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昏い世界で翼は高く【天使と悪魔の異世界探訪紀】  作者: 天翼project
第一章 皇なる国と人の業編
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第十三話 城戟鰐


「はあ、なんかこの世界に来てから気が休まらないわね…」


「なんやかんや二日目だからね。その間にあった出来事が濃いし。」



突然現れた"黒い獣"の討伐を手伝って欲しいと頼まれ(嵌められ)付き合うことになった私達は、クランセス皇国の王城の広場で一息ついていた。

目の前では軍関係者と思われる人達やアレクやセレナが指揮をしてせっせと出撃する準備を整えていく。

今回は城に常設されている大型の転移魔方陣を使って今回出現した"黒い獣"を迎え撃つ拠点に移動するとか。

そんなものがあるならホロウェルの時も使えば良かったんじゃないかと思う者もいるだろうが、あの時はホロウェルの"おどみ"の影響で近くに転移出来なかったらしい。帰りも同様。

ちなみにあの時アレクはセレナがホロウェルと交戦していると聞いて駐留していた場所からわざわざ走って十数分で十数里もの距離を踏破したらしい。

…人間ってなんだっけ?



「あんた…なんか楽しんでない?」


「うん?そりゃあ楽しいよ。全く知らない世界で今まで見たこともないような不思議に出会えるんだからね。まあ、あんまりポンポン危険な相手に飛び込むのは怖いけど」


「ふぅん…そういうものかしら。」


「まあ、フィリアと一緒ならどこに行っても楽しいんだけどね~!」


「またそういう事言う…」



フィリアがため息を吐くが、哀愁漂う様もまた可愛い。



「そういえば、ホロウェルの遺骸の一部貰ってたよね?どうだったの?」


「ああ、それね。ちょっと待って…っと。」



そう言うとフィリアは懐から厚い布に包まれたホロウェルの遺骸を取り出す。

無限鞄に入れていないのは死してなお遺骸が放つ"おどみ"で魔道具(アーティファクト)である無限鞄が壊れないようにするためらしい。

厚い布を捲ると、中からは形容し難い気味の悪い黒い物体が現れる。



「うーん、"黒い獣"か…どういう生命構造をしてるんだろう?」


「明らかに生き物、という感じではないわよね。」



思い出すのは解体されていたホロウェルの遺骸。

あの巨体の内部には内臓の類いはなく、ただ黒い"何か"が延々と詰まっているだけだった。



「まだまだ分からない事が多いけど、今回現れたっていう"黒い獣"を見ればいくらかは進展するでしょう。そう思えば調査が出来る良い機会だと楽しめるわね。」


「研究者気質だねー。それで痛い目見ないようにしてよね?」


「…あんたが言うの?」



呆れ気味に言われる。

まあ確かに、魔法や権能の力を阻害する"おどみ"然り、魔法や権能とは別次元の仕組みで働く"異質"然り、そしてその生態然り、興味が尽きない対象であるのは分かる。

未知が明らかになっていく様を見るのはいつの時代も楽しいことだから。



「で、そんな相手と今回また戦う訳だけど、対策とかできてる?」


「伊達にあんたにつれ回されて緊急時の耐性が付いてないからね。当たり前よ。」


「あはは、流石だね。」


「といってもまだ完成はしてないけど…まあ戦闘中には仕上げるわよ。」


「あ、そう?まあ昨日みたいに足は引っ張れないから、せいぜい頑張ろうか。」


「そうね。」


「…」


「…」


「私、この戦いが終わったら伝えたい事が」


「あえてフラグ立てに行くスタイル止めなさい。」











「調子はどうだい?お二人さん。」



束の間の戯れを楽しんだ私達はその後転移で"黒い獣"を迎え撃つという寂れつつもしっかりと形を保っている砦跡にやってきた。

既に兵士さん達が設備の点検をしてたりと忙しなく動き回っている。

二人で手伝いながら待っていると、ワズベールが話しかけてきた。



「まだ魔力は馴染まないけれど、まあ問題無いわ。」


「そうか。…今回はフロウが悪かったな。あいつは目的の為に使えるものは何でも使う主義なんだ。」



「うん、それはまぁ…怖いくらい実感したよ。人間って怖いんだね。」


「おいおい、俺も傷つくぞ?」



私達が茶々を入れればノリ良く返してくれる。

うん、いい人だ。



「っと、流石に早いが、これが終わったら皇国を出るのか?」


「んー、いくらか観光はしていくつもりだよ?その後はいろんなところを二人で巡って行くつもり。」


「なるほどなぁ。じゃあ一応忠告しておくが…神教国には行くな。」


「「…」」



調子の良い口調から突然と真面目な声色に変えたワズベールに、私達も真面目に聞く姿勢をとる。

相手が真剣に真面目な話をするときは聞く側も真面目に聞く、当然のマナーだ。

どこからか今は忙しいだろう天使の「私の時は!?」というツッコミが聞こえた気がしないでもないが、幻聴だろう。

…前にも同じような事があった気がする。



「神教国の連中は揃いも揃って人間種以外を差別する。それは天使と悪魔(あんたら)でも例外じゃない。神教国とは言いながら実質人間至上主義なのがあの国だ。今の教王は良心がありそうだが、何百年…何千何万年もの深い因縁と根付いた国の風潮に振り回されてるからな。」


「ロズウェルド…だっけ?」


「あぁ。だがあいつもあいつで信念があるらしく、強硬的に風潮を変えようとはしてないからな。それなりに責任もあるからか、国内の統治は完璧だし、自分の国の民である以上、あいつは全力で守ってくる。生まれる時代…いや、国が違ければ、仲良くやれたんだろうが…」



そう言うと惜しげに溜め息を吐く。

人としては出来ている、王の素質も十分以上、本人自体には人外種への差別は無く、ただ国の風習に囚われている。

確かに、色々と複雑な相手だ。



「はあ、本当に初代の教王…いや、最初にその原因を作ったその先祖はぶん殴りてぇ。そいつが人外種差別なんてしなけりゃあ、"黒い獣"に集中できるってのに…」


「でもそういうのは両国で会談とか使節を送ったりとかしないものなのかしら?」


「ああ、使節のやり取り自体はある。だがどうにもこっちの話が教王まで届いてなさそうなのと、向こうは使節に暗殺者を紛れ込ませてくる事が過去にあって今では出来てない。会談についてはそもそもロズウェルドが神教国で一番強いまであるから、開くに開けないんだよな。」


「えぇ…それって、どれくらい?」


「そうだな…黄道十二将星(セレスティアルライン)は代替わりでメンバーが入れ替わってるんだが、前皇帝…姫さんの前の皇帝が戦争をしていた時、大体二十年くらい前か。黄道十二将星(セレスティアルライン)十二人全員と軍隊を一ヶ所に集めて神教国に総攻撃しようとしていたところにロズウェルド御本人が直接奇襲を仕掛けてきて、当時の黄道十二将星(セレスティアルライン)のうち四人が死んで、三人が二度と戦場に立てない重症、残りも軽くない怪我を負い、集めていた兵士二十万人の五分の一が死亡、生き残った連中も三分の一が大怪我という大惨事で、ロズウェルドにも逃げられる始末だ。」


「「…」」



黄道十二将星(セレスティアルライン)の力をアレク基準で計算するならば…うん、化け物だ。

多分本気でやっても一人じゃ勝てない。

軽く見積もってもフィリアと二人がかりで、使える手を色々使えばワンチャンあるか?くらいの強さはあるだろう。

正直皇国の将はアレクを基準にすれば全員私達から見ても強いのに、それを一人で鎧袖一触にできるとなると、もはや人間の域を越えている。



「俺はそれから十数年くらいして入った割りと新参だから当時から生きている黄道十二将星(セレスティアルライン)に話を聞いたが、それは地獄のような状況だったらしい。ロズウェルドの圧倒的な魔力と奴が扱う"神器"で一兵卒じゃあまるで相手にならず、将クラスでも防戦一方だったとか。それがトラウマになって立場を降りた将もいるらしいしな。」


「…よくまた建て直せたものね。」


「それについては同感だな。まあその戦いを生き残った"五位"のじいさんや"七位"のアイツが頑張ったらしいが…」


「無論、次は負ける気はないぞ。」


「「「!」」」



話に割って入ってきたのは皇国の最高戦力、黄道十二将星(セレスティアルライン)序列一位のアレク。

彼は腰に差している剣、神器であるエルドを抜くと、素振りをするように一文字に薙ぐ。

すると、直線上にある砦の古い瓦礫や鎖などが積み重なった山がまとめて両断され、綺麗な断面を残しながら崩れていく。



「私も当時を知らない新参だが、それでも黄道十二将星(セレスティアルライン)を始めとして、皇国の兵は確実にその練度をあげている。神教国の主な主力である"聖騎士"の下位である第八席から第五席までなら黄道十二将星(セレスティアルライン)一人でも容易く崩せる上、上位の第四席から第二席まででも一対一ならば負けない。第一席も、私ならば勝てる。それに、最悪ロズウェルドを倒せずとも奴を囲い、人間至上主義を押している主な原因である聖騎士を一掃できれば、話し合える余地はある。」


「お、おう、急にどうした…?」



突然熱く語り出すアレクに私達は驚いて声を出せず、ワズベールも困惑している。



「つまり、何が言いたいかというと────神教国については問題ないから心配することはない。今はただ、目の前の目標に集中しろ。」





「…瓦礫切る必要あった?」


「格好つけたい年頃なんだろ」


「黙れ!素振りしたら先に瓦礫があっただけだ!」



私達の茶化しに恥ずかしげに怒るアレク。

その茶番じみた雰囲気に現場の緊張感も薄れ、空気が緩み始めた。




───そのとき、ズシン、ズシンという地響きと共に大地が揺れる。

途端に周りの兵士達も騒ぎ始め、揃ってある一方を見る。

とっさにその方角に目を向ければ、遠方で巨大な黒い怪物が歩みを進めていた。



「…来やがったか。」


「あれが…」


「今度の"黒い獣"…」



それは、爬虫類のような骨格に、全身に光沢のある鱗のような鉱物を纏う巨体。鉱物の鎧の隙間からは黒い体表が見え、目に当たる部分には光の宿らない虚ろな眼球が揺れていた。

そして何よりも特筆するべきは、その巨体。目測でも軽く百メートルは越す、ホロウェルの倍以上あるその大きさは、その姿からも遠目に見れば岩山と見間違えるだろう。

──その全身から、禍々しい"おどみ"を溢れさせていなければ。

アレクは憎らしげにその怪物を睨むと、敵意を持って呟く。



「なるほど、あの個体か。」


「ちょくちょく目撃される奴だな。報告からなんとなく察しはついていたが…この時期によりにもよって厄介なのが来たな。」


「えっと、あいつはどういう…?」


「…"黒い獣"の一角、個体名は"ギルデローダー"。別称としては"城戟鰐"で有名な、動く城と言ってもいい相手だ」


相対するは動く城、向かうは皇国の守護者と未知を揺蕩う天使と悪魔───

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