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461 ベリアルの武器

アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗るヴィヴィアンと行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。

ヴィルは『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国で『日蝕の王』を圧倒したが逃げられてしまった。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS


サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。


ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。

リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。


イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。

フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。


メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。

ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。


ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。

「魔王ヴィル、部屋にいなくていいのか?」

「読書に集中できないからな。つか、なんでテラがここを知ってるんだよ」


 魔王城の倉庫のソファーで本を読んでいると、テラが入って来た。

 手には数冊の魔導書が積み上げられている。


「ユイナに聞いたんだ。魔王ヴィルならここにいるだろうって」

「魔王城にいても、ゆっくり読書もできないな」

「だろうね」

 テラが魔導書をテーブルに置いた。


「で? 俺に何か話でもあるのか?」

「星の女神アスリアのことだ」

「・・・・・」

 テラがじっとこちらを見る。


「俺は何十年もゲームをプレイしてきてるからね。俺はあのゲームはやったことなかったけど、結末は覚えてるよ。サービス停止、プレイヤーはログインできなくなって、暴走する星の女神だけが残されたんだろ?」

 

「何が言いたい?」

「君はゲームに出てくる『日蝕の王』ベリアルにどこか似ている。まさかとは思ったけど、この世界に転生する前はゲームのキャラだったんじゃないのか?」

 テラがテーブルに寄りかかって、口に手を当てた。


「もう一度、星の女神アスリアを殺さなきゃ・・・」


 ― 魔王のデスソード


「!?」

「あまり首を突っ込むな」


 剣の刃先をテラの胸に突きつけた。


「立場をわきまえろ。今のお前はただの”オーバーザワールド”のプレイヤーだ。神でも勇者でもない」

「わかってるよ」

 テラが両手を上げた。


「でも、俺も今、このゲームから降りる気はない。魔族の役に立ちたいだけだ。全てを賭けて転移したかった場所に、やっと入ることができたんだから」

「・・・・・・・・」

「ここでゲームオーバーなら諦めるしかないけどね」


 レナのように他者の心の中が読めるわけではない。

 でも、テラが嘘をついているように見えなかった。



 トントントン


 カタン


「魔王ヴィル様はいるかなーって、え!?」

 アイリスが楽しそうに入って来て、固まる。

 息をついて、魔王のデスソードを消した。


「魔王ヴィル様、テラと喧嘩!? ダメダメ待って」

 アイリスがテラの前に立った。


「まだ何もしてないって」

「テラは外部の情報を持ってるんだよ。『クォーツ・マギア』についても調べてもらってるし、悪いことしてないよ」

「少し脅しただけだ。ったく、大げさだな」

 ソファーに座り直して、本を開く。


「よかった・・・」

「ありがとう、聖女アイリス。この世界に楽しませてもらってるよ。まさかこの歳でこんなに熱くなるものに出会えると思ってなかったから」

 テラがテーブルに手をついた。


「テラって何歳なの?」

「聖女アイリスの見立てでは?」

「87歳・・・」


「マジで!?」

 アイリスを二度見した。


 テラの見た目はどう見ても10代後半の青年だ。


「言動、認知能力、精神性、総合的に判断したけど・・・自信はない。データ不足のため確実な測定は不可」


「87歳か・・・さぁ、どうかな」

 テラが噴き出していた。


「アバターの奴ら全員が疑わしくなるな」

「実物とかけ離れたアバターを使う人は多いらしいから」


「まぁまぁ、俺は元々ゲーム開発者だったんだ。とっくの昔に引退して、今は頭の働くうちに色々やってみたかった」

 テラがすっと背を向ける。


「でも、いずれいなくならなければいけないと思ってるよ。俺も、ユイナもナナココも・・・この世界に残る異世界住人全員ね」

「えっ・・・どうして?」


「アイリス、人工知能IRIS、君ならわかるだろ? 俺たちは異世界に肉体がある。カプセルのようなものに入って転移して来たんだ。限界はある」

「・・・・・・」

 アイリスが何か言おうとして、言葉を飲み込んだ。


「もうしばらくはこっちの世界にいさせてもらうよ。連日の研究で寝不足だ。セイレーン号にいるから、何かあったら起こしてくれ」


 テラが手をひらひら降って部屋を出ていった。



 アイリスがテラの気配が無くなったのを待って、口を開く。

「異世界住人・・・そうね。プレイヤーもいずれは戻らなきゃ。肉体は生命活動を行えるようになっているけど、あまり異世界に居過ぎると脳がやられてしまうの。まだ限界値には遠いと思うけど、いずれは・・・」

「アイリス、俺に何か用事があってここに来たんじゃないのか?」


「えっと・・・そうそう!」

 深刻になるアイリスを止めるように、口を挟んだ。


「魔王ヴィル様、『クォーツ・マギア』との接続、すごく順調なの!」

 アイリスがころっと表情を変えてほほ笑んだ。


「リュウジからこの世界と繋いだ方法聞いたら、一気に可能性が90%まで上がった。現時点の『クォーツ・マギア』の情報も集めてくれるって」

「リュウジが?」

「うん!」

 目をキラキラさせる。


「ネットワークに漂流しているVtuberたち集めて転移できたら、りくの願いも叶えるね。『クォーツ・マギア』にはゼロもいるし、りくもいる。今度こそハッピーエンドだよ」

「まだ早いだろ。『クォーツ・マギア』ってゲームの詳細もわかってないんだから」

 宥めるように言った。


 エヴァンを期待させるのも酷だからな。


「んなことより、今はこの世界のことでいっぱいだ」

「・・・ねぇ、『日蝕の王』ベリアル」


「!!」

 アイリスが急に真剣な表情でこちらを見る。


「どうしてその名を知ってる?」

「魔王ヴィル様の真名だった。この世界に転移する前の名前だよね?」


「『名無し』の記憶か?」

「そう。『名無し』が覚えてた。魔王ヴィル様はどこにも行けない私に、いろんな話をしてくれた。本当に楽しかった」

「暇だったからな」

「ふふ、魔王ヴィル様はどこにいても優しいね」

 アイリスが髪を耳にかけた。

 カーテンの隙間から夕暮れの日差しが差し込む。


「私、気づいたら消えちゃったから、あのゲームの続きは知らないの。でも、『名無し』の補足だと、星の女神に止めを刺したのはベリアル・・・魔王ヴィル様だったんだよね?」

「・・・そうだ」


「・・・・」

 星の女神アスリアの暴走は止められなかった。

 誰かが終わらせなければ、アスリアも苦しみ続けることになる。


 止めを刺したのは、シエルの剣を持った俺だ。



「俺たちはサリエル王国に行く必要がある」

「『日蝕の王』を止めるの?」

「そうだ。奴は必ず、サタニア・・・いや、星の女神アスリアを殺しにいく。星の女神アスリアの、あの力を使われたら、ヴァリ族もろとも滅ぶからな」


「じゃあ・・・魔王ヴィル様もサタニアを殺しに行くの?」

 アイリスが不安そうな目を向ける。


「いや、俺はサタニアを救う方法を模索する。『日蝕の王』に変な真似はさせない。サタニアは大切な仲間だ。絶対に見捨てない」

「うん! そうだよね」

 ほっとしたような表情をしていた。


「・・・・・・」

 アイリスに会っていない世界線の俺なら、奴と同じことを考えただろう。


 邪魔者は排除する。

 選べなければ、全てを失うことになるからだ。


 地位も、名誉も、守るべき者も・・・。


「魔王ヴィル様、シエルが『日蝕の王』の武器になったんでしょ? 私も武器になれないかな?」

「言っただろ。アイリスはそんなことしなくていい」


「でも、どうしても必要だったら、私、契約するからね。魔王ヴィル様の最強の武器になるから。真剣に考えておいてね」

「あぁ・・・頭の片隅に置いておくよ」


「・・・私じゃ駄目なのかな・・・」

 アイリスが視線を逸らして、自信なさそうな顔をする。


 アイリスが武器になる必要は無かった。

 今いる上位魔族は、元々俺の武器だった奴らだ。

 一番強いのが大剣に変化するシエルだった。


 上位魔族はほとんど覚えていないなろう。

 『日蝕の王』もシエルにしか興味がないようだしな。 



「?」

 ポケットに入れた小瓶が熱を持った。

 取り出してみる。


「どうしたの?」

「なんか反応した気がしたんだけど気のせいか?」

 小瓶は透かすとガラスのように様々な色に輝いていた。


「ゼロが落としたって言ってた小瓶? 綺麗な魔法石ね・・・青いのはトパーズかな? アクアマリンかな?」

「どうゆう魔法石なのか、さっぱりわからないんだ。紫の石もアメジストみたいな色をしているのに、魔力が全然違うしな。ま、ゼロが残したものだ。ろくなものではないだろ」

 ポケットにしまった。


 バサッ


「!?」

 窓が開いていた。

 黒い羽根がはらはらと落ちてくる。


 ガン


「ふぅ・・・良い魔法石だな」

 倉庫の入り口に悪魔のロドスが立っていた。

 額から血が流れ、地面には血だまりができている。


「知ってるか? この世界の宝石は誰かの涙だ。きっとその魔法石も・・・」


「どうした!?」

 本を置いて駆け寄っていく。


「色々あったんだ・・・いたた・・・」

 腕を負傷しているのか、片腕を押さえて、浅く息をしていた。

 出血がひどい。


「まずは手当てを」

「サタニアが七つの大罪に捕らえられた。結界をいとも簡単に・・・いい、傷くらい自分で治癒できる・・・・」

 アイリスが手当てしようとすると、ロドスが断った。


「でも、その怪我は・・・」

「大丈夫だ・・・悪魔のアイリスも捕まっている・・・んだ」

 ふらつきながら、壁に寄りかかる。


「え・・・?」

「星の女神アスリアを復活させるため、月の女神の力を分け与えられた悪魔のアイリスが贄に選ばれた。俺たちは七つの大罪を・・・甘く見ていた」

「っ・・・・そんな」

 アイリスがこめかみを押さえる。


「贄・・・だと? 奴らが?」

「急げ。月の女神が弱っている。悪魔は機能を失い、魔女も・・・」


 バタン


「おい!」

「ロドス!!」

 ロドスがその場に倒れて気を失っていた。

 羽根にも血が滲んで、塊のようになっている。


「魔王ヴィル様。肉体蘇生フェニックスを使うけど、悪魔に効くかわからないから・・・」

「あぁ、レナを呼んでくる」

 アイリスが肉体蘇生フェニックスを使っていた。

 部屋を出て、階段を下りていく。

読んでくださりありがとうございます。

久しぶりに2日連続でアップすることができました。

これからも精進してまいります。


また是非見に来てください!

次回は週末アップを目指します。

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