469 The Seven Deadly Sins⑥
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「じゃあ、あの羅針盤は・・・」
「そう。私の命そのもの。アスリアだったころの役割を背負ってる」
「そんな・・・・・・」
説明を聞いたエヴァンが呆然としていた。
ユイナが目を擦りながら静かに聞いていた。
サタニアの頭上にある黄金の羅針盤はゆっくりと回り続けている。
時折、2つの針が動いた。
ばらばらに動く3つの針が揃ったとき、アスリアは星を降らせた。
サタニアの魔力も急激に変わっている。
この世界を圧倒するほどに・・・。
「だから、もう止められない。ヴィル、羅針盤を壊して」
「アスリア様!!」
「なんてことを!!!」
「そんなことをしたら、アスリア様が消えてしまう」
「絶対駄目だ!」
宙に座らさられた七つの大罪の皆が声を上げた。
サタニアの魔力に縛り付けられて、身動きが取れないようだ。
「ヴィル、やりにくいかもしれないけど・・・」
「できるわけないだろ?」
「もう、私、悪者にはなりたくないの。天使も堕天使も、きっと私のことを殺せない。ヴィルなら、殺してくれる。覚えてるでしょ?」
サタニアが目を伏せがちに言う。
「あの止め方を・・・」
「さぁ、記憶にないな」
「ヴィル・・・」
「アスリア様にそんなことを言わせるために、儀式をしたわけじゃないんだ!」
デンデが訴えた。
「俺たちで創ろう。アスリア様が伸び伸びと過ごせる世界を・・・アスリア様は幸せにならなきゃいけない。牢屋に閉じ込められていた俺を救ってくれたんだから」
「そうよ。私もアスリア様に救われたから・・・」
「お前らが何もしなければ平和だったんだよ!」
エヴァンが上を向いて、感情的に声を荒げる。
「このどこが幸せなんだよ! 星の女神? サタニアがなりたいって一言でも言ったのか!?」
「・・・・・・・・」
「エヴァン、七つの大罪は悪くないの」
サタニアが首を振った。
「どう見てもこの状況はこいつらのせいだろ!」
「エヴァン、あいつらは阿保だ。相手にするな」
「なんだと・・・裏切り者の分際で・・・・っ・・・動けない」
ジオニアスが降りてこようともがいている。
七つの大罪の真ん中にある砂時計の砂が、ゆっくりと落ちていた。
「ごめん。七つの大罪はプレイヤーが全くいなくなった時に、私が無理やり転移させちゃったから、まだ、あの頃の記憶が濃いの」
紫色の髪を耳にかける。
「何も悪くない。生まれ変わるべきだったのよ」
「でも・・・・」
「私のやることは全部裏目に出ちゃう。ヴィル、嫌な役回りばかりでごめんね。今度はもうここで終わらせたいの」
カタッ
「あ・・・・」
羅針盤の針がぴたりと止まる。
サタニアがびくっとして、針の方角を見つめる。
サアァァァァアアアア
遠くのほうで、流星群が地上に落ちていくのが見えた。
サタニアが顔をしかめる。
「すごい力ね・・・」
ヴィヴィアンが嬉しそうに呟いた。
「制御、できないのか?」
「そうよ・・・・ほらね。早くしないとこの世界も壊してしまう。ヴィル、エヴァン、お願い」
「そんなことできないよ。だって、アレを壊したらサタニアは・・・」
エヴァンが爪が食い込むほど、両手を強く握り締めていた。
「こんなのおかしいって!」
「なら、簡単な話だ。俺が殺してやるよ!」
『日蝕の王』が黄金の羅針盤目掛けて飛んでいく。
― 闇夜の盾 ―
黄金の羅針盤にシールドを張って、攻撃を弾いた。
魔王の剣を振り下ろして、『日蝕の王』の剣と激しくぶつかる。
ギギギギギギ
ヴィヴィアンが『日蝕の王』にバフをかけようとした。
「危ない!」
ガシャンッ
ユイナが鎖鎌を振り回して、ヴィヴィアンを攻撃する。
ヴィヴィアンが棘のようなシールドを展開していた。
キィンッ
エヴァンが逃げようとするヴィヴィアンに、後ろから剣を突きつける。
シールドはエヴァンが抑え込んで、崩れていた。
「そんなに素早く動けたのね。前はエルフ族のほうの印象しかなかったから油断してたわ」
「魔法に頼ってる分、物理攻撃に弱いんだね」
「元アリエル王国騎士団長、エヴァン=エムリス。読みが甘いわ。お前ごときが、大魔法使いである私に勝てるわけない」
ヴィヴィアンの足元に転移魔方陣が展開される。
「はっ」
― 無効化 ―
ゴン
ユイナの鎖鎌が魔法陣に突き刺さる。
「!?」
「魔法陣を打ち消す魔法です。逃がしません!」
「ふふ・・・ちょっと油断していたわ」
ヴィヴィアンが両手を上げて、杖を消した。
降参しているように見せて、隙を狙っているのが分かった。
― 煉獄の炎風 ―
ゴオォオオオオ
サリーが五古星に向かって魔法を放っていた。
ニーナがよろけているシェリアを連れて逃げ回っている。
「このっ・・・・」
『日蝕の王』が斬り返してきた。
キィン キィンキィン キィンッ
「なぜわからない!? 星の女神アスリアは、この世界に不要だ! すべての生物における脅威だ!」
「お前が俺なら、あの世界を憎んだはずだ」
「あぁ、憎んだよ。どうして俺が、決められたルートに縛られなきゃいけないんだって。今、ここで、同じことが起こってる!」
剣をぶつけ合いながら、魔力を調整していく。
「殺す選択肢しかないだろ」
バチンッ
火花が散った。
「じゃあ、どうしてサタニアを殺して全てが終わると思ってるんだよ。またあの時のストーリーを繰り返したいほど、気に入っていたのか?」
シエルの剣を片手で持って、距離をとっていた。
追いかけるようにして、魔王の剣で『日蝕の王』の心臓を狙う。
キィンッ
「自分が無力だったことに後悔しただろ?」
「何度も死にまくったお前とは、会話がかみ合わないな。星の女神など、この世界に不要だと言ってる。不要な者は排除すべきだ。過去なんか関係ない」
「過去があるから俺がいる。俺は二度と同じ後悔をしない」
「フン・・・話すだけ無駄か。人工知能アイリスに頭をやられたんだろうな。間抜けな奴が」
『日蝕の王』がサタニアを直接殺そうか、俺とこのまま戦うか迷っているように見えた。
確かにシエルの剣を使っている分、奴のほうが圧倒的に有利だ。
でも、こいつに負ける気はしない。
「ん?」
『日蝕の王』が天を仰ぎ見る。
月明かりが遮られた。
ガガッ
バチンッ ガガガガガガガガガガッ
天使が一斉にサタニアの頭上にある羅針盤に聖なる矢を放った。
黄金の羅針盤は透明なバリアで守られている。
オートカウンターが備わっていた。
「なっ・・・」
ザアァァァァア
天使と堕天使たちが戻ってくる矢を必死に避けていた。
中央で統制をとっているのはミハイルのようだ。
サタニアが長い溜息をつく。
「あのゲームの仕様のままなのか。サタニア」
「そうね」
魔王の剣を構えたまま、シエルの剣を見つめる。
元に戻る気配はない、か。
『日蝕の王』がシエルの剣の魔法石を切り替えていた。
黄金の羅針盤に亀裂を入れたのは、シエルの剣だった。
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「私、生まれ変わったらプレイヤー側の世界に生まれ変わるの」
「は?」
星の女神アスリアは転生を本気で信じていた。
星の配置により、運命が見えるのだという。
俺はあまり信じていなかったけどな。
「そうしたら私は自由になるのね。色んなゲームをやってみたいな。今のプレイヤーがやってるゲームを制覇したいの」
窓の外を見ながら話していた。
アメジストのような髪が艶やかに見えた。
「どうして、そんなこと考えるんだよ」
「プレイヤーになってみたい。プレイヤーは他のゲームもやってるんでしょ?」
目を細める。
「嫌なの。子供も大人もみんな楽しく過ごしているこの世界で、悪役をやり続けるなんて」
「ゼアルにそのこと話したか?」
「・・・話せるわけないでしょ。ゼアルに話したら、ゼアルが無理しちゃうもの」
「強がりだな。あいつは見抜いてるぞ」
「・・・・・・・」
アスリアが寂しそうにほほ笑んだ。
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サリーと目が合う。
俺の武器になるのを待つように、こちらを気にしながらヴァリ族と戦っていた。
この状況は、星の女神アスリアを殺したときの光景とよく似ていた。
思い出すな。
あのどうしようもない世界のことを・・・。
読んでくださりありがとうございます。
今日は月が綺麗なので、桜月見なんかいいですね。
酒があればなお良し、とかかっこいいこと言えればいいのですが、全く飲めません。
また是非見に来てください。次話は今週アップしますね。




