489 ラグナロク ~再会~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
マントを後ろにやって、ゼロのほうへ飛んでいく。
「お、ヴィル。終わったのか? 手こずってた?」
「いや、近くで灰色の軍隊を見たかっただけだ」
サリーの剣の魔法石をルビーからサファイヤに変えて、魔力を整えていた。
「なるほど。どうだった?」
「コミュニケーションは取っている。でも、各々に自我があるとは思えない」
「一体をコピーして増殖させたってことか。だよね、この数は」
ゼロが放った一撃で、灰色の軍隊は一時的に消滅していた。
天高く、遠くのほうに灰色の塊が見える。
「アレが灰色の軍隊になって降りてくるのか」
「根源を絶たなければ、エンドレスだな」
「ゼロ! ヴィル!」
トムディロスの叫び声が聞こえた。
「大変だ! リョクが体調悪そうなんだ・・・・」
「僕は・・・平気だよ・・・少し疲れただけ・・・」
リョクがトムディロスに支えられてぐったりしていた。
すぐに地上に降りていく。
「リョク、どうした?」
「魔力が無くなりかけてるのか?」
「ヴィル、とりあえず移動しよう。灰色の軍隊はまだここに到達しないはずだ」
「あぁ」
リョクの身体を抱えて、雪の地の境界線の近くの草むらに寝かせた。
「ごめん・・・僕、大丈夫だって言ってついてきたのに・・・」
「いや、ここまで連れてきてくれたこと、感謝するよ」
リョクの額は冷たくなっていた。
― 肉体回復―
「あ、ありがとう」
「気休め程度だ。悪いな」
「ううん・・・・」
「おそらく、灰色の軍隊の瘴気だな。水の国の精霊は、瘴気に弱いはずだ。ここは”死の楽園”の中心部。対策していると思うけど、かなりきついんだろ」
ゼロが屈んで、リョクの目を見る。
「早急にリョクは戻ったほうがいいな」
「あぁ、雪の地の地下まで送っていく。リョクゲートを開けてくれ」
「・・・・・・」
「俺たちは、その間にトムと灰色の軍隊を止めてるよ。奴らが外に出て行ったら大変なことになるかな」
「え、お、俺? や、やるよ。もちろんやるけどさ」
トムディロスが今にも泣きそうな顔をしていた。
「よろしくな」
「ま・・・任せて・・・」
消え入るような声で言う。
「待って・・・僕・・・ここに居たいんだ・・・」
リョクがぜぇぜぇしながら、胸を押さえて体を起こす。
「リョク・・・・」
「精霊にこの場所は危険だ。最悪消滅してしまう」
「魔王ヴィル、ゼロ・・・君たちといると、何か思い出せそうなんだ。僕の大切な約束・・・向こうは僕を見てもわからないかもしれないけど・・・誰かが僕のことを迎えに・・・」
パリンッ
砂漠のエリアからエヴァンとレナが飛び出してくる。
割れたガラスのように、境界線らしき破片が散らばっていた。
「うわー、やっと抜けたよ・・・暑かったな」
「レナのシールドをもってしても、ここまで暑いとは・・・。レナは暑いのが苦手なのです。暑さを軽減するシールドを元に戻して・・・と」
「あー、やっと呼吸ができる。メイリア、ナナココ、ドレーク、無事か?」
エヴァンが後ろを伸びをした。
「・・・君ら化け物か?」
「100体ものゴーレムを数秒で消滅させるなんて。しかも、岩がそびえたつあの地形で・・・」
ドレークとメイリアが目を丸くして、ユニコーンに乗っていた。
ナナココが後ろから顔を出す。
「ナナココもさんきゅ。君が言った通り、あの祭壇の魔法陣はフェイク。ゴーレムを直接境界線にぶつければいい、なんて思いつかなかったよ」
「あの暑さから永遠に抜け出せなかったらどうしようかと思いました」
「大体のゲームはバグがあるんだよ。今回は上手く見つけられただけだから」
ナナココがこちらを指さす。
「魔王ヴィルと勇者ゼロ一行が先に着いてたみたいだよ」
「まぁ、ヴィルたちは当然早いよね」
エヴァンがこちらを見た。
「!?」
リョクを見ると、エヴァンがすぐに飛んできた。
レナが後に続く。
「どうしたの?」
「もしかして、君はリョクなのか?」
「え?」
リョクが驚いたような表情で、エヴァンを見つめた。
「違うよ。僕はリオナで、水の国の・・・」
「俺が間違えるはずない! 君はリョクで・・・俺の推しの望月りくだ」
「・・・エヴァン・・・・?」
「やっぱり『クォーツ・マギア』に転生してたんだ」
「え・・・・」
エヴァンがリョクを抱きしめる。
「あとは2人に任せて大丈夫そうだな」
「エヴァン、リョクは弱ってる。ここの瘴気は合わないんだ。元いた場所に送っていってくれ」
「うん」
「・・・・・・・」
リョクのエメラルドのような瞳が潤んでいた。
「トム、ほら、行くぞ」
「え、全然、話についていけてないんだけど。いや、邪魔だってことはわかったけどね。うわぁぁあああ、メイリアたん!!!」
トムディロスがメイリア目掛けて勢いよく走っていった。
「やかましい奴だな」
ゼロがため息をつく。
「よかったですね。エヴァン・・・」
レナが隣に駆け寄って来た。
「姿変ってるのに一瞬でわかるって、あいつ何者だよ」
「ヴィルだって、アイリスだったらわかるんじゃないですか?」
「・・・・・・」
「そうゆうものです」
レナがからかうように、にやけていた。
「で? お前らは砂漠の地から来たのか?」
「そうですね。ナナココがバグを見つけてくれなければ、あそこに閉じ込められていました。雪、砂漠、水、生態系の乱れた植物・・・・”死の楽園”はラグナロクに相応しいですね」
「あぁ・・・」
俺たちもリョクに出会わなければ、雪の世界からの脱出方法が見つからなかった。
クリアすることを想定して作られたゲームではないな。
「他のメンバーは大丈夫でしょうか?」
「奴らは強い。そのうち来るだろ」
「そうですね・・・」
レナが不安そうに、植物の地と水の地のほうを見つめていた
涼しい風が草原を撫でる。
中央にある祭壇の魔法陣に変化はない、か・・・。
「あーあ、絶対レナたちが一番だと思ってたのに、ヴィルたちのほうが早いとは・・・。残念です」
杖をくるくる回しながら、口を尖らせた。
「あまり悠長なことも言っていられない。空を見てみろ、灰色の軍隊が集まってきている」
灰色の軍隊はさっきよりも数が増えていた。
「あ」
ナナココがユニコーンから降りて、天を仰ぐ。
「あれが、灰色の軍隊。装備品を切り替えなきゃ」
モニターを出して、装備品を切り替えようとした時だった。
「!?」
「ん? どうした?」
ゼロが後ろからモニターを見つめる。
「エラー・・・『装備の切り替えはできません』だって。何度表示してもダメ。この装備で戦うならすぐ死にそうだなぁ。火力に特化しちゃったから」
槍をかざす。
「まぁ、いっか。戻ってからの配信のネタは十分あるし、次で死んでも・・・」
「じゃあ、後方支援でいいよ。灰色の軍隊は俺たちで抑え込むから。トム、メイリア、ドレークもここに居てくれ」
「了解だ。可愛い女の子を守るのが僕の役目。ナナココ、是非、僕に君を守らせてくれ」
「相変わらずだな」
ゼロが呆れたような顔をしていた。
「トム、無事だったのね。ケガはない?」
「うん、メイリアたん、誰かに変なことされなかった? 大丈夫だった?」
「変なこと・・・? う、うん。戦闘はエヴァンとレナが前戦に立ってくれたから、私は何もできなくて申し訳なかったけど・・・・」
「いいよ、いいよ。メイリアたんに怪我があったら大変だ」
トムディロスがさりげなくドレークからメイリアを引き離していた。
「さぁ、ナナココ。おいで」
「ねぇ、あの数を? 抑え込めるの?」
ナナココが、ドレークが差し出した手を無視する。
ドレークは照れ屋さんだな、と言いながらユニコーンを魔法陣に戻していた。
「大丈夫。でも、このままならずっと続くから対策は考えなきゃいけないけどね」
「・・・・うん。ありがとう。対策は何かないか考えるね」
ナナココが槍に埋め込まれた赤い魔法石を見て、頷いた。
「ゼロ、来るぞ」
「では、レナも行きます。さっきの戦いでは、エヴァンよりも倒した数が少なかったので、ここで討伐数増やします」
「んなこと気にするか?」
「あとで、エヴァンに自慢されるのが嫌です」
レナが軽く笑う。
杖を氷の剣に変えて、飛び上がった。
ゴオォオオオオオオオオオオ
灰色の軍隊が雲のように広がりながら、こちらに押し寄せてきた。
サリーの剣に魔力を集中させて、地面を蹴った。
読んでくださりありがとうございます。
リョクとエヴァン、再会できてよかったです!
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
風邪ひいてますが、皆様も季節の変わり目ご自愛ください。
また是非見に来てください!




