496 ラグナロク ~命を・・・⑦~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
しばらくすると、嵐のように目まぐるしく変わっていた景色は収まっていった。
空から光が差し込み、青々とした草原が広がる。
「終わったのか・・・?」
「あ、エヴァン」
エヴァンが祭壇の外に出て、背の低い草を踏む。
リョクが軽く飛んで、エヴァンの横についた。
「煩いレナがいなきゃ、戦闘が終わっても寂しいな。いつもだったら、お腹すいたとかいって騒ぐのに・・・」
エヴァンがため息交じりに言う。
しばらく目を擦っていた。
「ねぇ、北の果てのエルフ族と会えたと思う?」
「たぶんね」
「だといいなぁ」
「・・・・・」
ゼロが祭壇の柱に寄りかかって、天を仰ぐ。
「レナは・・・もういないのか。いないんだよな」
小さく呟く。
ふらっと出て、土に手を置いた。
柔らかく、温かかった。
レナは骨すら残さなかったから、消えても実感がなかった。
『じゃあ、俺もそろそろ行くよ。エインヘリャル(戦死した勇者たち)の役目は終わった』
ゼラフが2つの箱を祭壇の端に置いた。
「ゼラフ、サポートありがとな。ゆっくり休んでくれ」
『はは、向こうに行ったら休んでばかりだけどね。『クォーツ・マギア』が完全に無くなればこの箱も・・・・』
ズズ・・・
大気が震える。
「まだだ・・・・・」
エリアスの声がした。
ドドドドドッドドドドドド
地面に亀裂が走り、裂けていった。
中を覗くと、エリアスと灰色の軍隊が地上に上がってこようとしていた。
「うわっ、なんだよ、なんだよ」
「トム、歩けるんじゃん」
「そんなこと言ってる場合じゃないじゃん。メイリアたんこっちへ」
「わっ・・・・」
トムディロスがメイリアの手を引いて、祭壇の中に戻っていった。
ドレークがため息をつく。
ドドドッドドドド
「灰色の軍隊がいる限り、俺は負けない」
エリアスの腕は消えかかっていたが、声を張り上げていた。
コードのような文字が額に浮き出ている。
「しつこいな。俺が灰色の軍隊を止める。エリアスは、なんかもう飽きた」
「じゃあ、俺はエリアスだな。シエル、行くぞ」
シエルの剣を持ち直したときだった。
サァァ
突然、ポケットに入れていた小瓶が宙に浮く。
「ん?」
パァン
小瓶が割れる。
七色の光りが空中に散らばった。
― ゼロ、僕たちを冒険に連れて行ってくれてありがとう ―
― 魔王ヴィル、一緒にいてくれてありがとう ―
― 捨てられなくてよかった。バグにはバグのできることがあるから ―
「え?」
「ゼロにも聞こえるのか?」
「あ、あぁ・・・・」
顔を見合わせる。
― これは私たちの、意志だよ ―
― ずっと僕たちを、救ってくれた英雄の役に立ちたかった ―
「え? どうしたの?」
エヴァンが剣を持ったまま、きょとんとしていた。
頭に直接言葉が入ってくる。
俺とゼロにしか聞こえないようだ。
「まさか・・・」
「!?」
サアァァァァァ
七色の欠片たちが裂け目に流れていき、輝きながら灰色の軍隊にくっついていった。
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ
「おい! なんだ!? どうした!?」
這い上がろうとしていた灰色の軍隊たちが七色の光をまとって消えていく。
「クソ、お前だけでいい。早く地上へ・・・」
エリアスが灰色の軍隊の一体の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと」
戸惑っているエリアスの頭上に影ができた。
「よくも、私をあんなところに閉じ込めてくれたわね?」
サタニアがアメジストのような髪を後ろにやって、エリアスを見下ろしていた。
人差し指を向ける。
「覚悟しなさい」
― グランド・クロス ―
ドーンッ
「!?!?」
どこからともなく隕石が降って来て、瞬時にエリアスを地面に押し込んだ。
「そんな・・・・あぁ・・・あぁあぁあああああ」
パチン
ズンッ
「じゃあね」
エリアスの声が途切れた。
サタニアが手を合わせて、裂けた地面を閉じた。
「うわ、えぐいな」
ゼロが地面を覗き込みながら言う。
「グランドクロスって・・・なんでサタニアが?」
「元は星の配列の魔法なんだから、私が使えて当然でしょ。オーディンやゼロのグランドクロスとは少し違うの。星々を十字に配列するのを省略することで、隕石落下の威力を増すから、私のほうが火力は上よ」
サタニアが得意げに説明していた。
「サタニア、身体は大丈夫なの?」
「箱の中にいる時は苦しかったんだけど、外に出たら急に軽くなった。異世界の空気が無くなったからかしら」
「そうか」
ゼロがほっとしたような表情を浮かべる。
「あぁ、このジオニアス・・・肝心な時に力を使えないとは。何たる屈辱」
「ジオニアスは昔からそうゆう感じでしょ? 今に始まったことじゃない」
「その言葉、聞き捨てならないな、ミーナエリス」
「何よ。いつも勝手に突っ走って、トラブルしか起こさないくせに」
ジオニアスがミーナエリスを睨む。
「とりあえず、2人とも役に立たなかったのは、本当のことじゃないか。僕と違ってね」
「ドレークも別に大したことしてないでしょ?」
「箱に入ってくつろいでいた君たちとは違うから」
「まぁまぁ、みんな無事だったんだし。ほら、これからアスリア様を守っていこうよ」
デンデが七つの間に入って、3人の殺気を逸らそうとしていた。
「ジオニアス、久しぶりにやるか?」
「僕はそんな野蛮なことしたくないんだけどね」
「あーもう、みんなうるさいなぁ」
オベロンがあくびをしながら、七つの大罪から距離をとっている。
「アスリア様・・・じゃなくてサタニア様が無事なら、あたちなんでもいいです」
「まったく・・・」
アベリナが機嫌よく左右に揺れている。
サタニアが息をついて、喧嘩しようとしていたジオニアスとドレークを止めていた。
「サリー、魔力は戻ったか?」
サリーが視線を逸らす。
「はい、全然問題ありません。自分の力を制御できず眩暈がしてしまい・・・・肝心な時に隠れているだけで申し訳ありませんでした」
「いや、いい。サリーが無事でよかった」
「・・・・・」
サリーが浮かない顔をして、カマエルのほうを向く。
「カマエル、ザガン、お前らも不調はないか?」
「はい。こうして自由に動けるようになり、魔力も正常に。ですが、まさか捕まるとは」
「魔王ヴィル様のお力になるはずが、大変申し訳ございません」
「気にするな。お前ら魔族が無事でいてくれることが一番だ。魔王城に帰ったら宴だな」
カマエルとザガンの背中を叩いた。
『・・・・・・』
「ゼラフ、お前を戻そう。悪い。長居して魔力も相当消耗しただろ?」
『あはは、魔力の量だけで勝負しているところもあるからね。これくらいなんてことない』
指を動かして魔法陣を展開した。
『レナがあんなに楽しそうにしている姿は久しぶりに見たよ。ありがとう』
「レナによろしく伝えておいてくれ。レナのおかげでラグナロクは終わったって」
『伝えておくよ。きっと喜ぶ』
シュウゥゥウウウウ
ゼラフが軽く頭を下げて、魔法陣の中に帰っていった。
「つか、他の勇者たちは何やってたんだ? 悪魔が集めてるわけじゃなかったのかよ」
「メタルドラゴン討伐で忙しかったんだろ。異世界に詳しいわけじゃないし、仕方ないよ」
ゼロが軽く笑いながら言う。
「あ、ヴィル、あれ」
エヴァンが空を指した。
天使たちが集まってきていた。
ザアアァァ
柔らかな風が吹く。
ライとエル、ミハイルが軽く旋回して周囲を確認しながらこちらへ降りてきた。
「異世界の気配は一切なくなりましたね。メタルドラゴンとかいう得体のしれない敵も、全て消えていったようです。終末の鐘は鳴り止みました」
ミハイルが晴れやかな表情でこちらを見る。
ゼロが前に出た。
「よくもサタニアを・・・」
「ゼロ! 私は別に気にしてないから!」
「俺は天使も堕天使も嫌いだ。用が済んだら帰ってくれ」
「・・・はは・・・わかってます。ゼロらしくて何よりです」
「・・・・?」
ゼロが何か言おうとして口をつぐむ。
ミハイルが長い瞬きをした。
「ただ一言、お礼を言いたかっただけなんです。ねぇ、ライ、エル」
「はい」
ライとエルが目を潤ませて、後ろから出てきた。
「魔王ヴィル、勇者ゼロ、本当にありがとうございます。我々が兄と慕っていた堕天使サエルの無念を晴らしていただき」
「これで、サエルも安らかに眠れます」
黒い羽根で自分の身体を覆っていた。
「では、失礼します。アエ・・・じゃなくて、ゼロ、魔王ヴィル、またどこかで。ライ、エル、おいで」
「はい・・・」
ミハイルがライとエルを連れて空へと飛んでいった。
次第に天使と堕天使たちが掃けていく。
「手柄は俺たちみたいだね」
「この世界から『クォーツ・マギア』を引き剥がしたのはレナなのにな」
真っ白な天使の羽根を手に載せながら呟く。
「シエル、そろそろ戻れ。戦いは終わったぞ」
― ・・・・・・・・ ―
シエルの剣は何も反応しなかった。
「シエル?」
両手で剣を持って、埋め込まれた魔法石を光に透かす。
虹色のヒビが入っているように見えた。
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