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44 七海と異世界

 ダンジョンの名前はこちらの世界では、電車という乗り物が停車する駅名になっているらしい。

 アイリスと俺が、転移してくるときも必ずその場所にいるそうだ。


 なぜ、駅名と異世界がリンクしているのかはわからないという。



「駅は人通りが多いから、異世界への入り口があってもおかしくないかもね」


「七海はこの世界が嫌いなの?」

「嫌いよ」

 顔をしかめる。

 アイスティーを飲みながら、外を眺めていた。


「この世界はいいことをする人だけが豊かになれるわけではなく、世渡りのいい人だけが上手く金を稼げる。私にはとっても生きにくい世界」

 七海が椅子の背もたれに寄りかかりながら言う。


「私の兄はね、いい人だったの。だから壊れちゃった」

「七海・・・・」

「もう、明るい兄は戻ってこない。ここで通勤している成功者は、兄のような人間の屍の上に立ってたりするのよ」

 暗い瞳で、道を行き交う人たちを見つめる。


「だから、私はこの世界が嫌い・・・」

「俺たちの住む世界も人間は似たようなものだ。お前らの世界とあまり変わりないよ」

「そうなの。でも、魔法が使えるだけ羨ましい」


「魔法は万能じゃない」

「魔力の無い私たちからすると、万能よ」


「・・・・・・」

 おそらく、七海は俺たち魔族に近い人間だ。


 異世界への憧れをひしひしと感じられた。 


「ねぇ、それよりも、アイリスはどんなお城に住んでたの?」

「えっと・・・大きなところだよ。でも、城は退屈だし、城下町のほうが好きかな」


「どんなところがいいの? 魔法とかたくさん使えるの?」

「私は魔法は全然ダメって話したでしょ。あ、この前のダンジョンでね、双竜が仲間になったの」

「へぇ、ドラゴンが仲間になるってすごいね」

 アイリスと話すと、七海はどんどん明るくなっていった。 


 七海が連れてきたカフェは人通りの見やすい、建物の2階にあった。


 アイリスの話を聞いても全く理解できなかったが、七海の話を聞いていればこの世界の仕組みもなんとなく理解できた。

 魔法が存在しない分、科学が魔法のような役割をしているようだ。


「いいなぁ。私もダンジョン、攻略してみたいな」

「そっか、この世界にはダンジョンがないもんね。草原に、急にダンジョンの扉が現れるの」


「ふふ、そんな奇跡あったら大問題よ。ダンジョンは・・・ゲームの世界なら体感したことあるわ。私、ゲームが好きでね・・・・」

 2人とも、脈絡のない話をずっと続けていた。


 もう十分情報は聞けたし・・・そろそろ帰るか。


「そろそろ、”マンガ”という宝を探しに行かな・・・」

「待って。魔王・・・」

 七海が会話を止めた。


「ヴィルでいいよ。なんだ?」

「・・・魔王ってことは、人間と敵対してるの?」

「まぁな」


「殺したり・・・するの?」

 七海が前のめりになる。


「当然だ。やらなきゃ、魔族も人間に殺されるからな」

「そっか・・・なんか、いいな・・・そうゆう世界」

 ぼそっと呟く。


 平静を装う顔の裏側に、静かな怒りを感じられた。


「七海?」

「あ・・・違うの。誰かを殺したいとか思ってるわけじゃないんだけど・・・ここは確かに人間しかいない世の中なのに、自分と同じ人間とは思えないような奴ら、たくさんいるから」


「・・・・・・・・」

「こうやって、異世界の話を聞くのは救いなの。本やゲームでしか聞いたことのない世界だから。本当にあるなら、私も異世界に生まれたかったな」

 アイリスが何か声をかけようとして、俯いていた。


「あ、戻らなきゃいけないのよね・・・また来てくれる?」


「もちろん。ダンジョンは、まだまだあるから」

「よかった。これを渡しちゃうと、いつもすぐいなくなっちゃうから」

 七海が安心したような表情をして、リュックをごそごそ探していた。


「はい、これがマンガだよ。同人誌だけど、きっと喜んでもらえると思う」

「え? これが・・・・・」

 七海が分厚い絵の描いた本をパラパラと捲ってくれた。


「また来てね。ヴィルも・・・また会いたいな」

「ありがとう」

 アイリスが”マンガ”に触れると、一瞬にして、底が抜けるような感覚があった。




 ブン


「ほわっ・・・・・・」

「わっ」

 シナガワのダンジョンにしりもちを付いていた。


『もう、持ってきてくれたのか。噂は本当だったのだな。それにしても、早かったな』

「はい、シナガワ様」

 アイリスが”マンガ”を見せる。


『おぉ・・・・是非、ここへ。ここへ』

 シナガワが満面の笑みを浮かべながら、祭壇のような場所を指す。

 アイリスが伸びをしてマンガを置くと、ダンジョンに魔力が走った。


「これで、このダンジョンは魔族のものでいいんだな?」

『あぁ、もちろんだ』


「セラも魔王城に連れて行っていいの?」

『吸血鬼族の少女だろ? よいぞ、今こちらに向かっているようだな』

「へぇ、わかるんだ」

『当たり前だろう。私はこのダンジョンの精霊、シナガワだ』

 ふんぞり返りながら言う。


「・・・・・・・・・・」

「魔王ヴィル様、どうしたの?」

「あぁ、いや・・・・」

 異世界でのことを思い出していた。


 七海か。

 彼女はアイリスの言う通り、異世界クエストになくてはならない存在だ。


 ただ、どこか危険な気がした。

 何か確証があるわけではない。


 昔人間で、魔族の王として召喚された者の勘だけどな。

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