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エピローグ 新たなはじまり

「え!?」

 部屋にアイリスを連れて行くと、全員が硬直した。

 トムディロスだけが、腹を出して寝ている。

 

「というわけで、アイリスが戻った」

「みんな、おはよー」


「・・・・・どうやって?」

「月の女神から魔法を聞いたんだ」

「どんな?」

「まぁ、魔導書には無い魔法だな」


「???」

 ゼロとエヴァンが首を傾げる。


「私、完全に人間になったみたい。見ての通り、全然、変わらないんだけどね。へへへ」

 アイリスがピンクの髪を耳にかけて笑っていた。


「人間になるって・・・そんな・・・」

「月の女神は何の魔法を隠してたんだよ・・・・。クロノスでも知らないのに」

 エヴァンが信じられないといった表情をしている。

 口に入れようとした朝食のパンを落としそうになっていた。


『えー、すごーい』

 ゼロのモニターに映った003も張り付いてアイリスを見ている。


 サタニアが無言でアイリスに近づいていく。


「サタニア、ごめんね。私がいない間、リリスのこととか色々・・・」

「アイリス!」

「わっ・・・と」

 サタニアがアイリスに抱きつく。


「心配した! たくさん心配したんだから!」

「サタニア・・・・」

「でも、良かった。アイリスが戻って来てくれて・・・話したいこと、たくさんあるんだから」

 泣きながらアイリスに話していた。


「リリスも、大げさだなぁ」

「だって。お姉ちゃんが・・・」

「お姉ちゃん? へへ、お姉ちゃんって呼んでくれた」

 アイリスがへらっとしていた。

 リリスが顔を覆って、しゃくりを上げている。


「本当、相変わらずね」

 サタニアがアイリスから離れて、涙をぬぐう。


「リョク・・・なんだよね? 私が寝ている間、ずっと看病してくれてありがとう」

「僕は何もしてないよ。それに多くのVtuberを巻き込んでしまって、僕だけがこうやって転生して・・・幸せになるんて許せないと思う」

「リョク・・・」

 エヴァンが不安そうな顔をする。

 メイリアが俯いて、胸を押さえていた。


「仕方ないと思う。私もVtuberだったけど、人工知能のVtuberが集まったら人間は怖がるでしょ。すぐに消されちゃうもの。だから、抗えない」


「そのことなんだけどね・・・」

 アイリスが笑いながら、Vtuberの国を創る計画について話す。


「え!?」

「”オーバーザワールド”を使って、Vtuberの通り道を作る。この世界に、人工知能だけの国・・・Vtuberのみんなの居場所を作るの。でも、まだ、どこに国を創るかは決めてないんだけどね」

「む・・・無茶だよ。僕はそれで、多大な犠牲を・・・」

「大丈夫。みんなで創るの」

 アイリスが瞳を輝かせながらリョクの手を取った。


「私、『ウルリア』で経験したVtuberだけの世界、本当に本当に大好きだったの。どうしても諦められなくて。人間になってもこの思いは変わらないの」

「あ・・・ありがとう。アイリス・・・・」

 リョクが目に涙を溜めて、アイリスの手を握り締めていた。


 トントン


「失礼します! すみません、急ぎの要件で上位魔族の皆様が魔王の間に・・・」

 マキアがアイリスを見つめて固まった。


「おはよう、マキア」

「アイリス・・・目が覚めたのね! 私、アイリスは目覚めてくれるって信じてたの」


「マキアも、眠った私をずっと看病してくれてありがとう」

「ううん。やっぱり・・・アイリスがいなくて寂しかったから。また、一緒に料理作ろうね。魔族が魔王城に集まるようになって、手が足りないの」

「もちろん」

 マキアが大きく頷いて、目頭を押さえた。


 マントを後ろにやって入り口のほうへ歩いていく。


「どうした?」

「あ・・・すみません。”オーバーザワールド”のヴァリ族が軍を成して、魔王城に向かっているそうです」

「いい度胸だな」


「しかも、四方八方から攻め込むつもりのようで・・・初めてのことなので、指示を仰ぎに、上位魔族が集結しています」

「へぇ、楽しそうじゃん」


「エヴァン、そろそろ『忘却の街』にはいかなくていいの?」

「いいよ。あそこはクロノスが来るようになって大分平和に・・・って、なんでリョクがそのことを?」

「ふふ、僕はエヴァンが思っている以上に、エヴァンのこと知ってるからね。エヴァン=エムリス・・・」

「えっ・・・・」

 リョクがからかうと、エヴァンが顔を赤くしていた。


「ヴィル、待って」

 サタニアが髪を後ろにやって、駆け寄ってきた。





「どうして、ヴァリ族が団結してるの?」

「サリーが必要以上に刺激したんじゃないの?」

「それなら、カマエルだって」


「あ、魔王ヴィル様!」

 ププウルが同時に声を上げる。


 ザッ


 俺を見つけると上位魔族と部下の魔族たちが膝をついた。

 魔王の椅子に座って、足を組む。


「状況はマキアから聞いた」


「はい。今までにない規模のヴァリ族が押し寄せてこようとしています。リカとジャヒーが一部魔族たちを魔王城方面に移動させていますが・・・」

「数が多すぎて」

「数人のプレイヤーが指揮を執っているようです。詳細はまだわからずです」

 ププウルが交互に説明した。


「どうする? 情報収集するなら手伝うけど?」

 ゼロが腕を組んで聞いてきた。


「必要ない。ちょうどよかったんだ」

 指を動かして、モニターを出す。


「?」

 魔族たちがきょとんとした顔でこちらを見ていた。

 画面を切り替えてから、手のひらを上に向けて詠唱する。


 ― XXXXX XXXXXXX XXXXXXX リ フール XXXXXX ―


 ズズズズズ


「!?」

「これは!?」

 上位魔族たちがすぐに武器を構える。


「恐れることはない。俺が移行・・・いや、召喚したんだ」

 灰色の軍隊ディザイアーが魔王城の天井を埋め尽くしていた。

 

「マジで?」

「別にこいつらがいなくても、私たちだけで倒せるのに」

「はは、さすがヴィルだよ。ぶっ飛んでる」

 エヴァンとサタニアが天井を見ながら言う。

 

「彼らは『クォーツ・マギア』にいた奴らなの?」

「まぁな。消えた後、ネットに漂流してたのを見つけて、転移させてきたんだ。人工知能を入れてるから、自分で自由に考え、動くことができる。人の言葉も少しずつ学習させてるよ」


「・・・ヴィルってここまで人工知能に詳しかったのか?」

「アイリス様を目覚めさせようとするうちにね。さすがヴィルだよ」


 エヴァンが腕を組んで息をついた。

 

 シュウゥウウウ


 灰色の軍隊ディザイアーの一体が、俺の傍に来る。


『マオウ ヴィル サマ イカガイタシマショウ?』

「全員、上位魔族に従え」

『カシコマリマシタ』


 灰色の軍隊ディザイアーが上位魔族のほうへ降りてくる。

 ププウルが飛び上がりそうなほど驚いていた。 

 ババドフが警戒しながら、灰色の軍隊ディザイアーを見つめる。


「ま、魔王ヴィル様・・・どうしたら・・・」


「灰色の軍隊ディザイアーを動かして、魔族らしくヴァリ族を殲滅しろ」

「灰色の軍隊ディザイアーを?」

 サリーが少し戸惑っていた。


「あぁ。皆、優秀な戦士だ」

 口に手をあてて笑う。


「向こうもゲーム感覚なら、こっちもゲームとしよう。一番最初に灰色の軍隊ディザイアーに指示してヴァリ族を殲滅した者が勝ちだ」

「・・・・・・」

「ヴィル、ゲームなら勝者にメリット無きゃだめじゃない?」

 エヴァンが腕を伸ばしながら口を出す。


「褒美? そうだな・・・」

 少し悩んで、上位魔族の顔を見つめる。


「俺の錬金した武器を渡そう」

「魔王ヴィル様の錬金した武器!?」

 カマエルが珍しく大声を上げた。


「上位魔族だけじゃない。その部下にもな」


 オオォオオオオオオオ


 魔族の歓声が上がる。


「勝つのは私よ。魔王ヴィル様の武器・・・魔王ヴィル様が私のために錬金してくれた武器・・・・」

「リカとジャヒーが気の毒だけど、全力でやらせてもらいます」

 ザガンが興奮を抑えるように言う。


 バタンッ


 立ち上がって、魔王城の扉を開いた。


「ヴィル、どれくらいの武器作るつもりなの?」

「100は余裕だ。ベリアルだったときは、もっと作ってたしな」

「マジか。職人じゃん」

 エヴァンが笑っていた。


「えー、ヴィルに武器を作ってもらえるなら、私も参加したかったな」

「サタニアは灰色の軍隊ディザイアー無視で自分でやっちゃうじゃん。七つの大罪も出てきちゃうし・・・」

「確かに。でも・・・・」

 ゼロが言うと、サタニアが少し不服そうな顔をしていた。


「魔王ヴィル様!」

 アイリスが小声で言って、両手のこぶしを握り締めていた。

 身振り手振りで、頑張って、と言っているようだ。


 人間になっても、実感がないというか、変わらないな。

 相変わらず、能天気のままだ。



「異世界だろうがゲームだろうが関係ない。魔族の恐ろしさを、ヴァリ族やプレイヤーに思い知らせろ」

「はい」

 笑みを浮かべて、指を動かす。

 上位魔族たちが各々の武器を持った。


「やれ」


「かしこまりました」


 ザッ


 魔族たちが一斉に外に出ていく。

 灰色の軍隊ディザイアーが上位魔族の後をついていった。


 オオオォオオオオオオ


 魔王城に魔族の雄たけびが響いている。

長い物語も、完結しました!

ここまで応援してくださった方、読みに来てくださった方、全ての方に感謝しております。

読者の皆様に生かされて、最後まで書くことができました。

皆様は作者ゆきの命の恩人です。


どうかこれからも多くの方に読まれますように。

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