441 圧倒的
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城に戻り、立て直しを計画していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「あんたみたいなガキが一人で私に向かってくるとはいい度胸ね」
レナの短い髪は徐々に赤くなっていた。
「私はガキじゃないです!」
「ふふふふ、まぁいいわ。私、そうゆうの嫌いじゃないから」
リミューレが高笑いして、ベラスクスの肩に乗る。
杖を出して、レナに向けた。
「まずはあんたを殺してやるわ。ベラスクスお願いね」
グガッ
― アーストライア・ボム ―
ドドドドッドドドドド・・・
リミューレが漆黒に輝く球をレナに向かって追撃していく。
ベラスクスがリミューレが魔法を放つ瞬間、爪を立てて何かを付与していた。
レナが素早く避けながら、魔王城から距離を取っていく。
「すばしっこいわね」
リミューレがイライラしながら呟いた。
しゅうぅうううう
レナから外れた球が、地面に窪みを作っている。
メイリアが窪みに近づいていった。
「煙? この魔法は・・・・」
「近づくな!」
「!?」
メイリアがびくっとして離れた。
「普通の闇属性の魔法に見えるが・・・当たれば即死する魔法だ。そこの煙にはまだ、魔力が残ってる。うかつに近づくな」
「即死ぃいい、ひいいぃいい!! 離れてメイリアたん!」
「わっ」
トムディロスが無理やりメイリアを引っ張った。
「メイリアたんは危ないことしないで」
「ねぇ、レナは大丈夫なの? あの魔法で即死するってわかってるの?」
「そうだよ。あの子が、ひ、一人で戦うなんて無謀じゃない? 2対1なんだから」
「レナなら問題ない。見てみろ」
「?」
「私は逃げ回っているだけじゃありません」
レナが逃げ回りながら、いつの間にか大きな魔法陣を展開していた。
巨人ベラスクスの足元が凍り付いていく。
グガアァアア
暴れようとしていたが、足が動かないようだ。
レナの魔力のほうが圧倒的に優位だな。
「なっ」
「ベラスクス、捕まえました。後は・・・」
氷の剣を、レナの何倍もある巨人ベラスクスに向かって振り下ろした。
「っ・・・・」
リミューレが慌てて、ベラスクスから離れる。
― 氷結晶 ―
グガッ
レナが切り裂いた部分から瞬時に、氷漬けになっていく。
「すぐ楽になります」
ベラスクスの身体が氷になったのを見て、レナが剣で突いた。
― 破壊―
パリン
サアァァァァアアア
氷の結晶になって砕けていった。
月明かりに照らされて、きらきらしながら落ちてくる。
「すごい・・・・」
「やばいじゃん。あの子」
トムディロスとメイリアが氷の結晶を見上げながら言う。
「だよな。やばいんだよ」
「ん?」
「・・・・・・・」
レナの力はマーリン以上の魔導士ということになる。
すべて思い出したレナの力は未知数だ。
このまま魔族の仲間でいてくれたならいいが・・・。
「あーあ」
リミューレが杖をくるくる回す。
「私の可愛いベラスクスにこんなことするなんて。いいわ、絶対に敵を取ってやるんだから」
「召喚系の魔導士なのですか?」
「ふふ、召喚しかできないと思ってるの?」
リミューレが杖を長く細い剣に変えた。
「あんたは氷属性の魔法しか使えないのかもしれないけど、私は自分の魔法の属性変化ができるの。勝負はここから・・・」
― XXXXX XXX XXXXXX ―
レナがわからない言葉を唱えると、空から氷の縄が落ちてきて、リミューレの両手両足を固定した。
ドサッ
「きゃっ」
リミューレがその場に膝をつける。
「何!? あんた、魔力を隠して・・・」
レナが近づいていくと、リミューレが怯えていた。
「異世界の者は心が読みにくいので、少し苦戦しました」
「あんた心が・・・・?」
「はい。ちゃんと楽にしてあげます」
レナが剣を杖に変える。
ブオン
「ふふ、ここで死ぬつもりなんかないわ」
「あ・・・転移魔方陣ですか」
転移魔方陣が展開されていた。
「残念ね・・・・転移魔方陣には気づかなかったの。ここは負けを認めるわ。でも、次会ったときは」
「なんちゃって、次なんてありませんよ」
レナがにやりと笑う。
「!?!?」
じゃらん
リミューレの転移魔方陣は鎖で封じられた状態になっていた。
何か呟いたときに、2つの魔法を展開していたのか。
「転移魔方陣はレナが無効化しました」
「え・・・嘘・・・・」
リミューレが地面の魔法陣を見て杖を落とす。
レナが杖を垂直に掲げる。
― 煉獄の炎 ―
いやぁぁぁあああああ
「痛覚を・・・日蝕の・・・王・・・ぎゃぁぁああああ」
レナが杖を回すと、リミューレが黒い炎に包まれていた。
リミューレの叫び声が響き渡る。
「私はいろんな魔法が使えますよ。氷魔法は故郷を思い出すから好きな魔法なんです」
ザアアアァァァ
「火属性が使えないわけじゃありませんから」
「よくも・・・よくも・・・・」
リミューレがのたうち回りながらレナの足に手を伸ばした。
触れる手前で、足から光の粒になっていく。
「XXXXナヴXァダXXX」
「!?」
レナが、冷たい表情で聞きとれない言葉を言い放った。
「どうしてそれを・・・」
リミューレがはっとした表情をしたまま消えていった。
「レナ?」
軽く飛んで、レナの傍に降りた。
「怪我はないか?」
「あ、ほら、レナでも簡単にやっつけることができました。だから、安心してください。こちらの世界での強さは、”オーバーザワールド”の世界の敵にもちゃんと通用しますよ」
レナがころっと表情を変えて、振り返った。
髪の色が元の色に戻っていく。
「レナなんて傷一つありません」
魔族のほうを見て、自分が無傷なことをアピールする。
「そ、そうか。そうだよな。我々の強さは絶対的!」
「そうよね! ヴァリ族がどんな者かわからなかったけど勝てそう。じゃなくて、絶対勝たなきゃ!!」
カマエルとジャヒーが自分たちを鼓舞していた。
下位魔族たちもちらほら覗いていたが、自信を取り戻したように見える。
「魔族って単純ね。レナはエルフ族の巫女、強さはともかく経験値では上位魔族のはるか上をいくというのに」
メイリアが小さく呟く。
「いえいえ、これでいいんです。ね、ヴィル」
「あぁ。レナの策略通りだ」
「はい」
レナが大きく頷いた。
レナの言う通り、俺が倒すよりもレナが倒すほうが魔族のプレッシャーを解く効果があった。
魔族に安堵感が広まっていた。
魔族はレナの強さが理解できていないのだろう。
あまりにもスムーズに様々なことをこなしていた。
一つの舞を見ているようだった。
「もしかして、ここって危険なの? メイリアたん、俺の国に行かない? ポセイドン王国」
「どうして?」
「どうしてって・・・ほら、ポセイドン王国なら安全だから。食べ物だって美味しいよ。こんな大きな肉料理とかあるんだから」
トムディロスがメイリアに身振り手振りを交えて話していた。
「それよりも、そこの地割れ、確認したいから」
「わっ、危ないことしないでね、メイリアたん。俺も行くよ」
トムディロスは足が絡まりそうになりながら、メイリアについていった。
メイリアはリミューレが使用した魔法の跡が気になって仕方がないらしい。
レナとリミューレの戦闘していた場所から動かなかった。
「魔王ヴィル様!!!」
アイリスとユイナが駆け寄ってくる。
「戦闘時のデータは取れたか?」
「うん。ユイナが録画してくれた」
「今、確認しましたが大丈夫そうですね」
ユイナが小さなモニターを出して、映像を確認していた。
「れ・・・レナの戦闘を見るのですか!?」
レナが顔を赤くする。
「そうだよ。不都合でもあるのか?」
「無いですが、なんだか照れます。自分の戦闘の様子なんて見たことないので」
レナが自分の頬をぱんと叩いた。
「すごい不細工に映ってたらどうしよう」
「誰もそんなとこ見てないって・・・」
レナが急に手櫛で髪を梳いていた。
「まぁ、今日は夜も遅い。録画の確認は明日にしよう」
「はい! ふぁあ、私も一気に眠くなってきた」
アイリスが口を押えてあくびをする。
「そういや、エヴァンは?」
「魔王ヴィル様の部屋で寝てますよ。呼んだのですが、パスと言ってました」
「エヴァンらしいな」
ポケットの仲がじんわりと熱かった。
ゼロが落とした小瓶か?
取り出して月明かりに照らす。
「わぁ、綺麗ですね。色とりどりの・・・飴ですか?」
「なんだかおいしそうに見えてきました」
ユイナとレナが興味深そうに小瓶を見つめる。
「食べ物じゃない。ゼロが落としていったんだ。何に使うかわからないけどな」
ただのガラス玉だと思っていたが、何か意志のようなものがあるように感じられた。
ゼロ(あいつ)が残していったものだ。
どうせ、ろくでもないものだろうけどな。
「んなことより、レナ、あの女に最期、なんて言ったんだ?」
「え、えっと、その・・・いいじゃないですか。レナもヴィルの部屋で寝ます。大きいベッドで寝たいです。ヴィルのベッドが魔王城内で一番ふかふかです」
「言っておくけど、先にエヴァンが寝てるぞ」
「えっ・・・じゃあ、レナの寝る場所は?」
「自分の部屋があるだろうが。ったく、エヴァンといい、サタニアといい、どうして俺の部屋に集まりたがるんだよ。静かに読書してたいんだが・・・」
頭を搔いた。
「みんな行くなら、もちろん私もいっていいよね? 魔王ヴィル様」
「アイリスまで・・・もう、好きにしろ」
「はーい」
アイリスが笑いながら歩いていった。
ピンクの髪がさらさらとなびいている。
読んでくださりありがとうございます。
レナは敵なしの状態ですね。勇者ゼラフとどんなことをしてきたのか・・・。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
次回は週末アップしたいと思います。




