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80 怪しい地下室

「魔王ヴィル様!」

「しっ・・・」

 角を曲がると、人間の気配がした。


「お前本当に上位魔族か?」

「薄汚い顔で覗き込むな。無礼者」

「へぇ・・・状況がわかっていないようね。上位魔族様、ここは人間の場所よ。そして貴女は捕まっているの」

 明るくなってくると、すぐに、サリーと人間の会話が聞こえてきた。



「・・・シエル、先行ってる」

「魔王ヴィル様」

 


 ― 魔王のデスソード― 


 剣を握って、一気に降りていった。

 広々とした部屋、窓にはステントグラスが輝いている。

 

 すたすたと、正面へ歩いていく。


「誰だお前は!?」

 同じローブを着た人間が杖を持っていた。

 魔導士か? 賢者か? 弱いことには変わりないが。


 女の杖を蹴り飛ばして、岩に縛り付けられたサリーの前に立った。


「俺の部下に手を出すな」

「なっ・・・・」

 胸に剣を刺して、一瞬で魂を抜き取った。

 女魔導士が大理石から転がるようにして倒れる。



「に・・・・逃げろ。魔族だ・・・」

 

 近くにいた男がパニック状態になって椅子を蹴飛ばして出ていった。

 

 バアン



 うああああああああ


 扉を突き破るように、開け放った。


 女の死体を置いて、蜘蛛の子散らすように逃げていった。

 逃げたのは10人くらいか。

 何だったんだ? あいつら・・・。


「魔王ヴィル様!!!」

「サリー、ミゲル、怪我はないか?」

 剣の刃先で、ロープを切ってやる。


「はい。全然問題ありません。この塔に潜入したくてわざと捕まるよう、サリー様から指示をいただいまして・・・」

「そうか。サリー、悪かったな」

「はぁ、魔王ヴィル様が助けてくださったので問題ないです。それはそれは素敵で・・・私、嬉しくて・・・魔王ヴィル様が、私のために・・・」

 サリーが頬を触りながら、耳まで真っ赤にして悶えていた。


 なんか、ツボにはまったらしい。


「ここに何かあるのか?」

「はい、あの、台の下に、地下がございます。ここは、人間が神に祈るときに使う施設となっておりまして、現在は集会所として使われているようです」

 ミゲルが淡々と説明してきた。成長したな。 

 まぁ・・・サリーがあんな弱い人間どもに捕まるわけないし。


 出しゃばり過ぎたかもな。



「あいつら逃がしてしまったのは厄介だったな。今、城下町でセレモニーをやっている。ここにも人間どもが来るだろう」

「その必要はございません。魔王ヴィル様」

 シエルが扉を閉めて、カーペットの上を堂々と歩いてきた。


「たった今、ここから出た人間どもを、始末してまいりました。無機化ゼロ・グラヴィティを使ったので、しばらく居なくなったことにすら気づかないでしょう」

 堂々と絨毯の上を歩いてくる。

 長いツインテールを後ろにやっていた。


「・・・あぁ、よくやった。シエル」

「ありがとうございます。魔王ヴィル様」

 短期間だが、上位魔族の風格が出てきたな。


 地下室の情報は、ミゲルが城下町の清掃員に変装しているときに聞いたそうだ。

 王国の紋章を付けた兵士が2人、この場所について話していたらしい。

 普段は、祈りの場として使われていたが、最近では魔族の拷問・・・。


 裏ではある組織の集会所として、使用されていたと。


「それがこの地下室か」

「そう聞いております・・・捕まった者はこの地下へ連れていかれたと」

「なるほどな」

 手を置くと、岩の扉が音を立てて開いた。


「魔王ヴィル様、私も・・・」

「みんなはここで人間が来た場合上手く対処してくれ。ここは俺一人のほうが動きやすい」

 十戒軍だった場合、アイリスの能力を話す可能性もあるからな。


「かしこまりました」

 シエルとサリーがちょっと落ち込んでいた。


「では、行ってくる」

「いってらっしゃいませ。お気をつけて」

 ミゲルが頭を下げてから、扉を閉めた。

 指先に光を灯して、真っすぐに続く階段を下っていく。





 ところどころに蝋の垂れた痕がある。

 つい最近まで、人が行き来していたようだな。

 蝋に砂埃の混ざりはなく、真新しかった。


 段差を滑る。

 石ころがどこまでも転がっていく音がした。


「誰だ!? 人間か?」


 叫ぶような声が聞こえてきた。

 少し声に震えがある。


「来るなら来い・・・僕は魔族だ。こんなところで人間の思い通りになんか・・・」

「ん?」

 壁にハーブや図、宝石などが、飾られた部屋に・・・。


 12、13歳くらいの子が、両手を縛られていた。

 エメラルドのような緑の瞳、くるんとした短い髪、はだけた布から白い肌が見える。


 魔族の少女か?


 ほとんど治りかけているが、太ももに細かい傷が残っている。


「魔族か?」

「わ・・・あ、あ、貴方様は、魔王ヴィル様ですか?」

「そうだ」

「僕は・・・えっと・・・」

 急に緊張していた。


 雰囲気はどことなくおとぎ話の天使みたいだ。

 少年のような口調だったが、可愛らしさは隠せていない。


 不思議な魔族だ。


「僕の名前はリョクっていいます。お会いできてうれしく思います。魔王ヴィル様」

「あぁ、無事でよかった」

 縄を解いてやると、その場に座り込んだ。


「っ・・・・すみません、腰が抜けてしまい」

「人間に何かされたか?」

「大丈夫です」

 リョクを起こして、台に座らせてやった。

 布の間から、白い華奢な足が見えた。


「服を切られて、魔法で縛られただけですから。触ろうとしてきた男には毒の唾を吐きかけてやりました。自己回復が得意なので、体力も魔力も戻っています」

 少し、自慢げに言う。


「でも、僕はそこまで攻撃力はなく・・・ここ十戒軍『主の聖なる日』のいる場所に、捕まってしまいました。魔族で回復魔法を使える者は少ないので、異常だと目をつけられてしまったようです・・・」

「なるほど。十戒軍・・・そいつらについて詳しく聞きたい」


「はい! お役に立てることがあれば何でもお聞きください」

 やっと、見つけたか。ここが奴らの・・・。


 カタン カタン カタン


 階段はシエルとサリーがいるから来れないはずなのに・・・。

 どこからともなく、小さな足音が聞こえてきた。


 リョクが段差から飛び降りる。


「人間です。ここは、正面口以外に城方面からの裏口があるのです。魔王ヴィル様、こちらへ、いったん隠れて奴らの会話を聞いたほうが早いと思うので」

 棚のような狭い場所を開けていた。


「あぁ、わかった」

 拷問で情報を抜き出してもいいが、せっかくここまで来たんだ。

 ここは息をひそめて、会話を聞くか。



 ガタン・・・


「すみません、狭いところなのですが」

「慣れてるよ。ダンジョンってこうゆうこと多いからな。この建物自体もダンジョンにどことなく似ている」

「そうなのですね、では、失礼します」

「・・・・・」

 リョクが小柄な分、意外と幅はあった。

 ドアを閉めると、急に真っ暗になる。


「ハハハハ、ん? ここに魔族の少女を縛り付けておいたはずなんだが?」

「縄は切られている。どうしましょうか?」


「・・・・・・・」

 リョクの額に汗が滲んでいた。


 人間の足音は二人だ。

 あまり強くないと感じるが・・・。気取られないように、魔力を押さえる。

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