるから、働いている人は絶対楽しいだろう。



「…今何か失礼なことを考えなかったか?」


「あれ?ワズベールって心を読む権能でも持ってるの?」


「考えたんだな?」


「オー、ゴメーン、コトバワカラナーイ!」


「やっすい芝居してんじゃねえ!おい本当にコイツら大丈夫なのか!?」


「しれっと私を含めないでよ。」


「同罪だ。」


「なんという理不尽。」



私とフィリアにまでつっこめる上に乗っかることまでできるとは…日頃からの苦労が伺える。

後で何か天使の祝福でもあげようかな。



「さてと、コントはこれくらいにしてそろそろ真面目にやろうか。」


「やっぱりコントだったんじゃねえか!!」


「場が和んで良いじゃない。」


「時と場合って言葉知ってるか?」


「コトバワカラナーイ」


「それはもういいんだよ!」


「ははっ、お前達もそれくらいにしておけ。」


「お前なぁ…」



いい加減収集の付け方に困ってたところでフロウが諫める。

大本の原因は彼女なのだが。



「しっかし、目撃例は上がってたが、随分でかいな。ホロウェルの倍以上はあるんじゃないか?」


「要塞を容易く突破できるほどだからな。確か…奴の"異質"はなんだったか…」


「金属っぽい鉱物を纏っているし、それに関係あるんじゃないかしら?」


「鉱物…金属…ああ、思い出した。確か奴の"異質"は─────────ちっ!」



フロウが言いかけた瞬間、ギルデローダーの方角から無数の金属片が高速で飛来した。

舌打ちしながらも見にも止まらぬそれに反応したフロウはと言えば、なんと一瞬で砦より巨大な大氷壁を展開し、その全てから砦を守りきった。



「…いやいや、おかしいおかしい…」


「まあ…アレクと肩を並べる実力って言ってたわよね…それでも人間でこれは…」



私は魔法は一部に特化させているので、この規模の氷の魔法は自力では使えないし、魔法に関してはオールラウンダーなフィリアも氷の魔法に特化させているわけではないので、ここまでの規模を一瞬で扱うことはできない。

────これがこの世界の人間の力なのか。



「いや、流石にこれはフロウ(コイツ)がおかしいだけだから安心しろ。」


「ん、やっぱり心読めてる?」


「逆に聞くが、そう言うってことはさっきやっぱり失礼なこと考えてたんじゃねえか」


「おい、続きを話すぞ?」



ワズベールがいちいちつっこんで来るので再びコントに発展しかけたが、フロウが今度は真面目に言ってきたため、お互いに真面目に聞く姿勢をとる。


「ギルデローダーの"異質"は『磁力を操る』というものだった筈だ。奴は普段は海中に潜んでいるが、たまに陸に上がってくると、手近な都市を襲う習性がある。その際、奴が通りすぎた後は必ず金属類が根刮ぎ消失しているという報告が前にあったらしい。また、奴の周囲に金属が念力で持ち上げられているような事があったり、交戦した際に引き剥がしたあの鉱物の鎧が勝手に奴まで戻っていったという記録もある。」


「あー、そういえばそんな報告があったか。」


「お前は覚えていろ馬鹿者。」


「それで磁力を操る力を持ってるって判断したってこと?」


「ああ、奴が操っているものは金属だけだからな。まあ鉄以外の鉱物も操っているようだからそのまま金属を操る"異質"かもしれないが…だとしても流動的に変形させたりはできていないようだから、たいして外れてもいないだろう。」



大氷壁越しにギルデローダーを私の"眼"で見れば、ホロウェル以上に濃く、広い規模の"おどみ"が渦巻いている。

そのせいで本体の情報は全く読み取れないが、ただ魔力量もまたホロウェルを遥かに越えている。



「…絶対しぶといよね。」


「まあそうでしょうね。ここまで来ると強いというより面倒だわ。」


「余裕あんなぁ、お前ら。」


「今回は油断とかしないからね。」


「…気を付けろ、来るぞ。」



フロウの注意でギルデローダーの方角に目を向ければ、間を隔てていた砦より大きな大氷壁がひとりでに崩れ始めた。ギルデローダーの"おどみ"の範囲内に入ったのだ。

そして、一気に体が重くなり、魔力の操作が困難になる。



「来たね、"おどみ"。よし、フィリア。」


「そうね、三十…いや、二十五分で終わるわ。」


「オッケー、任せて。」


「何をする気だ?」


「それはまあお楽しみで。」


「…まあいい。陛下は彼女達に守られていてください。前線に出るときは必ず誰か一人を近くに付けてくださいよ?」


「分かってますよ!これでもクランセスの皇帝だという立場は弁えてますから!」



そう言いながらも早速剣を抜いている。割とやる気が高い皇帝様だったようだ。

その様子に苦笑しながらもフロウは砦の防壁から飛び降り、直下の木の枝に降り立つ。



「ワズベールとアレクは直接攻めろ!私は周囲を動いて引き付ける!メルキアス!お前は全員の援護をしつつ一般兵の指揮をしろ!」


「「「了解」」」



フロウの指示で三人が一斉に動き出す。

部下に指示を出していたアレクは神器を抜いて砦周辺の木々の枝を渡りながらギルデローダーに接近する。

砦の最上部に立っていたメルキアスは魔力を迸らせ、ワズベールは特徴的な籠手の調子を確認するように打ち鳴らすと、なんと一度の踏み込みでギルデローダーのすぐ近くまで跳躍した。



「一番槍はもらうぜ?」


「──────!」



そのままギルデローダーの頭部の真下まで移動したワズベールは、拳による突き上げるようなアッパーで凄まじい衝撃音と共にギルデローダーの巨体を打ち上げた。

打ち上げられた巨体、その被弾部からは金属塊の鎧がボロボロと崩れ剥がれ落ちている。



「…もう前まで持ってた人間のイメージは全部捨てることにした」


「…同じく」


「私もワズベールの全力を初めて見たのであそこまでとは思ってませんでしたが…聞く話によると、ワズベールは剛力と機動性だけならアレクを遥かに上回るらしいですね」


「皇帝がそう言うの把握してないってなんか面白いよね」


「なっ、言わないでください!私だって玉座を継いでからまだ一年も経ってないんですよ!」


「まあ話だけでは信じられないってのは分かるけど…だけど、流石に"とはいえ"って感じね」


「だね、あれでもあんまり効いて無さそう。見た目からしても硬そうだもんね」


「またホロウェルの時のように時間がかかりそうですねぇ」



周囲の木を足場に使って高速の立体機動を行い、次々と連撃を加えていくワズベールだが、ギルデローダーの纏う金属の群れとそもそものギルデローダーの頑丈さによってダメージがあまり通ってないように見える。

ただ砦からの砲撃はギルデローダーの体表を覆う鉱物の鎧の破壊に一役買っている。

魔力を用いた攻撃は通りにくいが、通常兵器は結構効果があるようだ。

またメディさんの指揮も合わせて上手いことギルデローダーが動作を行おうとする直前に命中させ、行動を妨害している。

だがそれでもなお纏う鎧を削りきるには時間がかかりそうだ。



「はっ、やっぱりこれでも火力不足になんのか!おいアレク!」


「分かっている!はあぁぁぁぁぁ!」



ギルデローダーの頭部にその神器、正剣エルドをもって傷を付けるアレク。

しかし、その金属塊の鎧に阻まれ中にまで斬撃が届いていないようで、あの剣の特性を発揮するには足りないようだ。



「そういえばこっちの武装が奪われたりはしないんだね」


「どうやら、ある程度魔力を流している金属はギルデローダーの影響下に置かれないようです。設備や装備には既に魔力を通して対策させておきましたので」


「なるほど…そういう制約があるところを見ると、やっぱり"異質"というものは権能とそんなに大差ないのかしら?」


「個体によっては並大抵の権能の域を超えた"異質"を持つもの存在するそうですが、"黒い獣"の"異質"は"おどみ"の影響を一切受けないことから、根本的な原理は別物らしいです」


「そういう考え方もあるのね。本当に興味は尽きないわ」


「いや、二人共?また呑気に語り合うつもり?皆頑張ってるよ?」



横を見れば兵士達が砦の設備の大砲でギルデローダーの纏う金属の群れを砕いている。中には自力の魔法で攻撃している者もいる。

この状況下でこれだけ呑気でいられる辺り、やはりこのセレナは基本余裕な性格なのだろうか?



「あ…失礼しました…」


「フィリアもそういうのは後にして、ちゃんとやってくれないと流石に怒るよ?」


「一応話ながら作業はしてたわよ?」


「…怒るよ?」


「…分かったわよ!大人しく作業するわよ!」



フィリアは拗ねるようにそう言うと、大きな魔方陣を展開する。そしてぶつぶつと詠唱を始めた。

───やっぱり手を抜いてたじゃん。

呑気で余裕なのは私のよ…フィリアも同じかもしれない。



「いけないいけない、心の中とはいえまだ事実じゃないことを言うところだったよ。」


「~~~~~…っと、何一人で言ってるのよ。変なこと考えてたんじゃないでしょうね?」


「ああごめんね。ちょっと、脳内妄想で既成事実を作りかけただけだから。」


「本当に何考えてたのよ!?」


「えへへ。ほら、早く早く!」


「ったく、あんたねぇ…~~~~~~────」



不満げな表情をしながらも詠唱を再開するフィリア。

何故か私たちのやり取りを微笑ましそうに見るセレナ。

そしてギルデローダーに攻撃を加え続けるおよそ人間とは思えない身体能力を持った黄道十二将星(セレスティアルライン)達。

非常にカオスな空間だか、もう色々と楽しもうと決めているので、自分自身もあらかじめ腰に差していた剣を抜き、アレク達に加わろうとする。

──────しかし、ここまで自らを攻撃する存在に目もくれず一直線に歩を進めていたギルデローダーが、突如として動きを止めた。



「…っ!退避しろ!フロウ!メルキアス!」


「分かってる!」


「承知しました!」



何かを感じ取ったアレクが叫ぶと、それに呼応したフロウがギルデローダーを丸ごと覆う程のかまくらのような物を展開する。

さらにメルキアスも結界で砦を覆い、防御体勢を取った。

強力な"おどみ"の影響下にありながらあの規模の魔法を使える黄道十二将星(セレスティアルライン)の面々は流石と言う他ない。しかし、


「…いや、無理だね。伏せて!」



それでも足りないと悟った私は詠唱中のフィリアと兵士達に下がるよう指示していたセレナの背中に手を当て、押し倒す。

そして、まさにその直後だった。



「───────────!!!!」



ギルデローダーが大地が揺れるほどの咆哮を放ち、同時に全身に纏っていた金属片を一斉に外側に飛ばした。

もはや私でも視認できない速度で打ち出されたそれは、フロウのかまくらを一瞬で突破し、ワズベールとアレクが移動に使っていた辺りの木々をまとめて破壊し、砦に向かっていた物はメルキアスの結界も僅かに拮抗したが、すぐに貫通し、砦を突き抜けていく。



「なっ!?」


「…ただ小さい金属を打ち出しただけでこの威力?」


「まあ、やっぱり一筋縄ではいかないよねぇ…」



私たちは伏せたお陰でなんとか金属片が直撃することはなかったが、散弾のように飛来したそれらを全体に浴びた砦は、もともと古かったのもあり、崩壊を始めている。

アレク達や、メルキアス等砦から援護していた人達の安否はまだ分からないが、ひとまずは頼まれ事を果たすために、セレナをお姫様抱っこで持ち上げて飛び、砦を離脱する。



「皆…大丈夫でしょうか?」


「私達がもはや人外って太鼓判を押したくらいだから、流石にあれだけじゃあ死なないでしょ。」


「流石に彼らの心配はしてませんよ。一般兵では流石にあれは捌けないと思ったのですが…」


「そこのところどう、フィリア?」


「とっさに全員転移させたわよ。この世界の座標を知らなかったから、ひとまずここまで来た転移魔方陣を追って送ったけど。」


「なら、首都まで戻ったのですか。ありがとうございました。」


「礼には及ばないわ。それより…」


「…?」


「どうしたのフィリア?……あぁ、もしかしてセレナが羨ましいの?」


「なっ、ばっ、そんなわけないじゃない!」



思いっきり私にお姫様抱っこされていたセレナを嫉妬の視線で見ていた気がするが…

それを必死に否定するフィリアが可愛いので、今度やってあげることにした。

閑話休題。今はそんな話は置いといて…



「えっと、とにかく今は…」


「…はぁ、まあそうね。」


「さて、どうしようかな。」



私達はこの惨状を作り出した張本人、ギルデローダーを睨む。

周りを見ると、先程飛ばしていた金属片がギルデローダーに向かって戻っていた。


─────またあれを打たれるのはまずい。


そんな私達の気がかりを気にも止めず、ギルデローダーはただ何も映さない虚ろな眼光を不気味に光らせていた。


"黒い獣"に、悪意などない─────

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