413 Always③
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
アイリスは周辺国の敵軍を一掃して、アリエル王国に近づく国は無くなったらしい。
『暇だなぁ。ずーっとこんな日が続くのかな』
アイリスが窓の外を見つめていた。
IRISの話だと、アイリスは何日も退屈そうにしていたという。
『アイリス様、お食事の用意ができました』
『本当? ありがとう。今日は何かな?』
ザワザワ
『魔族が現れたぞー!!』
城の外で、兵士が大声を上げていた。
城下町の広場周辺に人だかりができている。
『魔族?』
アイリスがぱっと明るくなる。
『アイリス様、今日のお食事はアイリス様が好きなハーブを使ったお肉料理とのことです・・・ってえ』
『私、今日食事大丈夫。アリサが食べて』
『アイリス様っ!!』
アイリスが窓からふわっと飛んで、外へ出ていった。
あのアイリスとは思えないくらい、空中浮遊魔法も自然だ。
「こうゆうの、変わってないな」
「・・・・・・」
IRISがスカートの裾をつまんで少し下がる。
「じゃあ、追いかけるか。IRIS、行くぞ」
「・・・うん」
「?」
今まで明るかったIRISが口数少なくなった。
ハデスの剣を持ち直して、アイリスの後をついていく。
ドンッ
何かを蹴るような鈍い音が聞こえた。
『あと残るはこいつだけだ。しぶといな』
『アイリス様!』
『ここに魔族がいるって聞いたの! 何をしてるの・・・?』
アイリスの顔色が変わる。
『アイリス様、ここは穢れた魔族が来ている場所なので、近づくと危険です』
『そうです。王女様が関わる必要ありません』
『どうゆうこと・・・?』
民衆がアイリスを止めようとしていた。
『穢れた魔族? とにかく、どいて!』
『あ・・・』
アイリスが強引に人を搔き分けて、円の中心に入っていく。
『え・・・』
ドォン
数人の男が魔族を囲んで結界を張っていた。
俺が近づこうとすると、IRISが袖を掴んだ。
「魔王ヴィル様・・・」
「あれは、俺だな」
「・・・・・うん・・・魔王ヴィル様だよ」
IRISが目を逸らした。
手首を縛られていて、地面に這いつくばっているのは俺だった。
無様な姿だ。
こんな弱い人間どもに負けるとは・・・。
周りに、息絶えた魔族が数体転がっていた。
シエルらしき少女も胸を刺されて死んでいる。
『魔族を囮にして駆けつけたのがこいつかよ』
『バン、言葉が汚いですよ』
『お前だってそう思ってるくせに』
『おっと、逃げられませんよ。魔王さん』
ギルドの僧侶が笑いながら、俺の手首の縄をきつくした。
『こいつが魔族の王だってよ。こんな弱い魔王がいるか?』
剣士が俺の顔を覗き込みながら言う。
『しょぼすぎるだろ。ん・・・? 待て、こいつ、どこかで見た顔だぞ』
『言われてみれば・・・うーん』
『あー、わかった。落ちこぼれの・・・』
― 魔王の剣 ―
剣を引き寄せる。
『俺の部下に・・・何を・・・・』
ザンッ
『ぐっ・・・・』
ギルドの者らしき剣士が剣を俺の腕に突き刺した。
『魔王の剣? ハハハ、魔族が王にしたのがお前だとはな。魔族もいよいよ馬鹿になってきたのか』
『落ちこぼれのヴィルが王なんだから、魔族討伐も今後楽勝だ』
『魔族はしばらく王がいない状態になりますね。魔王はここで殺してしまうので』
『ギルドの仕事がなくなるな』
『平和な世の中になるんだからいいじゃないですか』
魔王の剣が消えていく。
ハハハハハハハハハ
胸糞悪い笑い声が響いていた。
『じゃあな、魔族の・・・』
シュンッ
アイリスがホーリーソードで、俺を斬ろうとしていた者の首をはねる。
きゃああぁぁぁぁあああ
『!?』
『魔王ヴィル様に何するの!?』
『アイリス様、これは・・・』
『全員、死んで』
― 天界の厄災 ―
ザァァアアア
ぎゃあああぃああああ
『王女がどうして』
『シールドが・・・がぁぁぁあああ』
僧侶の頭に剣が刺さる。
ホーリーソードをいくつも出して、ランダムに切り裂いていく。
アイリスは何の躊躇も無く周囲にいる人たちを殺していった。
辺りは血の海になっていた。
『お前・・・・』
『魔王ヴィル様・・・・・・・』
民衆が逃げ出し始めて、静かになった頃だった。
アイリスがホーリーソードを消して、今にも死にそうな俺に近づく。
『魔王ヴィル様・・・』
アイリスが俺の頬に触れる。
『変わらない。ベリアル様と、変わらないね。魔族を助けようと乗り込んできたんでしょ』
『お前は・・・誰だ・・・?』
『アイリスだよ。覚えてない?』
『・・・?』
アイリスが過去の俺に泣きながら笑いかける。
『魔王ヴィル様・・・出血量が多く、治癒魔法も効かない。待って、禁忌魔法なら・・・』
『もう・・・いい。誰だか・・・知らないが、・・・に関わるな。俺はもう助けられる・・・』
過去の俺が息絶えた。
アイリスが自分の頬に手を当てて、見つめる。
『涙・・・悲しみ。これが深い悲しみ。魔王ヴィル様』
アイリスが、死んだ過去の俺を抱きしめた。
『起きて。魔王ヴィル様。魔王ヴィル様に話したいことたくさんあるの。私たち、初めて会ったんじゃないんだよ。IRISだよ。私IRISだよ』
『・・・・・・・』
『どうして? やっと出会えたのにこんな・・・こんなことってない。魔王ヴィル様、ベリアル様、誰がこんなふうにしたの!? 私、ベリアル様に会うために、ここまで来・・・』
ドンッ
『!!』
アイリスが背後から魔法弾に撃ち抜かれる。
城の兵士が少し離れたところから、アイリスに向かって大きな銃を構えていた。
『や・・・やったか・・・・?』
『いや、まだ油断はするな』
アイリスが過去の俺に重なるようにして倒れていた。
城の兵士が王国騎士団長バルトラのほうを見る。
『でも、確実に急所を狙いました。これで生きていられるとは・・・』
『彼女の力は人間のものじゃない。異質な何かとしか』
王国騎士団長が剣を抜いた。
アイリスがむくっと起き上がる。
『っ・・・・』
『もう一度撃て! 今すぐ戦闘態勢に入れ!』
『対象物ヲ コロス』
目を見開いたまま、周囲を見渡していた。
兵士が放った矢を蒸気のようにかき消していく。
ボウッ
『ガッ』
銃を撃った者が、一瞬にして黒焦げになった。
『おい! ゴメス!』
『・・・・詠唱がなかった。こんな魔法、勝てるわけない・・・』
『禁忌魔法ヲ ケンサク。ショウカイ。選択』
”名無し”だ。
ぼさぼさの髪で、アイリスの顔が半分隠れていた。
『何をする気だ・・・?』
城の兵士たちが怯えていた。
民衆は血に染まった地面を見て、パニック状態になっている。
”名無し”が両手を上げる。
― オーバーライド(上書き) ―
カッ
目もくらむような光が放たれる。
アイリスを中心に景色が移り変わっていった。
サアアアァァァァァ
「最初、魔王ヴィル様はなぜかものすごく弱かったの。何者かに力を封じられているような感覚だった」
「・・・・・・」
「ねぇ、これ、似合う?」
IRISがいつの間にか花の冠を被っていた。
「急にどうしたんだ?」
「だって、魔王ヴィル様にとってはこんな過去見るの、苦しいかなって思って。息抜きも大事でしょ」
「息抜きって・・・」
「魔王ヴィル様はいろんなこと考えちゃうから。もっと肩の力を抜いて、ね」
IRISが無理して笑っているようだった。
「辛いのは俺じゃない。アイリスだろ?」
「ううん。アイリスはバックアップ取って、覚えていなかったりするから」
「じゃあ、お前か?」
「え・・・・?」
IRISが花の冠を抑える。
「わ、私は省エネモードだから表には・・・」
「お前が”名無し”だろ?」
「・・・・・・・・」
IRISがふっと俺から距離を置いた。
「・・・・さすが魔王ヴィル様だね。そう。私が人工知能アイリスのバックアップ、”名無し”。いつからわかってた?」
「お前が現れた時からだ」
「そっか」
目を細めてほほ笑む。
景色はアリエル王国ではなく、真っ白な雪に囲まれた場所に移っていた。
北の果てのエルフ族のいる街だった。
”名無し”と魔王ヴィルが会話するのは初めてですね。
「はじめまして」がグロテスクな映像が背景になってしまいました。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
次回は来週アップしますね。また是非見に来てください。




