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60 残酷な

 ― 漆黒のフーガ― 


 唱えると、闇の中から大きな手が現れる。


 ガッガガガガガ


 勢いよく振り下ろすと、背の高い男が魔法を弾く音がした。

 白煙で命中率が下がったか。


「彼が魔族の王か・・・ふさわしい魔法だ」

「思っていた以上に人間みたいなやつだな。魔族を束ねるんだから、もっと大きな奴かと思っていた」

「デル、王に向かって失礼だぞ」

「はいはい」

 魔導士、ランサー、剣士の3人が現れる。


 真ん中の剣士は40~50代のベテランだろうな。

 戦闘経験の多さが伝わってくる。


 アリエル王国の兵士ではないようだ・・・装備品が見たことないものだった。

 上位魔族の留守を狙ってきたか。


「私の名前はジーク、サンフォルン王国の第三部隊団長だ。隣の者は王国屈指の召喚士ニア、ランサーのデルだ。表向きはな・・・裏では十戒軍のリーダーだ」

「黙れ」


 ガッ


「うあああっ・・ぐっ・・・・・・」


 もう一度、漆黒のフーガで引っ搔くと、ランサーの片足が飛んだ。


「我々は魔族に敵意は無い。むしろ味方だと思ってくれ」

 臆せずに、避けながら話してくる。


「天井壊しておいて何を言っている?」

「それはすまなかったねぇ・・・まずは、話を聞いてくれないか? 魔族の王よ」

 髭の生えた男が、剣を立てて高らかに声を上げる。


 漆黒のフーガを闇の中に戻した。


「はぁ・・・はぁ・・・団長の話を聞いてくれ・・・」

 ランサーは片足が跳んで、槍を杖にしてかろうじて立っている。

 脂汗を流しながら、自身で止血の回復魔法をかけていた。


 なんなんだ? この違和感は。


 ― 奪牙鎖チェーン


 3人を縛り上げて、床に押し付ける。


「くっ・・・・」

「人間などとつるむつもりはない。俺からすれば、たいそうな役職の人間が、のこのこ殺されに来たってことだけだ。よくも、魔王城に穴を開けてくれたな」


「ああっ・・・呼吸が・・・・・」

 魔導士が汗を流しながらガクガク震えていた。


「・・・大丈夫だニア、落ち着け」

「はい・・・・」

 ジークが白いマントに汗をにじませながら慰めていた。


「フン、いつまで強がっていられるか。しばらく拷問してやる」

 人差し指を動かして、背中に魔力を流す。


 ああああああああああ


 のけ反りながら、悲鳴を上げる。

 呼吸が途切れ途切れになっているのが伝わってきた。


「お前らの目的は・・・」

「き、き、き・・・聞かれなくても言ってやる。これから起こすことだ。後ろを見ろ」

 力を強めたまま後ろを振り返る。




「んんっ・・・・んんっ・・・」

「アイリス!?」


 アイリスが4人の魔導士に結界の中に入れられて運ばれていた。

 口には不気味な色の縄のようなものがはめられている。


 周囲には・・・王国の服を着た剣士、ウォーリアー、アーチャー、ランサー・・・30人程度いた。


 こんな人数の人間どもどこから城に入ってきたんだ?

 まさか、こいつらに気を取られている数分の間に全員が乗り込んできたというのか・・・。


「・・・・・・・・」

 まぁ、何人いたって同じことだ。


「・・・今日は、魔王城内にいる魔族の数が少ないな・・・安心しろ、うろうろしている子供たちにチップを埋め込んだ我々だけが知っている情報だ。我々十戒軍が・・・カハッ・・・」

 言いかけて、血を吐いた。

 ミゲルか。


「十戒軍は今から1000年も前にできた組織、大天使が率いる軍事勢力といったほうが早いか。魔族に敵意はない・・・戦闘するつもりもない。目的はただ一つだ」

 アイリスを捕まえていた人間の一人が、高らかに話しながらこちらに向かってくる。

 背の低い丸っこい男が声を震わせていた。



「そうだ。お・・・俺たちの目的は・・・魔族でも魔王ではない」

 ジークがぜぇぜぇしながら言う。


「・・・・・」


「アリエル王国のアイリスだ」


「わっ」

 4人の魔導士が何か唱えると、アイリスの結界が弾けて、仰向けになったまま宙に浮いていた。

 4人が同時に詠唱を始める。


「あ・・・・・・・」

 アイリスが声を上げる。


 ゆっくりと動いて、魔王の間の真ん中に留まった。

 床が青く光り出す。


「何をしている!?」

「魔王はアイリス様に随分執着されているようだな?」

「だからどうした・・・・・・・?」


「今からすることは残酷だが必要なこと」

 ジークが血走った目でこちらを見ていた。


「魔王ヴィル様!!!」

「来るな!」

 ウルが追いかけてきたが、大声を出して止めた。

 すぐに、後ろから来たザガンに下がるように指示していた。


「・・・・・・・」

 最悪の事態だ。


「いっ・・・・」

アイリスの声が響く。


「アイリス!」


 ガンッ


「!!」

 近づこうとすると、跳ね返された。

 魔導士は詠唱に集中している。


 こいつらを殺して、アイリスにかけられている魔法は解けるのか?


「うぐっ・・・」

 3人の奪牙鎖チェーンを強める。


 30人程度の戦士たちがこちらを囲んでいるが、何もしてこなかった。


「準備、完了しました」

「!?」


 ドサッ


 突然、アイリスにかかっていた魔法が解けた。

 慌てて駆け寄る。


「アイリス、大丈夫か?」 

「まずい・・・かもしれない・・・」

 紫色になった唇を震わせていた。

 足が痙攣していて、もがき苦しんでいる。


 劇薬でも飲んだような。


「何がだ?」

「いっ・・・あ・・・・あああ・・・・」

「!?」

 服を開けると、体が変色していた。

 顔が赤くなったり青くなったりを繰り返している。


 むしろ魔力は強く・・・どんどん強くなっているだと?


 何の魔法だ?


「大いなる・・・目的のためだ・・・」 

「貴様ら・・・アイリスに何をした?」


「我々はアイリス様が兵器だということを知っている」

「アリエル王国ではない。我々十戒軍が彼女をとらえる。魔族の王よ・・・・我らと魔族は敵ではない・・・あくまで誰にも制御できない兵器であるアイリス様こそが目的・・・」


「質問に答えろ、何をした?」

 ジークの首に魔王のデスソードの刃先を突き付ける。

 勢いあまって、刃に血が滲んで垂れてきた。


「へ・・・蛇の毒と各ハーブを混ぜた毒で全身を覆う魔法だ。時間をかけて能力を発動する力を完全に失わせてから、命を絶たせる毒・・・書物にあったウイルスの製造」


「それは、十戒軍の古い書物にあった兵器を確実に殺す方法。回復魔法なんて効くわけがない」

「なん・・・だと?」

 全身の毛が逆立った。



「・・・解毒方法も存在無い。すべては世界のため・・・仕方のないことだ・・・」

「・・・・・・・・」


 クズが・・・。


「ま・・・・王ヴィル・・・様・・・・」

 かすれた声で言う。


「・・・・・・・・・・・」

 魔王のデスソードを持ち直した。


「お前にアイリス様は殺せまい。そのままにしておけば毒は彼女の体を蝕んで能力ごと葬り去るだろう」

「・・・・・」

「これこそが我々が求めていたこと。我が国へ、兵器が運び込まれる前に完全に破壊するんだ」

「そうだ。そうすれば、この世界は安全だ」

 ウォーリアーと弓矢を持った男が吠えるように言った。


 どいつもこいつもクズばかりだな。


「おね・・がい・・・して・・・」

「アイリス・・・・・・」


「これは・・・停止・・・しなきゃ・・・いけない。ごめん、魔王ヴィル様・・・」

 アイリスが、目を見開いたまま震えていた。

 口が閉じず、歯がカタカタ言う。


 ― 魔王のデスソード― 


 剣に紫色の炎を纏わせた。

 長い瞬きをする。


「安心しろ。すぐ楽になる」

「ありが・・・」

「何する気だ。止め・・・」



 ドクン



 アイリスの左胸に、魔王のデスソードを突き刺した。

 一瞬ビクッとしてから魔力が停止した。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 完全に沈黙したのを確認してから、引き抜く。


「な・・・何をしている?」

「これで満足か? アイリスは死んだぞ」

 魔王のデスソードを解いた。


 心が冷え込んでいくのを感じる。


「な、なんてことを・・・我々がここまで何年もかけて・・・」

「こんなんじゃアイリスは・・・」

「黙れ!」

 ジークが唖然として、見つめていた。


「魔族の王よ、それはお前が思っている以上に、異質でこの世にあってはいけないものなのだ。人間じゃない。人の死を持たない・・・」

 うわ言のようにつぶやく。


「ああ・・・・・・な、何をするんだ? それじゃあ、いつ能力が発動するか」

「アイリスは、お前だって・・・・魔王だって敵わない兵器だ。能力が発動すれば、魔王城だってどうなるかわからないんだぞ」

「魔族にとっても不利なんだぞ。わかっているのか?」

 囲んでいた兵士たちが口々に叫び出した。



「・・・・・・・・・」

 心底、どうでもいい奴らだ。

 動物の悲鳴よりもざらついた声で聞き取りにくかった。



 ― 魔界のブラックホール― 


 一斉に撃たれた魔法弾や弓矢を吸収していく。


 どう殺してやろうか。

 どう苦しめてやろうか考えていた。


 この虫けらどもを・・・。普通に殺すだけでは足らないな。


「お前らも・・・ここにいるすべての人間どもを、同じように殺してやる!!!」

 手の血がにじむほど握り締めていた。

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