486 ラグナロク ~水の精霊②~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
リョクは普段は『クォーツ・マギア』の水の国を守る精霊で、プレイヤーやVtuberたちに水の国を案内したりしているのだという。
人工知能で動くVtuberからは”望月りく”の名前で聞かれるらしい。
「僕はリオナって名前なんだから、おかしいんだけどね。でも、不思議とその名前のほうが馴染むんだ。ほら、こうゆうのはきっと前世の記憶っていうんだろうね」
クォーン
ギルバートとグレイがリョクに鼻を近づけた。
リョクだとわかるらしい。
「あはは、僕、ドラゴンに好かれやすいんだよね。くすぐったいなぁ。ギルバートとグレイ、よろしくね」
「どうやってアリエル城まで行くんだ?」
「今、ゲートを展開中だよ」
リョクが手を伸ばすと、凹凸模様の光りが走った。
壁の一部が青と白に点滅している。
ジジジジ ジジジジ・・・・
「もどかしいと思うけど、ちょっと待ってて。エリアスに見つからないように、地下ゲートの通路を解放してるから、整備がされてなくて時間がかかるんだ」
手を降ろすと、元の壁に戻った。
「そこの席に座って。ハーブティーは飲める? 体力と魔力を回復させたほうがいいよ。特にトムディロスは、魔力がゼロに近いみたいだから」
「あぁ、ありがとう」
席についた。
「・・・・・」
トムディロスが少しびくびくしながら、双龍の背中から降りた。
ギルバートとグレイがほっとしたように、その場にふせる。
「リョク・・・いや、リオナは水の国で楽しくやってるのか?」
「ふふ、リョクでいいよ。なんだかそっちのほうが慣れてきちゃった。はい」
リョクがハーブティーを置いていく。
ゼロとサリーが周りの者たちを気にしながら椅子に座った。
真っ白な毛に包まれた者が、ぽんとゼロの膝に乗った。
「なんか癒されるなぁ。トム、そんなにいちいち驚くなよ」
「驚いてない。ただ、びっくりしただけだ」
「同じことじゃん」
トムディロスがハーブティーを飲んで、肩を上げていた。
「おぉ、すごい。一気に回復するね」
「でしょ? 水が良ければハーブも活力を与えるんだ。ハーブをたくさん用意しておいてよかった。こうやって、誰かがこの地に来るなんて初めてだからね」
リョクが髪を後ろにやってほほ笑む。
「君たちは、別の世界の人たちなんだよね?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ゼロと目が合った。
少し沈黙する。
「大丈夫、知ってるから。このエリアだけ別の世界と接続されてるって、この子たちに聞いたんだ」
足だけの者が跳び回っていた。
トムディロスが少しむせて、サリーが背中をさすった。
「君たちの仲間がどこにいるのかはわからない。僕はこの場所の地下にいるから、エリアスが感知できないんだと思う。アリエル城でみんなが生きて再会できる確率は・・・・正直、0に近いと思うよ、だってここは・・・」
「大丈夫だ」
「あぁ、そこは心配していない」
「へ・・・・?」
リョクが目を丸くする。
「だって見たでしょ? あの敵がうじゃうじゃいて、止むことはない」
「サタニアは星の女神だ、言うまでもなく強いんだよ」
ゼロが強い口調で言う。
「もう一つのパーティーは、エヴァンとレナがいれば無双できるでしょ」
「シエルとオベロンのパーティーも戦力としては心配ないんだけど、オベロンはのらりくらりとかわすからな。シエルの負担になってなきゃいいんだが」
「あいつは昔から追い込まれないと力を出さないんだよな」
ゼロがハーブティーを飲みながら言う。
オベロンは元々、七つの大罪の中では一番強い。
自分が頼られたくないから、いつも力を押さえているけどな。
「・・・・エヴァン・・・?」
リョクがぼうっとしながら呟く。
「何か思い出したか?」
「ううん。何でもない・・・」
リョクが困惑したような顔で、こめかみを押さえていた。
「ねぇ、どうして、危険を冒してまでこの子たちを助けようと思ったの? 俺だったら絶対そんなことしないけど」
トムディロスが、手だけの者が持ってきたお菓子をぼりぼり食べていた。
「君は・・・」
「あ、俺は”オーバーザワールド”のキャラだから、この3人とは違うんだ。ポセイドン王国第三王子、ぶっちゃけモブに近いけどね」
「そっか。確かに僕のやってる行為はバグと呼ばれる行為で危険だ。でも、バグの上に僕らが創られてるのに、この子たちが捨てられて忘れられてるなんて放っておけない。できる限り見つけて助けていく。僕の使命だ」
「・・・・・・」
リョクは、どこかで罪悪感が残ってるのかもしれない。
見えない何かを背負っているようにも見えた。
「確かに、俺もこの状況は理不尽だと思うよ。多くのバグを捨てて、自分だけが完全な体を持つなんて」
「ゼロ・・・」
ゼロが長い瞬きをして、壁際で様子を伺っている者たちを見つめた。
「でも、ほら、リョクはそんなに気にしなくていいんじゃない? 固いって」
「え・・・・?」
「君は君の幸せのために動きべきだよ。な、ヴィル」
「そうだな。リョクは、この世界に転生したんだろ? 水の国の精霊として」
リョクが目を泳がせる。
「・・・そ・・・そうだけど」
「使命とかよりも、自分のことを考えろ」
「僕の、幸せ・・・考えたことも無かった」
リョクが少し頬を赤くして、胸に手を当てた。
「幸せ・・・なんだろう。この感覚は・・・」
「まぁ、俺らとアリエル城に行けば、リョクに会いたがってる人がいるから会ってやってくれ。面倒だと思うけどな」
「それはっ・・・・」
ガタンッ
リョクが思わず立ち上がった。
ジジジジジジ ジジジジジ
電子音が鳴り響く。
リョクが表情を変えて、手を伸ばした。
― XXXXXX XXXXX XXXXXX ―
暗号のような言葉を唱えると、幾何学模様に囲まれた通路が現れた。
「ゲートが開いた。この通路をまっすぐ行けば、君らの目指すアリエル城だ。ハーブティーを飲んで体力と魔力の回復が確認出来たら、案内しよう。僕が導けば、迷うことはない」
「ありがとう」
キーキー
「ルウ、大丈夫だよ。僕のことは心配しないで」
一体の真っ白な毛玉が、鳴き声を出してリョクの足の周りを回っていた。
「俺たちが一番乗りかもな」
「灰色の軍隊と最初にやるのは俺らか。準備しておかなきゃな」
「魔王ヴィル様、どうか私をお使いください」
サリーが前のめりになる。
「使う?」
リョクが首を傾げた。
「私は魔王ヴィル様の武器になることで力を発揮できます。どうか・・・」
「あぁ、その時はよろしくな」
「はい!」
サリーが嬉しそうな顔で頷いた。
「へぇ・・・武器か。すごいなぁ。命を捧げる契約だね」
「ヴィルだけが使える力だ。魔王って感じだよね」
「からかうなよ」
ゼロが手を組んで笑っていた。
「ん?」
ピピピピ ピピピピ ピピピピ
手だけの者が鳴き声を出しながら、リョクに何か話している。
「あ・・・そうだね。言わなきゃいけないね」
リョクがカップを置いた。
「なんのことだ?」
「エリアスたちと戦闘になるだろう。もし、君たちが勝ったとしても、『クォーツ・マギア』の”死の楽園”は君らの世界と繋がったまま切れることはない」
「そこなんだよね・・・」
「あぁ、”オーバーザワールド”も切れないしな」
ゼロと話していたことだった。
エリアスとリュウジを倒して、全ての敵を殲滅させても、”死の楽園”があり続ける限り、奴らは戻ってくる。
奴らのこちらでの死は、ただのアバターの死。
いくらでも死んで、戻ってくることができる。
各地に勇者がいるとはいえ、そんな長い期間の戦闘を世界が耐えられるのか?
今でさえ、放たれたメタルドラゴンに苦戦していると"003"が話していたのに。
ゼロは今回のラグナロクで、世界が壊れるかもしれないと話していた。
終末の鐘は鳴った。
時の神クロノスが焦っている通り、世界は崩壊に進んでいる。
「君たちの世界から”死の楽園”を切り離す方法はあるみたいだ」
「ん?」
「ネットにある異世界との接続記録に残っていたんだ・・・本当かどうかはわからないけどね。参考程度に聞いて」
リョクがエメラルドのような瞳を伏せがちに、ぽつりぽつりと話す。
リョクの話は、なんとなく、俺もゼロも想像できたことだった。
一度接続した世界は、何かを犠牲にしなければ、引き剥がすことはできない。
「・・・・・・・」
サリーがカップをカタンと鳴らす音が響く。
トムディロスが青ざめて、口をつぐんでいた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
体調が大幅にダウンです。皆様も季節の変わり目、どうか気をつけてください。
また是非見に来てください。
なるべく早くアップできるようにします!




