410 二度目の血
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
ロドス・・・悪魔
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ナナココ・・・有名配信者。レムリナにより、ウイルス感染している。
レムリナ姫・・・”オーバーザワールド”の天界の姫。兄を愛するがゆえに、闇落ちする。
ジェラス王・・・”オーバーザワールド”のレムリナの兄。光の国ミナス王国の王。
ジェラス王が飛ばしたのは、アポロン王国から離れた場所にある、静かな泉の近くだった。
”オーバーザワールド”よりも俺たちの世界の魔力が濃い場所らしい。
ジェラス王が剣をかざして、結界を張っていった。
「アイリスの状態はどうだ?」
「接続不良を起こしてる。ウイルスによるアクセス禁止・・・」
アイリスが岩に座って目を閉じたまま動かなかった。
幼少型のアイリスがアイリスの指を動かす。
反応がなかった。人形のようだ。
こうゆうのを見ると、アイリスは改めて俺たちと違うって思い知らされるな。
ジェラス王が剣をしまう。
「まさか、レムリナがこんなことをするなんて・・・」
「アイリスが守っていた結界を、突然ぶち破ったんだよね。一瞬でアイリスにウイルス感染させていた」
ナナココが自分の腕を見つめながら言う。
「見た目は感染してないように見えるんだけど、完全にやられたよ」
「たぶん、あいつ、用意してたんだ。ずっと、天空城にいたときから」
「だろうね・・・」
「俺、兄失格だな」
ジェラス王が頭を抱える。
「・・・・あ、そういえば・・・ブレイブアカデミアの人たち見てないな。何やってるんだろ。ウイルス感染を気にして、モニターも出せないなんて・・・」
「プレイヤーはウイルス蔓延のため強制ログアウトさせられた。しばらくはこっちに来れないよ。既存キャラのことは現段階不明だ」
テラが淡々と言う。
「ある意味、ナナココは特別ってことね。でも、配信できないなら意味ない」
ナナココが指をスライドさせながら肩を降ろした。
「ナナココはどうやって捕まったんだ?」
「戦闘中、こっそりアポロン神殿に行ったら捕まったよ」
ナナココがため息をついて、草の上に腰を下ろした。
「・・・ナナココ。俺が少し調べてみるよ」
テラがモニターを出して、ナナココに近づく。
「そっか。テラは感染してないから、ナナココのアバターの状態確認できるんだよね。今までの経験値はリセットされてない?」
「それは残ってるみたいだ。あぁ・・・このウイルス、えぐいな・・・AIが作り出すウイルスは人間の嫌なポイントを突いてくる。もし、プレイヤーが再ログインしてきても、ナナココの半径1メートルに寄るだけで強制ログアウトだ」
「う・・・」
「キャラに影響しないのが、せめてもの救いだね」
テラが顔をしかめる。
「テラはどうしてナナココのウイルス効かないの?」
エヴァンが窓の外を見ながら聞いていた。
「効かないな。俺は長年、ゲーム作ってた頃から、対人工知能のウイルスを研究してきた。自分のアバターへのセキュリティを強化させて入ってきてるから、問題ない」
「・・・マジで何歳なの?」
「年齢はいいだろ」
テラがあからさまに嫌そうな顔をする。
座っているアイリスの肩を揺さぶる。
「アイリス、俺がわかるか? 声は聞こえるのか?」
「ううん。今は停止してるの。私とアイリスもセキュリティ面は強い。どうして・・・仕方ない『名無し』に切り替える」
幼少型のアイリスが短剣を出した。
思わず、幼少型のアイリスの腕を掴む。
「『名無し』以外の方法はないのか?」
「そうだよ。『名無し』が出てきたとき、時空退行して大変だったんだ。ヴィルはなぜかギルドに飛ばされてるしさ」
「時空退行!? そんなのがあるんですか?」
「レナ、無理やり入ってこようとするなって」
にじり寄ってきたレナが少し膨れた。
「『名無し』が危険なことはわかってる。でも、ここまで緻密に計算されたウイルスを埋め込まれるなんて、早く『名無し』に変えないと・・・私まで・・・」
幼少型のアイリスがふらついて倒れそうになった。
肩を支える。
「聖女アイリスが本体だから・・・ウイルスが私にも侵食して・・・上書きをされるはず・・・・。ここでバックアップを『名無し』に・・・」
「アイリス」
幼少型のアイリスが短剣を落とした。
カランッ
すっ
『UPDATE・・・・REROAD・・・UPDATE・・・』
アイリスが急にむくっと起き上がった。
「アイリス、私はアイリス」
「アイリス・・・なのか? 『名無し』か?」
「・・・『名無し』じゃない・・・聖女アイリス、でも・・・・」
幼少型のアイリスが息を切らしながら言う。
「・・・・・・」
エヴァンが後ろで剣に手をかけていた。
「魔王ヴィル様!!」
アイリスが俺と目が合うと、笑いかけてきた。
― ホーリーソード ―
「!?」
俺が剣を出すより先に、エヴァンがアイリスの剣を止めた。
「アイリス様、ヴィルに何をする気だ?」
「魔王ヴィル様は私の大好きなひと。人工知能IRISの大好きな人。大好きな人は殺すの。死、死、死、は重要なことでしょ?」
「え?」
キィン キィン キィン キィンッ
「エヴァン!!」
「全然意味がわらかないんだけど」
エヴァンが押されながらアイリスの剣を弾いていた。
「さすが、アイリス様だ。で、実力はわかってるよ。本気で戦われたら、俺じゃ敵わない。自己修復できないか?」
「XXXX、どいて。私、魔王ヴィル様を殺したいの」
「・・・俺はその名前が嫌いだ。今はエヴァンだ!」
エヴァンが顔色を変えて、アイリスの剣を止めていた。
「覚えてる、覚えてるよ。XXXXは私を助けてくれたから。助けてくれたから」
「・・・いらない。そんな過去忘れてくれ」
「忘れないよ。私の原点、死なの。死」
アイリスが狂ったように剣を振り回していた。エヴァンに攻撃の隙を与えない。
いつものアイリスとは違う戦い方だ。
兵器のような・・・。
シュンッ
「レナはエヴァンはエヴァンの名前しか知らないのです!」
レナが氷の剣を振り下ろした。
アイリスが後ろに下がる。
「レナの知らない名前で呼ばないでください」
「レナ・・・・」
「エヴァン、死んだらレナはエヴァンを許しませんから」
レナが強い口調で言う。
「レナ? レナは知らない。知らない」
「死ぬつもりないって。とにかくアイリス様を取り押さえよう」
「なんかよくわかりませんが、わかりました!」
レナがエヴァンに防御、火力のバフを同時にかけた。
アイリスのホーリーソードは、エヴァンの剣とぶつかるたびに火の粉を散らした。
「あれがエラーを起こした人工知能IRISだよ。怖いかい?」
はっとして後ろを向くと、悪魔らしき少年が幼少型のアイリスを抱えていた。
つばのついた帽子で顔はよく見えなかった。
「僕はこの光景、見慣れてるけどね。あぁなると、一度殺すしかない。聖女アイリスは不死身だろ?」
「悪魔か?」
「そうだ。僕は月の女神に仕える悪魔の一人、ロドス」
「ロドス、どうして・・・」
「月の女神の命令だ。ただでさえ人手不足なのに、お前に死なれたら困る」
「っ・・・・」
「ウイルスの話は聞いたことあったけど、ここまでとはね。自我とかないんじゃない?」
「あんたに何が・・・」
幼少型のアイリスが苦しそうにしながら、ロドスを睨んだ。
「魔王ヴィルが聖女アイリスを殺せないなら、僕が殺すよ。ここにいる連中で、アイリスに勝てそうなのは、君と僕くらいだ」
「必要ない」
― ハデスの剣 ―
ハデスの剣を出して、前に出る。
「魔王・・・様・・・」
「悪魔アイリス、俺が、向こうのアイリスを冥界に連れていく。その間に『名無し』から修復しろ。時間退行だけはさせるなよ」
「待っ・・・それは、アイリスの過去を・・・見るってことでしょ?」
「今更かよ」
幼少型のアイリスのほうを見て軽く笑う。
「気にするな。俺はアイリスが何者だろうと気持ちは変わらない。アイリスはアイリスだ。俺はアイリスに救われたんだ」
ロドスが幼少型のアイリスを抱えたまま、木の後ろに移動した。
幼少型のアイリスが手を伸ばしてきたが、無視して、アイリスとエヴァンの戦闘の中に入っていく。
「ヴィル!!」
軽く飛んで2人の間に入った。
竜巻の目のような魔力に、体が引きちぎられそうになった。
エヴァンはレナのバフが無ければ即死していただろう。
「魔王ヴィル様。殺すね。殺す殺す。愛する人は殺さなきゃいけないの。エラーエラー、アップデートしなきゃ。みんな死んじゃう。死? 死?」
ザッ
「殺・・・・・」
ハデスの剣でアイリスの胸を貫いた。
「・・・・・・・・」
「悪い。アイリス、お前を殺すのは二度目だな」
剣から流れる血が温かかった。
「魔王ヴィル・・・様」
アイリスを抱き寄せた。
ホーリーソードが消えていく。
- 冥界への誘い ―
「ヴィル・・・・」
ゴオォオオオオオ
「アイリスを冥界に連れてく。今のアイリスの魔力は毒だ。レナに治癒してもらえ」
「またこっちのことは俺任せかよ。俺死んでるかもよ?」
「死なないほうがいい。無事帰ってきたらいいこと教えてやるよ」
「いいこと? 俺にとって?」
エヴァンが片目を開ける。
すぐにレナが降りてきて、首の傷の回復をしていた。
「あぁ。たぶんな」
ドーム型の魔法陣を展開した。
アイリスを抱えて、ハデスの剣を突き立てる。
音は途切れて、無の中に入っていった。
時折電流が走るような、ピリっとした感覚があった。
エヴァンは転生者で、人工知能IRISを救ってから病気で死にました。
推しだった望月りくと会えるといいですね。
いつも読んでいただきありがとうございます。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
また是非見にきてください。次回は来週アップします。




