485 ラグナロク ~水の精霊①~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
「はぁ・・・・・」
「ギルバート、グレイ、悪いな」
トムディロスがだらんとしながら、双龍の背中に乗っている。
クォーン クォーン
ギルバートとグレイは久しぶりに呼ばれて張り切っていた。
『クォーツ・マギア』の空気にも順応している。
「え、双龍って急に暴れたりしないよね? 怖いんだけど、大丈夫だよね?」
「ギルバートとグレイは人間にも慣れてるって」
「ふぅ・・・よかったぁ。あとはよろしくね」
「ったく、強いんだか弱いんだか・・・」
トムディロスは魔神ディオクレスを召喚すると、体力魔力も使い切り、歩けなくなるらしい。
― フィバイルコア ―
ジジジジジジジジジ
ザアアァァァァ
ゼロが剣を振り、電流の混じった風を起こした。
半径100メートル以内にいた敵が消えていった。
「おぉ・・・ここまで効くとは」
「変わった魔法だな」
「エリアスが色んなゲームの魔法を入れてたんだよね。今考えれば、実験的なものだったのかなって思うよ。加減がわからない、なんかビリビリするな」
ゼロが手を振った。
「洗脳が解けてよかったな。エリアスを神だとか言ってたときは正直、イカれたと思ったが・・・」
「あはは、ヤバいよね。脳に常識として入ってたんだ。ん? でも、いつから解けたんだ?」
「知るかよ」
ゼロが剣をしまう。
「魔王ヴィル様、結構歩いたような気がするのですが、まだアリエル城の位置までは遠いのでしょうか?」
サリーがギルバートの首を撫でながら言う。
マフラーで口を覆った。
「サタニアの転移魔方陣の位置から考えると、もうついてもいい頃なんだけどな」
「『クォーツ・マギア』の地図を確認しようか。空間が歪められてるから、通常の距離よりも遠いのはわかるんだけど、さっきから景色が変わらないもんね」
ゼロがモニターを出して、地図を表示した。
「赤いのが現在地、で、〇で囲まれているところがアリエル城だよ」
「全然見方がわからないな」
「建物とか書いてないからね」
真っ白な画面に、赤い矢印と〇しか書いていなかった。
ゼロが指を当てる。
「さっきも、この位置だった気がするな」
「合ってんのか? この地図」
「うーん・・・」
周囲を見ても一面の雪景色だから全然わからないな。
「はぁ・・・本当にプレイヤーのいない場所なんだな。なぁ、ギルバート、グレイ、仲良くしてくれよ。君らの背中に乗ってれば俺は安心だ」
トムディロスが双龍に乗ったまま、グレイの首をさすった。
ゴオォオオオオオ
「!?」
「なんだ? この音は?」
雪崩? いや違う。
この魔力の歪みのようなものはどこかで感じたことがある。
「魔王ヴィル様! あれを見てください!」
ヒュウウウウウウウ
「うわああぁぁああ、やばいやばい、止まらない、ギルバート、グレイ・・・」
トムディロスが必死に双龍の背にしがみつく。
クォーン クォーン
「トム! ギルバート、グレイ!」
「助けてぇぇぇ、うわあああああ」
空中に大きな黒い穴が空いて、トムディロスとギルバートとグレイが吸い込まれていった。
ゼロが軽く飛んで穴に近づいて、手を当てる。
「吸い込まれたほうが都合よさそうだ。直観だけど、嫌な気配はしない」
「え? え?」
「だな。サリーいけるか?」
「この中に・・・だ、大丈夫です。魔王ヴィル様と一緒なら!」
「そうか」
サリーが困惑を誤魔化そうとしているのが伝わって来た。
「掴まれ」
「あ・・・」
サリーを抱えて暗い穴の中に入っていった。
ポケットの中の小瓶が反応している。
― 来てくれて、ありがとう ―
― 僕たちと会ってくれてありがとう ―
― 大切な人へ ―
「!?」
声が聞こえると同時に、視界が明るくなる。
天井から真っ白な光が注いでいた。
「誰?」
エメラルドのような瞳を持つ、長い髪の少女が立っていた。
水色のワンピースをふわっとさせる。
水の精霊? いや、彼女は・・・。
ゼロが前に出た。
「元Vtuberの望月りく・・・だよな?」
「あれ・・・」
少女がテーブルに並べられたカップに、水を注ぎながら言う。
「よくその名前を知ってるね。僕の昔の名前らしいよ。記憶にないんだけどね」
顔や体つきは違っていたが、どことなく、リョクに似ていた。
「望月りく? なんか聞いたような」
「トム、静かに」
サリーがトムディロスに近づいた。
「?」
一体の足の生えた丸い者が俺にすり寄って来る。
「ふふ、ニューニューに気に入られちゃったね」
「リョク、俺らのこと覚えてるか?」
「リョク? んー、その名前も聞いたことがあるような・・・僕らはきっと知り合いだったんだね? なんとなく懐かしい気がして、ゲートを開いたんだ。せっかく来てくれたのに、思い出せなくてごめんね」
「・・・・・」
「誰かに会おうとしていたんだけどなぁ・・・いつも思い出せなくてもやもやするんだ。まぁ、いいんだけどね。いつか僕のところに迎えに来てくれるはずだから」
リョクが呟いてほほ笑んだ。
エヴァンのことも忘れているのか。
「どうして君がこんな場所に? 君は水の国の精霊だろ? それに、ここは『クォーツ・マギア』の”死の楽園”、誰も近づかないエリアだ」
「僕、冒険が好きだからね」
「冒険って・・・」
「それに・・・ほら、見て」
チリン
リョクがテーブルにあった、銀色のベルのようなものを鳴らした。
「!?」
シュウウウウ
壁が七色に輝いて、”人ならざる者”たちが壁から現れた。
片側しか顔がない者、手と足しかない者、黒い球に目しかついていない者・・・。
人になれなかった欠陥品と呼ばれる・・・。
「うわっ」
トムディロスが飛び起きて、グレイとギルバートの後ろに隠れる。
「雪の地にいた敵と同じ? いや、でも大きさも違うし、何より敵意は感じない」
サリーが剣から手を離した。
「敵じゃないよ。もし地上で見つかったら、即消去されてしまう。僕はこの子たちと色々話すために来るんだ。この子たちは、君たちのこと好きみたい」
キーキー
カラカラ・・・
キューキュー
人としての知性はないのか?
数体でごろごろ転がりながら、様々な鳴き声を出していた。
「エリアスが集めてきたのか? こんなところにバグを集めて、何をする気だ?」
「違うよ。エリアスが集めたんじゃない。ここは消去されそうになったバグたちを、僕がこっそり集めたんだ」
「え・・・・?」
「内緒だよ」
リョクが口に人差し指をあてる。
「危険なことは承知なんだ。どうしてこんなことしているのかは自分でもわからない。でも、この子たちを放っておけないんだ。いつか修正して地上に出られるようになったら・・・水の国のエリアに連れていってあげたいな」
俺らを警戒して、壁に張り付いて離れない者もいた。
誰一人として、人の形を保っている者はいない。
「水の精霊ってエリアを跨げるの?」
「基本は駄目。僕はいろいろ工夫しながら、見つからないように来てるんだよ。たまに、こうやってこの子たちのメンテナンスしなきゃいけなくて。この子たちを、放っておけなくてね」
リョクが目を細める。
口と手だけを持つ者が、テーブルからカップを取って水を飲んでいた。
ほんのりと薬草の香りがする。
「全員は集められない。でも、助けられる限り助けたいんだ。僕の手の届く範囲で構わないから」
「そうか・・・・・・」
リョクの傍をふわふわ浮いてる綿毛のような者もいた。
「リョク」
「あ、僕の名前は水の精霊リオナ、リョクじゃないよ。わ、くすぐったいよ。ムーム、今はお客さんと話してるんだから」
綿毛のような者とじゃれていた。
「どうして俺らをここに呼んだんだ?」
「あの雪のエリアは前に進まないんだ。君たちは同じ雪の空間をぐるぐる回っている。君の出していた地図も変わって無かったでしょ?」
「あ・・・あぁ」
「”死の楽園”は甘くない。入ったら最期、抜け出せない上に、確実にゲームオーバーになるからね。プレイヤーでさえ全く近づかないよ」
「・・・」
ゼロが真剣な表情で頷いた。
「このまま歩いていても、君たちが目指している場所には永劫たどり着けない。体力と魔力が力尽きるまで同じ道を通ることになる」
「何か脱却する方法でもあるのか?」
「うん」
リョクがふわふわの耳を持つ者を抱きながら、こちらを見上げる。
魔族だった頃の、弱々しいリョクによく似ていた。
「僕が連れて行ってあげる。君たちの目指してる、アリエル城のあった場所まで・・・」
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ちょっと体調を崩してしまい、次話が遅くなるかもしれませんが、
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