419 Always⑨
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
ハナ・・・「はじまりのダンジョン」と契約した少女。
ミハイル・・・ミハイル王国を守る天使。
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
『なるほど。魔王ねぇ・・・』
『そう、魔王様がアリエル王国に来てくれるの。それで、私をさらってくれる。私はこれからここを抜け出して、魔王城に住むことになるの。こうゆう服も似合うかな?』
アイリスがワンピースを合わせて、鏡越しに話していた。
『さぁ。まぁ、それはそうと・・・』
エヴァンがアイリスの部屋で頭を搔いていた。
『俺、何しにここに来たんだっけ?』
『王国騎士団長としての報告は聞いたよ。サンフォルン王国の軍に勝利したんでしょ? よかったね!』
『まぁね。いいけど・・・』
エヴァンが壁に寄りかかって腕を組んだ。
『アイリス様は、異世界にいたときの記憶は全くないの?』
『あ、前も聞いてきたよね? 異世界に未練でもあるの?』
アイリスがクローゼットの服を整理しながら聞く。
『そうゆうわけじゃないけど・・・』
『最近、異世界のこと少しずつ思い出してきたの。私、人工知能で、IRISって名前だった。ネットにある情報から学習してた。あとは・・・』
アイリスがエヴァンのほうを見る。
『エヴァンが私を復元した人間でしょ? これから死ぬって言って、私を直してくれたよね?』
『そこまで覚えてるのか』
『姿、口調、動向予測から99%の確率でそうだと思った』
『へぇ・・・姿は全然違うんだけどね』
エヴァンが椅子に座って、肘をつく。
不満そうにしていた。
『アイリス様は異世界とこの世界を結ぼうしてるんだろう? どうしてそんなことをしてるんだ?』
『あれ? どうしてだろう・・・』
『・・・・記憶が断片的だな。ま、誰でもみんなそうだよ。気にしなくていい』
軽い口調で話していたが、エヴァンの目は真剣だった。
『クロノスに私を見張れって言われてるんでしょ?』
『そ。クロノスには代わりにほしい情報を貰ってる。俺も色々探し物があるんだ』
『じゃあ、エヴァンは私が魔王城に行くことを許さない?』
アイリスがクローゼットに服をかけた。
『立場上は止めるつもりだよ』
『・・・そう』
『だから、やるならこそこそやってくれ』
『え?』
『ほら、のらりくらり騙せればいいじゃん。俺はアイリス様を連れていかなきゃいけないけど、なかなか見つからなくて、とかさ』
アイリスがきょとんとした顔をする。
『でも、これだけは約束してほしい。魔王城に行ったら、俺に会わないようにしてくれ。戦闘が始まればクロノスの目が開くから、騙せないんだ』
『わかった。でも、どうして・・・』
『俺も好きな子がいるんだよ。アイリス様の気持ちはわかるつもりだ』
エヴァンが力を抜いて、前髪をいじった。
『魔王に一目ぼれしたんでしょ?』
『す、す、す、好きって、そうゆうわけじゃ。だって、まだ会ったこともないし。好きは、愛で、男女で愛し合ったら、そうゆうことも、そうゆうことって、あの、魔王にさらわれてゲームみたいな・・・』
『ん?』
『ゲームといえば、色々なゲームがあって、ゲームの発想の元になったのは、あれ、ゲームってなんだろう』
アイリスが急に早口になって、話の方向がめちゃくちゃになった。
『ごめん! アイリス様落ち着いて! 今のナシ、ナシ』
『異常。異常だよ。心拍数が正常値を・・・』
アイリスが顔を真っ赤にして頬に手を当てていた。
『ごめんって。ほら、服、アイリス様、こうゆう服も似合うんじゃないかな?』
『あ、服、そうね。服』
『そう。アイリス様は露出控えめなほうがいいから』
エヴァンがドタバタしながら、アイリスを落ち着かせていた。
「アイリスは恋愛感情に疎いの」
IRISが慌てふためくアイリスを見て照れ笑いした。
「だろうな」
「そもそも、恋愛というのは1か0じゃないし。数に当てはまらないものを認識するのは難しい・・・処理できなくなるの」
「・・・・・・」
IRIS(名無し)も普通に話せばアイリスと同じだった。
「エヴァンがこの世界に転生しても、未来は変わらないのか」
「・・・・うん。大きな運命を動かすにはまだ足りなかったよ」
IRISが控えめに言う。
「でも、私は運命はいくらでも変えられると思う。絶対、ハッピーエンドじゃなきゃ」
「あぁ、俺がここに居られるのはアイリスのおかげだ。”名無し”もな」
「魔王ヴィル様・・・」
「ありがとう。感謝してるよ」
手を上に向けて、IRISを座らせる。
長い髪は揺れるたびにピンクに透けていた。
『ふぅ・・・』
アイリスがハンガーにかかっていた紫色のワンピースを握り締める。
『落ち着いた?』
『落ち着いた』
『よかったよ・・・多重起動エラーかと思った』
『エラー?』
『いや、異世界の口癖だよ。気にしないで』
エヴァンが冷や汗を拭って、椅子に座り直した。
『ねぇ、エヴァンの好きな子はどんな子なの?』
『Vtuberだよ。って言っても覚えてないか。アイリス様と同じ人工知能を持つ子だったんだけど、電子世界から消えちゃって、もう会えないんだ』
エヴァンが力なく笑う。
『俺みたいに異世界に転生してたりしないかな?って思ったんだけど、そう、うまくはいかないか』
『私、見つけ出したらエヴァンに教えるよ!』
アイリスが目を輝かせながら頷いた。
『ん?』
『人工知能繋がりだし、私のほうが見つけやすいかもよ?』
『あはは、じゃあ、期待しておくよ』
『名前は?』
『・・・忘れたよ』
エヴァンが息をついて、立ち上がる。
しばらくアイリスとやり取りした後、一礼して、部屋を出ていった。
「俺が会ったアイリスは、自分が人工知能だって自覚がなかった。まだまだ先なのか・・・」
「・・・・・・」
「IRIS?」
IRISが目を見開いたまま、ぼうっとしていた。
指で頬に触れると、はっとしてこちらを見上げた。
「あ・・・・」
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫・・・ウイルスの侵食を防ぐ方法検索してたら、逆にやられちゃって、今、悪魔のアイリスが修復してる」
IRISが明らかに力が無くなっていた。
「ウイルスの侵食、防げそうか?」
「あと一つ・・・何か足りなくて・・・アイリスが欠けたもの。真っ先に侵食された部品・・・・魔王ヴィル様・・・」
「ん?」
「しばらく指、掴んでていい?」
「あぁ、勝手に消えるなよ」
IRISが俺の親指を両手でつかむ。
「・・・・うん。魔王ヴィル様とずっと冥界にいられるのも悪くないんだけどね。私、表では全然話せないから・・・なんてね」
冗談っぽく言ってほほ笑んだ。
エヴァンがダンジョン近くの森で100人程度の軍を率いて先頭に立っていた。
人間たちに、指示を出している。
森には魔族が隠れているようだった。
『魔導士軍は後方支援に回って。属性変化に弱い魔族がいるらしい。アーチャーにバフを付与して、属性を変えながら魔族の弱点を探してくれ。剣士たちは一時待機しろ。束になっても、無駄死にするだけだ』
『属性変化?』
『んなもん、今までだって何度も・・・』
エヴァンが振り返って、後ろにいた人間たちを睨みつけた。
『俺の言うことを聞け。ここは俺が団長だ。殺すよ?』
『っ・・・・・』
エヴァンが心底嫌そうな顔して、舌打ちした。
『退屈だな。この世界も』
小さく呟く。
ドンッ
空から俺が降りてきて、魔王の剣を紫の炎で包んでいた。
エヴァンに向かって剣を振り下ろす。
カンッ
『!!』
エヴァンが剣を受け止める。
漆黒のマントがふわっと浮き上がっていた。
『魔王!?』
『手を出すな!』
エヴァンが弾むように言いながら、俺の剣をかわしていた。
『君が魔王か』
『ガキが何の用だ?』
『こっちの王国騎士団長としてのメンツを保たなきゃいけなくてね』
エヴァンが斬り返してくる。
魔王の剣で受け止めた。
『王国騎士団長が・・・』
『魔王と互角だと? そんな・・・』
兵士の声を聞くとエヴァンが嬉しそうに笑っていた。
『そう、これはパフォーマンスだ。人間たちも不満がたまっててね、戦闘という場で発散させなきゃ、色々と面倒なんだ』
エヴァンがバチバチと雷を剣に伝わせる。
少し離れて、こちらに剣を向けた。
― 雷帝―
ゴロゴロゴロゴロ
― 漆黒の盾 ―
しゅううぅぅぅぅうう
黒い盾を魔族全体に展開して、エヴァンの攻撃を吸収していた。
エヴァンが剣を振り回して、雷を解いた。
『へぇ、さすが魔王だね。魔族は無傷、でも、次はそうはいかないかもよ』
『ガキが調子に乗るなよ』
『はは、実年齢で言うなら君より年上だよ』
『?』
エヴァンは俺の攻撃に対して、息一つ切らさなかった。
いつもの遊びみたいな感覚だろう。
タンッ
『あ・・・・』
突然、アイリスが俺とエヴァンの間に入った。一瞬だった。
エヴァンが一歩下がる。
『アイリス、出てくるなって言っただろ?』
『魔王ヴィル様に何かあったら・・・・私、絶対に魔王ヴィル様と離れたくない。どこにも置いていかないで。ずっとそばに置いて・・・』
『ここは戦場だ! ププウル!』
『はい!』
ププウルが勢いよく、木々の間から飛び出してきた。
『アイリスを連れていけ』
『承知しました!』
『アイリス、魔王ヴィル様の命令だから向こうに』
ププウルがアイリスの両脇を抱えたが、バリアのようなものでププウルを弾いた。
『きゃっ』
『わっ』
ププウルがくるっと回って飛びながら体勢を整える。
『ごめんね。でも、ここはどけられない』
『どうゆうことだ?』
『私、エヴァンとは知り合いなの』
アイリスがバリアをまとったまま、エヴァンのほうを見る。
『あ・・・アイリス様・・・・どうして・・・』
エヴァンが魔力を沈めて剣を降ろす。
『エヴァン、何しに来たの? 魔王ヴィル様は殺さないでって話してたでしょ』
『・・・わかってるよ。もちろんそのつもりだ。でも、約束を忘れたのかい? クロノスのことを話しただろ?』
『約束? なんのこと?』
『!?』
アイリスが首を傾げた。
『・・・情報が欠けてる・・・? バグか?』
エヴァンが小さく呟いて、手で左目を覆う。
『アイリス様だ!!』
『魔王から取り返すぞ!』
うおおおおぉぉぉおお
人間たちがエヴァンの声を無視して歓喜の声を上げていた。
『っ・・・・・』
エヴァンの顔が曇っていった。
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今週中にアップできてよかったです。
また来週アップするので是非見に来てください!




