456 IF Root⑦
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国に乗り込んでいく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
『我ら13人の英雄が魔王の言うことを聞かなければいけないのも不満だが』
『私たちが彼につくと選んだのよ』
『・・・そうだが・・・』
勇者の亡霊同士が生き生きとしていた。
『おいおい、ヴィヴィアンもいるのか。マーリンの100年牢獄をよく打ち破れたな』
「オーディン・・・」
ヴィヴィアンがオーディンを睨みつける。
『自分で打ち破れるわけないよな。誰が・・・』
「亡霊ごときが私に話しかけるな!」
ヴィヴィアンが杖をかざした。
氷双龍が口から氷の刃を吐く。
ドドドドッドドドド
『亡霊でも、この魔法で召喚されたときは全盛期の力なんだよな』
オーディンが笑いながら、ヴィヴィアンの攻撃を避けた。
勢いよく飛び上がる。
― グランドクロス ―
オーディンが剣で十字を斬った。
闇を焼き切る光線が降り注ぐ。
ヴィヴィアンの氷双龍がすぐに消えていった。
『どうした? ヴィヴィアン、腕は全く上がってないようだが?』
「調子に乗るなよ」
「マーリン様、援護します!」
ニーナが骸骨のついた杖を回して、オーディンに飛び掛かっていく。
オーディンが豪快に笑いながら、攻撃をかわしていた。
― 聖光門―
ぎゃああぁぁぁ
勇者の亡霊たちの猛攻は、冥界のうねりのように激しかった。
生き生きしながらヴァリ族を消滅させていく。
レナはぼうっとゼラフのほうを見たまま固まっていた。
五古星の一人がレナに杖を向けている。
― 閃光弾 ―
「レナ!! 避けろ!」
「!?」
叫ぶと同時に、エヴァンがレナを庇って、その場に倒れこむ。
ザザーッ
「うっ・・・エヴァン! 怪我を」
「・・・レナ・・・ぼうっとするな・・・」
マントを貫通して、左脇から血が滲んでいた。
エヴァンが傷口を押さえて、浅く呼吸をする。
キィンッ
2人に襲い掛かろうとしてきたシェリアの剣を、魔王の剣で止める。
「っ・・・せっかくのチャンスを・・・・」
「俺に任せて」
もう一人の深々とフードを被った奴が、剣を杖に変えた。
杖先から詠唱無しに、魔法弾を撃ってくる。
ドン
ゴオォオオオオ
弾をゼラフの闇炎龍が喰らった。
『ここは俺が相手をする。レナを頼む。来い、闇炎龍』
「ゼラフ! 私・・・」
ゼラフが2人相手に闇炎龍を連れて離れていこうとしていた。
ジャミラは勇者の亡霊3人に追い詰められている。
逃げる場所を必死に探しているように見えた。
「お前がやられるなんて珍しいな」
エヴァンの前に立つ。
「いって・・・ちょっと気を抜いてたんだよ・・・。つか、この痛み・・・電子的な何かが含まれてる感じだ。俺は生身の身体だからわからないけど・・・」
― 奇跡の雫 ―
「・・・・・・・」
「おっ・・・」
レナが光の雫を落として一瞬でエヴァンの怪我を治癒した。
「ごめんなさい、エヴァン」
「ったく、いきなり隙だらけになるんだもんな。ビビったのはこっちだ。でも、ありがとう。レナの魔法はやっぱりすごいよ」
エヴァンが剣を立てて立ち上がった。
言葉とは裏腹に、額に冷や汗が滲んでいる。
「レナも浮いた話の一つや二つ無いのかって思ってたけどさ。一応あるんじゃん。勇者と魔法使いのイベントは定番だもんな。なんか俺に似てるような気がするんだけど」
少しからかうように言った。
レナが俯いたまま笑う。
「ゼラフはそんなんじゃないですよ。これは、エルフ族のみんなのことを聞いた涙で・・・・ゼラフは関係ありません」
顔を上げて瞬きをすると、大粒の涙が頬を伝っていった。
「あの、これは・・・本当に違って、なんででしょう。止まらなくて・・・目にゴミが入ったからかだと・・・・」
レナが目をごしごし拭っていた。
「そうか、立ち入ったこと言って悪かった」
エヴァンがレナから視線を外す。
「ねぇ、ヴィル、俺ちょっと休んでていい?」
「あぁ、魔力が安定していない、眩暈がするんだろ? 勇者の奴らがいるから問題ない。下がってろ」
「さんきゅ」
エヴァンが脇腹を押さえながら、軽く飛んで壁際のほうに着地する。
ガラディア王子が座っている傍で、結界を張っていた。
ガラディア王子がふらつきながら立ち上がって剣を持ち直す。
エヴァンに戦闘に出るのを止められているようだった。
「レナも休んでろ。あとはあいつらと俺が片付ける」
「私も戦います!」
「駄目だ」
レナの目を見る。
長いまつげが濡れていた。
「私は主戦力になりますから」
「あいつ・・・ゼラフと戦っていると、色々なことを思い出すんだろ? わかるよ。俺もそうだった」
忘れていた記憶が蘇るほど、自分が無知で馬鹿だったことを突きつけられる。
俺と契約し全てを捧げたシエルのことも・・・。
星の女神アスリアの最期も・・・。
「戦力は一人でも多いほうがいいですよ」
「勇者の奴らを呼んでから一気に優勢だ」
「そうですけど・・・・」
ブワッ
竜巻が巻き起こる。
勇者の亡霊たちは、皆、体の使い方、力の加減、魔力の放出量を熟知していた。
相手がゲームの者だからといって変わりない。
戦闘経験の差が歴然だった。
あと、数分もすれば決着がつくだろう。
「それに、エヴァンもガラディア王子も傷を負ってる。あいつらを回復するまで傍にいてやってくれ」
「・・・わかりました。ヴィル、気を抜かないでくださいね」
「あぁ」
左腕に現れた痣をさすりながら言う。
ドンッ
フードを深々と被った五古星の者がゼラフを相手しながら、レナに魔法弾を撃ってきた。
レナがすぐに気づいてシールドを張る。
「貴様・・・」
ゼラフが追いかけると、フードを取って『日蝕の王』の横に並んだ。
シェリアを始めとして、全員が『日蝕の王』の元へ集まる。
「良いデータが取れたよ。ヴィル」
「!」
見覚えのある顔・・・。
魔王の剣を構える。
五古星が五芒星の結界を張った。
勇者の亡霊たちが結界を突破しようとしていたが、空間をゆがめられるように、攻撃が当たらなかった。
「エリアス、久しぶりじゃん」
後方に隠れていたリュウジが何も持たずに飛んで隣に降りてきた。
背中には透明な羽根が生えている。
「リュウジ」
エリアスが一瞬目を丸くする。
「驚いたなぁ、本当に魔王ヴィルのほうについてたのか」
「俺はユイナの居るほうにつくからね」
「あ、そ」
2人の空気は読めなかった。
敵同士という感じもしない。
「エリアス、データはどうだ?」
「かなりの収穫だ。あのエインヘリャル(戦死した勇者)って魔法も、エルフ族のデータも取れた。解析は後にしよう。今、”オーバーザワールド”がこの一帯に異常値を示しているんだ。いったん退避してほしい」
エリアスが五芒星の結界を張ったまま言う。
「フン、癪だが仕方ない。まぁ、こっちも収穫はあったからな」
『日蝕の王』がシエルの剣を見つめながら言う。
純白に輝いたままだった。
「儀式は成功といったところだろう」
「逃がすかよ!」
ジジジジ ジジジ
「?」
魔王の剣が結界を通さなかった。
明らかに魔力は俺のほうが勝っているのに・・・。
「あぁ、この結界は”オーバーザワールド”の仕様を利用したバグみたいな結界だから、誰の攻撃は通さないよ」
エリアスが自慢げに言う。
「もし、解除キーを創れる者がいるとしたら、人工知能IRISくらいかもね。じゃあな、リュウジ。ユイナによろしく伝えておいて」
「了解」
魔法陣が輝いた。
シュンッ
「クソッ・・・・っと」
『日蝕の王』、五古星、ヴィヴィアンが消えた。
ゼラフが蹴りを入れていたが、空振りしてバランスを崩していた。
「逃げられたか」
『あっちのヴィルは随分、余裕がないようだな』
オーディンが近づいてくる。
『孤独な目をしている。仲間はいないのか?』
「また、お前と会うと思わなかったよ。何回死んで蘇ってるんだよ」
『エインヘリャル(戦死した勇者)を使ったのはお前だ。俺はワルプルギスの夜を止めた13人の英雄の一人だからな』
オーディンが誇らしげに言う。
「フン・・・・」
マントを後ろにやって、聖堂全体を見渡す。
― 聖炎 ―
ゴオォオオオオ
うぎゃあああぁぁぁぁああ
聖堂にいた最後のヴァリ族数体が消えていった。
「あ、エリサありがとう」
「全く、みんなして雑魚はこっちに押し付けて、五古星の相手ばかりするんだから・・・」
女勇者が剣をしまっていた。
「ヴァリ族も殲滅したわ」
「これで終わりか・・・俺たちも戻らないとな」
ゼラフが剣を鞘に納めて、レナの出した黒炎龍を懐かしそうに見つめる。
「ゼラフ・・・・」
レナが何か言おうと前に出たときだった。
ザアァ
「!?」
聖堂内に風が吹き込んだ。
はっとして天を仰ぐ。
戦闘で天井はほとんど崩れていた。
晴れ渡った空に、暗雲が立ち込めていくのが見える。
読んでくださりありがとうございます。
勇者ゼラフとレナはどんな関係だったんでしょうね。
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次回は今週中にアップします。また是非見に来てください!




