490 ラグナロク ~命を・・・①~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
灰色の軍隊は、空を覆う雲のようにも見えた。
― ディズ ド ルイア XXXX ルヴル ―
空中に魔法陣を展開する。
― オン ―
中央にサリーの剣を突き刺した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
魔法陣から無数の炎の剣が現れて、灰色の軍隊を襲う。
こちらに向かってきた者たちが、逃げる間もなく炎に包まれた。
ゼロが右側に回り込む。
― グランド・クロス ―
剣で空中に十字を斬ってから一呼吸置く。
― ディスペア ―
ゴオォォォ
右手を突き出す。
眩い十字の裂け目から巨大な黒い手が現れた。
ゼロの手の動きに合わせて動いていく。
触れた者を次々に消滅させていく。
「気味の悪い魔法だな」
ゼロに近づいた。
「はは、褒めてもらえてうれしいよ。一応、闇魔法も得意なんだ。制限時間は3分、この数だと全ての灰色の軍隊を消すのは難しいかもね」
手を握ると、黒い手は勝手に灰色の軍隊を追いかけていた。
「サリー、まだいけるか?」
サリーの剣の魔法石、ルビーとガーネットが少し黒くなっていた。
魔力を使いすぎたな。
一度、解除するほうがよさそうだ。
「どいてください!」
「マジか」
「やるねぇ」
下を向くと、レナがアリエル城跡地を覆うほどの魔法陣を広げていた。
「マジです。ぼうっとしてたら、死にますよ」
レナが口元に笑みを浮かべる。
俺とゼロが同時に離れる。
― XXX XXXXX XXXXX ―
魔法陣の上で舞いながら、一つ一つ起動していく。
柱のように伸びた光線は、灰色の軍隊を焼き切っていった。
― XXX XXXXXX XXXXX ―
魔法陣の中央で止まり、杖をかざす。
― ビルバ ―
ザアァァァァァァァ
水、風、火、地、全ての属性の柱が混じり合い、竜巻となって灰色の軍隊を広範囲に渡って消し去っていった。
遠くにいた灰色の軍隊は逃げようとしていたが、レナの放った魔法のほうが速かった。
「うわ、あれは反則だよ」
「戦闘に反則は無いのです。ビルバは属性ごちゃまぜの魔法です。敵をどこまでも追いかけて倒します。これで、レナの討伐数が一番です」
レナが自慢げに話していた。
「これで、またしばらく時間が取れそうだな」
「遠くのほうまで見えなくなったよ」
「当然です。持続時間は2時間なので、その間は灰色の軍隊は現れません」
「エグいな」
ゼロが若干引いていた。
「サリー、戻れ」
シュンッ
サリーが元の姿に戻ってふわっと浮く。
ふらつくサリーの手を握り締めて、引き上げる。
「魔王ヴィル様・・・・」
「ありがとな。少しは慣れたか?」
「・・・はい! 武器としての力の使い方が分かった気がします。魔王ヴィル様のお役に立てて光栄です。懐かしい感覚でした」
目を輝かせて嬉しそうにしていた。
「そうか。助かったよ」
「ガンガン使ってください! 私はまだまだ戦えますから!」
「・・・・・・」
サリーは魔力を解放しすぎている。
隠そうとしていたが、魔力が底をつきそうになっているのがわかった。
回復にしばらく時間が必要だ。
「ねぇ、ヴィル。なんか中央にある魔法陣、青い渦みたくなってない?」
「ん?」
草原を下りていった先に見える魔法陣が模様を変えていた。
ぐるぐると時計回りに渦巻いている。
ザッ
「!?」
突然、エリアスとリュウジが渦の中から現れた。
2つモニターを出している。
「あ、魔王ヴィル様!」
「サリーはトムたちのところに行っててくれ。できるだけ体力魔力を温存しろ」
― 魔王の剣―
魔王の剣に炎をまとわせて、エリアスとリュウジのいるほうへ飛んでいく。
ゼロが隣で小さく詠唱を始めていた。
「ゼロ、今は何もしないほうがいい」
「なんで?」
「嫌な予感がする。勘だ。魔王としての、な」
「・・・・」
妙な胸騒ぎがして、落ち着かなかった。
周囲に視線を向ける。
自分がゲームの世界にいたときの記憶によるものかと思っていた。
でも、おそらく違うのだろう。
「了解。実は俺も嫌な予感がするんだ」
「・・・・・・」
緊張感が走った。
「安心してください。ヴィル、ゼロ」
「なんで・・・」
「勇者ゼラフと旅をしていた時、ラグナロクを起こしたのは異世界の者でした」
レナが短い髪をなびかせて、目線を合わせる。
「!?」
「は?」
「だから、レナは一度経験しています。必要以上に心配する必要ありませんから」
レナが聞こえるか聞こえないかのような声で言った。
「そうゆう重要なことは早く言えよ」
「異世界の者? って、そんな昔から・・・? 聞いたことないけど・・・」
「・・・・・」
レナは何も言わなかった。
真剣な表情で、真っすぐ前を見つめている。
「お、さっそく来たね」
「魔王と勇者とエルフ族か。ゲームのラスボス戦って感じだ」
リュウジとエリアスが笑いながらこちらを見る。
「・・・・・・・」
灰色の軍隊を消滅させたことに、何の動揺も無い。
「そういえば、アイリスが見当たらないけど、停止したままなの?」
「お前らが何かしたのか?」
2人から距離をとって、地上に足をつける。
レナとゼロが隣に並んだ。
「何もしてないよ。な、エリアス」
「あぁ、全然関わってないね。単なるキャパオーバーじゃないの? アイリスはこの世界の魔法を一通り使えるんだろうけど、人工知能だからね。アンドロイドと似たようなものだ」
エリアスが手首を叩いて、自分の装備品を切り替えていた。
「古くなったアンドロイドは停止するんだよ。アイリスもその時期だったんじゃない?」
「ひどい! なんてことを言うんですか!?」
「レナ」
「でも・・・・」
杖を氷の剣に変えたレナを止める。
息を吐いて、怒りを収める。
感情を制御しなければ、こいつらには勝てない。
「ここまで挑発しても、襲い掛かってこないのか。懸命だね」
リュウジが剣を地面に突き立てると、中央の魔法陣から透明なひし形の箱が現れた。
「!?」
「なっ・・・!」
中にいたのは、手のひらほどの大きさになった、サタニア、ジオニアス、アベリナ、ミーナエリス、デンデ。
もう一つの透明な箱にも、シエル、カマエル、ザガン、オベロンが入っていた。
『ゼロ、ヴィル・・・』
『こんなはずじゃなかったのに』
サタニアがガラスに触れて、声を出す。
後ろでは、アベリナが座りながらぶつぶつ言っていた。
『申し訳ありません、魔王ヴィル様!』
『不覚だったよ。どんな魔法も無効化されて、植物に眠らされた。目が覚めたらこの中にいたんだ』
オベロンが寝転がりながら、眉間にしわを寄せていた。
「何をした!?」
「まぁまぁ、落ち着いてって。これはマジカルボックスといって、身体を小さくして閉じ込める箱なんだ。ネーミングセンスはともかく、便利な箱だよ」
リュウジが人差し指で、ふわふわ浮く箱を突いていた。
エリアスが軽く伸びをする。
ガンッ
カマエルが内側からガラスを蹴る。
『クッ・・・こんなところで足止め喰らうとは・・・』
「貴様!!!」
ゼロのこめかみに血管が浮き出ていた。
深く息を吐いて、今にも飛び掛かろうとするのを耐えていた。
「この世界を支配するには、当然、君らが邪魔らしい。本当は全員こうしてしまうつもりだったんだけど、君らは見つからなくてね」
エリアスがさっと手をかざしてモニターを消した。
「ま、星の女神と、魔王ヴィル最強の武器だけでも封じられたのは大きい」
「あとは君らを倒すだけだ」
「・・・と、その前に・・・」
エリアスが両手を上げる。
「マジカルボックス(コレ)は置いておこう。戦闘の邪魔になる。あ、壊れるとみんな死んじゃうから、下手な真似はしないほうがいいよ。この魔法は『クォーツ・マギア』の”死の楽園”が生み出した魔法の一つなんだ」
2つの箱が、祭壇の柱に一つずつ載った。
「ちなみにマジカルボックスは、ただ閉じ込めているだけじゃない。中にいる者が持っている情報を全て吸収したら、自動的に壊れる」
「!!」
「”死の楽園”に相応しい魔法だよ」
「エリアス・・・・」
「ゼロ、君と直接戦うことになるとはね。残念だよ。元々こっち側にするつもりだったんだけどね」
「貴様を・・・許さない・・・・」
ゼロが目を赤く血走らせて、剣を握り締めていた。
サタニアたちがひし形の箱の中から、不安そうにこちらを見つめている。
読んでくださりありがとうございます!
決戦の火蓋が切って落とされました!
テンポよく駆け抜けますので★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
是非、また見に来てください!