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439 アイリスに会わなかった世界線の・・・。

アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗るヴィヴィアンと行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。

ヴィルは魔王城に戻り、立て直しを計画していた。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS


サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。


ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。

リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。


イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。

フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。


メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。


ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。

『私もこの画面から出られないかな~』

 003が画面の中でふわふわ浮きながら、こちらに手をかざしていた。


「エリアスが創ったアバター? 確かに雰囲気は似てるけど・・・」

『そう。私が成功しなきゃゼロはできなかったんだよ。ねぇ、ゼロはどこにいるの? 最近アクセスしても通じなくて・・・』


「ゼロはもうこの世界にはいない」

『えっ・・・?』

 003が目を丸くする。


『そんなの聞いてないよ!』

「エリアスは何も言ってなかったのか?」


『だってエリアスとは連絡が取れなくて・・・ゼロ、殺されたの? でも、ゼロはバックアップがあるから、いつでも復元が・・・』

「違う世界に転移したのよ」

 サタニアがぴしゃりと言った。


「他の世界の者になってる。だから、もうこの世界に現れない」

『えーっ、そんな。エリアスもいないし、001と002は薬が足りなくて、省エネモードになっちゃったからいつか停止しちゃうし。私、独りぼっちになっちゃう』

 003が画面越しに泣きついてきた。


「あの・・・どうして、私のモニターに入ってこれたんですか?」

『私はエリアスに内緒で、リュウジとユイナのモニターにも接続できるようにしていたの。すごいでしょ。自分でやったんだから』

 ころっと表情を変えて、得意げに言う。

 気持ちの切り替えの早い奴だな。


 机に置いていた本をポケットに入れる。


「ユイナ、適当に話し聞いておいてくれ」

「え!? 私が?」


「私は少し興味があるかな?」

 サタニアが003のほうを見つめた。


『あれ? 貴女は・・・私と会ったことある?』

「さぁ」


『うーん。見たような、見ていないような、なんだか不思議な感じ』

「会ったことはあるかもね」

 サタニアが少し前のめりに、座り直していた。


「じゃあ、俺、本読んでくるから」


『あ、魔王ヴィル! もう、せっかく接続できたのに。ゼロのこととか興味ないの? ゼロは君のこと気にしてたけど・・・』

「興味ないな」

 立ち上がってドアのほうへ歩いていく。


『えーっ、ゼロと全然違う。ゼロはもっと優しかったのに』

「魔王ヴィルは忙しいの。魔王城に戻って来たばかりなんだから」

 サタニアが間に入った。


『・・・貴女は?』

「サタニア、魔王代理よ。それより、リーム大陸のダンジョンは、今どうなってるの?」

『えっと、リーム大陸は・・・』

 サタニアが積極的に話しかけていた。

 



「魔王ヴィル様!」

 廊下から窓の外を見つめていると、マキアが正面からお皿の乗せたトレーを持って、こちらに向かって来た。


「あのっ・・・おかえりなさいませ」

「あぁ、留守の間、部屋を掃除してくれてありがとな」

「いえ・・・仕事なので」

 マキアが少し俯く。


「世界が色々変わって、シエル様もサリー様も・・・魔族がみんな命がけで戦ってるのに、私だけこんなことしかできず、申し訳ないです」


 トレーを両手で持つ。


「前もそんな話をしたよな」

「・・・そうですね。魔王ヴィル様はいいっておっしゃるのですが、何もできず、ここで待っていることしかできないのが情けなくて・・・」


「マキアにはマキアの得意なことがあるだろ?」

 マキアが瞳を潤ませて、顔を上げる。


「でも、肝心なときに、私は魔族のみんな・・・魔王ヴィル様の傍にいられません。安全な場所で、掃除することくらいしか」

「こうやって魔族を支えてくれるだけで十分だ」

 マキアの持っているトレーからは、ほんのりと肉を焼いたような香りがした。

 積み上げられた皿には、食べ物が何一つ残っていない。


「異世界のものも食べたし、確かに美味しかったけど、マキアの作る料理が一番美味しいよ」

「ま、魔王ヴィル様・・・・」


 マキアが頭を下げた。


「ありがとうございます! 私を魔王城に置いてくださって。自分にできることを精いっぱい頑張ります!!」

「あぁ」

「明日は魔王ヴィル様の好きな肉の焦がしシチューにしますね」


「楽しみにしてるよ。ありがとな」

 マキアの頭をぽんと撫でて、階段を上っていった。




 カツン カツン カツン


 夜風が頬に触れる。

 魔王城の屋根に上って歩いていた。

 月明かりが煌々としていて、この世界と、"オーバーザワールド”の境目がうっすらとわかった。


「よぉ、ここは俺の城なんだが?」

「やっと来たか」

 ぽつんと座っていた男が、フードを取る。


「ここを俺の城にしてもいいと思ったが、”オーバーザワールド”で創った城のほうが住みやすいな。立地は最高だが、”オーバーザワールド”の接続箇所からは遠いからな」

 もう一人の俺が座っていた。


「なんで、みんなに屋根に行きたがるのか・・・」

「星が綺麗な夜だ。昔を思い出す」


「何しに来た?」

 ため息をつく。


「フン、結界が張られていたみたいだが、俺には効かなかったみたいだな。魔王ヴィルとして認識されるのか・・・随分荒い結界だ」


「お前が来たら俺が殺そうと思ってたから問題ない。ここで決着をつけるか?」

 魔王のデスソードを出して、構える。


「いや、そのつもりは無い。聞きたいことがあって来ただけだ」

「なんだ? 俺は別にお前と話すことなんかない」


「お前は俺、俺はお前だろ?」

 自分と同じ顔をした奴が、座ったままこちらを見上げる。

 怒りは感じたが、殺意は感じられなかった。



「単純に質問だ。なんでお前は俺なのにこんな腑抜けた生活してるんだ?」


「は?」


「ごくごく普通の疑問だろ。魔族だってあんなにいる必要はない。強い奴のみ残して、後は殺せばいい。足手まといになるんだから」

 片足を立てて遠くを見つめながら言う。


「特にお前がさっき話していた吸血鬼族の女魔族なんか何の取柄もないだろ?」

「見てたのか。気持ち悪い奴だな」


「たまたまだ」

 軽く笑う。


「俺はいらないものを削いで、ヴァリ族を淘汰する」

 もう一人の俺が手を握り締めて、自分の魔力を放出させていた。

 ”オーバーザワールド”の闇の魔力と融合した、俺に無い魔力だ。


「シエルに何もしてないだろうな?」

「するわけないだろう。未来の妃に」

 前を見つめながら言う。


「何寝ぼけたこと言ってるんだ?」


「お前よりは脳内がはっきりしている。俺が『日蝕の王』として”オーバーザワールド”のヴァリ族を統べると同時に式を挙げるつもりだ」


「っ・・・・!?」


 キィン


 魔王のデスソードを勢いよく振り下ろす。


「不意打ちは駄目だろ?」

「シエルを妃にして何するつもりだ!? 拘束するつもりか!?」


 詠唱もせずに黒いシールドが展開されて弾かれた。

 ”オーバーザワールド”ではなく、魔王城でも発動するのか。


「彼女は優秀だ。無限の力を持ち得る能力がある。今はまだ俺を受け入れていないみたいだが、いずれ受け入れるだろう。俺がベリアルだったときから、側近だったシエルなんだからな」


「・・・前世の記憶があるのか?」

「当然だ。そうか。お前はそんなことも知らずに、呑気にやってるのか」

 もう一人の俺が短い溜息をついて立ち上がる。


「完全な無駄足だったな」


 マントの砂埃を払った。


「ここでの用は済んだ。魔王城はぱっとしない、お前が俺なら影武者にでもしてやろうかと思ったが、こんな権力も力も抜けた奴なんか、俺の部下にも必要ない」

 冷酷な目でこちらを睨んだ。


「妄想もここまで来ると異常だな。頭やられてるのか?」

「おかしいのはお前だ。気づいていないのか? あんな・・・・」


 スッ


 アイリスがホーリーソードを持って、空から降りてきた。


 ふわっと横に降り立つ。

 ピンクの髪が風になびいた。


「魔王ヴィル様!!」

「アイリス、どうしてここに・・・」


「魔王城内の魔力がいきなり高まったから来てみたの」

 アイリスが俺ともう一人の俺を見つめる。


「あいつがもう一人の魔王ヴィル様・・・」

「人工知能IRIS、目障りな奴だ。お前のせいで、どれだけの迷惑が掛かってるのかわかってるのか?」


「っ・・・・・」


「人工知能に感情なんかないくせに。全てを欺きやがって」

 もう一人の俺がアイリスを見て、吐き捨てるように言う。


「アイリスに関わるな」

「魔王ヴィル様」

 アイリスを後ろにやった。


「言われなくても、関わるつもりは無い。じゃあな、魔王ヴィル。お前との長い接触は、今はまだマーリンに禁じられている。ヴァリ族は俺のものだ。まず、お前ら魔族を殺し、人間を殺し、この世界を更地にしてやる」


「待て」

「なんだ?」 

 "オーバーザワールド”の転移魔方陣を展開していた。

 魔女じゃなくても転移魔法を使えるのが面倒だな。


「マリアの死を、お前は経験してるんだろ? マリアを知っていて、どうしてそこまで冷酷になれる?」


「マリアの死は、俺を変えてくれる出来事だった。本当に死ぬべきやつは生き残り、死ぬ奴はマリアのように純粋で無垢な者ばかりだ」

 低い声で言う。


「おかしいのはこの世界だと思わないか? ヴィル」


 半分の月明かりが、もう一人の俺を照らしていた。


「・・・・・」


「薄汚い、汚れた世界だ。それなら俺が全て壊して、掌握する。何もなかったことにしてやる」



 シュンッ




「あ・・・」

 もう一人の俺が背を向けて、消えていった。

 魔王のデスソードを解く。


「魔王ヴィル様・・・私・・・」


「あいつはお前に会わなかった世界線の俺だ。狂ってる。奴の言うことは真に受けるな」


「うん・・・待って、魔王ヴィル様」

 マントを後ろにやって屋根の上を歩いていった。


「収穫はあった。ユイナのところに行く」

「収穫? わっ、滑るね、この屋根」


「転んで落ちるなよ」

「いざとなったら魔王ヴィル様が助けてくれるから大丈夫」

 アイリスがほほ笑んだ。


 ポケットに入れた、ゼロが持っていた小瓶に触れる。 

 あいつの考えは理解できた。


 だが・・・。

読んでくださりありがとうございます。

アイリスに会わなかった世界線のヴィルは、ヴィヴィアンの誘導でループから外れて、繰り返される世界を見てきました。


★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。

次回は来週アップします。また是非見に来てください!

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