491 ラグナロク ~命を・・・②~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
キィンッ
バチ バチバチッ
ゼロがエリアスに剣を振り下ろす。
エリアスはオートモードでシールドを展開していた。
「剣に触れなくても、水と電流を流して、このアバターに誤作動を起こさせようとしてるのか。一応考えてるね」
「・・・・・・・」
「でも、甘いよ」
ゼロが離れて剣を持ち直す。
魔法陣を複数展開していた。
「ゼロ、君の身体は俺が作ったんだ。性能は熟知しているつもりだよ。相性最悪だと思うけど、このまま戦闘続けるの? 負けるよ?」
「俺が勝つ」
「へぇ、そんな自我をインストールした覚えないんだけどね」
エリアスが小ばかにするように笑った。
ゼロがすぐに地面を蹴って、エリアスに斬りかかっていく。
魔法陣を発動させながら、攻撃の属性を変化させていた。
「レナはあの箱が割られないように見張っててくれ」
「え・・・でも・・・・」
レナが両手で杖を持って、2つの箱を見つめた。
「あの箱が割れたら、みんな死ぬ。頼む」
「わかりました。全力で守ります」
言いながら、俺とゼロに攻撃力と防御力のバフを付与した。
手を上げて礼を言う。
「ってことは、俺の相手は魔王ヴィルか」
「そうだ。ユイナが突然いなくなって、魔族たちが悲しんでるんだ。敵は討たせてもらう」
「懐かしいね。ダンジョンで会ったときは、まさか君と戦うことになるとは思わなかったけど」
リュウジがモニターを出す。
「一応、全力で行かせてもらうよ。俺には俺の計画がある」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「!?」
空に展開された魔法陣から人のような形をした巨大なロボットが現れる。
リュウジがふわっと浮いて、ロボットの中に入っていった。
真っ白な機体と翼の境目が閉じていく。
「あ、そっちはもう出したんだ。じゃあ、俺もやるか」
エリアスがゼロの攻撃を避けながら、モニターを出す。
ドドドッドドッドドッドド
濃い緑色のの人型のロボットが現れる。
細やかな違いはあったが、色以外はほとんどリュウジの出した機体と同じだった。
軽く飛んでゼロに近づく。
「魔神にも似てるが、メタルドラゴンに近いのか・・・? いや、セイレーン号か?」
「どちらにしろ、世界観無視のやりたい放題だね。この魔法で成り立つ世界に、ロボットを召喚させるなんてさ」
ゼロが飛び上がりながら、複数の魔法陣をエリアスの機体に向けていった。
「ヴィル、気をつけて。ロボットってデバフ効かないから」
「見りゃわかる。自分のこと気にしろ」
「はいはい」
息を吐いて、両手をかざす。
― 地獄の業火 ―
ゴオォオオオオ
魔王の剣で黒い炎を広げながら、リュウジのロボットに斬りかかろうとした。
ガッ
「・・・!?」
一瞬で、リュウジが乗った機体の手に掴まれた。
身動きが全く取れない。
魔王の剣が消えていった。
「ヴィル!」
「俺に構うな!!」
「・・・・・・」
ゼロがすぐに切り替えて、エリアスの攻撃を避ける。
機体の目の部分からリュウジが座っている姿が見えた。
『魔王の剣程度の攻撃力じゃ、この機体はびくともしない。そもそも君らが勝てるわけないんだ。ここはエリアスが創造した世界なんだから』
ロボットの中からリュウジの声が聞こえる。
『負けを認めて、俺たちに従ったら?』
「笑わせるな」
『”死の楽園”に足を踏み入れた時点で、君らの負けは確定してる』
リュウジが俺を掴んだまま、顔を近づける。
ドオオオォオオオ
ゼロが展開した魔法陣が一気に発動する。
エリアスの機体が煙に包まれた。
『ユイナに楽しい思い出を作ってくれたことには感謝するよ。でも・・・』
「なんでこれくらいで勝てると思ってるんだよ」
笑い飛ばす。
― XXXXXX XXXX
エインヘリャル(戦死した勇者)、気高き力を貸せ ―
ドォン
ギギギギギ・・・ジジジジジジ
『おっと』
オーディンが現れてすぐに、リュウジの機体の腕を切り落とした。
マントを後ろにやって体勢を立て直す。
13人の戦死した勇者たちが次々に降りてきて、俺の周りを取り囲んだ。
『ん? なんだ? コレは・・・魔神か?』
『異世界のロボットというものらしいな。俺もよくわからないが』
『ラグナロクを起こした奴らか』
『・・・・・・・・』
オーディンが無言で剣を持ち直す。
シュルルルルルルル
リュウジの機体の腕が元に戻っていく。
『言っただろ? ここはエリアスが創造したエリア。どんなに元の世界の最強の者たちが集まったって、敵うわけがないんだ』
手を握ったりして、動きを確認しているように見えた。
切り落とされた腕は地面に落ちると同時に消えていた。
「ここは元はアリエル城だったが、今は『クォーツ・マギア』という異世界の一部になっている。この場で戦える仲間は俺とゼロとレナだ。他に戦力となる者は捕えられてる」
『異世界の一部? 確かに、この場所だけ違うな』
『簡単に言うと圧倒的不利な状況ってことか』
「あぁ」
ゼロが複数の魔法を全て弾かれていた。
エリアスの攻撃をかわしながら、隙を狙っている。
「半数はゼロの援護を頼む」
『承知した』
戦士した勇者たちが瞬時に状況を読んで、掃けていった。
オーディンがこちらを気にしてから、ゼロのほうに向かう。
― ストリーム・グロシアス ―
勇者の一人が竜巻を起こす。
風に乗るようにして、リュウジに向かって次々に斬りかかっていた。
『状況はわかったよ』
魔王の剣を出すと、ゼラフが近づいてきた。
『レナたちはどこにいる?』
「地上だ。レナは『クォーツ・マギア』の魔法で小さくなって捕らえられた仲間を守っている」
『なるほど・・・』
ゼラフがレナのほうを見て、深刻な顔をした。
『俺はレナと話してくる。魔王ヴィル、なるべくこの、異世界のフィールドの魔力をモノにしてくれ。俺たちは補助はできるが、ラグナロクはこの世に生きている者しか止められない』
「あぁ・・・そうだな」
魔王の剣では刃が立たないことはわかり切っていた。
エインヘリャル(戦死した勇者)は一時的な足止めに過ぎない。
状況は圧倒的に不利。
こいつらは俺たちに対して、プレイヤーがゲームのボスを倒す感覚だ。
肉体はこちらに無いし、アバターには痛覚がない分、怖いものがない。
”死の楽園”はエリアスが自由に創ったフィールド。
今までの俺たちの行動は、ほとんど奴らの読み通りなのだろう。
このまま持久戦に持ち込まれれば、90%の確率で俺もゼロも死ぬ。
「・・・・・・・」
あの、『ユグドラシル』のゲームを終わらせたときと同じくらいの力が必要だ。
だが、サリーはもう危険だ。
他の上位魔族は捕えられている。
手の甲に触れる。
異世界の力を全て解放し、暴走させるか?
いや、それは・・・。
― 魔王ヴィル様 ―
「!?」
頭の中で声が響く。
「誰だ?」
― シエルです ―
思わず下を向く。
レナはこちらに警戒したまま、箱の中で何か起こっている感じはない。
ゼラフがレナの隣に降りていった。
― 魔王ヴィル様、私はこうやって魔王ヴィル様の最強の武器として、直接脳内にお話しすることができるようです。ベリアル様、って呼んでしまいそうになりますが・・・ ―
「シエル」
シエルにベリアルと呼ばれると、当時の記憶が鮮明になる。
二人で星の女神アスリアを倒し、世界を終わらせたときのことを・・・。
― 私をお使いください ―
「駄目だ。そこから出られないんだろ?」
― 魔王ヴィル様が呼んでくだされば、私はいつでも魔王ヴィル様の武器となれます。だって、私は魔王ヴィル様が大好きですから ―
シエルの声は明るく感じられた。
でも、あの得体のしれない箱からシエルを呼んで武器になったとして、代償はないのか?
エリアスとリュウジがそんな抜け道を作ると思えない。
「危険だ。容認できない。武器のことは気にするな。何とかする」
― お願いです。魔王ヴィル様、ベリアル様。私をお使いください ―
昔のシエルと重なる。
― ここで武器になれず、何も力になれず、魔王ヴィル様が死んでいく姿を見るなんて、残酷なことしないでください ―
「・・・・・・・」
― 奇跡は起こりません。魔王ヴィル様には、私が必要です。この箱に入ったままの状態でも、私たちは死にます。どうか、私に行動するチャンスを ―
戦死した勇者たちと、リュウジ、ゼロ、エリアスの戦闘の音が、遠く感じた。
シエル・・・。
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『星の女神アスリアを倒したので、私たちも死にますね』
『あぁ、このゲームが終わるからな』
崩壊していく世界を眺めながら、シエルがほほ笑む。
『怖いか?』
『いえ、怖くありません。こうして最期までベリアル様といられるのです。きっと、生まれ変わってもベリアル様の傍で・・・』
シエルが首を振って、天を仰いでいた。
『ベリアル様のお役に立つことが、私の生きる意味でした。今、私は最高に幸せです!』
ツインテールを揺らす。
満面の笑みがかすんでいった。
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「・・・シエル、力を貸してくれ」
― もちろんです ―
カッ
目の前にまばゆい光が走る。
現れたシエルの剣を掴んで、上昇していった。
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