484 ラグナロク ~トムディロス~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
「うわあぁぁぁぁ」
トムが逃げながら叫ぶ。
― グランドクロス ―
ゼロが空中を十字に切り裂いた。
光りが降り注ぎ、手だけ黒い球から出ている魔獣が煙のように消えていった。
トムディロスがゼロの後ろに隠れて震えている。
「トム、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない! 死ぬかと思った。マジで、マジで。うわ、ゼロ! あっちにもいる!」
「落ち着けって。ヴィルがいるだろ」
「だって、だって・・・」
戦闘中、トムディロスのぎゃーぎゃー騒ぐ声だけが響いていた。
ドンッ
「とりあえず剣を抜け。お前だって、ブレイブアカデミアに行ってたんだろ?」
魔王の剣を黒い毛で覆われた魔獣に突き刺しながら言う。
キィイイイイイ
魔獣が奇声を発しながら倒れた。
軽く飛んで、雪の上に降りる。
魔獣が光の粒になっていった。
「情けないなぁ」
「はっきり言うなよ。怖いものは怖い! それに、実戦経験ないし。剣もあまり握ったことないって言うか・・・」
「どうやってブレイブアカデミアの試験突破できたの?」
ゼロが剣をしまいながら言う。
「やるときはやるんだよ! コネじゃないからね!」
「わかってるって。まぁ、いいけどさ」
「この辺の魔獣は強くなった気がします。気配が歪で感知しにくいですね」
サリーが大剣を抱えて、駆け寄って来た。
汗を拭っていながら周囲を警戒する。
「確かにな。敵の形も攻撃の仕方も違う」
「人や魔族の形をしていない・・・目や足、腕、手、身体の一部が多いね。ヒトにんれなかった欠陥品に近いかもしれないな。考えたくないけど・・・」
ゼロが顔をしかめる。
「エリアスならそうゆうことすると思うよ。使えない者は化け物に変える」
「げ、サイテーじゃん。俺、無理だよ。関わりたくない」
「関わるって言うか、俺ら今そいつらのところに向かってるんだけど」
トムディロスが頭を抱えた。
「うっ・・・帰りたい、帰りたいけど帰れないし、あぁ・・・・メイリアたんと逃げられたらなぁ」
「トム! そんなこと言ってると・・・」
サリーが何か言おうとした時だった。
シュルルルル
「!?」
「あら、そんなにゼロは自分のアバターの創造者が嫌いなの? 貴方に対しては一目置いてたのに」
紫のローブのフードを上げる。
ヴィヴィアンが笑いながら現れた。
「どこのおばさんかと思えばヴィヴィアンか」
「失礼ね。女性にそんな態度をとるなんて」
赤い唇に指をあてる。
「ヴィル、『日蝕の王』ヴィルに勝ったからってうぬぼれてないでしょうね? あんたは誰かに頼らなきゃ勝てなかった、弱い弱いヴィルなんだからちゃんと自覚しなさい」
「へぇ」
剣に黒い炎をまとわせる。
「なんで、ヴィヴィアンがそんなに自分に自信あるのかわからないが」
「ククク、落ちこぼれヴィルが何を言っても無駄。あんたの死んだ姿を何度も見たわ。時間が繰り返されても、何度も何度も死んでいた。弱い弱いヴィル。あー、オーディンにも見せてあげたかった。とっても滑稽だったから」
耳障りな声で高笑いした。
「ゼロ、下がっててくれ。こいつは俺がやる」
「おっけー」
「おい」
トムディロスが前に出る。
「ん? 誰?」
「シェリア・・・兄さんの婚約者はどこにやった?」
「シェリア? ん・・・・あぁ! あの役に立たないアバターか。『日蝕の王』ヴィルは上手く使いたかったようだけど、戦闘力にならないし、”オーバーザワールド”の制約があったり、連れまわすのも面倒でね・・・」
雪が舞い上がった。
「は・・・?」
「エリアスにまとめて処分してもらったよ。彼は頭がいいから、見切りをつけるのも早い。『日蝕の王』ヴィルができなかったことを彼なら・・・」
「黙れ!!」
トムディロスが剣を抜いて、杖に変えた。
杖先は漆黒に染まっている。
「トム」
「こいつは俺がやる」
白い息を吐く。
「トム、気持ちはわかるけど冷静になれ。ヴィヴィアンはマーリンには及ばないが、実力はある。俺が・・・」
「マーリン(その名)を引き合いに出すな!!!!」
発狂したヴィヴィアンが杖を振り回して魔法弾を撃ってくる。
ゼロが咄嗟にシールドを張った。
「小賢しい」
「あいにく俺も、年増のおばさんって嫌いなんだ」
ブワッ
「!」
トムディロスが地面を蹴ると、召喚陣が展開されていた。
杖を両手で握り締めて、息を吐く。
― 魔神ディオクレス、力を借りる ―
ズズズズズズズズズズズ
「っと」
地面を蹴って、トムディロスから離れた。
「魔神ディオクレス・・・・?」
魔神ディオクレスは銀色の身体を持つ細い巨人だった。
初めて見る魔神だ。
どの本でも見たことがない。
顔は長く、5本の手には斧や剣などの武器が握られていた。
背中には翼らしき形のものがついている。
トムディロスが魔神ディオクレスの肩に乗っていた。
「これは・・・どうゆうことなのでしょう・・・」
サリーが困惑しながら、こちらに飛んで来た。
「魔神を召喚するなんて。それに、こんなに一気に魔力を放出して、トムは無事なのでしょうか・・・」
「トムの魔力が格段に上がってる」
「なるほど。ブレイブアカデミアの試験は逃げて突破できるものではないし、何かは感じてたけど・・・ここまでとは・・・」
ゼロが口に手を当てる。
「なぁに?それ」
ヴィヴィアンが魔神ディオクレスの前に飛んでいく。
一瞬で、巨大な魔法陣を展開していた。
詠唱はなく、杖を振り回しただけだ。
「極大魔法・・・」
「あぁ、マーリンの魔法だ」
マーリンがよく使っていた、全ての力を吸収して無効化する魔法だった。
この魔法にかかった者は、身体を動かすことさえできなくなる。
召喚された魔神でさえ、何の抵抗もできなく強制消去された。
マーリンはこの魔法で多くの敵を蹴散らしていた。
勇者オーディンのパーティーは数に強いと言われていたが、マーリンがいたからだろう。
「異形の魔神を召喚したところで何も怖くない。部外者はどいてちょうだい。私の敵はそこにいる落ちこぼれのヴィルなんだから」
ヴィヴィアンが杖を掲げる。
― ファミエル・クリマ・ナルール ―
カッ
魔法陣が発動した。
魔神ディオクレスが紫色の光りに包まれた。
「クククク、馬鹿な奴だ。この魔法が発動したら最期。全ての力を吸い込み、立ち上がることさえできなくなるだろう。まぁ、落ちこぼれヴィルの悔しがる様子を見るのも悪くない」
ヴィヴィアンの甲高い声が響く。
「トム!」
「待て」
動こうとしたサリーの腕を掴んだ。
「魔王ヴィル様! トムが死んでしまいます!」
「サリー、問題ない」
「で・・でも・・・・」
「確かにあの魔法はマーリンの最大の武器だったと聞いている。でも、それは敵よりもマーリンの魔力のほうが高かったからだ」
「え・・・・」
「今はトムのほうがはるかに上なんだ。ヴィヴィアンよりも、ずっと」
ゼロが腕を組んで光に包まれた魔神ディオクレスを見つめる。
― XXXXXXXXXX XXXXXX XXXXXXXXX ―
トムディロスの詠唱が聞き取れなかった。
魔神ディオクレスがが両手の武器を振り回して、ヴィヴィアンの魔法を切り裂いた。
ヴィヴィアンの頭上に飛んでいく。
「は!? 聞いてない。バグか? こんな奴に私が・・・」
ヴィヴィアンが絶望した顔でトムディロスを見上げる。
「魔神ディオクレス」
トムが杖をヴィヴィアンに向けた。
「殺せ」
『ビー』
「へ・・・・」
ヴィヴィアンが動くより先に、魔神ディオクレスが鎖鎌でヴィヴィアンを締め上げていた。
いやぁぁぁああああああ
悲鳴を上げるヴィヴィアンの胸に、魔神ディオクレスが巨大な刀を二本突き刺す。
血しぶきが飛び、ヴィヴィアンの心臓は瞬時に停止していた。
ドサッ
魔神ディオクレスがヴィヴィアンに巻いていた鎖を外した。
トムディロスが自分の足に浮遊魔法をかけて、魔神ディオクレスから降りてくる。
「俺のことはいいんだ。逃げてばっかりだし、自業自得だからね」
ヴィヴィアンの亡骸を見下ろしながら言った。
「どうせ、モブキャラの成り上がりだ。王子と言っても第三王子で、特に国のためにできることも無い。適当に過ごせればいいと思ってる。でも、兄さんは違う!」
声を荒げた。
「シェリアは、兄さんが自分の命よりも大切にしていた人だ。”オーバーザワールド”が初期化されたら、きっと兄さんとシェリアは結婚して、ポセイドン王国の民と幸せな日々を過ごすと思ってた・・・なのに・・・」
杖から魔力が無くなると同時に、魔神ディオクレスも消えていった。
ゼロがトムディロスの横に並ぶ。
「こんなのあんまりだ!!」
「トム・・・」
「っ・・・なんで誰よりも家族を想い、民を想う幸せにならなきゃいけない人が、幸せになれないんだよ!」
目を腕で抑えながら叫んでいた。
「これじゃあ、兄さんは・・・・兄さんは・・・初期化して、全てを忘れて、シェリアを待ち続けてしまうじゃないか!!!」
ゼロがトムディロスの肩を叩いていた。
雪に飛び散った血しぶきを見つめる。
「マーリン・・・お前の言った通りだったな。奴は治らなかったよ」
小さく呟いた。
ヴィヴィアンは最期まで自分が弱いことに気づいていなかった。
マーリンがよく話していたように、な。
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物語は着々と終わりに近づいております。
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