492 ラグナロク ~命を・・・③~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
『この機体、なかなか戦えそうだ。何より、無双状態って楽しいな』
リュウジの機体から声がする。
ドーン
『まさか!!』
勇者の一人が召喚した魔神を、リュウジの機体が手からビームのようなものを発射して、撃ち抜いていた。
ぱらぱらと、音を立てて消滅していく。
『っ・・・魔神ルヴェスタまで撃たれるとは・・・』
『属性は無意味。剣は効くが、すぐに治ってしまう』
『それどころか、強化されてしまう。弱点はなんだ?』
勇者たちが剣を持ちながら困惑していた。
『魔王ヴィル!』
「よくここまで耐えてくれた。あとは俺が片付ける。ゼロとトムディロスたちを頼む」
古い装備を身に纏った勇者の傍で声をかける。
『その剣は・・・?』
「俺の最強の武器だ」
シエルの剣を大きく伸ばした。
あの時と同じ力が漲っていた。
太陽を飲み込む、『日蝕の王』としての感覚だ。
ゲームを終わらせる力だ。
『魔王ヴィル、あいつに剣は効かない。修復してしまうんだ』
「奴を倒す方法はわかってる。圧倒的な力だ。下がっててくれ」
『?』
勇者たちが首を傾げながら、俺から離れた。
ゴォオオオオオ
エリアスの機体がゼロを狙って閃光を走らせていた。
近くにあった木々が倒れていく。
ゼロがスレイプニールに乗って、避けていた。
「シエル、いけるか?」
シエルの剣の魔法石が虹色に輝く。
『シエル? まさか、マジカルボックスを抜けられるはずはない。もし抜けたら・・・』
こちらに気づいたリュウジが、何重にもシールドを張る。
「煩い」
― ダーク・ロード ―
シエルの剣を漆黒に染めた。
― XXヴァXXギ ―
ドン
ジジジジジジジジ
『は・・・?』
ガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・・・
リュウジの機体の頭上に回り、一気に地面まで剣を振り下ろした。
シールドも何の意味もなさず、機体は真っ二つになって消えていった。
ドドーン
「うわ・・・びっくりした」
中からリュウジが無傷のまま現れる。
ゆっくりと地上に降りていく。
― 毒薔薇の蔦 ―
ドドドドドド
「うわっ」
一呼吸もおかずに、リュウジを縛り上げた。
手ごたえはある。
「はは・・・・ヤバいね。あの機体を真っ二つにするとはね。さすが、シエルの剣の本来の力か・・・。ゲーム”ユグドラシル”ねぇ、懐かしいよ」
「余裕そうだな。結構きつく締めあげてるつもりだが?」
「痛覚がないからね。あとは、エリアスがいるし、待ってるだけだ」
「へぇ・・・」
縛り上げられているにもかかわらず、笑ってエリアスのほうを見ていた。
人間だったら悲鳴を上げて失神するものを・・・。
ザッ
「ヴィル、ここはレナに任せてください」
レナがにこっとした。
― 変革の杖 ―
レナが身長と同じくらいの、真っ白な杖を持って歩いてきた。
2つの箱の傍には、勇者ゼラフが腕を組んで立っている。
「”ヴァルハルの舞”は魂を均衡にする舞です。異世界のアバターも人に近づきます。肉体は向こうにあるので、五感だけでしょうけどね」
「お前ら・・・」
「エルフ族の巫女はレナだけですが、一人くらいなら、レナだけで十分です」
「!?」
「レナは貴方たちを許さないのです」
レナが怒りに満ちた表情で、杖を大きく掲げた。
ゆっくりと舞が始まる。
地面を蹴ってレナから離れた。
しばらくすると、リュウジの叫び声が聞こえた。
「へぇ、なかなかやるようになったな」
オーディンが宙に浮いて、剣をしまっていた。
「オーディン、ゼロの戦況はどうだ?」
『ゼロは強い。俺たちはあの魔法陣を完成させるまで時間つぶししていただけだ。見てみろ』
オーディンの視線の先を見る。
「・・・あれが・・・全て魔法陣?」
『気づかなかったな・・・まぁ、あの女の子供ってだけあるか』
エリアスが感嘆の声を出していた。
『ゼロ、俺を本気で消す気なの?』
「当然だ」
スレイプニールに乗ったゼロが、左手を動かして魔法陣を光らせる。
重なり合っていて確認しにくかったが、100、いや、500はあるだろうか。
エリアスの機体を隙間なく、折り重なるように覆っていた。
これだけの魔力・・・いつの間に・・・。
― XXX XXXXX ―
ブオン
小さな魔法陣に剣を刺し、一気に発動させた。
「守ると決めたんだ。俺は今度こそ負けるわけにはいかない!! 絶対に!」
ダダダダダダダダ
『ぐっ・・・・シールド展開が』
炎や風、雷、氷、水、光、闇、無、全ての魔法陣がエリアスの機体を貫く。
シールドを無効化、数十秒の間、止まることなく攻撃し続けた。
機体が煙となって消えていく。
エリアスが飛び出てくると、すぐにリュウジのほうへ寄っていった。
「リュウジ!!!」
「う、うあああああぁぁぁ」
リュウジが毒薔薇の蔦に縛り上げられて悲鳴を上げている。
「巫女か・・・クソ・・・」
「うわぁぁあああ」
エリアスが短剣を燃やして、毒薔薇の蔦を焼き切る。
「うぐっ・・・・」
ドサッ
「はぁ・・・い、痛い・・・」
「大丈夫か? 痛みを和らげるモードが確か・・・」
エリアスが空中で指を動かした。
リュウジの汗が引いていく。
「ふぅ・・・・・・悪い。油断しすぎた・・・はぁ・・・はぁ・・・えげつないな。立てないよ・・・・」
「このアバターは毒にやられてる。リュウジ、すぐにアバターを変えて戻ってこよう。まだ試していない予備はたくさんある。いったんログアウトして・・・・」
エリアスがリュウジを支えながら魔法陣のほうへ歩いていく。
「!」
レナが目を開けて、『ヴァルハルの舞』を止めた。
― デバッグ・オン・タスクモード起動 ―
ナナココが杖を回す。
しゅううう
「行かせないよ?」
ナナココがリュウジとエリアスと自分をドーム型のシールドの中に入れた。
シールドには、異世界のコードのような文字が書かれている。
「!?」
「ナナココ!!」
「メイリアたん! 危ないって」
「だって、やっと私たち仲間になれたのに・・・」
「仲間って言ってもらえて嬉しいよ」
ナナココが振り返ってほほ笑む。
追いかけてこようとしたメイリアを、トムディロスが引き留めていた。
「身体が動かない?」
エリアスが自分の手を見下ろす。
「”オーバーザワールド”をめちゃくちゃにして、全ユーザーを追い出して、私だけにウイルスを仕込んで、配信できなくさせたこと、恨むから」
「ウイルス・・・まさか、俺たちにもウイルスを仕込んで・・・」
「そんなことできないはずだ。俺らのアバターにはウイルスを除去する機能があるから・・・」
「個人情報を晒すウイルスがこのコードなんだって。テラに方法聞いて、今、流出させた。あんたら情報はネットの海を流れてるよ」
ナナココがドームの内側に流れていく文字をなぞりながら言う。
「なっ・・・・」
「自分でやったことでしょ。ナナココたちはこの世界にいるべきじゃないよ。確かに、居心地いいからずっといたくなるのはわかるけどさ」
エリアスの顔色が変わった。
「でも、いたら世界を壊してしまう。ずっと今まで、ナナココは傍で見てるだけで何もできなかった・・・でも、最期だけ何かできそうでよかった」
ナナココがシールド越しにこちらを見上げる。
「みんな、今までありがとう。ナナココにできる最大限のことは、こいつらを自分もろとも強制ログアウトさせることだから。お別れだね。ここにいた経験、一生忘れないよ。配信でこの世界の話、してもいい?」
「好きにしろ」
「ありがと。また、バズれるかも。でも、全部話すのは勿体ないかな」
ナナココが力なく笑う。
「ナナココ・・・」
ゼロが悲しそうにナナココを見つめる。
「結局、配信させてやれなかったな」
「ふふ。配信も、もう少し考えるよ。リスナーと距離を置く、いい機会だったのかもしれない。ゲームは自分が楽しくなきゃね」
ドームが黒くなっていく。
「もう行かなきゃ。ばいばい」
ナナココが手を振った。
― KILL -
「離せ!!」
ザアアァァァァ
コードの流れていたドームが消えて、ナナココ、リュウジ、エリアスがいなくなる。
読んでくださりありがとうございます。
最終章って感じですね。
話はガンガン進めていくので、是非是非ブクマや★で応援いただけると嬉しいです。
また是非見に来てください! 来週アップします。




