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434 ミナス王国の夜

アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。

ヴィルはアイリスを救い出し、冥界の誘いから目覚める。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。

サタニア・・・魔王代理。


メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。


レムリナ姫・・・天界の姫

ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。


ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。

 ミナス城の客間に集まって、テラが地図を表示していた。

 アイリスが地図を見て、前のめりになる。


「これが、元の世界と”オーバーザワールド”の接続範囲・・・」

「ダンジョンのあった部分を中心に、”オーバーザワールド”が接続されてるみたいだね」

 エヴァンがソファーで伸びをしながら言う。


 三分の一が”オーバーザワールド”となっていた。

 サンフォルン王国や、アリエル王国等、国のある部分は避けているようだ。

 アイリス曰く、天使が管轄している場所は異世界との接続を拒否したらしい。


「悪魔アイリスの言っていた通りね」

「ログインしてるプレイヤーはナナココとテラだけだよ。今配信したらバズれるのにっ・・・・」

 ナナココが自分のモニターを出して悔しそうにしていた。


 エヴァンが冷めた目で見る。


「今、俺たち深刻な状況なんだけど、温度差あること気づかない?」

「ナナココはナナココのペースで”オーバーザワールド”にいるから」


「なんか腹立つなぁ。ねぇ、ヴィル、ナナココは殺してもよくない? こいつ、向こうに肉体あるし、ゲーム感覚なんだよ。テラはともかく、ナナココは使えそうもないしさ」


「えっ!?」

 ナナココが椅子に座りながら後ずさりする。


「いざとなれば贄に使う。一応生かしておけ」


「えっ!? 贄!?」


「魔王ヴィル様は優しいから大丈夫だよ。冗談で言ってるから」

「アイリス・・・・・・」


 まぁ、ナナココは異世界の最新情報を持っている。

 何か使い道があるのではないかと思っていた。


「アイリスのことは信用できるけど・・・・贄ってどうゆう意味? ねぇ、ねぇ」

 近くにいたトムディロスを揺すっていた。


「ナナココ、贄として残されているの!?」

「俺に聞くなって、知らないよ。ねぇ、メイリアたん、怪我は無かった?」


「無い。でも、戦闘に爪痕を残せなかった。今度こそは・・・」

「戦うメイリアたんも素敵だけど無理しないようにね。メイリアたん、この戦いが終わったら俺の王国を紹介するよ」


「そうか。ポセイドン王国の民はまだ闇に呑まれていないもんな。よかったよ」


「ジェラス・・・」

 トムディロスがはっとして、俯いた。


「たくさん食べてくれ。作りすぎてしまった」

「美味しそう」

 ジェラスとレムリナがトレイに食事を乗せて入ってくる。

 テーブルにパンやお菓子を並べていった。


「・・・ごめん。君の気持も考えずに・・・」


「いや、ポセイドン王国が残ってくれていて頼もしいよ。僕はこの国の王なのに、こんなことになってしまったからね」


 窓のほうを見つめながら言う。

 夜も更けていたが、ヴァリ族が城に近づいている様子は無かった。


「綺麗な街だったのにね。お兄ちゃん、ごめんなさい」

「謝らないでくれ、こうなってしまったのは僕のせいでもあるんだから。それに、民を戻す方法が見つかるかもしれない。主要キャラだとか、ストーリーの縛りも無くなったからね」


「・・・うん」

 レムリナが小さく頷いた。


「ありがとう、魔王ヴィル。僕らを救ってくれて」


「俺は何もしていない。礼ならアイリスに言ってくれ。あの場面で咄嗟に判断できたのはアイリスだった」

「えっ、私は後方支援だったし動きやすかったから・・・・」


「アイリス、ありがとう。僕、レムリナとトムを助けてくれて」

「ありがとうございます」

 レムリナが頭を下げた。


「え・・あ・・・」

 アイリスが少し照れながらどういたしましてと言っていた。



「ヴィル、サリーの手当てが終わりましたよ」

 レナがベッドに寝かせていたサリーから離れる。


「解毒も終わり、体力回復と睡眠の薬を飲ませました。良く寝ています。みんなも疲れているように見えます。このままでは、体力、魔力、ともに疲弊して、敵が来たらやられてしまいますよ」

「でも、俺らには時間が・・・」


「レナの言う通りだな」 


 長い瞬きをして立ち上がる。


「焦っても仕方ない。奴はシエルを悪いようにはしないだろう。明日までゆっくり休んでくれ」


「ヴィルがそういうなら・・・了解。テラ、地図消して。ふわぁ・・・俺も眠くなってきた。早く食べて寝よ」

「はいはい」

 テラが指を動かすと、壁に投影されていた地図が消えた。


「レナも眠いのです。たっぷり寝ます。おやすみなさい」

「あっ! レナ、ずるいぞ。そっちのほうがふかふかのベッドで、俺、そっちに寝ようと思ってたのに!」

「レディーファーストですよ。エヴァン」

 レナがにんまりしながら布団をかぶっていた。


 ぼふっと埃が立つ。


「また地べたかよ。硬くて眠りにくいんだよな」

「はは、隣の部屋にもこのベッドはある。あとで案内するよ」


「お、よろしく。まずは食事だ。お腹すいた」

「ん、これは肉を柔らかく煮込んだスープ、”オーバーザワールド”で人気の食事だってSNSに載ってたな」

 テラが口に手を当てる。


「ミナス王国の郷土料理だ。食べていってくれ」

「王が料理もできるの?」


「こう見えて料理にはこだわりがあるし、何でもできるよ。ほら、レムリナも」

「うん・・・」

 レムリナが口数少なく、テーブルの端のほうに座った。



「俺は外に出てる。何かあったら呼んでくれ」

「あっ、魔王ヴィル様はどこかに行くの?」

 アイリスが慌てて立ち上がる。


「私も行く」

「読書だよ。月明かりが綺麗だろ? 読書日和だ」

 客間の棚にあった本を一冊取って、表紙を見せる。


「異世界のファンタジーの本だ。意外と読み始めると止まらないんだよな」

「魔王が読書・・・意外な趣味」

 ナナココが呟いた。


「最近はお前ら異世界の者が来るから、本が豊富だ。魔王城の本は読みつくしてしまったからちょうどいい」

「はは、読書か。飾りだと思っていたけど、好きなだけ持って行ってくれ」

「遠慮なくそうさせてもらう」


 ジェラスが席について、ハーブティーを飲んでいた。


「魔王ヴィル様、相変わらず読書好きだね。ちゃんと休まなきゃ駄目だよ」

「俺にとっては読書が休憩だ。じゃあ、明日な」

「うん」

 アイリスがほっとしたようにほほ笑んだ。


 部屋から出ていく。





 本をマントの内側にしまって、城の屋根を歩いていた。

 月明かりが煌々と輝いていて、星々の光りが小さく見える。


「来てたなら言えよ。サタニア」

「いつから気づいてた?」

「お前がここに立ったときだ。魔力でわかる」


 紫色の髪を後ろに流して、サタニアが転移魔方陣の上に座っていた。

 魔法陣の光りが消えていく。


「ヴィル」

 目を細めてこちらを見上げた。

 

「今から行こうと思ってたのよ。ユイナもちゃんと連れてきて、先に行かせたから安心して。といっても、もうみんな寝てるんでしょ?」

「戦闘の後だからな」


「アイリスの禁忌魔法のループから外れたヴィルがいるのね。ヴィルみたいにかっこいい?」

「あいつは俺だよ。アイリスに会わなかった世界線の俺だ」

「そう・・・・」


 サタニアが浮かない顔をしていた。


「ゼロがお前によろしくって言ってたよ。今は別の異世界のゲームに転移してるらしい」

「・・・・本当、勝手よね。かっこばかりつけて、何も言わずに決めちゃうなんて。でも、ヴィルがこの世界にいたほうがいいから、仕方ないのかな・・・・」


「・・・・ったく」

 サタニアの隣に座った。


「素直じゃないな。寂しいって言えばいいだろ」

「別に・・・・どうでもいいもの・・・」


「サタニアとゼロにどんな関係があったのかは知らない。でも、サタニアの、そうゆう表情は初めて見る。話せる範囲でいいが、話してみろ」


「やきもち妬いてくれないの?」

「サタニアは元から俺に似た何かを求めていただろ? アエルか?」


「そんなわけな・・・」

「俺は魔王だ。お前が思っている以上に、勘づいてる」


「・・・・・」

「言いたくないなら詮索するつもりはない」

 膝を立てると、小石が転がっていった。

 風が城の周りの木々を揺らしている。



「・・・ヴィルには敵わないね・・・」

 サタニアが膝を抱きしめる。


「私ね、この世界に転生する前に別の世界にいたことを思い出したの。思い出したくなかったんだけどね・・・・」

「七海のことか?」

「ううん。もっと前、ヴィルとゼロがまだベリアルだったとき。私はあるゲームの星の女神で、ラスボスだったのよ」

 サタニアが長い髪を押さえる。


 俺とゼロは元々ベリアルという一人の『日蝕の王』だったのいう。

 異世界のファンタジーの本のような話だ。


「月の女神の助言で、ベリアルは2人に分かれたの。星が輝く時間、歩くことのできたのは、ゼロのほうだった。ベリアルは日蝕の王だから、ヴィルは昼間しか出歩けなかった」

「いまいちピンとこない話だが・・・日蝕の王? そういえば、あいつが『日蝕の王』を名乗ろうとしていたな」


「あいつ・・・?」



「星の女神アスリア、ここにいらしたのですね」


「!?」

 突然、転移魔方陣が展開されて、怠惰のオベロンが眠そうな目を擦りながら現れた。


「オベロン・・・」

「傲慢のジオニアスに会っていたのですね。七つの大罪一同探していたのですが、まさか僕が先に見つけるとは。ミーナエリスに怒られそうですが」

 俺が立ち上がる前に、サタニアが立った。


「ジオニアスから聞いたかもしれないけど、前世はもう関係ないの。私はアスリアじゃない。魔王代理のサタニアだから」

「そんなことはありません。僕らは星によって繋がれてる」


 オベロンが短い前髪をかき上げると、額に金色の模様が見えた。


「仲間にアスリアがここに居ることを伝えました。すぐにここに来るでしょう」

「面倒なことを・・・」

 サタニアが息をついた。


「サタニア、こいつらの目的は何なんだ?」


「僕らの目的は、星の女神アスリアの封じられた力の解放と地位の確立」


「は?」


「私は星の女神じゃないわ。魔王代理のサタニアよ!」


「星の女神は何の制約も持たずに輝くものです。今の貴女はこの世界の様々な制約に縛られているようですね。このままでは、前世と同じことを繰り返してしまいますよ」


「・・・・・・」

 オベロンがじっとサタニアを見つめた。


「なるほど・・・・この世界には、そんな制約があるんですね」

 サタニアを取り巻く何かが見えているようだった。


「いい加減にして。私は前世なんかどうでもいいんだから」

 サタニアが立ち上がって背を向ける。


「行きましょ。ヴィル」

「星の女神アスリア。貴女に僕たちは救われました。でも、僕たちは貴女を救えなかった。その償いをさせてください」


「・・・・・いらない。どうやってここに辿り着いたか知らないけど、みんなには七つの大罪を解散するように伝えて。私はこの世界で魔族として生きていくから」

 サタニアが地面を蹴ると、オベロンのいる場所に転移魔方陣が展開された。


「懐かしい魔力です」

 オベロンが両手を上げて、ふっと笑う。


「言っておくけど、どこに飛ばすか言わないから」

「これじゃあ、僕は抵抗できませんね。では、七つの大罪が揃ったときには星の女神アスリアを解放しに参ります」


「いらないわ・・・・」


「必ず」


 転移魔方陣が輝きだして、オベロンが姿を消した。

 サタニアがため息をついて、柔らかな髪を流す。

 

「いいのか?」

「転生前のことなんか、思い出したくないから。それよりも、魔族とヴァリ族の状況を伝えるわ。そっちのほうが大事でしょ」


「・・・・・」

 こちらを振り返ってアメジストのような瞳を向けてくる。


「ヴィルもさっきのことは忘れて。今は”オーバーザワールド”のことに集中しなくちゃ」

「わかったよ」 

 

 夜空に浮かぶ星が一つ流れたような気がした。

読んでくださりありがとうございます。

サタニアは星の女神アスリアだったことを思い出して、どうすればいいか思い悩んでいました。


ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。

また是非見に来てください。次話は今週アップできればと思います。

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