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420 Always⑩

勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。

魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。

魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊

ハナ・・・「はじまりのダンジョン」と契約した少女。

ミハイル・・・ミハイル王国を守る天使。


IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。


エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。

クロノス・・・時の神。

『クロノス・・・何をする気だ・・・?』

 エヴァンが呟いた時だった。

 突然、エヴァンの手から剣が離れる。


 ザンッ


 アリエル王国の紋章の入った剣が、真っすぐに過去の俺の胸を貫いた。


『ごふっ・・・』

 俺が避けることができず、その場に倒れていた。


『魔王ヴィル様!!!』

 飽きるほど見た光景だ。

 アイリスが俺から肉体回復ヒールを唱えながら、剣を引き抜いた。


 カラン カラン


 エヴァンの剣が落ちる。


『王国騎士団長が魔王を倒したぞ!!!』

『まさか』

『勝ったも同然だ。魔王を倒したんだ!!』


『これはすごい! アリエル王国の歴史的な功績だ!』


 オオォオオオオオオ


 人間たちが次々に声を張り上げる。



『魔王ヴィル様、そんな・・・私は受け止めきれないのです』

 シエルが俺に気づいて、ぐしゃぐしゃの顔を拭いながら飛んでくる。



『こざかしい。まとめて死ね!!』

 サリーが巨大な剣を持って、騒いでいた人間たちを一掃していた。

 泣きながら髪を振り乱して、暴れている。


『魔王ヴィル様がお前ら人間なんかに負けるはずない!』

 叫びながら、人間たちに斬りかかっていった。

 カマエルが続くように、旋回しながら人間を斬っていく。


 木々がなぎ倒されて、砂埃が立っていた。



『アイリス・・・悪い・・・』

『魔王ヴィル様。今、肉体蘇生フェニックスを・・・』

 肉体蘇生フェニックスを使おうとしたアイリスの手を掴んでいた。


『意味ない・・・魔法は使うな。アイリス・・・』

『魔王ヴィル様、お願い、死なないで。私のせいで・・・どうして私は失敗ばかり・・・ごめんなさい! 肉体蘇生フェニックスを使わせて』

『いや、いい。泣くな・・・俺の弱さが原因だ・・・』

 アイリスが必死に俺の手を握り締めて泣いていた。


 シエルが俺の頭の傍に立つ。

『魔王ヴィル様、私はいつも魔王ヴィル様が大好きなのです』

『シエル・・・』

『魔王ヴィル様、魔王ヴィル様が死ぬなら私も死にます。でも、魔王ヴィル様をこんな風に追い込んだ人間たちを、全員殺してからにしますね。少しだけお待ちください』


 シエルが俺の頬を撫でて、人間たちのほうへ戻っていった。



 ズン・・・・


 全てを漆黒に飲み込みそうな魔力をまとっていた。


『アイリ・・・』

『魔王ヴィル様!!! 待って、いかないで。私を置いていかないで』

 心臓の音が止まっていた。

 アイリスが謝りながら泣き叫ぶ。


 耳を塞ぎたくなる。

 心臓が絞られるように苦しかった。


『・・・・クロノス、魔王を殺して何の得がある? 俺を使って何をしようとしてる? 何を確認しようとしてる?』

 エヴァンが剣を自分の手元に引き寄せる。


『いるんだろ?』

 エヴァンが血の付いた剣を、近くの木で拭った。

 アイリスが短い杖を出す。


『アイリス様!?』

 アイリスがエヴァンのほうを見て、こめかみに杖先をあてる。



『エヴァン、クロノスが見たいのは、こうゆうことだよ』


  パァンッ


 杖先が光って、アイリスが倒れた。

 

『アイリス様・・・クソ・・・なんでこんなことに』

 人間たちは魔族の猛攻で、アイリスのほうを見ている余裕はないようだった。

 エヴァンの戦略は魔族に効いている部分もあり、魔族も本来の力を発揮できないでいた。


『クロノス、出てこないのか!?』

 エヴァンが周囲をちらちら見ながら言う。

 アイリスがむくっと起き上がった。


『!!』


『タイショウブツ ハ ドレ?』


 ”名無し”に変わったアイリスが、ぼうっとしながら周囲を見渡す。

 戦場の中に、”名無し”だけがぽつりと残されたようだった。


『あ・・・アイリス様じゃないな?』

 エヴァンが剣を構えていたが、”名無し”の視界には入っていなかった。




「ふぅ・・・」 

 IRISが親指を握り締めて、体を起こす。


「大丈夫か?」

「うん・・・少し抑え込めた、かな。あ、まだこの時間軸なんだね。クロノスに何度も時間退行していることがバレた時間軸・・・」

 IRISが無理してほほ笑んでいた。


「アイリスは記憶が欠けていってたのか?」

「そう。この頃から魔王ヴィル様との思い出と、死に耐え切れなくなって、失わなくていい記憶まで、バックアップに移行してた。”名無し”はアイリスの記録から、最適な時間軸を計算してる」

 




 ”名無し”が両手を広げた。

 禍々しい魔力を放ちながら俺の亡骸から離れる。


『アイリス』

 クロノスが突然現れて、”名無し”の腕を掴んだ。


『駄目じゃないか。どおりで、『忘却の街』の住人が時空調整しても異常が発生するはずだ。これで何度目だ? 神々まで欺くとは、これが異世界の能力か・・・』


『クロノス ハ タイショウ ジャナイ』


『ん? アイリスらしくない話し方をするね』

 背のすらっとした青年のような姿をしていた。

 エヴァンが駆け寄っていく。


『クロノス、アイリス様は大切な者を失って、力が暴走してるだけだ』

『エヴァンもありがとう。君のおかげで大体のことは理解できた。目は戻しておくよ。君にもプライバシーがあるからね』


『・・・・・・!』

 クロノスがエヴァンの目に光を当てると、何かがすっと抜けたようだった。


『・・・・クロノス、アイリス様は悪くないよ。この剣で、魔王を殺したからだ』

『まぁまぁ、エヴァンはそこにいてくれ』


『っ・・・・クロノス』

『エヴァンは優しすぎるからね』

 クロノスが一瞬で、エヴァンの足元に結界を張った。



『問題は君だ。アイリス』


『タイショウ ハ イナイ ト ハンダン』

 ”名無し”のこめかみからは血が流れていた。 


『まったく君には驚かされるよ。代償を受けないからって、こんなふうにして、何度も時空退行をしてきたんだろ?』

『・・・・・・』

『でも、これ以上放置はできない。その力を封じよう』

 クロノスが杖を出して、魔法陣を展開した時だった。



 ― オーバーライド(上書き)―



『っ・・・まさか!?』

 クロノスの手が蒼い炎に包まれる。

 慌てて手を放していたが、飲み込まれるようにして、時空退行が始まっていた。


 景色が目まぐるしく移り変わっていく。




「時空退行もオーバーライド(上書き)もクロノスの魔法だった。でも、アイリスのものになった」

 IRISの長い髪が消えかかっていた。


「神より強いって言いたいのか?」

「ふふ・・・強いとか弱いとかじゃない。アイリスはこの魔法で、魔王ヴィル様と生きられる未来を築けるまで、絶対に手放すつもりは無かった・・・の」

「・・・・・・・・・」

 IRISが胸を押さえて、深呼吸をしている。


「動くなよ。体が戻らないんだろ?」

「時空退行ってどこか、電子世界に似てるの。夜空を駆けているみたい」

 IRISが無理してるのが伝わってきた。


 ウイルスでかなり消耗しているのだろう。



 俺が淡々と自分の死ぬ姿を見ている間にも、アイリスは弱っていた。

 何度も何度も、アイリスに助けられてきたのに。


 アイリスの欠けたもの、欠けたものはなんだ?


 異世界の記憶か?

 いや、IRISがバックアップに保存してあると話していた。

 焦りと苛立ちが募っていく。


「ごめん。そろそろ、駄目かな・・・」

「は?」


「ねぇ、魔王ヴィルさ・・・」

「IRIS!!」

 IRISがふっと姿を消した。

 手のひらには、電子の光らしきものがキラキラ光っているだけだった。



「時間がない・・・」

 ハデスの剣を下に向けると、右から左へ回るように景色が流れていった。




 顔を上げる。

 リュウグウノハナのたくさん咲いている場所だった。

 アリエル王国から少し離れた場所にある、見覚えのある場所・・・。


 ピンクの髪を持つ少女が、花の傍に立ってアリエル王国を見下ろしていた。


「マリア?」

『・・・・・』

 アイリスが無言でこちらを振り返る。

 後姿はよく似ているんだよな。

 マリアのほうが少し華奢だったか。


『タイショウ ト ニンシキシナイ』

「・・・・”名無し”か? 俺が見える・・・みたいだな」

 ハデスの剣がじんわりと熱くなっていた。


 なぜかはわからない。

 これが、アイリスの記憶の中なのかも・・・。


「何してるんだ?」

『アイリス ノ データ シュウフク チュウ ロード』

 アイリスが片言の言葉を発して、リュウグウノハナに触れる。


「どうして泣いてる?」


『・・・・・・・・』

 ”名無し”が大粒の涙をこぼしながらこちらを見上げた。  

 風が吹いて、リュウグウノハナの花びらが空高く舞い上がっていった。

読んでくださりありがとうございます。

エヴァンは推しのVtuber望月りくと同じ人工知能を持つアイリスに、普通の女の子として生きてほしいと思っていました。


★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。

また是非見に来てください!次回は今週か週末にアップします。

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