69 カマタの知識
『なぜ、それを聞く?』
「十戒軍が魔王城に攻め込んできたからだ。目的はアイリスだ」
『そうか・・・なるほどな』
”名無し”のことは伏せておいた。
魔族にもダンジョンの精霊にも話すつもりはない。
俺とアイリスの間で留めておかなければな。
『ついに魔王城にまでたどり着いたか』
「知ってるのか?」
『まぁな。1000年前に作られた組織、十戒軍は・・・天使の名の元に集まったと聞いている。今は形を変えて、神に仕える戦士となっているようだな』
「天使?」
『そうだ。元はある天使が罪を犯した少女・・・世界を破滅に導く可能性のある少女を封じるために作られた組織と聞いている』
「!」
手に力が入った。
「・・・・・罪を犯した・・・・なんの罪だ?」
『そこまでは知らん。地上に行ったわけじゃないからな』
アイリスの禁忌魔法を指しているのは確かだろう。
そもそも、禁忌魔法とは一体・・・。
『十戒軍の発祥の地はサンフォルン王国ではない・・・だが、古くからある王国だ。残党が集まってきているんだろう。人間は不安が募れば、目に見えないものを信じようとする』
「・・・・・・・」
座りなおして、考えていた。
『魔族の王よ、神というものを信じるか?』
カマタが、少し体を潰しながら目の前に座る。
「神って人間の賢者とかが信仰するやつだろう? 見たことないものを信じようがない」
賢者に転職したことはあったが、奴らだって本当に信じている者はいない。
猛毒を抜いたり、都合のいいときのみ呟く何かだと思っていた。
『お前にとっては、そうだろうな。ただ、現在、十戒軍を先導している者は、神が見えているのだという。新しい神だ。彼らは神の声により、行動しているから、恐れがないのだ』
「新しい神・・・?」
『本物の神かはわからないけどな』
胡散臭さに磨きがかかったな。
『今の十戒軍は昔の十戒軍と何かが違う。罪を犯した少女を殺す・・・・以外に、何かの目的があるのだろう。ダンジョンの精霊・・・我々にはそうゆうふうに見えている』
「それは・・・・」
『ストップ』
詳しく聞こうとすると、カマタが止めた。
『我が知っているのはここまでだ。悪いがこれ以上は何も言えない。地上の争いに介入したくないからな』
「・・・わかってる。ありがとう。十分だ」
『すまないな』
カマタが短い手足を伸ばした。
『我は、あくまで人間と魔族の中立だけどな。人間はつくづく、争いごとの好きな生き物だと思って眺めているよ』
”十戒”・・・。
十戒軍の今の目的は・・・何か、その胡散臭い神とやらにはめられているような気もするな。
サンフォルン王国へ行けば、何か手掛かりくらいは掴めるだろうか。
「カマター」
リルがすーっと小さく飛びながらこちらに向かってきた。
「手伝い終わったよ、カマタ」
『ありがとうな、リル』
カマタがニコニコしながらリルを撫でると、リルが尻尾を振っていた。
『このダンジョンが魔族のものになれば、リルも自由になれるぞ』
「うん。魔王ヴィル様を信じてる。絶対、異世界から宝を持ってきてくれる」
『そうかそうか。魔族の王だもんな』
カマタがにんまりしていた。
親子みたいだな。リルも心を許しているようだった。
『毎日暇で暇で、話し相手がいなくてな』
「カマタ、ぶよぶよで面白いんだ」
リルがカマタの頬を触って遊んでいた。
『そうだ、人間の少女を待っている間、地下の暗室で待っていればいい。体力魔力回復の部屋だ』
「私、専用の部屋なので狭いのですが・・・」
「助かるよ。案内してくれ」
立ち上がって、マントを低い木の枝にかけた。
『人間の少女が来たら、すぐに連れて行こう。あ、ちょっと、外の話も聞きたいから遅くなるかもしれないけどな』
「あぁ」
ふわっと飛ぶリルの後ろをついていく。
ダンジョンは回復部屋が多くて助かるな。
「魔王ヴィル様、地上にいる女魔族たちはみんなで暮らしているのですか?」
「あぁ、上位魔族リカが張った結界の中でな。でも、ダンジョンがあったほうがいいだろう?」
「それはもちろん! です」
リルが楽しそうに話しながら飛んでいた。
女魔族は弱い者も多い。
回復部屋もあるし、ダンジョン自体も綺麗だ。良い住処になりそうだな。




