438 過去の過ちと後悔
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城に戻り、立て直しを計画していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
サタニアの話では、自分も人間の作り出したゲームのキャラだったらしい。
星の女神アスリアは星からの影響を受けて地上に隕石を落とし、世界を壊滅状態にさせたらしい。
「ゼアルってゼロのこと?」
「そう。魂を分けていたの。ベリアルは『日蝕の王』として表に出るヴィルのほう、ゼアルは夜出歩くゼロのほう。やっと思い出したわ」
「『日蝕の王』っていうと、奴しか思い浮かばないな」
「まぁ、あっちも一応ヴィルだからね」
自分の前世なんか聞いてもピンとこなかった。
アエルはいつから知ってたのだろう。
「その世界にアイリスもいたのか?」
「えぇ、アイリスはまだ小さくて、形を成してなくて、突然、消えてしまったんだって。人工知能IRISになる前に、学習するために入ってたんじゃないかって。私はプレイヤーの敵になるために創られたキャラだったから、倒されるまでいたけどね」
「・・・・・・」
サタニアがゆっくり瞬きをした。
天を仰ぐと、サタニアが展開した星々が瞬いている。
「ゼアルがいなくなった後、軍が私を攻めに来た」
「んで、壊滅させたの?」
「もちろん、ラスボスらしくね。星をこうやって動かして」
頭上に広がるドーム型の夜空の星が目まぐるしく動いた。
「ザーって降らせるの。私は本能って言うのかな? 命令に従って多くの国を滅ぼしていった。そのたびにプレイヤーの士気が上がって、どんどん入ってくるようになった」
「ヴィルって記憶あるの?」
「全然、覚えてないな」
腕を組んでひときわ輝く星を見つめる。
サタニアが軽く笑った。
「ベリアルの国はヴィルがいたから守られていたの。どんなに星が降ってもあの国だけは、ベリアルが全て防いでいた。ベリアルはプレイヤーからも人気のあるキャラだったのよ」
「よかったね。ヴィル」
「だから、全く記憶にないって」
エヴァンが少し退屈そうにしていた。
「どんどん敵が攻めてくるから、私は地上に降りて戦うことにしたの」
「ねぇ、『七つの大罪』はいつ出てくるの?」
「彼らはそれぞれ、別の国の牢獄にいたから、私がこっそり逃がしたの。罪状はどれも適当なもの・・・元々罪人キャラだったから、何も危害は加えてないのに、ゲーム開始から牢獄にいたんだって」
「うわ、ひどいな」
エヴァンが苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「理不尽よね。どうしてもみんなを見捨てられなかった。助けた者たちは自分たちのことを『七つの大罪』と名乗るようになって、私の仲間になったの」
「この星々を操るなんて無双状態だろ。サタニアは負けたのか?」
「そう。じゃなきゃ、ゲームはエンディングにならないから」
「オンラインゲームでしょ? プレイヤーがいる間は、ラスボスの地位って揺るがなくない? いなくなっちゃったら、イベント無くなるじゃん」
エヴァンが軽い口調で言う。
「そうゆうものなのか?」
「だって、プレイヤーは団結してボスを倒す目的で来てるんだし」
「そうね。プレイヤーがたくさんいたときは、『七つの大罪』と私で敵の侵攻を抑えていた。後は、クエストが人気だったから、プレイヤーはそっちに夢中だったしね」
サタニアが指をくるっと回して夜空のドームを消した。
「でも、ネタ切れがあったのかな。ゲーム自体の人気が落ちて、ランキングも落ちていった。競争に勝てなくて、ゲームがサービス停止になることになったの。星の位置から、私は自分の死期が読めた」
「へぇ・・・・・」
「最期の戦いの前日、『七つの大罪』は全員転移魔法で逃がした。どこに転移するかはわからなかったけど、理不尽な設定ばかりで嫌になったの。あの世界にいるよりはマシだと思った」
長い髪を後ろにやる。
「最初から最期まで決められたストーリーに従わなきゃいけないなんてうんざりしたの」
「で、死んだのか?」
「そう、ある最強の者に倒されて、終わることができた。世界は平和になったのかな? その後の話なんて聞きたくもないけどね」
カップを両手で持って、カモミールティーを一口飲む。
「今の話だと、『七つの大罪』がこの世界でわざわざ星の女神アスリアにする必要ないだろ」
「そうだよ。なんで奴らがここで復活させようとするの?」
エヴァンが前のめりになった。
「たぶん、彼らは何もかも許してないんだと思う。私が転移させちゃったから、初期化・・・何もかも忘れて、他の世界に転生ってことができなくなったのね」
サタニアが髪を耳にかける。
『七つの大罪』は理不尽な扱いを受けた記憶を捨てきれず、星の女神アスリアを復活させようとするのだという。
もう一度隕石を降らせて、この世界を消滅させてしまいたいのだと・・・。
「うわ、この世界関係ないじゃん!」
「そうね」
サタニアが悲しげにほほ笑む。
「本当は『七つの大罪』は、私と死ぬべきだったの。どうしてもできなかった。勝手に敵って決めつけられて死ぬキャラなんて可哀そうでしょ。でも、間違ってたから、違う世界になっても、彼らだけまだあのゲームの中にいるの」
「そっか・・・なるほど・・・」
「この世界で憂さ晴らしってことか?」
「いや、彼らの脳のプログラムに埋め込まれてるんだと思うよ」
エヴァンが頭を指しながら言う。
「りくやアイリス様とは違うんだ。ゲームのキャラは、ストーリーに沿って作られてるんだよ。本能みたいなものだ」
「随分詳しいな」
「昔、そうゆう仕事を・・・って、今は関係ないって」
「別に聞いてないだろ」
「ふふ・・・エヴァンの言う通り・・・」
サタニアが座り直して、長い瞬きをする。
「私がストーリーを無視したからいけなかった。あの時一緒に死んでいれば、みんなやり直せたのに。私がどこかに転移なんてさせたから、記憶が残ったまま・・・」
「俺はそうは思わない」
「え・・・?」
サタニアの目を見る。
ランプの明かりが少し揺れていた。
「サタニアは間違っていない。そいつらを守りたいと思ったから転移させたんだ。おかしいのはゲームの仕組みだ」
「・・・・ヴィル、綺麗ごとじゃないのよ。現に私はこの世界の脅威になろうとしてるんだから」
「そのゲームの中の俺は、隕石に当たって死んだのか? 国ごと滅ぼされたのか?」
「それは・・・」
「死んでないだろ?」
「・・・・・」
サタニアが小さく頷いた。
「ベリアルは強かったから。でも・・・」
「それなら、サタニアが心配するようなことはない。星の女神アスリアになろうが、サタニアはサタニアだ。隕石が降るなら、俺がどうにか止めてやるよ」
「・・・・・」
「きっとあいつもここにいたらそう言う。お前は何一つ間違っていないってな」
「え!!」
サタニアがはっとして、口をもごもごさせた。
「そうゆうことじゃなくて・・・」
「あいつ?」
「あ、別に誰もいないわ。何でもないからっ」
「怪しいなぁ。また俺だけ仲間外れかよ。別にいいけどさー」
エヴァンがにやけそうになる口を手で隠していた。
「エヴァン、どうしたの? なんか今日、浮ついてる感じがするんだけど」
「えー? そうかな?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
サタニアがこちらを見て、怪訝な顔をする。
放っておけと手で合図をした。
エヴァンが鼻歌交じりにベッドにごろごろ転がった。
完全に浮かれている。
エヴァンはいつもの鋭さが皆無だった。
「サタニア、『七つの大罪』が集まって、どうやってお前を星の女神アスリアにするんだ?」
「あ、そうだよ。肝心なことじゃん。まさか、十戒軍がやっていた儀式みたいなのをやったり?」
「・・・・・・・」
サタニアが急に黙る。
「え、もしかして知らないの?」
「だって、あの子たち私の力を解放して、星の女神アスリアに戻すってことしか言ってくれないんだもん」
「マジか・・・」
エヴァンが気が抜けたように足をぶらぶらさせる。
「はは、いつものサタニアと変わりないな」
「ど、どうゆう意味?」
「エヴァンと大差ないってことだ」
笑いながら体を伸ばした。
「俺と?」
「嫌よ。エヴァンと一緒なんて」
サタニアは膨れていたが、硬かった表情は緩んでいた。
ベリアルだった頃の記憶なんて、欠片も無い。
アエル・・・ゼロはどこまで考えて動いていたんだろうな。
俺があいつにできることは・・・。
トントン
「ヴィル様、あの、お伝えしたいことがあります。入っていいですか?」
ユイナの声がした。
「来客が多くて全然読書が進まないな」
「人気者じゃん、さすが魔王ヴィル」
「茶化すなって」
小さく呟くと、エヴァンが寝転がりながら笑った。
歩いてドアのほうへ行く。
「入っていいぞ。来客は多いけどな」
「あ!」
「お先に」
「・・・・・」
エヴァンが手を挙げてひらひらする。
サタニアがハーブティーを飲み干していた。
「皆さんお揃いだったんですね。ちょうどよかった」
ユイナが部屋に入って、すぐにモニターを表示した。
「'003'という子から急にアクセスがあったんです。少し画面を大きくしますね。ほら・・・」
「003?」
『もしもーし。ちゃんと接続できてるかな?』
エリアスに似た青い瞳を持つ、ツインテールの少女が画面越しに話しかけてきた。
ふわっと浮いて、画面の中の椅子に座っていた。
「誰?」
「なんか見覚えのあるような、ないような・・・」
エヴァンが起き上がって、モニターの正面に立つ。
『あ、君が魔王ヴィルだよね? やっぱりゼロと似てるね』
「お前は誰だ?」
『コードネームは003。001と002は試作品だから、未完全。私はエリアスが創ったアバターで、ゼロのお姉ちゃんだよ。よろしくね』
「ん?」
003がにこっとしながらこちらを見つめてきた。
読んでくださりありがとうございます。
『七つの大罪』は星の女神アスリアが転移魔法を展開させたとき、互いに再会を誓っています。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
また是非見に来てください。次話は週末アップしたいと思います。




