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45 弱点

「じゃあ、シナガワ。後でここにも魔族を配備させてもらうからな」

『もちろんだ。ただし、綺麗に使ってくれよ』

「ダンジョンの精霊はみんなそう言うからな。わかってるよ」


「あ、シナガワ様」

 アイリスがはっと思いついたような表情をした。


「これ、異世界の品川駅の地図です。もらったのでよかったら」

『・・・・なんと・・・・シナガワエキの地図など、存在するのか?』

「はい、異世界の人からもらってきました」

 背伸びをして地図を渡すと、シナガワが目を輝かせた。

 ダンジョンに力が漲っていく。


「おっ・・・・」

「すごい魔力ですね・・・・」

 ダンジョン内の魔力が高まるのをびりびりと感じた。


『こんな・・・嬉しいことはない。ありがとう。ありがとう、アイリスよ。大切にするぞ』

 大きな手で小さな地図を持って震えていた。


「喜んでもらえて嬉しいです」

「アイリス、セラ、戻るぞ」

「うん!」

「は、はい・・・魔王ヴィル様・・・」

 セラが恐縮しながらついてきた。 


『じゃあな。魔族が来るのを待ってるぞ』

 シナガワが溶けるような笑みを浮かべた。


 シュン


 瞬きをすると、ダンジョンの外に出ていた。


 人間の気配は・・・・・どこにもないな。


「あぁ・・・・外に出られる日が来るなんて・・・・・」

 セラが感極まって、目を潤ませていた。


「よかったね!」

「ありがとう・・・ございます・・」


「おかえりなさいませ。魔王ヴィル様」

 ザキが空から軽やかに降りてきた。

 セラのほうをちらっと見てからお辞儀をしてくる。


「こんな短時間で戻ってくるとは、さすが魔王ヴィル様でございます。我が同胞も元気なようで、何よりです」

「あぁ」

 何もかもがカマエルに似てるな。

 カマエルの部下はみんなこんな感じなんだろうか。


「久しいな。セラ、無事で何よりだ」

「ご心配おかけして、失礼いたしました。ザキ様」

 セラと二言三言、何かを話していた。

 聞こえなかったが、吸血鬼族の状況を簡潔に報告しているようだった。


『来い、ギルバート、グレイ』


 クォーン


 双竜が草の上に現れた。もぐもぐして呑み込んでから、翼を畳んで姿勢をよくする。

 食事中だったっぽいな。


 いつもだったら喜んで近づいていくのに、アイリスが少し考え事をしているようだった。


「アイリス?」

「え? あ・・・」

 ギルバートがアイリスの頬に首を伸ばしていた。


「待って待って、くすぐったいよ」

 鼻息があたると、ふふっと笑顔になった。


「わぁ、久しぶりです。ギルバート、グレイ。私も乗せてもらえますか?」

 セラが近づいていくと、グレイが髪をわしゃわしゃしていた。


 クォーン クォーン


「ありがとう」

 遠くへ響くような声で鳴いて、体勢を低くした。

 鱗を掴んで、ギルバートとグレイの背中に飛び乗る。


「えいっ」

 セラが軽やかに地面を蹴って、後ろについた。


「よいしょっと・・・」

「アイリス、ほら・・・・」

「ありがとう。魔王ヴィル様」

 手を伸ばしてアイリスを引っ張り上げる。


 ギルバートとグレイが大きく翼を動かして、上昇していった。


「わー、風が気持ちいい・・・お姉ちゃんに会うのも、楽しみ。どうなってるのかしら?」

「マキアはね、優しくて料理が上手。掃除も丁寧なの」

「そうなの」

 アイリスが言うと、セラがほっとしたような表情を浮かべた。


「ふぅ・・・なんか、緊張してしまいます」


 クォーン オォーン


「ギルバート、グレイも喜んでくれるのね。お互い、封印なんて大変だったね」

「・・・・・・・・」

 風に乗りながら、地上を見つめる。



 なんだ? 


 突然、ピンと張りつめたようなものを感じていた。

 オブシディアンを手のひらに載せると、うっすら光っている。


「ギルバート、グレイ、いいか。魔王城へはゆっくり来い。何かあったようだ。もし人間に遭遇した場合はうまくかわせ。いいな」

 ギルバートがきりっとした目つきになり、短く鳴いて頷いていた。

 翼で空中を大きく仰ぐ。


「え・・・・・・?」

「どうしたのですか?」


「先に戻ってる」


「魔王ヴィル様・・・・?」

「ギルバートとグレイの動く通りにしろ」

「あっ・・・」

 手を付いて、ギルバートとグレイの背中から飛び降りた。






 魔王城の方角へ、加速していく。

 オブシディアンの反応も鈍い。

 直感で、上位魔族の誰かに何かあったのだと思った。



 森を素通りして、真っすぐに魔王城の扉から入る。

 上位魔族が魔王の椅子の前にいた。何かを囲んでいる。


「何があった?」 

「魔王ヴィル様・・・ウルが・・・・・」


「!?」

「ウル!!! 起きて!!!」

 床に血まみれのウルが寝ていた。

 ププが泣きながらウルの名前を叫んでいる。


「ウル!!! ウルってば!!!」

 自身も怪我を負って、服が破けていた。

 はだけた背中に細かい傷跡があるのが見える。


 ププウルが傷を負ったから、オブシディアンの反応が遅かったのか。


「申し訳ございません。油断しておりました。ププとウルが魔王城周辺の散策をしていたところ、水属性の魔導士に攻撃を受け、無力化されてしまってこのようなことに」

「ププがウルを連れて、何とか帰ってきたんです」

 ジャヒーとサリーが説明する。

 俺が錬金した対水属性用のピアスは壊されていた。

 

 ププウルが会ったのはおそらくただのSS級魔導士ではない。

 かなり頭のキレる人間だな。


「クソっ・・・・人間め」

 ゴリアテがドンドンと床を鳴らしていた。


「ウル、聞こえるか?」

「・・・・・・・・・」

 マントを後ろにやって屈んだ。動脈と肺をやられているのか。

 すべて、水属性の傷跡だ。

 上位魔族であるから生きているものの、下位魔族や人間であれば即死だっただろう。


「ウル、ウル、起きて。ウル・・・・死なないで。私を一人に」

「浅いが息はある。安心しろ」


「え・・・?」

 服を脱がせて、血の多く出ている腹に手をあてる。


 ― 肉体回復ヒール― 


 ぱっと手のひらが金色に光る。

 傷口を閉じるよう、集中して息を吐いた。

 徐々に傷口が塞がれて、血が戻っていくのがわかった。


「・・・おぉ・・・・・・さすがでございます・・・」

 カマエルが感嘆の声を漏らす。


「・・・応急処置程度だがな」

 俺の回復能力もわずかに上がっていたが、まだまだ弱い。

 この場に、回復能力に特化した魔族がいればよかったんだが。


「ウル!」

 ウルがすうっと通常の呼吸をしている。


「・・・・これで、後は上位魔族の回復力があれば問題ないだろう」

「あ、あ、ありがとうございます。魔王ヴィル様」

 ププがひっくひっくしながら、ウルの頬をさすっていた。


「うぐ・・・・・申し訳ございません。このようなことで御手を煩わせてしまい、取り乱してしまって」

「気にするな。お前の大事な姉妹なんだから当然だ」

「うぅ・・・・・」

 安心したのか、ぼろぼろと涙を流して泣いていた。

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