408 太陽を喰らう⑥
勇者ゼロが仮死状態になることにより、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルと闇の王との戦いの火蓋が切られる。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・ミサリアと名前を変え、ゼロと共に行動をしていたが、命を落としていた。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
テラ・・・神を名乗り、異世界転移を可能にした者。自らは転移できなかったため、”オーバーザワールド”のプレイヤーとして入ってきていた。
レムリナ姫・・・天界の姫
ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。
「で、まずは魔族を返してもらう。大切な仲間なんだよ」
「そうはさせない」
檻に触れようとすると、電流のようなものが走り、手を弾いた。
「まずは、お兄ちゃんにこっちに来てもらう」
「こっちにって・・・」
レムリナがエヴァンを見てから指を動かす。
― ジェラス王の時止めを解除せよ ―
「は?」
「お兄ちゃんには私と同じ血が流れてる。解除することくらい簡単なの」
「・・・・・・・」
エヴァンが舌打ちする。
「お兄ちゃん大丈夫? 今は、時止めの中にいるんだよ」
「・・・・時止め・・・ここ以外の時間が止まってるのか」
「そう。じゃあ、お兄ちゃん。行きましょう」
パシッ
「!!」
ジェラス王がレムリナの手を払う。
「僕は行かないよ」
「どうして? だってお兄ちゃんは・・・」
「レムリナのことは好きだよ。大切な妹だ。でも、ミナス王国の王としてプレイヤーや他の者たちも守っていかなければならない」
キィンッ
ジェラス王がレムリナに剣を突きつけた。
「役目を放棄することなんてできない。今すぐ、ばら撒いたウイルスを解除してくれ」
「そんな・・・・お兄ちゃんのためだったのに」
「俺はそんなこと望まない」
ジェラス王が低い声で言う。
「いや・・・いや・・・」
レムリナが顔を抑えながら、一歩下がった。
禍々しい魔力がレムリナを取り囲み、背中に二股の尻尾が現れた。
「いや、絶対お兄ちゃんと戻る」
「戻るってどこに・・・」
「ミナス王国だよ。お兄ちゃんの大切な国」
「レムリナ! お前、まさか」
― 魔王の剣 ―
キィンッ
剣を二人の間に挟んだ。
魔力のほとんどない、ただの剣だけどな。
「ごちゃごちゃうるさい。どちらを倒せばいい? はっきりしろ」
「あはは、ヴィルらしいね。一応こっちだと思うよ」
ザッ
エヴァンがレムリナの尻尾を剣で刺す。
ギィイイイイイイ
獣のような声で呻いていた。
「へぇ、こうゆう感じか。物理攻撃は効くみたいだ」
「了解だ」
「よくも・・・」
「レムリナ・・・」
「ジェラス王は離れて」
ナナココが素早くジェラス王の前に立った。
「ナナココには触れないようにね。ヴィルやエヴァンには影響ないけど、”オーバーザワールド”の住人や、アバター、人工知能には影響のあるウイルスだと思うから」
「わかった」
「ナナココ、ジェラス王を頼んだ」
エヴァンがにやっとする。
「レムリナ、まさかお前と戦うことになるとはな。いや、どこかで気づいてたよ。お前だけ、なぜかか弱いふりを演じていたからな」
「魔王ヴィル様、貴方は私と戦う必要ないでしょ?」
「シエルとサリーを返せ。2人は大切な魔族だ」
シエルとサリーは檻の中で固まっている。
魔王の剣を持ち直して、レムリナにゆっくりと近づていった。
「これは仕方ないの。だって、彼女たちを贄にしなきゃ・・」
「久々の戦闘だ。兄妹だか、愛だか知らんが、余計なことで止めるなよ」
「魔王・・・ヴィル様」
ザッ
レムリナに勢いよく剣を振り下ろす。
シュウゥウ
レムリナが二股の尻尾で攻撃を弾いた。
エヴァンの剣が押し返されている。
くるっと回って体勢を整えた。
「魔王ヴィル様とは対決したくなかったけど、お兄ちゃんを私から引きはがすっていうなら戦うしかない」
レムリナの片目が赤く光る。
双剣を持って、カンっと鳴らす。
刃が紫の火花を散らしていた。
「私に魔法が効かないのは残念だけどね」
「俺は剣で勝負するほうが得意だ」
笑いながらレムリナに向かっていった。
キィン キィン キィン
「!!!」
止まった時間の中で、レムリナに攻撃を撃っていく。
レムリナは魔力をまとっていたが、俺の剣の速さにはついてきていない。
鈍い光を放ちながら蛇行していた。
「っ・・・・・」
「闇の女王か。笑わせる」
キィン
体を伸ばして、レムリナの剣を避けた。
「せっかく気分よく戦ってたのに、お前のせいで台無しなんだよ」
時止めの中にいるプレイヤーと魔族を見つめる。
こいつら全員まとめて戦闘不能にしたいくらい、気持ちが高ぶっていた。
剣を持つ手が、少しドラゴン化し始める。
「私は戦闘したいわけじゃない!」
バシッ
「俺は戦闘したいんだよな」
二股の尻尾で剣を弾いてから、軽く飛んで後ろの瓦礫の上に立った。
追いかけようとすると、エヴァンに止められる。
トンッ
「落ち着けって、ヴィル。あいつの持つ力は得体が知れないんだから」
「ったく・・・」
ドラゴン化した腕を戻していく。
ジェラス王が顔を上げた。
「レムリナ、今からでも間に合う。ミナス王国を元に戻して、天界の姫に戻り、平和な世界を・・・」
「引き返すことはできない。お兄ちゃんは連れていくから!!」
― XXXXXXXXX XXXXX XXXXXXXXX ―
聞きなれない詠唱を始めた。
「ヴィル! エヴァン!」
レナが瞬時に俺とエヴァンに状態異常魔法解除のシールドを付与した。
― XXXXXXXXX ―
レムリナがレナのほうを見る。
「よく気づいたね。この魔法は、アバター以外の者たちが聴けば、発狂するものだったのに」
「レナはエルフ族の巫女なので。自分の守りたい者だけは必ず守ります」
レナが遠くから冷たい口調で言う。
ガシャンッ
「きゃっ」
ジェラス王が籠の中に入れられた。
勢いで飛ばされそうになったナナココを抱きかかえる。
「レムリナ!! くっ」
ジェラス王が剣を突き立てて体を立て直そうとしていた。
「お兄ちゃん、手荒に扱ってごめんね。でも、向こうに行けば2人だけの世界になるから。私にはお兄ちゃんしかいないから」
― ブレイブ・アロー ―
カキンッ
「な!?」
唐突にどこからともなく光に満ちた剣が飛んできて、ジェラス王の檻を打ち破った。
同時に、時止めの中にいたはずのプレイヤーの一人が飛び出てきた。
「っと・・・」
ジェラス王を後ろにやって、剣を空中でキャッチした。
「誰!?」
「俺はテラだ。異世界転移を可能にしたテラだよ。”オーバーザワールド”と接続が完了したと聞いてからは、自分が転移できない代わりに、”オーバーザワールド”のプレイヤーとして潜り込んでいた」
「テラ?」
「はぁ!?」
俺とエヴァンが同時に声を上げる。
「テラ? テラ・・・テラ!?」
レナがしばらくしてはっとしたような顔をした。
「嘘・・・」
赤毛の髪、整った顔立ち、どう見ても俺たちが見てきたテラの容姿と違った。
「見た目ってどうにでもなるんだな」
「ねぇ、テラって少年のアバター使ってるけど、年齢的には向こうの世界でおっさん確定なんだよね。なんか色々こじらせコンプ抱いて、アバターを美化したんじゃないかな」
「痛々しいな・・・」
「全部聞こえてるって。相変わらず失礼な奴らだな」
テラがこちらを見て顔をしかめる。
「テラってあのテラですよね。爺さんじゃなかったのですか!?」
レナがぐぐっと近づいてきて、エヴァンの後ろに隠れる。
「異世界住人を転移可能にしたいじわる爺さんのイメージが崩れるのです。信じられないのです」
「レナ、その話はおいておこう。混乱するから」
エヴァンがため息をついて、レナを宥めていた。
「ねぇ、テラ、どうやって時止め解いたの?」
「それは・・・」
「私を無視するな!!」
レムリナが声を上げた。
指を動かして、サリーとシエルが閉じ込められた檻を持ち上げる。
「お兄ちゃんがついてこないなら、意地でも戻らなきゃいけない状況にするから」
「レムリナ、お前は俺の妹だ。戦いたくない!」
「私はお兄ちゃんが自分のものにならなきゃ嫌なの!!」
レムリナが地面を蹴って宙に浮いた。
髪の毛が逆立つ。
ジジジジジジ
パリンッ
「っ・・・・」
「あーあ、意外と短かったね」
「状況把握できただけ、上出来だ」
薄いガラスの膜が割れるように、レナのシールドが弾けていった。
エヴァンが剣を構えて、ジャミラの縛りを固める。
時止めが解けて、時間が動き出していた。
「何があったんだ?」
「一瞬で、何が起こった・・・そこにいるのは魔王とジェラス王?」
「あ、見ろよ。ナナココもいるぞ!」
「決着はついてるのか? 今、どうなってるんだ?」
プレイヤーがざわついている。
テラの剣の柄の部分の色が変化していた。
テラは神を名乗ってた不思議な者でしたが、現実世界の実年齢は・・・。
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