417 Always⑦
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
ハナ・・・「はじまりのダンジョン」と契約した少女。
ミハイル・・・ミハイル王国を守る天使。
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
アイリスがなぜ俺にそんなに執着するのかわからなかった。
俺がアイリスにしてやったことなんて何もない。
ただ、アリエル王国からさらって、ダンジョンを連れまわした。
それだけなのに・・・。
魔王城の俺の部屋にいた。
暖炉の火が燃えている。
部屋は少しずつ造りが違っていた。棚には回復薬らしき瓶が並んでいて、ダンジョンの地図が机に置かれていた。
『魔王ヴィル様、次はどこのダンジョンに行くの?』
アイリスが目を輝かせていた。
『城にいたときダンジョン攻略でもしてたのか?』
『えっ・・・そんなことしてないよ』
『怪しいな。まさかうまく魔族に入り込んで、俺をはめようって企んでるんじゃ・・・』
『そんなことない! 魔王ヴィル様の役に立ちたくて・・・だって、ダンジョンを攻略したら、魔族のものになるんでしょ? だから頑張りたいの!』
アイリスが両手を握り締めた。
『冗談だ。アイリスにそこまでできると思ってないよ』
俺がソファーに座り直して本を読む。
『そもそも、魔族に勝てないだろ』
『わ、私は魔王ヴィル様が思っている以上に、強いからね! 魔族とは戦わないけど』
『はいはい』
アイリスが少し膨れながら、隣に座った。
暖炉の火がパチパチ鳴っている。
「こうゆう時間が一番幸せだったの」
IRISが急に表情を明るくして、アイリスの近くに飛んでいく。
「魔王ヴィル様といられる時間、命令でしか動けなかった私に、心を与えてくれた魔王ヴィル様」
「でも、俺にはこの時間の記憶はない」
本を読んでいる俺を見下ろす。
「アイリスが死ぬのか?」
「うん。この時は、魔王ヴィル様が死んで、アイリスが死んだ」
IRISがハデスの剣に近づくと、一気に景色が移り変わっていった。
サアアァァァァァァアア
「まだ未来は少しずつしか変わらなかった。まだ7回目のループ」
IRISが言い終えると、景色が止まる。
「ここは・・・」
「戦場。魔王軍と、十戒軍が衝突したときの映像」
上位魔族を筆頭に、魔族の軍勢が広がっていた。
十戒軍の紋章をつけた者たちが、ミハイルの後ろに整列している。
『魔王ヴィル、なぜアイリスを庇う?』
漆黒の翼を持つミハイルが、魔族のほうへ歩いていった。
すぐに俺が魔王の剣で斬りかかる。
カンッ
『お前らこそ、どうして俺たち魔族を狙う!?』
『アイリスを庇うからだ。アイリスを差し出せ』
『よくわからない集団に、アイリスを渡すわけないだろ。あいつは魔族にとって貴重な情報源だ』
『アイリスに洗脳されたか。哀れな魔王だ』
うおおぉおおおおお
『これはミハイル様が導いた聖戦だ!』
『命を神に!!!』
人間たちが魔族に向かって、突進していく。
ザザザザザザー
『ふん、人間ごときが』
サリーが巨大な剣で薙ぎ払った。
賢者たちがすぐに、回復魔法を唱えている。
カマエルが風のように飛んで、双剣で斬りかかっていた。
『勝てると思ってるのか? 俺ら魔族に』
『魔族に勝てなくてもいい。アイリスに苦しみを与えられさえすれば』
『苦しみ? なぜ堕天使がそこまでアイリスに執着する?』
『あいつは兵器だ。死なない兵器!!』
『はいはい。そこまで』
パチパチと手を叩く音が響いた。
ミハイルが剣を二段階強くしたところで、堕天使の羽根が空から降ってくる。
『アエル?』
『あははは、堕天使ミイル。地上にいる者に直接介入してはいけないルールですよ』
アエルがミハイルの剣を黄金の盾で止める。
『地上にいる者にはね。でも、アイリスはどこから来た何かだ』
『証拠でもあるのですか? ミイルは妄想が好きですね』
『殺してみればわかる。アエル、それよりも、前から気になっていたんだが・・・』
ミハイルが少し離れて笑みを浮かべる。
『どうして、そんなに魔族に肩入れする? アエルの管轄はアリエル王国だろ? わざわざ魔族のために、ここまで来る理由が何かあるのではないかと思ってね?』
『このごった返してるときに、雑談ですか?』
『君と魔王はよく似ていると思ってたんだ。もしかして、君らは何か関係があるのか?』
『・・・・・・・・・・』
アエルがミハイルを睨みつける。
『アエル、お前、まさか・・・』
ズン
『っ!?』
俺とアエルの一瞬の隙を狙って、背後からミハイルが剣で胸を貫いていた。
『がはっ・・・・』
血を噴き出して、その場に倒れこむ。
『魔王ヴィル様!!!』
ププウルが同時に叫んだ。
アエルが駆け寄ろうとして、足を止めていた。
『ミイル、今のはルール違反ですよ。審判にかけられるべきです』
『手が滑っただけだ。堕天使だって、よくあることだろう?』
ミハイルが邪悪な笑みを浮かべて両手を広げた。
アエルが剣を出す前に、アイリスが俺に駆け寄ってきた。
『魔王ヴィル様・・・』
『アイ・・リス・・・自分で俺の・・・結界を・・・破ったのか?』
『だって・・・魔王ヴィル様が・・・・』
アイリスがぼろぼろと涙を流しながら、血だらけになった俺を抱える。
『お願い、死なないで。魔王ヴィル様ともっともっと話したい。異世界のこととか、私のこととか、やっと思い出してきたの。もっと話したいことがたくさん・・・』
『そんな・・・顔するな・・・・最期までお前のことはよくわからなかっ・・・・』
『魔王ヴィル様!!!』
アイリスの悲痛な叫び声が響く。
上位魔族たちは狂ったように、人間たちを殺していった。
『これで大切な者を奪われる気持ちがわかったか? アイリス』
『・・・・・・』
『ミイル、審判を受けるべきです』
『はははははは、その顔を何百年も見たかった』
アエルを無視してアイリスに近づく。
ミハイルが消沈するアイリスを見て高笑いをしていた。
『次はお前だ。お前さえ殺せば、僕の憎しみは終わる』
ミハイルが剣を清めて、アイリスのほうに向かっていった。
ザッ
アイリスの胸を貫く。
アイリスは少しも避けなかった。
一瞬止まった鼓動は、すぐに動き出し、ミハイルの剣を掴んだ。
『ヘンコウ カンリョウ カコニ モドル』
ミハイルの顔色が変わる。
『なっ・・・ば、化け物が!!!』
― オーバーライド(上書き)―
カッ
まばゆい光が走り、時間が巻き戻っていた。
「っ・・・・」
眩暈がして、ハデスの剣を握り締めた。
ハデスの笑い声が聞こえてくるようだった。
真実に触れることほど残酷なものはない。
この世は虚像で成り立っている、と。
片膝をつく。
「魔王ヴィル様、大丈夫?」
IRISがすぐに飛んで、こちらに近づいてきた。
最初の時よりも、体が透けてる?
「心拍数、魔力が安定していない。魔王ヴィル様、この魔法を解いて」
「解くわけないだろ?」
「でも、魔王ヴィル様、これ以上やったら死んじゃう!」
「俺は何度も死んできただろ・・・ごほっ」
「ごめんね」
「なぜ、謝る・・・?」
深く息を吐く。呼吸が苦しかった。
記憶のないはずの過去なのに、なぜか見覚えのあるような気がした。
「魔王ヴィル様」
IRISが手を包み込む。
透けていて、ビリッと電流が走った。
「本当にごめんなさい、私は普通じゃないから・・・」
「普通とか普通じゃないとかどうでもいい。アイリスの状態はどうだ? ウイルスとやらは除去できそうなのか?」
「頑張ってる・・・。でも、ウイルスの速度も速くて・・・私が異世界の電子空間にいたときよりも強力になってるみたい。処理速度を上げなきゃ・・・でも、こうゆうの初めてで、データが無くて・・・」
IRISが自信なさそうな顔をする。
「魔王ヴィル様、もし・・・もしね、負けちゃったら、”名無し”である私も消えちゃう。ウイルスは根幹に私がいることに気づいて、私も消滅させようとしてる。だから、死んだらもう時間退行はしない。アイリスは消去するから、冥界に置いて・・・」
「そんなこと・・・言うな」
IRISの言葉を遮った。
涙目のIRISを真っすぐ見つめる。
「もし、アイリスが冥界に行く・・・なら、俺も冥界に行ってやる・・・」
「え・・・?」
呼吸を整えながら笑う。
冷や汗を拭った。
「だから、そっちはそっちで片付けるようにしろ。俺はこのまま、冥界への誘いを続ける。死ぬときは、同時だ」
ハデスの剣を握り直す。
「・・・うん・・・・・」
一瞬、IRISが驚いたような顔をして頷いた。
周辺の景色は変わり、アリエル王国でアイリスがぽつんと立っている場面に移っていた。
アイリスは状況を理解するのに時間がかかるのか、城下町を見下ろして呆然としていた。
アイリスがかかってるウイルスはトロイの木馬のもっと強いバージョンをイメージしてます。
パソコンの破壊をするヤツです。ウイルス対策ソフトを使えば大丈夫なので普通は問題ないです。
読んでくださりありがとうございます。
★やブクマも大変うれしく励みになっております。
いつも本当にありがとうございます。
次回は来週中にアップしたいです!是非よろしくお願いします。




