402 太陽を喰らう②
勇者ゼロが仮死状態になることにより、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルと闇の王との戦いの火蓋が切られる。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・ミサリアと名前を変え、ゼロと共に行動をしていたが、命を落としていた。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
プレイヤーと魔族の戦闘が激化していた。
1万人いたプレイヤーは、開始早々2割程度、減っているようだ。
「向こうは我々が圧倒的に強いみたいだな。こっちはこっちで楽しもう」
闇の王が剣を構える。
「ん?」
闇の王がマントをなびかせて、こちらに向かって来ようとした瞬間、硬直した。
「なんだ・・・・?」
突然、闇の王の身体に黒い糸のようなものが現れる。
ガンッ
膝から崩れ落ちた。
「!? これは・・・・」
「どうゆうことだ?」
俺の身体にも、闇の王と同じ糸が現れた。
次の瞬間、強く縛られ、地面に押し付けられる。
「クソッ・・・・この力、どこかで感じたような・・・」
剣を立てて、跪く。
「ヴィル、大丈夫か?」
「問題ない。こっちは気にするな」
「了解。ヴィルが大丈夫ならいいや」
エヴァンがすぐに背を向けた。
「闇の王!」
「よそ見してる場合じゃないのです!」
シュンッ
キーン
「面白い力を使うな」
闇の王の近くにいたゾームが笑った。
レナがゾームに向かって剣を振り下ろし、剣の刃先から凍結魔法をかけていく。
パリンッ
「!!」
ゾームが何かを詠唱すると、弾けていった。
「魔王様、急にこのようなことをして申し訳ありません」
小さな黒い羽根が落ちてくる。
「アイリス・・・・」
「誰だ? 魔族か?」
「闇の王はしばらく黙って戦闘の様子を見てなさい。貴方の部下と魔王様の部下、本当に強いのはどっちなのか、公平にね」
幼少型のアイリスが漆黒の翼をふわっとさせて降りてくる。
「俺の力を以てしても動かない。この糸は。なぜほどけない?」
「拘束時間は1時間」
「は? 1時間だと? ・・・この俺を愚弄する気か?」
「私は悪魔。秩序を守る悪魔よ。ゲームの中の闇の王に相応しい待遇をしただけ。貴方が塗り替えた世界を罪として、拘束時間1時間と判断をした」
幼少型のアイリスが天秤を出して、冷たく言う。
天秤の皿がぐらぐら揺れていた。
「へぇ、今頃そんなの出してくるのか。ここに来るまで、居場所がわからなかったか?」
「違うわ。拘束に最適な1時間が、今だっただけ」
「なるほどな・・・・・・」
「刑は軽いと思うけど・・・”オーバーザワールド”って厄介なのよね。本当はもっと罪が重いはずなんだけど、悪魔が拘束できる時間は1時間が限界みたい」
天秤の片方に羽根を載せていた。
闇の王が口角を上げる。
「はは。まぁ、一時間くらい待ってやるよ。なぜか、魔王まで縛られてるみたいだしね」
「アイリス、なんで俺まで縛る必要がある?」
「魔王様は闇の王と連動してるの。この世界での役割が同じだから、闇の王の罪も魔王ヴィル様に降りかかってる」
「・・・最悪だな」
闇の王を睨みつけると、楽しそうに笑っていた。
「今はまだ、切れてない。1時間経てば、他の悪魔が切るから」
「他の悪魔?」
「そう。糸を張った悪魔と、切る悪魔は別じゃなきゃいけない。ねぇ、魔王様、それよりも・・・」
幼少型のアイリスが耳元で声を潜める。
「この一時間で、何とか体に魔力を馴染ませて。ほら・・・」
「!!」
「腕輪が白くなったら、魔王様は闇の王に勝てない。月の女神も言ってたでしょ。絶対、異世界の魔力を保てるようにして。異世界の魔力じゃなきゃ、闇の王には勝てないから」
青い腕輪がうっすら白くなることがあった。
元の魔力・・・か。
「わかった」
「魔王様、絶対に負けないでね」
「当然だ」
幼少型のアイリスが立ち上がって、俺と闇の王の間を通っていく。
闇の王が不服そうな顔で、幼少型のアイリスを睨みつけていた。
「闇の王!」
エヴァンの相手をしていたジャミラが、幼少型のアイリスに魔法をかけようと杖を向ける。
しゅうぅううう
幼少型のアイリスにステルスでかかっていたシールドが、あっさりと魔法を弾いていた。
「何?」
「全く効かないじゃと?」
「私はこの世界の秩序を守る悪魔。あんたが何者なのか興味もないけど、私に関わるだけ無駄」
「ジャミラ、ゾーム、俺のことは気にするな」
闇の王が縛られたまま、声を上げる。
その場に座り直していた。
「闇が勝ち、雑魚どもが一掃されていくのをここから見るのも楽しい。元の世界がどうとか知らんが、勝つのは闇だ」
ジェラス王のような透き通った声で言う。
「俺は悠然としながら、待ってるよ」
「さすが闇の王。のぉ、ゾーム」
「承知しました。闇の王は是非そこから見ていてください」
「っと・・・・」
キィンッ
エヴァンがジャミラの杖を、剣で封じる。
「話が長いんだよ。だるいなぁ」
「なっ・・・」
エヴァンが左手で、魔法陣を描く。
― 黒雷帝―
バチバチバチバチッ
ドドドドドドドドドドド
「ぎいぁぁぁぁぁぁあああ」
「ぐああぁぁぁぁあああ」
エヴァンの放った魔法は地上に雷鳴をとどろかせ、大地が避けていった。
プレイヤーと戦っていた魔族が、数十体消滅していく。
「っ・・・」
ジャミラは瞬時にフードを被って、シールドで弾いていた。
しわの多い目を大きく見開く。
「い、今のは・・・闇魔法じゃないのか? なぜ、我らに・・・」
「闇魔法対決で、俺が勝ったってだけだろ」
エヴァンがアリエル王国の剣をかざす。
「生意気な!!」
「爺さん、あんまりカッカすると血圧上がるよ」
ジャミラが切り裂く風の刃を展開したが、エヴァンが宙に浮いてうまく避けていた。
「はは、しばらく平和でさ。退屈してたんだ」
シュンッ
エヴァンが一気に距離を詰めて、剣でジャミラのフードを掠めた。
「やっぱり魔族はこうじゃなくちゃ」
「っ・・・・ガキのくせに」
「これでも、元王国騎士団長なんだよね。今は上位魔族に並んだりしてるけど、最年少で王国騎士団長になるくらい、フルステータスで転生してるんだ」
「転生?」
「あ、君らは知る必要ないよ」
ジャミラが皺の多い手を広げて、魔法陣をいくつか展開していた。
カンッ
「この世界のエルフ族の生き残りはもうお前しかいないのか?」
「そうなのです! そこにいるプレイヤーみたいな異世界住人に殺されたのです!!」
「くく、それは寂しいなぁ」
レナとゾームが素早く、剣をぶつけ合っていた。
レナとは思えないほどの力だ。
「実はね、俺も元はエルフ族なのだよ。血を好むエルフ族だ」
「!!」
ゾームが言うと、レナがふわっと浮いて、少し下がった。
「・・・”オーバーザワールド”のエルフ族は随分穢れているのですね。人間の記憶を消して、魔族にしていくなんて」
「穢れ? 君は穢れがないというのか?」
キィンッ
ゾームがレナの剣を弾いた。
レナが氷の剣の魔力を立て直す。
「エルフ族なら、君だって悠久の時を生きてきたんだろう?」
「それがなんですか?」
「穢れなかったことなんて無いだろう? 血なまぐさい過去の一つや二つあるだろうが。それとも、まだそんなに生きてないエルフ族なのか?」
ゾームが長い髪をかき上げて、挑発するように言う。
「レナは生きてきましたよ。途方もない時間を、北の果てのエルフ族のみんなと生きてきました。みんな平和を望み・・・」
「お前は偽善者ぶってるな?」
「・・・・・」
レナの表情が険しくなる。
「そうゆう目をしている。お前の目は、たくさんの者を殺してきた目だ。同じエルフ族だった俺は誤魔化せない」
「北の果てのエルフ族は争いを好まないのです。貴方にレナの何がわかるんですか?」
「随分被害者面が板についてるな」
ゾームが持っていた剣を、双剣に変えた。
不気味な笑みを浮かべる。
「エルフ族は心を読める。俺はエルフ族の力を持ち魔族になった者だ。お前だって俺の心を読もうとしているだろう?」
「!?」
「動揺がある。嘘ではないな? じゃあ、この光景も本当か。面白い」
ゾームがじっとレナを見つめる。
「勝手なことを・・・」
「これは、500年以上前か? 敵とみなした者たちを無残に殺してきた過去があるのか・・・人間よりも魔族よりも、残酷に見えるけどな」
レナが浅い息を吐いて、氷の剣を持ち直していた。
「・・・そうですよ。レナは強かったのです」
レナの魔力が冷たく、強くなっていく。
「レナ・・・・・」
小さく呟く。
思い出していた。
レナと魔王城を出る前に、交わした会話を・・・。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
週末分上げてしまったので、最新話は来週アップします。
私事ですが、今週は推しの武道館ライブがあるので執筆遅めです。
推しぬいはGETしてます。オタ活も頑張ります!!