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48 魔族の拷問

「来たな・・・・」

 しばらくすると、カマエルとザガンの帰ってくる気配を感じた。


「魔王ヴィ・・・」

「アイリスは部屋でおとなしく待ってろ。絶対に出るなよ」

 立ち上がったアイリスを止めた。


「・・・・・・・・」

 きょとんとして首を傾げる。


 これから行うことは、人間に対する拷問だ。

 アイリスには絶対に見せられない。


「うん。いってらっしゃい」

「フン・・・」

 アイリスが笑顔で手を振ってくる。

 ソファーに座って、ププウルから借りた本を眺めていた。




 魔王の間に行くと、人間が4人両手両足を縛った状態で跪いていた。

 カマエルとザガンが脇に並んでいる。


「よくやった。カマエル、ザガン」

「ありがとうございます。しかし、申し訳ございません。連れてくる際にどうしても力が入ってしまい、この男魔導士のみ瀕死にしてしまいました」

「想像以上に弱かったもので・・・・」

 ローブを着た男がグフっと血を吐く。

 水属性の魔導士だが・・・力は無いな。水属性バフの付与要員か。


「まぁいい、こいつは大した情報を持っていないだろう」

「申し訳ございませんでした。次は、きちんと生きのいい状態で連れてきますので」


 息を引き取るまで、数分ってとこだな。

 床に頭をつけたまま、次第に心臓の音が弱まっていった。


「カマエル、魔王の間を汚すなと言ったでしょ。人間の血は臭いんだから」

 サリーが腕を組んで怒っていた。


「サリー様、すぐに片づけさせますので」

「・・・・ちゃんとするのよ」

「かしこまりました」

 ザガンがなだめると、サリーが人間を睨みつけてから引き下がった。



 では、残りの3人を拷問するか。


「お前が魔王か・・・・?」

 背中に剣を背負った男が傷だらけの顔で片目を開けた。


「そうだ」

「ふ、ふふふふ、ははははは、落ちこぼれのヴィル・・・だな?」

「・・・・・」

 俺の名は、王国にまで広まっているのか。

 まぁ、人間はこうゆう話が好きだからな。


「死ぬ間際に、魔王ヴィル様になんという暴言を・・・」


 シュンッ


 カマエルが男の首に双剣を突き付けた。

 刃に血が滲んでいる。


「カマエル、手を出すな。こいつらに吐かせたいことがある」

「大変失礼いたしました」

 双剣をくるくる回して離れる。


 男が脂汗を流しながら、息を付いていた。


「わ、私は王国に忠誠を誓った魔導士なんだから、絶対何も言わないわ。私の力は全て王国の繁栄のためのもの。魔族になんか・・・屈しない」

 女魔導士が唇を震わせながら、こちらを見上げていた。


「私もよ! 最期まで諦めないんだから」 

 全員王国の戦闘員だな。

 都合がいい。


「お前はまだ助かると思っているのか?」

「・・・・・・・・・」

「随分平和に生きてきた奴らだな」

 顔を近づける。

 傷一つない、魔道具で守られた綺麗な肌だった。


「そうだ! お前のように、魔族に寝返ったやつなんかに負けるものか」

 男が歯を食いしばって俺を睨んでいる。


「お前は落ちこぼれのヴィルだ。弱いから魔王になったんだろう? はははは、他の魔族も上手く騙されたものだな・・・」

「転移魔法を、お前らに教えたのは誰だ?」


「っ・・・・・」

 魔族の殺気を感じて、震えているのが伝わってきた。



「俺の質問に答えないなら、吐かせるしかないな」

 3人に向かって、手をかざす。


 ― 奪牙鎖チェーン― 


 体をきつく縛り上げた。

 肉がはみ出ていた。


「うっ・・・・・・」

「あ・・・あああああああ」


 カマエルが双剣を仕舞って下がる。


「絶望的な表情。やっと、状況が理解できたようですね」

「やめ・・・やめて・・・・・」

 女剣士が、虚ろに呟いていた。

 髪をぼさぼさにして、足を広げる。


 じょわあああ


 服の中から、勢いよく水が噴き出す。

 この程度で失禁したのか。


 カマエルの奴、ここへ来る前から相当精神的に追い込んでたな。 


「さ・・・サリー様、すぐに片づけさせますので」

「わかってるわよ」

 サリーが鼻を押さえて、嫌そうな顔をしていた。


 人差し指を動かして、奪牙鎖チェーンの魔力を操作する。


「なぜここへ来た?」

「金と名誉のため。魔王城に近づいて上位魔族に瀕死の状態まで追い込んだ。私たちは、城に帰れば英雄になれる。同期のアンナなんかよりも私のほうがすごいって認めてくれる。アンナなんかよりも・・・」

 威勢の良かった女魔導士が、よだれを垂らしながら話す。

 よくわからないが、誰かと自分を比べてるのか。


 人間はつくづく、本音と建前が乖離している生き物だ。

 くだらないことに執着するな。


「転移魔法を教えたのは誰だ?」

「私たちが・・・使えるわけじゃない。エヴァン・・・・が私たちを飛ばす」

「飛ばす?」

「そう。飛ばす・・・の。エヴァンは並外れた力を持ってる。時を・・・」

 女魔導士が上を向きながら言う。


「お前らは、王国騎士団長エヴァンに指示されてここに来たのか?」

「はぁっ・・・・そ、そう。幼い上位魔族は水属性が弱点だと聞いた・・・アクセサリーを破壊すればいいとも。ごほっ・・・けほ・・・・」

 首周りの牙奪鎖チェーンを緩める。


「やっぱりな」


「どうゆうことですか?」

「以前、アイリスをさらわれたとき、ププウルがエヴァンと同じ場所にいた。その時に弱点を見抜かれたのだろう」

 魔族たちがざわついていた。

 奴には俺と同じ、魔王の目のようなモノがあるらしいな。


「エヴァンはいつ王国騎士団長になった?」

「魔王が復活した日・・・少年が急に城に現れた。王はお告げがあったと言い、彼を王国騎士団長に任命した・・・・・」

「お告げ?」

「夢に、時の神クロノスが現れたと・・・」

 ぴくぴくしながら話す。


「クロノス? 聞いたことがありませんね」

 カマエルが首をかしげていた。

 昔読んだ本の神話でそうゆう神はいたな。


「その、胡散臭いお告げとやらに疑う者はいなかったのか?」

「みんなが・・・疑ってた、でも彼は城に仕える・・・・1000の兵の攻撃に対して一瞬で・・・生死をさまよわせるほどの実力を持っていた。誰もが認めざるを得なかった・・・・私も・・・・」

 歯をがくがくさせていた。


「にわかに信じがたいですね・・・・」

「こいつの記憶の中では本当のことなのだろう。奪牙鎖チェーンで話すことは嘘を付けない」


「おい・・・・」

 剣士の男が、息を切らしてこちらを見下ろした。


「お前ら・・・魔族はやっぱり卑怯だな・・・こんなやり方で情報を得ようとするなんて・・・」

「ククク、無能な人間どもが。まるで自分たちが卑怯ではないと言わんばかりに」


「俺は・・・最後まで正々堂々と・・・」

「正々堂々? こそこそ攻撃をしかけてきたネズミどもが」

「ごふっ」

 口に刃を突っ込んでいた。


「魔王ヴィル様はこんなに優しく会話しているというのに・・・」

「カマエル、手を出すなと言ってるでしょ。まだ魔王ヴィル様が情報を聞き出しているんだから」

「わかっている」

 カマエルのこめかみに血管が浮き出ていた。


「なら、その刃をどけなさい」

「ほんの、ちょっと恐怖心を煽っているだけだ。これ以上のことはしない」

 サリーにとがめられていたが、今にも人間を手にかけてしまいそうなほど殺気立っていた。

 水属性をまとう剣。

 ププに傷を残したのはこいつで間違いないな。


 情報を吐かせるために、少し奪牙鎖チェーンを緩めていたが・・・。

 

「ヴィル!」

 カマエルが離れた途端に、男が叫んだ。


「はははは、ヴィル・・・あのヴィルだって、みんな知ってるんだ。ここにいる魔族は、お前が人間だったころを知らないんだろう?」

「・・・・・・・」

「はははは、魔族はみんな、騙されてるんだ。こいつが魔族の王だなんて笑わせる。元々人間だぞ。知らないだろ? どこのギルドでも受け入れられなかった、落ちこぼれのヴィ・・・・」


 ズンッ


「っと失礼」

 サリーが男の心臓を一突きしていた。

 ドサっと死体が落ちる。


「きゃああぁぁぁぁぁ」

 女魔導士が悲鳴を上げた。


「サリーお前・・・」

「魔王ヴィル様を侮辱するような輩は、私の体の毒になりますので、今のは正当防衛になります」

「フン・・・強引な」

 カマエルが不服そうな顔をしていた。


「あ、あぁ・・・ディーク・・・」


「まぁ、いい。一番威勢の良かった、こいつに聞こう」

 気を失いかけている女剣士に話しかける。


「アリエル王国王女アイリスについて知っていることをすべて吐け」

「・・・・王女アイリスは、アリエル王国に必要な存在。でも、王家の血を引いているわけじゃない」

「・・・・・・・」

 なるほどな。


 アイリスの様子を見ていて、そんな気がしていたが・・・。


「王女アイリスは・・・」

 横にいた、女魔導士が虚ろな目で声を出した。

「アイリスは危険な存在。兵器ともいうべき強大な力を隠し・・うっ・・・・」

「なんだ? 言え」


 ああああああああああ


 急に2人が苦しみだした。


「!?」

 突然、痙攣する。


 いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!


 しばらく続いた後、ふっと、魂が抜かれるようにして息を引き取った。

 2人同時だ。おそらく、これは・・・・・。


「呪いのようなものがかかっていたようですね。口封じですか」

 カマエルが死体を睨みつけてから、縛りを解いていた。


「あぁ・・・」

 アイリスのことにだけ、なぜ口封じをかけた?

 何を言いかけた?

 

「エヴァンという奴がかけたのでしょうか。随分と良い趣味を持っているようですね。魔族にスカウトしたいくらいですよ」

「・・・そうだな」

 見せしめにするような、拷問手法だった。

 他の人間に見せることで抑制を狙うためだった可能性もある。



「こいつらの死体を処理しておくように頼む」

「かしこまりました。直ちに」

 ザガンが魔族たちに、掃除するよう指示していた。


 魔王の椅子に座る。

 肘をついて、運ばれていく死体を眺めていた。


 エヴァンは何を考えている?

 王国にとって、アイリスが危険と判断する理由は一体・・・。

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