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404 レナの罪(後)

勇者ゼロが仮死状態になることにより、魔王ヴィルが復活した。

魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。

魔王ヴィルと闇の王との戦いの火蓋が切られる。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

サタニア・・・ミサリアと名前を変え、ゼロと共に行動をしていたが、命を落としていた。

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。

 レナは大量殺人の罪で捕まり、処刑される予定だったらしい。


『罪人は石を投げられて首を斬られる罪でした。レナは抵抗しませんでした。当日、牢獄から出て、死ぬ予定だったのですが・・・』

 レナがため息をつく。


 そこからの記憶が途切れ、途切れになっているらしい。

 

『なぜか死なないで、レナは城の外に出ていました。数年後でしょうか? 気づいたら、また一人になり、北の果てのエルフ族の村に戻っていて、人間たちは戦争をしていました』

『肝心なところがよくわからん』


『そうなのです。レナもわからないのです』

『レナらしいけどな』

 夜風が吹くとレナの魔力が収まっていって、青い光が薄れていった。


『・・・・レナの記憶を消した人は優しいですね。レナはこんな罪を抱えて、何百年も生きていくなんて無理だったと思います』

『今でも死にたいと思ってるのか?』


『はい。今はいつ死んでもいいのです』

 レナがじっとこちらを見つめて頷いた。


『レナは死ぬ前に異世界住人を許しておきたかったのです。自分自身が許せない分、異世界住人は許しておきたかった』

 星が瞬いた。

 レナが後ろに手をつく。


『レナはこの先ずっと独りぼっちは嫌なのです。罪を償うには生きたらいいのか、死んだらいいのかわかりませんが・・・できたら死にたいです。ヴィル、全てが終わったらレナを殺してくれますか?』

『は・・・・・?』


『ヴィルの敵にならないと殺してくれませんか?』

 涙目のままほほ笑んでいた。


『お願いです。レナを冥界送りにしてほしいのです』

『・・・悪いが、レナを殺すつもりは無い。俺はその、冒険の話が気になる』


『え?』

『殺すなら、冒険の話を思い出してからだな』

 すっと立ち上がって、マントについた砂を払った。


『ヴィルがその話に食いつくほうが意外なのですが』

『アイリスが好きそうだろ?』


『ふうん。なるほど。そうゆうことですね』

 レナが頬杖をつく。


 レナは勇者ゼラフという者と、何を目的とした冒険をしていたのか気になっていた。

 大罪人を救えるほどの影響力を持つ者・・・おそらく勇者だろう。


 オーディンもそうだった。

 勇者という者は、各国で絶対的な権力を持っている。

 

 月の女神は”ラグナロク”のために、勇者が選ばれると言っていたが、具体的に何が起こるとは聞いていない。

 600年前、レナが牢獄から出た後、レナたちは一体何を・・・・。


『ん? ヴィル、どうしたのですか?』

 レナがこちらを覗き込む。


『いや、何でもない』

『まぁ、レナはヴィルの心を読めるので大体わかりますよ』

『じゃあ、聞くなよ』


『ふふ、なんとなくです』

 レナが立ち上がって伸びをする。

 ピンと杖を空に向けた。


『ヴィルが思っているような情報は思い出せないかもしれないのですが、頑張って記憶をたどってみますよ。自信はもちろんありません』

『ふんぞり返るなって』

『あはは、ヴィルと話してると少し楽になりました』

 レナが魔王城の庭にあるセイレーン号を見つめながら、息をつく。


『・・・・ヴィルがダメなら、エヴァンがレナを殺してくれないでしょうか?』


『エヴァンにあまり罪を負わせるな。ただでさえ、リョクのことがあるんだから』

『わかってます・・・あの日以来、エヴァンは変わってしまいました』

 レナが寂しそうに遠くを見つめる。


『心があるようでないような・・・どこにいても、魂がないような、幽霊みたいなのです』

『そうだな』


『・・・・レナはリョクの代わりには・・・なれないのですよね。エヴァンも・・・・彼ではありませんでした。レナも転生できたらいいのに』

 レナが小さな声で呟いていた。






 ドンッ


 はっとして顔を上げる。

 レナが氷のブリーズソードを地面に突き立てて、息を吐く。


 ― 氷連花魔解放 ―


 ザアァァァァァアア


 レナの魔力が解放されていく。

 瞳がサファイヤのようになっていた。


 地面にうっすらと氷のかけらが飛び散っていく。


「レナ?」

 エヴァンがレナのほうをちらちら気にしていた。

 ジャミラが隙をついて放とうとした魔法を、エヴァンが片手で弾く。


「なっ・・・」

「ちょっとうるさい。黙ってろ」

 指を動かして、2つの魔法陣でジャミラの手首を縛っていた。


「ハハハハハハ、そうだよな。エルフ族だってきれいごと言ってられないもんな。花を愛し、平和を愛する、ぼけたエルフ族じゃなくて安心したよ」

 ゾームが双剣に炎を灯しながら高笑いしていた。

 

「だが相手が悪かった。俺はこれでも、元エルフ族最強の剣士で、闇の王の側近」

「興味ありません」

 レナが地面を蹴って、素早く攻撃を繰り出す。


 カン キィン キィン キィンッ


「な!?」

 ゾームは受けるので精いっぱいだった。

 レナの魔力はどんどん高まっていき、一撃一撃が重くなっていった。


 ダァンッ


 一瞬の隙をついて、レナが回し蹴りをする。


「ぐあっ」


 ドンッ


 ゾームがアポロン王国広場の柱にぶつかって、柱がぼろぼろと崩れていった。

「これが・・・エルフ族・・・?」

 砂埃の中から現れたゾームは、腹を抑えたまま、口から溢れた血を拭っていた。


「へぇ、あのエルフ族の子すごいな」

 闇の王が軽い口調で言う。


「暴力的で、魔族より残酷・・・ほぉ、面白い。”オーバーザワールド”には存在しない者だ」

「部下が追い込まれているのに、随分余裕だな」


「この忌々しい拘束が解ければ、俺が全部殺せばいいだけの話だ。それまでは、互いに部下の戦闘を楽しもうじゃないか」

 闇の王が縛り付ける黒い糸を見ながら、にやりとしていた。


「では、いきますね」

 レナの両足には氷の結晶のような魔法陣が展開される。

 バフを複数付与してるな。

 早いし、無駄がない、戦い慣れしている使い方だ。


 レナは俺の知ってるレナではなくなっていた。


「う・・・こいつは・・・」

「まだまだ死んじゃダメなのです。回復が必要ですか? それなら、レナが回復してあげますよ。レナは回復の巫女なのです」

 笑いながら手のひらに回復薬の瓶を持っていた。

 レナの瞳は緋色に光っている。


「ふんっ・・・まぁ、さすが元同族ということにしておいてやるか」

「貴方たちみたいな異世界から来たエルフ族と、レナを一緒にしないでください。不愉快なのです」

 レナが両手を上げて、空中に巨大魔法陣を展開した。

 詠唱は早く、エルフ族の言葉が混ざっているように聞こえた。


 ブオンッ


「な、なんだ!? あの魔法は!?」

「待て、範囲はどうなってる?」

 プレイヤーがモニターで何かを確認した瞬間だった。

 

 ― 氷の斬撃 ―


 ザザザザザザザザザザザアザザザザザーッ


 ゾーム目がけて氷の刃が無数に降り注ぐ。

 プレイヤーが張ったシールドはあっけなく突き破っていった。 


「うわっ、あいつら俺たちの味方じゃ・・・」


「きゃあぁあああぁぁぁ」


 グアアァァァァァ


 レナの攻撃は近くにいたプレイヤーや魔族関係なく、氷の刃に撃たれていた。

 次々と消滅していく。

 ぐらぐらしていた、柱の一部が倒れていった。


「まだ・・・だ」

 白い煙の中に、ゾームの刃の炎がうっすらと見える。

 

「俺を拾ってくださった闇の王の前で・・・このような屈辱を・・・せめて、この命使い切っても・・・・」

 ゾームが魔力を放出する。

 一気にレナのほうへ突っ込んでいった。

 

 レナがすぐに氷のブリーズソードを抜く。


 ザンッ


「ごふっ・・・・」


「何度も、言いました。レナは強いのです」

 ゾームの双剣よりも先に、レナの氷のブリーズソードがゾームの胸を貫いていた。


 カランカラン


 ゾームの双剣が地面に落ちていった。


「つ・・・・強すぎる。魔族の俺よりも・・・いや、ありえない。エルフ族はこの世界では・・・」

「黙っててください」


 ガシャン


「あ」

 レナが回復薬をゾームの目の前に落とした。


「!!」

「そうです。拷問は駄目って言われたのを思い出しました。なので、すぐに殺します」


 ズンッ


 レナがもう一度、ゾームの背中を氷のブリーズソードを刺した。


「ゾーム!!」

 ジャミラが駆け寄ろうとするのを、エヴァンが止めていた。

 周辺にいた魔族たちが凍り付く。


「レナは強いに決まってるじゃないですか。1000年以上、生きてる北の果てのエルフ族の巫女なのですから」

「・・・・・・・・・・」


「レナを殺せるなら殺してください」

 辺りが静まり返る。

 しばらくすると、ゾームがうつぶせのまま光の粒になって消えていった。

読んでくださりありがとうございます。

読書の季節になりましたね。いきなり寒くなり大変驚いています。


ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。

今回は意外と早くアップできましたので、次回は来週でアップします。

また是非見に来てください。

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