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61 禁忌魔法

 すべては俺の判断ミスだ。

 だが、怒りは収まらなかった。


 返り血で服が赤く染まっていた。

 転がった30人の死体を蹴って、真ん中のほうへ歩いていく。


「お前ら3人だけだな。今息があるのは」

「魔王・・・・・・よ・・・」


 グギッ


 アイリスに毒を注いだ魔導士を踏みつけると、鈍い音がした。

 優れていたのは結界と毒の保存だけのようだった。


 想像以上に脆く、ほとんどが奪牙鎖チェーンに少し力を入れただけで即死してしまった。

 何をしに来たんだかな。


「なんと・・・強・・・残酷な・・うっ・・これだけの人間を・・・」

「・・・して・・してく・・・い・・・さ・・・・」

 ジークが片目のみでこちらを見下ろしていた。

 魔導士が狂ったように何かを呟いている。


「足りない・・・」

「は・・・・・?」

「足りないな・・・何回殺しても足りないんだよ」

 体の芯から渦のように沸き起こる怒りが収まらなかった。

 手に魔力を込める。

 奪牙鎖チェーンが黒々とした光を放っていく。



 ・・・・あ・・・・・あ・・・・・・あ・・・・


 もう、呻き声を上げる力さえ残っていないようだ。

 奪牙鎖チェーンで締め上げる。

 3人のうち、1人のランサーは息はあるが、気を失っていた。


「お前らは更なる拷問のために、命を残しておいてやる」

「こ・・・ここで・・殺してくれ。我にできる・・は・・・ない・・・」

「おね・・・がい・・ここで・・・もう・・・」

 懇願するように言ってくる。


「いや、まだだ」

 魔王のデスソードを突き付ける。

 顔を動かせないまま、虫のような息を吐いていた。


「これだけの・・・人間を・・・殺し・・・罪を犯すとは・・・・」

「罪だ? 何を言っている!?」

「うっ・・・・・・・」 

 少し刺すと、苦しそうに震えていた。


「お前がアイリスにしたことに比べたら生温い。わかるか!? いや、こいつを兵器としてしか見れないお前らにはわからないだろうな!!」

「・・・人類・・・ためだ・・・神が・・・」


「あくまで愚かなままでいるか。薄汚い人間の模範のような奴だ」

「我が信念に・・・忠実に・・・・・兵器を・・・」

 口から血を垂らしながら言う。


「あぁ・・・神様・・・私に召喚・・・けの・・力を・・・」

 魔導士が項垂れながらぶつぶつ話す。


「煩い」


「ぁ・・・・・・・・・・」

 全身をきつく締めると、太ももから水がしたたり落ちていった。

 脈がどんどん弱くなっていく。


「フン、仕方ない。もう一度だ」

「も・・・もうやめ・・・」

 このままだと、数分後に勝手に死んでしまうな。


 ― 肉体回復ヒール― 


 3人に向かって唱えると、浅く呼吸を取り戻した。

 魔力は奪ったまま、体力だけを回復させていた。


「我らをどうする・・・気だ?」

「そうだ。まだ、死なせてたまるか。俺がどれだけ冷酷か思い知らせてやる」

「・・・・・・・・・」

 真っ青になりながらこちらを見つめる。


「もう一度、拷問しながらな」

「・・あ・・嘘・・・・」

 顔を上げて、愕然としていた。


 いやああああああああ

 あああああああああ

 

 魔導士とランサーが同時に悲鳴を上げた。

 体が崩れるよりも、精神が崩壊するほうが先だったらしい。


 驚くほど残酷な気持ちになっていた。

 何度でも蘇らせ、何度でも拷問したいくらいに。


「?」

 ふと、アイリスの方を見る。

 ここじゃ、寒いか。


「魔王ヴィル様・・・・変わりましょうか?」

「私も拷問なら・・・」

「・・・・・・・」

 ウルとザガンが声をかけてきた。


 無視してアイリスの方へ歩いていく。

「待ってろ・・・アイリス・・・・」

 人間どもの死体から、少し離れた場所ににアイリスを置いてやった。


 血しぶきにまみれたアイリスを抱きかかえて、目を閉じてやる。

 いつもより重く、冷たくなっていた。





「な・・・これはどうゆう・・・・」

 上位魔族たちが続々と戻ってきていた。

 カマエルがマントを地面に付けないようにしながら駆け寄ってくる。


「状況はウルとザガンに聞け」

「か、かしこまりました。この人間3人は?」


「ああああ、この場で・・・楽にして・・・・」

 かろうじて生き残った3人が目をうつろにしながら血がにじむほどもがいていた。


「今生きている奴を、独房に入れろ。殺すな。俺が拷問してから殺す」

「はっ」

 頭を下げた。


「さすが、魔王ヴィル様でございますわ」

 サリーが呟く。


「おえっ・・・・・・げっ・・・・」

「ミゲル!」

 ミゲルが扉の前で吐いていた。

 力が抜けて人形のようになり、サリーに襟足を掴まれてやっと立っていられるような状態だった。

 サリーが横で叱りつけていた。  


「ま・・・魔王ヴィル様」

 ジャヒーが近づいてこようとしてくる。


「なんだ? 俺は今、気が立っている。お前らでも、気に食わなければ容赦なく殺しそうだ」

「も・・・申し訳ございません。後でかまいませんので」

 すぐに下がって、俯いた。


「・・・・・・・・」

 アイリスの遺体を抱えて、魔王の間を出る。

 途中でセラに話しかけられたが、無視していた。


「あ・・・アイリス」

「・・・・・・」

 マキアの前を無言で通っていく。

 魔族たちの声でさえ鬱陶しく感じた。


 何かの拍子に、生きとし生ける者をすべて殺してしまいそうだった。

 どうしてアイリスが・・・。


 マリアのときもそうだった。


 どうして心の綺麗な者ほど苦しまなきゃいけないんだ。



 

「アイリス、ここで寝てろ」

 遺体を部屋の入口のほうへ置いて、毛皮を掛ける。

 びくとも動かなかった。

 明日になれば、火葬してやろう。


 落ち着いたら、独房に入った人間を、拷問に行くか。

 

 まさか、人間のほうがこいつを拷問して殺しに来るとは・・・。

 十戒軍というものは何なんだ? エヴァンと関係あるのか?


 ドン


 壁を思いっきり叩いた。窓がガタガタ揺れる。

 気に食わない。潰してやりたいところだ。


「アイリス・・・・」

「・・・・・・・」

 テーブルに食器が置いたままになっていた。

 夜風が吹いて、本のページを捲っていった。


「・・・ひどいよな、人間は・・・お前は城から逃げて正解だったよ」

「・・・・・・・」

「・・・仇は打ってやるからな」

 腕を額に当てて、大きく息を吐いた。 






 部屋を出て、独房への階段を下りていった。

 光を灯すと、3人の話す声が小さくなっていった。


 怯えているのが伝わってくるな。


「ククク、カマエルの趣味だか、ザガンの趣味だか知らないが、いい趣味をしている。ある意味俺より拷問のセンスがあるかもな」

 服をはぎ取られて、全裸になった状態で息のある3人が閉じ込められていた。

 両手のみが縛られている。


 ランサーは男だと思っていたが、女だったのか。

 震えながら、端のほうに座っていた。


「・・・・・これから・・・我らをどうする気だ?」

「なぜアイリスが兵器と呼ばれていることを知っていた? アリエル王国では極秘とされていたことだが?」

「我らはサンフォルン王国の兵士だ。今の王制に疑問を持ち、集った者たち。独自のルートで探った」

「あぁ・・・・・あぁあ・・・・・」

 女二人は精神が崩壊したのか、会話にならないな。 


「お前はアイリス様があれだけで死ぬと思ったか?」

「現に死んでる。俺が心臓を止めたからな」

 椅子に座って、足を組んだ。


「ハハハ、アイリス様が死ぬわけない。あれは、そばに置いておけば魔族にとっても脅威になるはず。絶対にあってはならない異質なものだ」

「・・・・十戒軍とはなんだ?」


「神に忠実な軍だ」

「神?」

「そうだ。信仰した我々をいずれ、地上の苦しみから導いてくださる方だ。この世界にない能力を持っている」


 恍惚の表情で話す。何言ってるんだ? こいつは。

 気味が悪かった。


「アイリスのように異質のものは・・・・・」



 ズン


「!?」

 硬直した。闇に魂を摘ままれるような心地がする。

 構えると、アイリスが後ろに立っていた。


「・・・・・・」

「アイリスっ・・・・なのか? 確かに死んでいたはず。どうして・・・・」

 立ち上がって近づくと、避けられた。


「・・・アイリス?」

 何の返答もない。

 無傷のまま、俺の声は聞こえていないような素振りを見せている。

 目を見開いたまま、きょろきょろしていた。


 肉体も魔力もアイリスのままなのに、アイリスじゃないみたいだ。

 いや、この魔力・・・アイリスか?


「やはり、来たか」

 ジークが低い声で言う。


「え・・・・?」

「対象物、発見シマシタ」 

 アイリスが、独房の3人を見て声を出す。


「ここまでのようだ、魔族の王よ。我ら十戒軍としての部隊は、『隣人に偽証してはならない戒律』を守り、堂々と最期を迎えることができた。今後、我の言葉を思い出し、後悔・・・」


 アイリスが手を翳す。


「DELETEシマス」


 ― オーバーライド(上書き) ― 


 ボッ・・・・


「!?」


 突然、灼熱の炎が起こって、一瞬にして3人が灰になった。

 マントで熱風を避ける。


 焦げた遺体がドサっと落ちた。

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