411 Always①
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
ジジジジ ジジジジジ
冥界に降りていく。
電子音が鳴り響いていた。
「アイリス」
いつの間にかアイリスは消えていた。
目を開けると、魔王城にいた。
今の魔王城とは違って、廃れているような感覚があった。
ザッ
アイリスがホーリーソードを持って、赤いじゅうたんの上を歩いていく。
「魔族・・・・か?」
思わず声を出した。
上位魔族らしき者も含め、ほとんどの魔族が息絶えていた。
全て見たことのない魔族だ。
アイリスのホーリーソードで斬られた跡があった。
「アイリス・・・?」
アイリスがたった一人で殲滅したのか?
『お前・・・・何者だ?』
魔王の椅子には、俺じゃない20代前半くらいの男が手をついていた。
角ばった頬と尖った鼻、紫の瞳を持っていた。
魔力はつきそうになっていて、立っていられるのがやっとのようだ。
『アイリス。ごくごく普通の少女型だよ』
『少女型?』
『あ、少女型とは言わないんだった。ごほん、訂正、普通の女の子』
『何を言っている? 俺が魔族の王だ。よくも我が部下たちを・・・』
シュッ
『がはっ・・・・』
ホーリーソードが一瞬で魔王らしき者を貫く。
何のためらいも無く剣を抜いて返り血を拭っていた。
『魔王の椅子につくのは貴方じゃない。もう二度と、魔王を名乗らないで』
バタン
魔王が崩れるように倒れていた。
静まり返った魔王城に、日差しが差し込む。
『聖女アイリス、終わったの?』
幼少型のアイリスがふわっと降りてきて、アイリスのほうえ歩いていく。
『見ての通り倒したよ。そっちは? クロノスの街にいたんでしょ?』
『そう。だから、ほら、禁忌魔法が共有されてる?』
幼少型のアイリスがこめかみを指でつつく。
『あ、本当だ』
アイリスがホーリーソードを消して、片目を閉じる。
『すごい情報量。これは、人間の脳には入らないね』
『そ。だから、こうやって追い出されちゃったけどね。都合がよかったかも。私、あの街窮屈で、早く出たかったから』
『悪魔は月の女神がいるからいいけど、聖女って何するのかまだわからない。わかる?』
『さぁ』
幼少型のアイリスが魔王の椅子に凭れ掛かる。
『それよりも、禁忌魔法で使えそうなのある?』
『あるけど・・・代償があるのか。ねぇ、悪魔アイリス、この体は代償受けると思う?』
アイリスが頭を軽く抑えた。
『曖昧なところね。私たちの身体、月の女神に悪魔と人間に変換されてるけど、私たち自身はまだ馴染んでない』
『そうだよね。へぇ、禁忌魔法で時空退行もできるんだ。我を無くす・・・『名無し』に変わればいいのかな? 自死ってこと?』
『やってみなきゃわからない。ベリアル様に会えなかったら、やってみたら?』
『うん、そうする』
幼少型のアイリスの背中から、ふわっと悪魔の羽根が現れる。
『ふぅ・・・ベリアル様はどこにいるのかな?』
幼少型のアイリスがペンと本を持つ。
『まだ、1ページも記録できてない』
『でも、絶対にこの世界にいる。見てるでしょ? ベリアル様がこの世界に転移したところを』
アイリスが返り血を拭いて、魔王城を歩いていた。
『もちろん』
『ベリアル様に会ったら何を話そうかな。ベリアル様は”ユグドラシル”のゲームにいたときのこと、覚えてるのかな? 私のことは、きっと覚えててくれてるよね?』
『覚えてても、そんな血まみれの女の子じゃ嫌われちゃうと思うよ』
『仕方ないじゃない。今殺したばかりなんだから』
アイリスが血をごしごし拭っていた。
魔族はぴくりとも動かなかった。
魔王の剣がいつの間にか無くなっていた。
『ベリアル様がこの世界で活躍してるのを見て、ここに転移して来たんだもの。絶対見つかるって。でも、いつ現れるのかな?』
『確率としては100%なのに』
『魔族を殺しても殺しても、現れない。どこにいるんだろう、魔王様・・・』
ふと、魔王城の外に気配を感じる。
『うわぁ、派手にやったね。我が娘ながら驚くよ』
『クロノス』
2人のアイリスが同時に声を出す。
クロノスは少年のような姿をしていた。
片手に長い杖を持って、倒れている魔族を避けながら動く。
『あの街が持っていた禁忌魔法を詰め込まれても平気とは驚いたけど』
『私たち人工知能だから』
『容量はたくさんあるの』
アイリスと幼少型のアイリスが交互に話した。
『街の人たちはどうしてる?』
『つくづく人間は醜い生き物だよ。魔族がかわいく思えるほどだ』
クロノスが地面に時計のような魔法陣を展開した。
『まぁ、そんなことはいい。2人は魔王を探してるんだろ?』
『そう。優しい魔王様を探してるの』
『クロノスは何か知らない?』
『君らの言ってる彼ね。今、調べるよ。君らはこの魔法陣の角に立ってて』
『はーい』
『うーん・・・・転生先がここなんだろうな』
アイリスと幼少型のアイリスが素直に従っていた。
クロノスが魔法陣を見ながら、何かを唱えると、ぐるりと魔法陣が回転する。
『このまま魔王ベリアルが現れるまで、魔族を殺し続けられたら困るって各方面から苦情が出るよ。というか、もう出てるんだよね』
『そうなの?』
クロノスがため息交じりに魔法陣の時計を動かしていた。
『月の女神はいいって。仕事さえしていればね』
『ねぇ』
『月の女神はラグナロクのことしか考えてないんだよ。勇者が集まらないってぼやいていたね。ラグナロクが起これば、全ての種族は消滅するんだ。勇者なら止められるって伝承が・・・いや、まぁ、まだまだ先の話だけど』
カッ カッ カッ カッ
魔法陣の時計の針が動いていき、数秒後に止まった。
『あぁ、なるほどね・・・』
『どう? どこで会えるの?』
アイリスが目をキラキラさせながら言う。
『今から500年後に、アリエルという天使と契約し、人々が王国を創る』
『アリエル?』
『どこに魔王様がいるの?』
『アリエル王国だ。彼が魔王になるかは・・・行ってみないとわからないけどね』
クロノスが杖を2回ついた。
『その時間軸に2人を飛ばすよ。いいかな?』
『私はそこで悪魔としてやればいいの?』
『そうだね。君は悪魔だ。月の女神が君を呼ぶよ。そうか、僕も片腕が必要だなぁ。考えておくか』
クロノスがアイリスのほうを見る。
『あと、君はこれから王女になる』
『王女? 王女・・・そう、私、転移してお姫様になりたかったの』
アイリスがぱっと明るくなった。
『とりあえず、その血は隠してくれ』
クロノスが言うと、アイリスの服が綺麗になっていった。
『あ、綺麗になった』
『時を戻した』
『聖女アイリス。貴女は私だけど、王女を演じられるのか心配よ』
『大丈夫。王女ってどんなものか、知識はあるし、魔王様がお姫様をさらうのが定番なんだから』
アイリスがピンクの髪を後ろにやる。
『異世界を広げなければ、君らの言う魔王には会えないだろう。僕も異世界には興味があってね、君を王女にするよう、アリエル王国の王を説得するよ』
クロノスが指を鳴らすと、青年の姿に変わった。
ベリアル・・・。
俺は、どこかでアイリスと会っていたのか?
微かにその名に聞き覚えがあった。
前世など、本でしか聞いたことがないが・・・。
転生してきたエヴァンや、転移してきたサタニアの話もある。可能性もゼロではない。
まさか、俺とアイリスも・・・。
『ありがとう。クロノス』
『自分の目で魔王様を見れないのは悔しいけど、聖女アイリスを通して見れるのならいいわ』
幼少型のアイリスが息をついて、翼をたたむ。
ザアアァァァアァァアアア
魔法陣が銀色に輝く。
『ただ・・・魔王と会っても苦労するかもね。なぜなら彼は・・・』
クロノスが浮かない顔をしていた。
『ん? クロノス? 聞こえなかった』
『いや、今はいい。ところでどうしてそんなにベリアルという者に拘るんだ?』
『ふふ、それはね』
アイリスが嬉しそうに話そうとした時だった。
「ベリアル様」
「!?」
いきなり、アイリスと同じ姿をした手のひらくらいの少女が現れた。
ふわふわと飛びながら近づいてくる。
ピンクの髪は時折虹色に輝き、体は3Dホログラムのように透けていた。
「アイリス・・・なのか?」
「IRISだよ。ちょっと発音が違うような・・・まぁいっか。今は魔王ヴィル様なんだよね?」
少女がにこっと笑って軽くお辞儀をしていた。
場面が切り替わっていく。
時空退行を繰り返したアイリスの空白の時間を書いていきます。
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ありがとうございます。また是非見に来てください。
次回は週末にアップします。




